ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
ここからまだエピソードの盛り込みがあり、膨大になってしまう為、ここで第七章グランベル編(凱旋)を区切らせたいと思います。
レプトールが倒れた事でフリージ軍は戦意をなくし撤退を始める。
シグルドは追う事はせず、そのままヴェルトマーにもどるフリージ軍を見送りつつ自軍の安否を急いだ。
シアルフィの部隊と中心に傭兵騎団の被害が大きく出ていた。重装歩兵の持つ槍を最前線で受け続け、後方部隊を守った為仕方がないとはいえシグルドは肩を落とした。
「フリージの精鋭相手にここまでの被害なら御の字だ・・・、気を落とすな。俺たちの戦いはこれで終わりではないぞ。」カルトは肩を叩いてシグルドを励ます。
それに主力である聖騎士アレクやノイッシュ、アーダン将軍は健在である、彼らの働きがなければフリージの部隊を止める事はできなかっただろう。彼らが機能したからこそ後方の魔道士部隊の攻撃が活きてつながったのだ。
シグルドの心配はそれだけではない、カルトの疲労である。
レプトールの渾身のトールハンマーを受け止め、半減以下に抑えられたとはいえ直撃を受けたのだ。彼はその後助け起こしたが問題ないように取り繕っているが無事であるはずがない。
「カルト、とりあえずクロード神父の治療を受けろ。」
「治療は自分で済ませてある、問題ない。それよりも次はヴェルトマーを攻略だ、気を引きしめろよ。」
「・・・しかし君は無理をするなよ。」
「ああ、そうさせてもらう。
・・・シグルド、ヴェルトマーを制圧したらそこを足掛かりにバーハラと交渉する。時間を稼がれるとイザークにいるドズルとフリージのリッターが戻ってきたら俺たちは終わりだ。交渉ができないならすぐ様進軍する、覚悟はできているな?」
「ああ、わかっている。」シグルドは頷いてヴェルトマー城を見上げた。ロートリッターも油断出来ない相手であるが、カルトはアルヴィスのいないヴェルトマーには主力はいないと判断している。
ロートリッター全軍がいるならレプトールのフリージ軍が駐留するわけがない、それにアルヴィスにとってレプトールは既に捨て駒にまで成り下がった、そう判断していた。
「シグルド、上を見ろ!!」カルトは見上げる上空には先の戦いで味わった天空から落ちる焔、メディアが降り注いだ。
だが、その紅蓮の焔はシアルフィ軍に落ちるものではかった・・・。
目測で測ってもこちらに危険が及ぶものではない。
「こ、これは・・・。フリージ軍を狙っているのか?」カルトが言うように撤退を始めて先を進んでいるフリージ軍があの辺りを進んでいるはず、ヴェルトマーは敗走する自国の軍に制裁を加えているのだろうか?
「やめるんだ!!」シグルドは一つ叫ぶと馬に鞭を入れようとするが、カルトがその鞭の間に手を入れる。
パシィ!!
カルトの腕に当たり、袖から血が滲む・・・。
「シグルド、耐えてくれ・・・。頼む!」カルトの袖から滲む鮮血と、口の中を切ったのか口の端からも滲み出していた。
「・・・わかった。」シグルドもまた手綱を持つ手から鮮血が滴った。
進軍する先に次々と落ちるメティオの隕石群・・・、シアルフィ軍はその先を進んでいくのであった。
「どう?気分は?」部屋に入るティルテュにエスニャは微笑んだ。
第二子を産んでから産後の状態が悪い彼女は床に臥せる事が多く、幼少期によく病で寝込む事が多かったが、その当時のようであった。
「ティルテュ姉様、すみません。アーサーだけでも大変なのにアミッドまで面倒を見させて・・・。」
「いいのよそんな事、今はゆっくり身体を立て直す時なんだから。」
「でも、姉様も妊娠してますし・・・、アミッドは大変でしょう。」
「そんな事ないわよ、それにしてもアミッドは凄い子ね。既に基本の魔法も使えるし、光魔法と聖杖も資質を示しているんだって、将来は私達の国を統治する器よ。その時はエスニャもお大尽ね!」
「ええ・・・、そうね・・・。」
「あら?エスニャは浮かない顔ね、嬉しくないの?」ティルテュの明るい表情を対照的にエスニャは暗くなる、シーツの橋を握って不安感を滲ませた。
