ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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レンスターとトラキア軍の決戦ですが、ゲームではトラキア軍はナイトキラーをお持ちでしたのでレンスター軍は次々やられていきました。私の小説では特攻をあまり採用しておりません、地形と飛空の不利をレンスター軍は背負った戦いになります。

現代の戦争では航空戦力なしのハンデで戦うような物で、勝ち目はありませんね・・・。


南下

初戦でトラキア軍の一団を一時撤退に成功したレンスターのランスリッターはさらに西へ向かい、礫地へと逃げ延びた。

ここは海の風を受けて風化した大小様々な岩石があり、散り散りになりながら休息を取っていた。

トラキア軍をなんとか退けたがランスリッターの被害は甚大であり、残った者ほとんどがなんらかの負傷を負っていてまともな進軍もままならなかった。エスリンが重大な負傷者から順番に治癒を施しているが全員を救済する事は難しいだろう・・・。

キュアンとマリアンは鬼神の如き戦果を挙げ2人だけで20を超えるドラゴンナイトを屠っていた。さすがのマリアンも鋼の長剣は一部欠けてしまい、キュアンも肩に裂傷を負った。

オイフェも借り受けた馬を駆ってエスリンとアルテナの護衛を務め、一体のドラゴンナイトを倒した。手槍で牽制し接近戦を急がせて滑空するドラゴンナイトに馬から跳躍して直接乗り手の胸部に鋼の剣を突き立てたのだ、その戦績にはキュアンも驚かされた。

 

「オイフェお疲れ様・・・、食べる?」マリアンは干し肉と乾飯、竹筒を見せるがオイフェは疲労が多いのか、膝を抱えるようにして息を整えていた。

 

「ありがとう、でもまだ食べたくないかな・・・。」

 

「水だけでも飲んだら、いつまた戦闘になるかわからないよ。」マリアンは干し肉を一掴みすると口に運び、竹筒の水を少し口に含ませて肉を柔らかくしていくと長く咀嚼する。

 

「・・・じゃあ、いただきます。」オイフェも手を伸ばして食事を始めだした、2人は無言の食事をとりながら慌ただしく右往左往するレンスター軍を目で追っていた。

被害は全体の三分の一程、退路は絶たれて援軍は期待できない・・・。絶望的なこの状況でもレンスター軍は慌てる事はなく今出来る事を急いでこなしている、さすがはキュアン王子だとマリアンは思いながら辺りを見回していた。

 

「オイフェ、これからどうするの?西へ逃げてなんとか追撃から逃げ延びたけど危機的状況は変わらないわ、次はトラキア軍は包囲網を縮めて挟み込みと思うけど・・・。」竹筒の水に再び口を付けつつオイフェに投げかけた。

 

「・・・警戒は怠らないけど今日はもう日が沈む、もう奴らは攻めてこないとおもう。ドラゴンはそんなに夜目が効くわけではないから・・・。」

 

「じゃあ、今夜はここで休息・・・」

「今夜奴らに打って出る、野営を襲って包囲網の一角を崩して逃げのびよう。」オイフェは断言した、さすがのマリアンもその提案に驚きを隠せない。

 

「一体どうやって?こんなだだっ広い砂漠で何処で野営してるかなんてわからないわ。それに包囲網を崩しても深い砂漠で進みが悪いから日が昇ればまた襲われるわよ。」

 

「・・・トラバント王を今夜討つ。指揮官を討てぱ奴らの追撃は無くなるだろう。それに賭けるしかない。」オイフェの目は鋭く光っていた、戦いに参加する事により彼は一段と騎士として開花し始めていた。

 

「何処にいるかわからないトラバント王を?あなたにしては運に頼る策略を立てるの?賛同できないわ。」

 

「トラバント王が挟み込む三方向にはいないよ、必ず南側の攻め立てる方にいる。

キュアン様の性格を考えればシグルド様から離れていく南に引き返すなんて奇策は思ってもいないから警戒も緩いはず、他の方向より数も少なく配備している可能性もある。それにこちらの被害も知っているから夜襲はないと考えているだろうから、そこを付いて打って出れば逃げ延びれる。」オイフェは確信に近く断定した。マリアンは驚くがすぐにその作戦の有用性を認識し、微笑んだ。

