ファイアーエムブレム 竜の軍師   作:コウチャカ・デン

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第13章「集う仲間、忍び寄る影」

 ラウス公子フランがトスカナ領へ進軍を開始し、傭兵クルザードは一部諸侯に反発し同盟を離脱。軍師マークもベルンとの再戦に向けて準備をするとオスティアを発った。

 信頼できる者が徐々に少なくなったとはいえ、オスティアでは来る戦へ向けた準備が進められていた。

 その一環として、城の地下では前回の戦いでオスティアへ忍び込んだ賊への尋問が行われていた。

 

「……まったく、お頭も面倒な事をしてくださるもんで」

 

 薄暗い地下牢の前でそうつぶやいたのは、オスティアの密偵の一人であるアストールだ。

 彼は上司であるマシューの指示の下、とある義賊を名乗る少女の下へと訪れていた。

 

「それで、いいかげん十分後悔したかい?」

「……」

 

 かつての戦いでその信念を砕かれた少女は、かと言って自分の命を絶つ勇気も持てず、静かに地下牢の一角に捕らえられていた。

 もうちょっと加減してくれていれば、もう少し反応もあり、その反応から言動もある程度コントロールできたのにと、アストールはマシューに対し軽い悪態をつくのであった。

 

「まぁ、もう死にたくなるほど恥ずかしいのはわかるがねぇ、ここで朽ちるぐらいなら、せめて汚名をそそいでみようとは思わないかい?」

「……何をさせようって言うの?」

 

 ここ数日、何度も足を運んでようやく帰ってきた返事に、アストールは内心でのみ安堵する。

 正直な事を言えば、猫の手だって借りたいぐらい忙しいのだから、いくらパントが見込んだとはいえ、これ以上の時間は掛けられそうもなかったのだ。

 

「そうだねぇ、おれにゃ詳しい事は判んねえなぁ」

「……」

「まぁ、そんなに怒んなって」

 

 判らないのに何を言いに来たんだと言わんばかりのじと目で睨みつけてくるキャスに苦笑を返し、アストールは飄々と続ける。

 

「とりあえず、今度はこっち側から世界を見て見ないかい?」

「こっち側……?」

「ああ、いわゆる統治者の側ってことになるかな?」

 

 物事を一つの視点でしか見ていなかったから失敗したんだろうと、アストールが続ければ、キャスとしては黙り込むしかない。

 

「……おれに言えるのはここまでだな。もしその気になったのなら、エリウッド様に会いに行きな。この程度の牢なら破れるだろう?」

 

 手足を縛っているわけでもない以上、キャスの技能ならここから抜け出すなど簡単な事のはずだ。

 そう言って立ち去るアストールは、キャスの目を見て確信を抱く。今の言葉を聞いて、マシューの言ったことが嘘だったのではないかと疑問を抱いたのだろう。

 ならば、今度は自分の目で、真実を確認しに行くはずだ。

 そして、それだけの行動力があるのなら、自身の行いを確認した後、必ずここに戻ってくる。

 

(……色々と準備しとかなきゃならんな)

 

 そう遠くないうちに出来る後輩を歓迎するために、アストールは情報を集めるべく影へと身を隠しながら移動を開始する。

 数日後、自身の過ちを認めて頭を下げるキャスに渡されたのは、アストールが選別した仕事の山であったと言う。

 

 

 

 闇の中でも時間が進んでいるように、地上でも同じように時間は進んでいた。

 より具体的に言えば、いずれ訪れるだろうベルンとの決戦に向け、同盟軍の合同訓練が行われていたのだ。

 

「……なんで私が……」

「私たちはリキアに保護していただいているわけですから」

 

 過酷な訓練を行う騎士、兵士たちを視界に収めながら、エトルリア貴族であるクラリーネが愚痴をこぼす。

 それをエレンは軽く諌めながら、負傷して訓練から一時離脱した兵へ治癒の魔法を使う。

 

「それぐらいわかっていますわ……」

「では、ご恩に報いるためにも、精一杯やらせていただきましょう?」

「……そうですわね」

 

 笑顔で正論を述べるエレンに、クラリーネは早々に白旗を上げるしかなかった。

 そう言うのも、つい先日エトルリアに帰還していった父、リグレ公爵パントの言葉があったからだ。

 

『自分の意志で、屋敷を出たんだ。ならばちゃんと、自分の言動に責任を持たないといけないよ』

 