「アミッドも、この子も、カルト様の様な厳しい運命に翻弄されるのではないかと今から不安で・・・。カルト様のお母様がカルト様の力を封印した気持ちがよくわかるの・・・。」貴族に産まれ落ちた時から平民とは全く違う人生を送る、さらに神々の血筋を持てば財力はあり豊かな生活を送れるが、自由な時間や恋愛など存在しない。
アミッドはその最もたる能力を持つ事になる・・・。ヘイム、セティ、トードの血がどのようにアミッドと二人目の子に宿っているのかわからないが、普通の聖戦士よりも血が作用することは間違いない。
それ故にエスニャは不安を覚えていた。
「・・・でも、私たちは愛する人の子を授かりたいもの、仕方がないよ。」
「姉様・・・。」
「エスニャは考えすぎよ。私達はただ産まれてきた愛しい我が子を私達なりに一生懸命育てればきっといい方向に流れると思う、もしそれでも悪い方向に行くなら・・・。
きっと次の世代の子供達が埋めあっていい方向に流れていくと思う。」ティルテュの素直な言葉にエスニャの不安は幾分か払拭される、難しい事はわかんない。彼女の口癖にエスニャは少し救われたような気分になる、
「・・・アゼル達、バーハラに着いたかな?お父様と戦っているんだろうな・・・。今は、それが辛いよ・・・。」ティルテュは少し涙ぐんだ。ティルテュもまた不安が色々と頭をよぎっていた。
(カルト様、ご無事を祈ってます。帰ってきてください。)エスニャは静かに祈りを捧げていた。
シアルフィ軍は壊滅したフリージ軍を横目にヴェルトマーに到着する。ヴェルトマーはシグルド達に敵意はなく、一人の女性将軍が門前に数人の部下のみを連れて立っていた。
シグルドは歩みを止めて下馬し将兵を出方を待つ、その将兵はその場だけ片膝を地につけてかしこまり頭を下げる。敵意がない事を知ったシグルドはカルトを伴い、眼前まで歩んだ。
「どういう事だ?なぜヴェルトマーが私たちを助ける?」
「アルヴィス様はずいぶん前よりレプトール、ランゴバルドが裏で手を引いてクルト王子を殺害した事は知っておいででした。ですが明確な証拠がありません、それに両家は軍事と政治を握っておりましてアルヴィス様お一人では覆す事は難しかった・・・。」
「・・・・・・。」カルトは将軍の目を見据えて、ただ黙っていた。シグルドは将軍の言葉を頷くように聞いていた。
「フリージ家とドズルの力が弱まった今がチャンスとアルヴィス様は判断し、シグルド様と協力してフリージを討つように命じられたのはつい先ほどです。結果をお聞きすれば横槍を入れるような事に事になり申し訳ありませんでした。」将軍は頭を改めて下げる。
「では、アルヴィス卿はクルト王子殺害の嫌疑にシアルフィは関係ないと証明してくれるのだな?」カルトは将軍に問い詰める。
「命をかけてクルト王子を守らんとしたバイロン卿を、追い詰めた事を深くお詫びします。
ヴェルトマー家の炎の家紋にかけてこの度の真実を白日の元に晒してシアルフィの無実を公表しましょう。
・・・そしてシグルド様、バーハラにおいで下さい。バーハラを上げてシグルド様の凱旋式を行います。」
「・・・わかった、バーハラへ行こう。」シグルドは頷いて了承する。
「アイーダ将軍、その前に。
我が軍は先程の戦いで疲弊している。それに重傷者も・・・、彼らをヴェルトマーでに治療する時間をくれ・・・。」
「これは失礼しました、すぐ手配させましょう。式典に出席する者のみ明朝バーハラへ足をお運びください。
アルヴィス様が全軍をもってお迎えいたします。」将軍は恭しく一礼をするとシグルド達を招き入れるのであった。
アグストリア連合王国、アグスティにてヴェルダン国王のキンボイスとシレジア国王のレヴィン、そしてアグスティの主人であるシャガールが三国会談を行っていた。
3人共険しい顔を崩さない。それは会議の難航を意味しており口火を切ったシャガールもまた苦々しく始めた。
「・・・レヴィン王、やはりシアルフィ軍に支援は送らないおつもりですか?」
「何故だ!援軍どころか、物資支援もなにもせずにこのままグランベルに行けば奴ら全滅するだけだぜ!」キンボイスは机を叩いて抗議する。レヴィンは腕を組んで頷きキンボイスはさらに激昂する。
「俺たちゃ、奴らに恩義がある!今ヴェルダンがここまで豊かになったのはシグルドやカルトがあるからこそ、だ!
