ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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闇にうごめく存在
イザークの動乱の発端を描いていきたいと思います。
これも奴等の思惑通りなんでしょうね。
私なりに描いていきたいのでが、誤解があればすみません。


傀儡

少女の救出に失敗したカルト達、ホリンと合流するために一度宿に戻り帰りを待つことにした。彼に一連の騒動を話し、イザークとしての見解を聞くことに二人は意見が一致する。

カルトは当初かなり頭に血が上っていたのでフュリーは心配していたが、すぐに建て直してこの判断にいたってくれたのだ。

先程の戦闘は突発的であるがここからはイザーク内の問題もあり勝手な行動は制限される。無理をすれば二人を抱えているホリンに責任が及んでしまう事、今回の事件に何らか情報を持っている可能性がある事を判断しての内容だ。

何より、魔力がつきかけているカルトが今どのような行動を起こしても無駄に終わるだけだった。

 

「ねえ、カルト。あのローブの男の事だけどあなたはどのように判断しているの?」

 

「恐らく奴の使っていた魔法は、闇魔法だ。」

 

「闇魔法?」フュリーは聞きなれない魔法に戸惑いと語感からくる忌しい感覚に襲われた。

 

「ダーナの奇跡を発端として打ち倒した暗黒神ロプトウスとそれを支えたロプト教団の使う負の感情を具現化する暗黒の魔法だ。」

 

「で、でもロブトウスって滅ぼしたんでしょ。なんでまたそんな存在が残っているの?」

 

「確かにロプトウスを倒して世界は平和になったが復活を信じて闇に潜った連中もいるらしい、細々とどこかで活動をしているのだろう。」

 

「そんなこと、全然知らなかった。」

 

「百年以上前の話だからな、当時を知るやつなんていないがグランベル王国の国王はロプトウスに唯一対抗できるナーガの血筋の家系。血を絶やす訳にもいかないし、地下に潜るロブト教団の存在も根絶しようと水面下で活動していると聞くぜ。」

 

「それで、あの男は何のためにあんなことを?」

 

「フュリー、お前意外と勉強不足だな。やつらは全盛期に子供狩りといって、母親から子供を拐って火炙りをしていたんだ。世界が恐怖と絶望に染まれば染まるほど負の力を源とするロブト教団の魔力が増していくと言われていたらしい。

今回も子供をさらったことからその手の事ではないかと考えている。」

 

「じゃああの子は!」

 

「ロブト教団なら、間違いなくあの子を生贄として殺すだろう。」フュリーはようやく事態の大きさを理解した。普通に考えれば拐う目的は労働力の為や慰みものにされたりと下劣であるが命まで奪うものは少ない、殺すために拐うなんてフュリーには想像もつかなかったのだ。

 

「カルト!ホリンさんを待つ暇がないわ!早く!」カルトが先程まで取り乱していた事を理解したフュリーは、立場が入れ替わり取り乱す。

 

「フュリー落ち着けよ、どこに逃げたのか判らない連中を闇雲になんて探せない。今はホリンを待つんだ、明日の朝になればやつらを追える算段がある。」

 

「・・・待っててね、きっと助けにいくから。」冷静さを取り戻して彼女は祈るようにつぶやいた。

 

 

 

ホリンが宿に戻ってきたのは、日が落ちてきたあたりだった。彼も難題を抱えているらしく、リボーの族長に会いに行った表情は険しくなっていた。

早速帰ってきたホリンに開口一番に今日あった人攫いの件を話した、ホリンはさらに険しい顔を見せたが一通りの話を聞いてから発言をするのだろう、今は俺の話を黙って聞いてくれていた。

 

一通りの話した頃には完全に日が落ち、部屋は真っ暗になっていた。フュリーは階下で火種を貰い、燭台に火を入れて灯りをとる。

 

「カルト、俺の任務は子供が人知れず攫われてしまう事の調査だったんだ。」暫く黙って聞いていたホリンは暫く熟考した後に、二人にダーナにいた経緯を説明し始めた。

 

「攫われだしたのは2年程前だ、今回で5人目になるのだが3人攫われた辺りから妙な事に何処かに売られた形跡が見当たらない事がわかった。

攫われた子供はほとんどがダーナの裏市場で売買されるのだが、そこにイザークの子供は流されていなかった。

さらにダーナに派遣してした調査兵が帰らぬ人になったため、私が任務を受けてダーナで監視をしていた。」

 

「なるほど、だから剣闘士の真似事までして潜伏していたのか。」

 

「そういうことだ、私はカルトと戦う前にイザークの子供を連れた男に遭遇できて奴らをつけてみたのだが看破されてしまい・・・。」

 

「やつらの使う魔法にやられたと。」

 

「そういうことだ、魔法の対処に乏しいイザークの剣士では歯が立たないと感じた俺は偶然出会ったカルトに魔法の対処をイザークで訓練して再度ダーナに戻る予定だった。」

 