 

「・・・そうね、あなたの言うとうりだわ。包囲網を破る可能性があるなら今夜しかないかもしれないわ。

・・・それまで、私は寝るわ!」マリアンは今夜に備えて休息を取り出した、剣を投げ出すと腕を枕にその場で寝転ぶ彼女にオイフェはやれやれといった感じで、毛布を掛けるとキュアン王子の元へ向かうのであった。それがマリアンなりの後押しである、薄眼を開けてオイフェをみおくると毛布を頭から被って神経を尖らせながら眠るのであった。

 

オイフェの緻密な作戦にキュアンは唸る、確かに生き残る作戦としては最良になるがキュアン自身はそのまま全速前進して北の部隊を破ってシアルフィ軍と合流してトラバント王の部隊を打ち倒す計画もあった。

シアルフィ軍には強力な魔道士部隊が豊富にいる、彼らの助力があればドラゴンと言えども魔法抵抗が弱い部隊なら狙い撃ちする事が出来る。そう考えていた。

オイフェはその事を十分に考えており、それこそ思う壺だと進言する。トラバント王にとって一番避けたいのはキュアン王子とシグルド公の合流なのだからその方向の部隊は自然と多くなり、夜襲の警戒も最大限と思っていた。

それよりも半壊した部隊が引き返してくる方が奇策となる。駐留している場所を特定し、夜襲しないと勝ち目はないと踏んでた。

 

「なるほど、確かに一利あるな・・・。ここまでランスリッターを半壊させたんだ、多少の詰めの甘さをだしても不思議ではないだろう。

裏をかけば耐えしのげる事も可能だ。」キュアンは地図を見ながらオイフェの意見に耳を傾けた。

 

「はい、計画通りトラバント王が南の部隊にいて倒せれば尚良しですが、深追いはできません。

奴らの包囲網を突破してさらに南に進めば砂漠から抜け出る事が出来ます。レンスター領まで戻れば残りのランスリッターと合流し、トラバント王を攻めることも可能です。」

 

「そうだな、トラバント王がここまで出張ってきていれば残りの半分のランスリッターを出動させる事もできる。君の考察は素晴らしいな、よし!皆に準備と治療を急ぐように指示を頼む。巻き返すぞ!」キュアンは立ち上がって側近たちに檄を送ると、持ち場へと散り散りに後にする。オイフェもまた敬礼をしてその場を退席しようとするが、彼の方に手をかけたキュアンは首を横に振る。

 

「君は私の参謀だ、常に私の側にいてくれ。」口元を僅かに緩めてオイフェの頭脳を頼った。オイフェは初めての活躍に高揚し、力強く返事をするのであった。

 

 

「アルテナ、ごめんね。怖くない?」

 

「だいじょーぶ!怖くないよ!」アルテナの言葉にエスリンは安心して頭を撫でた。

 

「お父様がきっと私達をレンスターに帰してくれるから泣いちゃダメよ。」懐からそっとビスケットを渡すとアルテナ嬉しそうに口にしていた。

 

「うん!とっとよりも、かっかよりもつよーーく!なってみんなをまもるの!!」無邪気に笑うアルテナにエスリンは強く抱きしめていた。

(エッダ様・・・、この子だけはお護り下さい。)エスリンは一重に祈りを捧げていた。

アルテナは聖戦士ノヴァの血を色濃く受け継ぐレンスターの希望、程なく生まれたリーフと共に次の世代を担う大切な子供達・・・。彼女達を守る戦いをエスリンは覚悟していたのである。

 

 

「フィンさん、どうしたんですか?」まだ幼いアレスは剣の指導を受けながらフィンの要領の得ない指南に、多少の苛立ちを隠せずに確認する。レンスターではシグルド公の決死の行軍に救援する事はかなりの反対があった。

フィンはシグルド公の救援には反対はない。キュアン様の意思は何よりも優先する彼は全てを信じているが、不安がある事も事実であった。それ故にアレスの幼い剣でも受け損じていまい、木剣を腕に受けて腫れ上がってしまった・・・。