ヴェルダンの食料や資材が、アグストリアの軍事物資が、シレジアの金属があるからグランベルに負けない力を持った!それを奴らに提供しない事は恩義を仇で返すようなもんだ!」キンボイスの言葉にシャガールですら頷くくらいであるがレヴィンは頑なに拒否の目を送っていた。
「恩義があろうとなかろうと、民を平和に暮らせる為の判断が必要だ。
シグルド達に支援する事は簡単だ、しかしグランベルがこれを口実に戦争を惹き起こせば民に被害が出る。
それに、アグストリアもヴェルダンもまだ戦争の賠償をグランベルにしているのだろ?そんな中で不穏な動きをすればさらに圧力が加わる事になる。・・・今は耐える時だ。」レヴィンの言葉にキンボイスは冷静ではいられない、レヴィン胸ぐらを掴み食い下がる。
「ふざけるなよ・・・。お前とカルトは盟友なんだろ?友が苦しんでいる時に助けない奴が国を語るな!為政者とはお前の事をいうんだ。」キンボイスの叫びにレヴィンは眉一つ動かさない、シャガールもまた机の上で腕を組んで二人の意見を聞き入っていた。
キンボイスに掴まれた腕を握り返して睨む、それは怒りによる訴えではなく悲しみを湛えた目であった。勇猛なキンボイスも力を緩めて再び着席する。
しばらくの冷却期間を得た3人は、各々の思考が固まり論議を始める。
「キンボイス王の気持ちはよくわかる、俺もこんな会議をするよりもヴェルダンに渡って、グランベルを突っ切ってでもカルト達に助力したい。
これは口止めされていたが、この会議も、俺の言動もカルトの指示だ・・・。お前達と議題をするふりをして足止めさせるのがカルトの願いだ、その意味わかるな?」
「な、なんだと・・・。」シャガールですらその言葉に驚く、キンボイスは再び立ち上がって机を叩いていた。レヴィンは冷静に言葉を続ける。
「カルトとシグルドは、事情があるにしろ他国に攻め入りその国に混乱をもたらした事を悔やんでいる・・・。あいつらなりに、自分達が残していった国が少しでも豊かになるように尽力してこの三国の同盟が成った。それを自分達の危機でその手を汚してはならないと、・・・あのバカヤローが言うんだ。
俺は無力だ、シレジアの国王になっても友一人救えない。なのに奴等は後の事ばかり考えて突き進みやがる・・・。
・・・無能な俺ができるのは、奴の言葉を信じて待つだけだ。」
「・・・・・・。」レヴィンの言葉に二人は言葉を失った。
カルト自身がレヴィンを使ってまでアグストリアとヴェルダンの二国を止めたのだ、そこに割って強行する事はキンボイスですら出来なかった。
「願うしかないな・・・、彼らの帰還を・・・。」シャガール王はうなだれた、レヴィンと同じ気持ちになり彼の立場を理解したのだろう。首は上がる事なく、無力をひしひしと感じていた。
「くそが!あいつらばかりカッコつけやがって!!・・・カルトよう、俺はお前に恩返しもできないのか!!」キンボイスは天井を見上げて男泣きを惜しげもなく晒していた。
「帰ってきたら、浴びる程酒を飲ませてやれ・・・。それが恩返しだ。」レヴィンはそう伝えると再び無言となった、もう言葉で伝える事はなくこの会議は終始声をあげるものはいなかった・・・。
翌日、シグルドはヴェルトマーを出発する。
結局は重傷者もほとんどクロード司祭により動ける様になり、搬送用の馬車に乗せてバーハラに向かう。
ヴェルトマーの騎士たちは儀仗礼式の姿に変えてシアルフィ軍を見送った、ヴェルトマー城の最上部にはシアルフィ家の象徴とする旗が掲げられ凱旋式は始まりを告げていた。
シグルドはその先頭をゆっくりと馬を歩ませていき、その後をシアルフィの騎士団から順番に続いていく・・・。
ヴェルトマーの最上段、シアルフィとヴェルトマーの旗を掲げた塔にいるアイーダは行進が始まりを見届けているが、その笑みはひどく歪んでいた。
「始まったか・・・。アルヴィス様の計画のため、シアルフィには犠牲になってもらう。」となりにいるヴァハも今から始まる惨劇に期待を膨らませているようで同じように歪んだ笑いを浮かべていた。
「ところでヴァハ、カルトもシグルドについてバーハラに向かったのだな?」
「は、間違いありません。シグルドの横について馬を歩ませていると報告がありました。」
「それは一安心だ。シグルドはともかく、カルトは侮れないとアルヴィス様から用心深く念押しされていた。
・・・バーハラに向かったのなら問題ない。」
「アイーダ様、なぜそこまでカルトに神経を尖らせているのですか?あのような者、小細工がなければ我らのメティオがあれば焼き尽くせます!」先日のフィノーラの敗戦を引き立っているヴァハは、食い下がった。
「奴を過小評価するな。アルヴィス様があれ程までに神経を使っている男、只者ではないはず。それにここには・・・。」
「・・・アイーダ様?」ヴァハは突然言葉を止めたアイーダに投げかけるも応答しない・・・。その思い詰めた顔を見つめること数秒、我にかえったアイーダははっとヴァハに顔を向ける。
「なんでもない、・・・ヴァハ!お前はバーハラに行け!アルヴィス様のロートリッターに就くのだ!」
「か、畏まりました。では!」敬礼すると彼女はそそくさとその場を後にするのであった。
「・・・アルヴィス様、なぜ私にこんな大役を・・・。」左手に握る鍵をぎゅっと握りしめて祈るように天を見上げるのであった。
次章より八章運命の扉 で始めます。
ゲームにもあるタイトルですが、こちらは捻る事なく使わせていただきます。
初プレイで、バーハラの悲劇を見た時の喉の渇きは未だに忘れられません・・・。あの時からこの小説の源泉ともなるような物を紙に書いていたような気がします。