 親である自分やルイーズに相談もせず屋敷を出て心配させたことなど、色々と怒られたりした後、最後にパントが付け加えた一言によってクラリーネは一緒に帰還すると言う選択肢を失ったのだ。

 より正確には、クラリーネが前に『恩を返さずに逃げ出せない』といって、エトルリアへの帰還を拒んだからだ。

 人によっては、オスティア奪還と防衛を為したわけだし十分だろうと言うかもしれないが、クラリーネにとってはまだ中途半端であるらしかった。

 

(まだまだ戦いが終わったわけではないですものね)

 

 そのような言い訳をしつつリキアに残ることを決めたクラリーネは、ロイの指示で訓練に参加して愚痴を言いながらも治癒を行っているわけだ。

 だが、隣でその様子を見ていたエレンには、クラリーネが口で言うほど現状を厭っているわけではない事を見抜いていた。

 

(本当にこのような事に関わりたくなかったのなら、そもそも屋敷を飛び出したりしなかったって、クラリーネ様は気付いていらっしゃるのかしら?)

 

 そう、色々文句や愚痴を言ったりはしているが、それは今までの生活で培ってきた価値観が原因で、本質的にはよく屋敷を抜け出して放浪していたというパントに似ているのだろう。

 

「まったく! いくら治癒を使える私達がいるとはいえ、たかが訓練で皆さん怪我が多すぎますわ!」

 

 そんなことを言いながらも、どこか頼られることを喜んでいるようで、エレンはひそかにこの出会いに感謝する。

 

「……エトルリアの令嬢と一緒に治癒をするという事で最初は不安でしたが、それがクラリーネ様でよかったです」

「? どういう事ですの?」

 

 今一つ意味が解らなかったようで首をかしげるクラリーネを可愛らしいと思いつつ、エレンはまたぞろぞろと来た兵士たちの治療を行うのであった。

 

 

 

 怪我人が続出した物騒な訓練も終わり解散した訓練場であったが、そこにはこの程度の訓練ではまだ足りぬとばかりに槍を振るう騎士がいた。

 フェレ騎士の一人、アレンである。

 

「284っ! 285っ!」

「アレン様……」

「28……おお、ウォルトか、どうした?」

 

 そんなアレンに声をかけたのは、どこか暗い雰囲気を纏ったウォルトであり、その様子はどこか暗いものを感じさせるものがあった。

 

「何かあったのか?」

「……マーカス様の事です」

「……」

 

 素振りを止めて、向き直ったアレンの問いかけに返ってきたその名前は、フェレ騎士であるのなら決して軽んずることができないものだ。

 アレンは軽く汗を拭き、先ほど以上に真面目な表情を作り沈痛な面持ちのウォルトへ話を続けるよう促す。

 

「あの時ぼくらは、敵に翻弄されるばかりで、何の役にも立ちませんでした。それで、思ったのです。このままで本当にいいのだろうかと……」

「いいわけが無いだろう? だからこそ、こうやって訓練を……」

「そういう事を言っているのではありません!」

 

 ウォルトはアレンの答えを遮り、さらに言葉を連ねる。

 

「これまでだって、ずっと訓練は続けてきました。でも、それでも手も足も出なかったじゃないですか! 強くなるためには、もっと別の事もしなきゃいけないんじゃないかって……」

「……」

 

 その切実な叫びにアレンはわずかに考えを巡らし、言うべきことをまとめ上げる。

 

「確かに、マーカス殿の抜けた後を担うには我々は未熟過ぎる」

「では……!」

「だが、何か別の道を探す必要はない」

「な、なぜですか!?」

 

 一度は理解を見せたアレンの否定の言葉に、ウォルトは動揺する。

 もちろん、アレンの言葉はここで終わらない。焦燥に駆られるウォルトを落ち着けるように、できるだけ穏やかな調子を心がけながら、アレンは続ける

 

「なあ、ウォルト。お前は今までの訓練において、手を抜いていたのか?」

「そんなわけありません!」

「では、それが答えだ」

 

 その断言を今一つ理解できていない様子のウォルトを見ながら、アレンは困ったように言葉を探す。

 

「我々が未熟なのは確かだが、努力を怠ったことは無い。もし、これ以上の早さで力を得ることができていたのなら、もうとっくにその方法を使っているはずだ」

「……」

「つまり、すでに最善の道を進んでいるから……くそっ、上手く言えないが迷う必要はないということだ!」

「アレンの言うとおりですよ、ウォルト」

「ッ!?」

 