訓練を中断し、アレスが井戸から汲み上げた冷たい水を桶につけながらその体たらくに質問が飛んだのだった。

 

「すまない、せっかく時間が取れたのにこんな訓練では君も不服だったね・・・。」

 

「僕は大丈夫です、それよりもフィンさんの方が疲れていらっしゃいます。今日は休まれた方がいいのでは?」アレスの年では考えられないくらいの受け答えに、ラケシスの帝王学が相当入り込んでいると思い苦笑いする。

ラケシスはアレスの容姿に、エルトシャン王の影を見たのだろう。アレスはその期待を当然とばかりに受け入れ、彼自身エルトシャン王の意思を継ぐと母グラーニェに言ったほどであった。

アレスは既に騎士としての身だしなみ、心身の訓練、乗馬から剣術、作法を厳しく躾けられていた。

まだ5歳にも満たない彼がレンスターで獅子王の血が開花していくのである・・・、フィンはその血筋の恐ろしさを間近で感じていた。

 

「そうたな、今日は剣はこれくらいにして昔話をしよう。君にはどんな話をしてきたかな?」

 

「シグルド様とキュアン様のお話を聞かせてください。お父様の最も親しい友人のご活躍をお聞きしたいです。」アレスは目を輝かせていた、彼ら三人の勇姿を伝えられる事ができるフィンにとってこれ以上になく幸せな事であった。

アグストリアではシャガールの某策に翻弄されシグルドとキュアンに対してエルトシャンと対立する事があった、それが最後には協力してシャガール王を諌める事に成功した事をキュアン様より後から聞いた時、フィンはその場にいなかった事だけが心残りでもあった。

 

「そうだな・・・。その三人を仲裁してアグストリア滅亡を防いだ男の話はとうだ?」

 

「アグストリアは父とシグルド様が救ったのではなかったのですか?」

 

「君のお父上とシグルド公が滅亡に瀕するアグストリアを救った英雄だ。しかしそこに至るまでに何度も境地があり、彼らだけではどうにもできない事案があった。それを裏から支えた英雄達を君に知って欲しくてな・・・。」

 

「是非!お聞かせ下さい。」アレスとフィンはこうして青空教室へと変わり、日が沈むまで熱く語る事となる。

フィンの語る英雄譚はアレスにとってとても刺激的で、胸に刻まれていく・・・。

フィンの持つ彼らの記憶の遺産は17年後に再び意志となって集結していくのであり、その時にこの話は若き聖戦士達の礎なっていくのである。

 

 

 

深夜、砂漠の寒さに震えながらレンスター軍は進軍する。

ドラゴンは寒さに弱いので動きが鈍る、さらにシレジアの様な極寒では生活は出来ないそうだ。それ故にマリアンは冬の時期はレンスターに滞在していた。

この夜襲は効果的になるだろう・・・、ドラゴンとてずっと飛び続ける事は不可能で、翼を休める事と夜目が効かないから夜は絶好の休息タイミングであった。

前述の寒さもあって動きはにぶる、それ故にマリアンはシュワルテを放って別地点で待機させていた。今回の夜襲は白兵戦での参戦としたのである、今はオイフェの駈る騎馬の後ろに乗っている。

 

オイフェは出発前からこの辺りの地理は頭に全て入れていた。

南にトラバントがいると踏み、彼らが休息として選ぶ地点も予想をつけていた。

それはドラゴンの寒さの弱さに目をつけて風をしのぐことができ、かつ見渡しのいい風凪の丘という旅人が砂嵐を避けるポイントに目をつけたのだった。

 

まずその地点にトラバンド王が自ら出陣してきていると確認している。彼の性格上、キュアン王子を狙っての謀略なら彼自身が殺害の確認をすると踏んでいた。

優位に立っている観点から追撃部隊の本隊にいるだろうし、こちらから攻撃してくると思っていないだろう。

なによりこの状況では守りながら戦うのでは全滅するのは必死である、危険を承知で懐に入らなければレンスター軍の槍は空を駈る竜には届かない・・・。長く続けば物資も不足して戦闘を維持する事も出来なくなる。いっそここで決戦を行う事が最善とオイフェはキュアンに伝え、彼は決心したのであった。