「そういうことか、しかしなぜそれなら手っ取り早く俺に協力を求めてあの場から追跡しようと考えなかったのか?」

 

「・・・・・・。」

 

「悪いな、言いたくないだろう。自国の問題は自国で解決したいことはよくわかる。

だが、恐らく俺たちが相手をした男と同じ男なら剣士であるホリンではまず勝てないだろう。」

 

「どういうことだ。」フュリーも同じ思考だったのか、ホリンの言葉に同調する姿勢をみせた。

 

「恐らく、奴の正体は魔法で操られていた死体だよ、剣の攻撃なんて痛覚がないから意味はない。

やつを倒すにはどうしても魔法による攻撃が必要なんだ。」

 

「どうして魔法なの?剣とか槍で攻撃することと、魔法で傷つけるのは違うことなの?」フュリーはここで口を挟む。

 

「全然違うな、魔法の攻撃は普通の防御とは違って精神にもダメージを与える事ができるんだ。

奴は死体に精神だけを憑依させて体を無理に動かしていたわけだから、肉体的な攻撃には強いがその分精神的な魔法による攻撃か極端に弱くなっていた。だからあの時は撃退に成功できたんだ。」

 

「そのような魔法があるのか、それで私の攻撃がまるで通しなかったのか。」ホリンは過去の自分の経験からも思い当たる部分があるのか理解したようだった。

 

「ねえ、それと明日になれば捜索できる方法があるといっていたじゃない?それはどういうことなの?」フュリーはもうひとつの疑問をぶつけた。

 

「ああ、それは単純だ。俺はあの少女がさらわれる前に町で会っていてな、ちょっとした縁でかみかざりをあげたんだ。

あの髪飾りは俺の魔法で細工した工芸品で、魔力の共鳴現象を利用すれば場所を特定できる。ある程度は近付かないとピンポイントまでにはいかないがな。」

 

「それは本当か!ならまだ救出できるチャンスはあるのだな。」ホリンは今回の件には解決の糸口がある事を知り、興奮気味に立ち上がりカルトを見る。

 

「ああ、しかし急いだ方がいいな。やつらは奴隷のような労働力ではなく暗黒神への捧げ物という使い方ならそんなに遠くない時期に決行するはずだ。早朝には魔力も戻るから探知してから出発したい。」カルトはそういってもうひとつ付け加えた。

 

「それと、恐らく奴等の本拠には死体を操っていた術者本人がその場にいると思う。

奴と今の俺ではまず間違いなく勝てないだろう、よほどの実力に差がない限り暗黒魔法に正面から打ち勝てるのは光魔法だけなんだ。

もし救出において奴に見つかった場合は、辛いだろうが自身の命を優先して逃走して欲しい。死んじまったら次救出するチャンスすら無くしてしまうんだからな。」

 

「うむ、本心はイザークの問題は自国でなんとかしたかったがここまで奴らを分析できているようなら君の判断に委ねるのが妥当だろう。

カルト、すまないがよろしく頼む。」ホリンは頭を下げてカルトを改めて依頼する。

 

「わ、わたしもここまで聞いてしまった以上最大の助力するわ。ペガサスナイトの私なら魔法防御能力はここでは負けないわよ。」フュリーも意気揚々と立ち上がり雄弁する。

 

「はあ、できれば君にはここらでシレジアに戻って欲しい所なのだがなあ。」

 

「何言ってんのよ!ここでシレジアに帰るなんて私の正義に反するわ。

カルト、お願い!これが終わったらシレジアに帰るからもう少し一緒にいさせて。」俺はその言葉に一瞬、頭が混乱した。こ、こいつて天然でいっているのか?

 

「あー、俺ハラヘッタかも。ちょっと下で食料を見繕ってくる。」

 

「おっ、おい!ホリン!!いらん気を使うな、間違えてるのはこの馬鹿だから。使い方間違えてるだけだから!」

フュリーは自分で言った事を頭の中で反芻してようやく事態を思いついた。さっと真っ赤になり、その感情が逆流した。

 

「なっ!なっ、カルト!!私はあの子を助けたい一心なの!茶化さないで!!」

 

「いっ、いや!フュリーの言葉の使い方の問題だろ、俺も一瞬混乱したぜ。」

 

「ふんっ!」二人の間に冷えた雰囲気が流れ込んできたホリンは仲裁に入る。

 

「まあ、とりあえず少しお腹に何か入れておこう。

明日から当分携帯食になるだろうから、今日くらいはいい物を食べないとな。俺でよければご馳走しよう。」

 

「まじか!俺イザークにきたら牛肉を食べたかったんだよ!シレジアの羊肉もいいがあの独特な風味の肉汁に憧れていたんだよ。フュリー、ホリンの気が変わらないうちに行こうぜ!!」俺は手を引っ張って下の酒場へと足を急がせた。