 突如割って入った声に驚く二人であったが、その声の主を見てさらに驚愕を深める。

 

「若さゆえの未熟は、当然のことです。何事にも近道が無い以上、これまで通り今できる最善を続けていきなさい」

「イ、 イサドラ殿!?」

「な、なぜここに!?」

 

 目を見開く二人を見てわずかに笑みを浮かべたイサドラであったが、この地に来た理由は、とてもじゃないが笑みを浮かべながら告げられるようなものではない。

 可能な限り表情を消し、イサドラは自身に課せられた任務を告げる。

 

「ニニアン様の命により、マーカス殿の後任を担うため来ました。以後、同盟軍全体を指揮するロイ様に変わり、私がフェレ軍をまとめることになります」

「は、はっ! し、しかし、フェレは……」

「……フェレにはまだ、ハーケンが残っています。ベルンが攻めてこない限りは、問題ないでしょう」

 

 ハーケンの実力を疑うわけではないが、やはり不安なのだろう。

 ほんのわずかに言葉がつまってしまうが、だからと言ってフェレに戻るわけにはいかない。

 それに、今回オスティアに来たのはイサドラだけではないのだ。

 

「ウォルト、あなたの母上もいらっしゃっていますよ?」

「げっ!?」

「色々と道中で言っていましたけど、まぁ、詳しくは本人から聞いてください」

「はい……」

 

 母であるレベッカは、すでに戦線から離れているとはいえ名の知れた弓使いで、ウォルトの師の一人でもあるのだ。

 竜騎士相手に手も足も出なかったと言えば、それはもう熱烈な指導を得られるだろう。

 

「……よかったな。特別な訓練ができて」

「アレン様ぁ……」

 

 肩を落とすウォルトを慰めるべく声をかけたアレンであったが、どうやら逆効果だったらしい。

 だが、強くなりたいのならこれ以上の師は存在しないと、ウォルトは気を取り直して母の下に向かうのであった。

 その姿を見送り、イサドラは念のためにと、アレンに告げる。

 

「マーカス殿の事を気に病む必要はありません。あの方は自身の役目を、誇りを持って果たしたのですから」

「……はい」

 

 少なくとも、自身の死を部下のせいにするような人物ではない。むしろ、そのせいでアレンたちがふさぎ込んでいたと知れば、力の限り怒鳴られるだろう。

 その様子を想像したのか、アレンはわずかに、だが確かな笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 訓練場でそのようなやり取りがなされる中、オスティアの城下にある人物が到着していた。

 

「……ここにスー様がおられるのか?」

 

 そうつぶやいたのは、一目でサカの民とわかる衣装をまとったシンという名の青年であった。

 彼は族長の指示で、リキアへ一族の女子供を逃がす途中、他部族の裏切りに会い仲間たちと散り散りになった者の一人で、スーを探してようやくここオスティアへとたどり着いたのであった。

 

「しかし、この街のどこにおられるのだろうか……?」

 

 まさか城に滞在しているとは考えられず、城下の宿という宿を巡った彼がスーと再会するのは、もうしばらく後のことになりそうであった。

 

 

 

 リキアを離れたマークは、かつての伝手……ファーガス海賊団を頼りに『魔の島』と呼ばれるヴァロール島に一人降り立っていた。

 

「どっかの馬鹿が残っていれば、同行させたんだが……悪いな」

「……行方不明なら仕方ないさ」

 

 いまだ海賊団の頭を続けるファーガスの言葉に、マークは力なく首を振る。

 そう、かつての戦友であり、マークも再会を楽しみにしていたダーツであったが、数年前の抗争の中ファーガスを庇って深手を負い、その身を海に投げ出されてしまったらしい。

 

「往生際の悪い奴だし、どっかでしぶとく生き残ってんだろう。もし見つけたら、オレの分まで扱き使ってくれ」

「ああ、わかった」

 

 願望も含まれたファーガスの許可を、マークも苦笑しながら受け取る。それが、協力者に対するマークなりの気遣いであった。

 

「それじゃあ……」

「おう、いつも通り、期限まではここで待つが、それを過ぎたらとっとと帰らせてもらうぜ」

 