レンスター軍の士気は高かった、短期に持ち込む狙いは兵たちの士気が落ちて絶望になる前に勝負をつける意味でも効果が高い。オイフェの進言はキュアンですら唸るほどで、つけいる意見はなくなっていた。

 

予定のポイントまであと少し・・・、馬の速度が落ちて思うように動けない事の焦りを抑えながら少しづつ進んでいく。

砂漠による温度の低下に身体がついて行かず悴む手を必死に動かしながら有事に備える、ランスリッターは一縷の希望を求めてキュアンとオイフェの頭脳を信じた。

 

「・・・・・・・・・いたわ、オイフェの読み切りね。」マリアンの小さな言葉に皆が無言の歓声を上げていた。

トラキアの部隊が、予定より少し北ではあるが駐留している姿が見つけられた。

簡易な天幕を数箇所に設置し、トラキア兵が辺りの警戒に数人が行き交っている程度。・・・そして、篝火を必要以上に焚いてドラゴン達の体温低下を防ぐ対策。

それらを見ても間違いなくトラキア軍である事は見間違えるはずはない、一度砂丘の丘を少し戻って窪地でレンスター軍は固まって最後の決戦を誓う。

 

「みんな、よくここまで生き残ってくれた。これが我らの活路を見出す最後の勝機だ。

狙いはトラバント王ただ一人!もしいなければそのまま突撃して包囲網を抜けてレンスター領まで引き返すぞ。

・・・一人でも多く帰るんだ、君達はここで死んでいい者達ではない!」気取られない小さな声ではあるが、軍を慮るキュアンらしい言葉に皆の士気が上がる。

突撃前の準備にマリアンはオイフェの後ろで長剣を確認する。鋼の長剣は一部破壊され、恐らくこの戦闘の中で折れるだろう。

先程物資の提供で譲られた鋼の剣を確認し腰に据え、長剣は背中に背負った。シュワルテは今退避させているが戦闘になれば呼び寄せる事もできる・・・。いざとなればエスリンとアルテナを乗せて緊急退避もキュアンから言いつけられているが、空からの包囲網が狭められる中で逃げ延びる事は難しい。やはりここを突破しなければ安全など保証はできない、マリアンは静かに気合を入れていく・・・。

オイフェもまた譲り受けた鋼の剣と手槍を持ち、マリアンを見て頷いた。

 

「敵陣に入ったら私は馬から飛び降りるけど速度は落とさないでね。・・・オイフェ、死なないでね。」マリアンはオイフェの背中に額を置いて気遣った。

 

「うん、一度レンスターに戻っちゃうけどまた来よう。生きてシグルド様とカルト様に会いに行こう。」オイフェは穏やかに応える。

共に武運を祈ると、その時にキュアンの号令がかかった。

一斉に突撃するレンスターのランスリッター、オイフェもまた騎馬に鐙で駆け足を送り怒涛の決戦へともつれ込む。

砂丘の丘をいっきに下り火矢を放つ、トラキア軍の大小様々な天幕より雪崩れ出てくるがまだドラゴンは飛び立っていない。

地上にいるうちにもつれ込めば勝機は見える!騎馬は砂漠で速度が落ちているが、それでもこの辺りはまだ地面が固い方で悲観するほどではない。

敵陣の懐に潜った一団はトラバント王を探しつつ突破する最後のチャンスを求めて足掻くのであった。




オイフェ

ソシアルナイト
LV 8

力 10
魔力 1
技 13
速 10
運 7
防 7
魔防 2

スキル
追撃 必殺

鋼の剣
手槍


ゲーム上のオイフェは後半で参戦しますが、彼が前半で出ていたらかなり強いです。後半のハイブリッド血統の子供達が強すぎる事と、強力な魔法を使う局面が多すぎるので、魔防が低いキャラはよほどの回避値が無いと淘汰されてしまうからです。
かわいそうなオイフェ、この作品では出番があるから頑張って欲しいです。

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