 

「ちょ、ちょっと!お願いだから引っ張らないで〜。」

ホリンは二人のやりとりに微笑むと階下へとゆっくりおりていくのであった。

 

 

 

「父上!なぜ、子供達の救出に軍を出されないのですか!このままでは我がリボーは救出に自ら動かぬ腰抜けと思われてしまいます!」

 

ここは日中にホリンが訪れたリボー族長のクラナドの館であり、その主は息子のクラウスに叱責を浴びせられていた。

 

「いかん!ダーナに軍を進軍させるなど以ての外だ、確かに彼の地は中立区域だが誤解を招けば隣国のグランベルや、レンスターを刺激しかねない。ここは腕の立つホリンに潜入してもらい、小規模で対処せねばイザーク全体の問題になる!クラウスよ、ここは我慢の時なのだ。」

 

「父上はあのホリンを高く買っているようだが、奴は尾行を読まれて返り討ちにあった弱者にすぎぬ!あんな余所者を信頼しているといつか後悔なされますよ。」

 

「馬鹿を言うでない!ホリンはリボーの為にここまで情報を持ち帰って奴らの動向を徐々におっているではないか!滅多なことを言うには口が過ぎるぞクラウス。」

 

「くっ!」クラウスは父にこれ以上ない理論で持って退かざるを得なかった、引き下がった彼は自室で悪態を付くのだった。

 

「くそっ!なぜなんだ!なぜここまでリボーの為を憂いて打開しようとする私の判断にいつも父上は反対するんだ!!俺にだって機会があればホリンどころか、マナナン王やマリクル王子に匹敵する器があるというのに!」

あおるように酒を飲み、グラスを叩きつけた。他者からみれば愚骨の上に始末に追えない男であるが、当の本人にはそれが全く見えない。その悲しき男は、一人愚痴に明け暮れていた。

 

「ほう、そなたにはマリクル王子にも匹敵すると。」不気味な声がクラウスの自室に響き渡る、空気は暗くて温度が下がっていくような感覚に襲われたクラウスは恐怖のあまり椅子から転げ落ちた。

 

「何者だ!」クラウスは必死に虚勢の声を上げて腰に吊るした剣を抜いた。

 

「私はここですよ、物騒な物を鞘に戻して私と語らいましょう。そう、マリクル王子にも匹敵すると言われたあなたの実力を是非お聞きしたい事ですわ。」クラウスは辺りを見回している間に、机の対面に座っている女性をみつけた。女性と言っても、性別を認識できるのは声とその体のラインからであった。

 

全身を黒のローブをまとっており、顔は一切認識できない。間からわずかに見える黒髪だけが唯一の情報だった。

ゆったりとしたローブで覆っているにもかかわらず、胸部を強調させるそのラインにクラウスは劣情を覚えてしまう。だがこの得体の知れない存在に彼は萎縮し、その場の椅子を元に戻して静かに座ることで精一杯だった。

 

「どこから入った!ドアには鍵がかかっていたはずだ!」

睨みつけるが、彼女は全く意にも介せず机の酒をグラスについで舐めるように飲み干した。一瞬見えたその妖しい唇はどこか冷笑を携えており、クラウスはさらにその雰囲気に飲まれていく。

 

「私はあなたが入って来る前からずっとここにいましたわ、あなたのリボーに対する想いと攫われた子供達を親許に返す気持ちに打たれてここで待っていたのです。」

 

「どういうことだ。」

 

「あの人攫いはただの人攫いではありません、私のように魔法に長けた者でないと太刀打ちできないでしょう。

どうでしょう?私を使ってダーナで怯えている子供達をあなた自ら救出しませんか?そうすれば、あなたが言うようにマリクル王子と並ぶ存在になるでしょう。」

 

「し、しかし。」

 

「大丈夫です、それともあのホリンが賊を討って彼の武勲に貢献するのですか?」彼の挑発はこれで充分だった、みるみるうちに顔は激昂し自らを奮い立たせた。彼女はローブの下で妖艶な笑みを浮かべていた。

 

「ホリンごときにおくれをとってたまるか!

おい女よ!お前は魔法に長けると言ったな、その能力で奴らが勝てるのだろうな!」

 

「もちろんでございます、私の魔法とあなた様の兵力で一気に賊を片付けてしまえばダーナの民も侵略目的ではないことが証明できるでしょう。」

 

「そこまでいうのなら、私の武勲の一つにこも功績を残してやる!!」

 

「そうでございますとも、そしてあなたはイザークの新しい王となるのです。」

 

「そうだ・・・、俺は・・・王に・・・。」傀儡の誕生にローブの女は妖しい笑みを称えたのだった。




やはり、難しい。

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