 20年前と変わらぬ取り決めに、二人は知らず知らずのうちに深い笑みを浮かべる。

 特に、多くの変化を目にしてきたマークにとって、このやり取りは気持ちの良いものであったのだ。

 そんなやり取りを後にして魔の島の奥へと足を向けるマークであったが、その足取りは迷いなく、どこか慣れたものを感じさせるものであった。

 それもそのはず。マークはここ数年の間、このヴァロール島を拠点として世間から身を隠していたのだから。

 故に、この島について二番目に詳しい自信があった。

 

「……戻ったのか、マーク」

「ああ、戻ったぞ、レナート」

 

 目的地にたどり着いたマークに声をかけたのは、この島について間違いなく一番詳しい男、レナート司祭だ。

 マークと同様に20年前と変わらぬ姿をしたこの男は、大きなため息とともにこのような場所へと戻ってきたマークに苦言を呈する。

 

「大陸にいるかつての仲間たちの様子が気になると出て行ったお前が、今更ここに何の用だ?」

「……想像以上に厳しい状況でな」

 

 苦笑を交えたマークの言葉に、レナートは眉を顰める。

 レナート自身も20年前の戦いに参加し、かつての戦友たちの実力や立場を理解していた。

 そんな戦友たちにマークが加わってなお『厳しい』など、常軌を逸していると言って過言ではないからだ。

 

「大陸で、何が起こっている?」

「詳しい事はまだわからん。だが、ベルンが竜を復活させたとも聞く」

「竜を……!?」

 

 あまりの事に驚愕を隠せないレナートであったが、すぐに正気に戻って言葉を重ねる。

 

「馬鹿な……! 門はここにあって、開かれてなどいないのだぞ!?」

「ああ……だが、それらしき力は、確かにベルンに存在している」

 

 そもそも、マークがこの島を出て行った理由を聞けば、レナートとて二の句を継ぐことができない。

 しかし、ならばどうやってベルンは竜を復活させたのかと考え、ある仮説へとたどり着く。

 

「待て、確かベルンの祖であるハルトムートの持っていた神将器の一つが、『封印の剣』だったか……」

「……」

 

 その仮説を、マークは無言にて肯定をする。

 つい先ほどまでのレナートを始め、多くの人物が竜はこの地から姿を消したという事実で満足し、考えようとしなかった真実。

 すなわち、神将たちは竜を滅したのではなく、封じたという事に他ならない。

 

「つまり、封印された竜がベルンの地に存在し、今代のベルン王は、かつて封印した竜たちを解き放ったという事か」

「おそらくは……」

 

 かろうじて断定できないが、まず間違いないと言わざるを得ないだろう。

 問題は封印されていた竜の数や力だが、かつてこの地で戦った古の火竜クラスが複数存在するとなれば、今のリキアとエトルリアが組んでなお、戦力不足であるだろう。

 

「なるほど……それでここに戻ったわけか」

「ああ、リガルブレイドやバシリコスであれば、神将器には劣れども竜と戦う足しにはなるはずだ」

 

 そう言って遺跡の奥へと足を運ぶマークに、レナートは静かについてゆく。

 その道すがら、マークはいかにも念のためといった調子で、レナートに声をかける。

 

「そんなわけで、今大陸は割と混沌とした状態にあるんだが、良ければ力を貸してもらえないか?」

「……返事など分かっているだろうに」

「だからと言って、声をかけないのも礼儀に反すると思ったんだよ」

 

 やっぱり駄目かと苦笑するマークに、レナートはわずかだが苦いものを覚える。

 確かに、彼の望みは平穏な暮らしであり、戦いとは無縁な生活であるのだ。

 だが、仮にも肩を並べた戦友たちの危地を前に、その想いを貫くと言うのもいささか薄情ではないかと、彼の良心がささやく。

 しかし、それらの思いが口に出されることは無く、二人は早々に遺跡の最奥へと到着してしまう。

 一時期は結界を張ろうか、あるいは門番でも作ろうか、などと話していたのだが、それはこの地に重要なものが隠されていると喧伝するに等しいと却下された。

 故に、マークが持ち歩いていた鍵を使って簡単に部屋の中へと入り、目的の武器を手にするのであった。

 

「……すべて持っていくのか?」

「ああ、半端な事をしてもしょうがないからな」

 

 ここの武器を出すと決断した以上、いくつか残していくなどという真似をしても意味は無い。

 回収したのは、リガルブレイド、レークスハスタ、バシリコス、リヤンフレチェ、ギガスカリバー、ルーチェ、ゲスペンスト、そして攻撃の威力を上げることができる、炎の精霊ファーラの加護を得た指輪、さらに……

 

「リガルブレイドやレークスハスタなどは、まあいいだろうが……本当にエレシュキガルまで持っていくのか? 流石にそれは、人に見せられんだろう」

 

 そう、この地に封じられていた本命でもある、かつて災いを招く者と呼ばれた男、ネルガルの扱った闇の魔道書である。

 

「……だが、想定外の何かが起こった時、後悔だけはしたくない」

 

 エレシュキガルは確かに危険な魔道書であるが、同時に神将器に並ぶ力を秘めていることも事実である。

 

(……まぁ、当時の戦いに参加した魔道士なら、悪用することも無かろう)

 

 いかに戦友とはいえ、本来ならば見せるべきではないだろう。しかし、出し惜しみをして死んでしまっては、マークの言った通り意味がない。

 レナートは一つため息を吐き、その魔道書の存在に目を瞑るのであった。

 そして、後はファーガス海賊団と共に大陸に戻るだけとなった時、レナートはついに足を止める。

 

「俺は、ここまでだ」

「そうか」

 

 もしかしたら、再度声をかけられるかと思っていたレナートは、マークのあっさりとした態度に意表を突かれる。

 だが、もとより彼らはそのような関係であったのだ。

 

「誰も、強制なんかしない。友の為、仲間の為、忠義の為……ほかにも色々あったが、誰も無理やり戦わせることなんてしなかったし、自らの心を偽ってまで戦う事もなかった」

「そう、だったな……」

 

 その言葉に納得し、レナートは今度こそマークを見送る。

 旅慣れているためかその足取りは軽快で、瞬く間にレナートの視界から消えてしまう。

 ほんの少しだけ、その背を追いたい衝動に駆られつつも、自身の暮らす遺跡へ帰ろうと身を翻した時、気付いた。

 

「……何者だ?」

 

 突如湧いて出た気配は8つ。よほどの手練れでなければ対処できる自信があったが、直前まで全く気付けなかったことを思えば、暗殺者の可能性が高いかとまで考える。

 

(このような僻地に、わざわざご苦労な事だ)

 

 自身を恨む者など山ほど想像できるレナートは、むしろこんなところまで出向かされた暗殺者に同情すら覚える。

 

「その程度で隠れているつもりか? いい加減姿を現せ」

 

 すでにばれているのなら姿を隠す意味は無いと悟ったのか、暗殺者たちはレナートの言葉に姿を現した。

 だが、レナートの前に姿を現したボロボロのローブを羽織った何者かの身のこなしは、暗殺者のそれではなく、戦士のものであった。

 

「こんな辺境の司祭に、何か用か?」

『……エレシュキガルを渡してもらおう』

「ッ!?」

 

 この場を切り抜けるには、どこから崩すべきかと思考を巡らせながら発した問いかけには、全く予想もしなかった答えが返ってくる。

 そもそも、エレシュキガルの事をどこで知ったのか。なぜこの地に封じていたのを知っていたのかなど、疑問は尽きない。

 だが、あのような魔道書を求める存在がまともであるはずがない。

 

「……ここにそんなものは無い」

『……そうか』

 

 拒絶を突き付けたレナートに対し、襲撃者たちは特に感情を表すことなく、剣を抜き放った。

 

『では、この後ゆっくり探すとしよう……貴様を殺してからな!』

「そう簡単に、やれると思うな……!」

 

 ディヴァインの魔道書を手に襲撃者と相対するレナートは、その豊富な経験から襲撃者たちの刃が自身に届かないと確信していた。

 そう、彼はまだ知らなかったのだ。

 どんな攻撃も効果を見せず、剣に加え魔法をも自在に操る戦士がこの世界に存在するという事を。

 




これでリキアは終わり……のはず。

何事もなければ、次回から西方三島へ行きます。


おまけ

Name  レナート
Class 司祭
Lv 20
HP 49
魔力 21
技  24
速さ 21
幸運  9
守備 19
魔防 22
移動  6
体格  9
属性  理

武器Lv 光S 杖A

持ち物 Eディヴァイン
     リザーブ
     光の結界

 先の戦いの後、一人ヴァロール島に残る。マークが封じた武具の門番を自称していた。

 マークと再会し勧誘を受けるも、再び戦いに身を投じる気には慣れないと断り島に残るところを襲撃される。
 ルセアのことを気にかけており、もしマークがどうしてもと言うのなら、仕方なく付いて行くつもりであったかもしれない。

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