ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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とうとうカルトの故郷であるシレジアに戻ってきました。
本当はここでマイオスとダッカーと相対する部分ですが、前回のカルトの帰郷で抹殺、無力化しているので前章同様にオリジナル展開となります。
前回の帰郷の時の話をシレジア編でする予定でしたが、どこで回想にはいって良いものか迷いますね。

取り敢えず束の間の外伝へ突入していきますのでよろしくお願い致します。


外伝 3小節
凱旋


時は運命を乗せて紡ぐ・・・。大切な人との死別、袂を分かちながらここまで命を残せた事に感謝する。

ヴェルダンで病人や怪我人の介護ですっかり教会の静かで、穏やかになれるこの場を好む様になっていた。

激動の戦いで散ったホリンとエルトシャン、そして我々に賛同して同行してくれた一般兵達・・・。カルトは冥福を祈る、彼は神という存在を認識してはいるが彼らに敬意は払っても信仰する事はない。人は人の手で救わねばならない、それはカルトの信条であるからだ。

 

ホリンの尽力でシャナン王子はアグストリアで行方不明となっていた、カルト達に紛れた可能性も示唆されていたがラーナ様はきっぱりとイザークの残党は匿っていないと否定している。傭兵騎団に紛れていると知らない以上、捜索の手を伸ばしてもどうしようもないだろう。

エルトシャンが命をかけてランゴバルドを討った事でレプトールはあの場から撤退した。シャガール王はその後グランベルに謝罪し今までの反グランベル体制を自ら解体、賠償に応じる事になり国力は衰退する。国としても維持が危ぶまれる中で手を差し伸べたのがシレジアであった、アグストリアと以前と同じ交易を行いつつヴェルダンを加えて三国交易を行う事となる。

アグストリアを中心にシレジアとヴェルダンが間接的に交易出来るようになったのだ、シグルドがオーガヒルを攻略した事により海路が開け、アグストリア領にとって交易の要と変化した。

この数ヶ月で随分と整地が進み荒地であったオーガヒルは徐々に栄えていく、かつては悪鬼の住処と言われた荒くれ共もその変化に戸惑いつつも職が手に入ると共に治安は落ち着きつつあった。

 

 

カルトは不意に天井のステンドガラスを見る、七色の光が差し込めば言うことが無いのだがシレジアの冬にはそれは叶わない・・・。本日は朝から吹雪いておりそこらかしこから隙間風が木製の扉をガタガタと音を立てておりおだやかな雰囲気を楽しむ事は出来なかった。ヴェルダンの森林に佇んでいたあの教会を懐かんでしまう。

 

「カルト様・・・。」

 

「エスニャか、体は大丈夫か?」

 

「ええ、今日はまだましなので・・・。」

 

「そうか・・・、ここは冷える早々と帰るとしよう。」

エスニャの手をそっと添えて教会を出る、その途端に風雪が二人を容赦なく襲いかかる。

吹雪いているとは言っても、本日の吹雪はまだ視界があるだけましである。シレジアに住む者では大した事は無いが外地からくる者はさぞ驚く寒さだろう、エスニャはカルトから贈られた毛皮付きの外套を羽織りさらに同じ毛皮を誂えたコートを纏っていた。

二人は雪をギュッ、ギュッと音を立て立てながらセイレーンの街を歩く、雪化粧をされた白い街に鉛色の空、吐き出す度に出てくる白い息・・・。全てがグランベルとは違うこの環境に驚くが、いまはもう慣れてしまっていた。

 

「アミッドもお兄ちゃんになるのですね。」エスニャは自分のお腹をさする、その慈愛の手にカルトもまたエスニャのお腹を優しくさする。悪阻が彼女に新たな生命が宿っている事を証明していた。

 

「アミッドはやんちゃで聡明な子であるが、次の子となるとどんな子になるのやら。」

 

「予想してみませんか?次の私たちの子供を・・・。」

 

「・・・乗った!負けた方は勝った方の言う事を1日聞き放題、てのはどうだ?」

 

「貴方って人は、産まれてくる子供を賭けるなんて失礼にも程があるますよ。」

 

「まあまあ、エスニャはどう想像する?」

 

「・・・そうですね、アミッドと似た男の子でしょうか?

でも、私の様に気の弱い感じでアミッドとは違った性格になりそうな気がします。」

 

「なるほど、俺は女の子だと思うな。エスニャに似て優しくて、気は弱いけど、芯は強くて正義感のある女の子かな。

母親譲りで、怒れば髪が逆立ってトローンを所構わず打ち込む・・・。」

 

「あら、この場で私にそれを実演されたいような話ですね。」エスニャから魔力が、いや闘志が湧いてきそうな雰囲気である、周囲の冷気も伴ってカルトの首筋から寒い物が伝ってくる。

アグストリアの戦いで、エスニャの戦いぶりをみた周囲の者から彼女は「落雷の淑女」という通り名が密かについていた事に大層落胆していた。

 

「俺の気質が入っていればトローンではなく、オーラを落として回ったりしてな。」

 

「カルト様!!」カルトは笑いながら逃げるように辺りを飛び回るのであった。

 

 

アグストリアの大戦から数ヶ月が過ぎ、晩夏であった時は移ろいシレジアで最も厳しい冬を迎えていた。

無事にシレジアへ渡ったシアルフィ軍はシレジアへと亡命しラーナ様の保護の下でグランベルとの交渉する事となったが、それは芳しいものとは遠く及ばない状況であった。

フリージの公爵であり、宰相でもあるレプトール卿がアズムール陛下にその文を届ける事もなく破棄されているのであろう。一向に返事となる物は帰ってこなかった。

シグルドは怪我が完治するや否やイザークへとお忍びでバイロン卿の捜索に向かうが、手紙によると手掛かりはおろか痕跡すら残されておらず難航している様子であった。現地にはランゴバルドの息子であるダナンが駐留しており、反グランベルを掲げるマリクル王子の残党もまだ抵抗をしている・・・。その戦火に巻き込まれないことが一番の気掛かりであった。

シャナンとアイラはさぞイザークへ同行したかったであろう・・・、しかしここでイザークに戻ればアグストリアで行方不明からイザークで露見すればシグルドの立場が悪くなる、彼女達はじっと今は耐え忍んでいる事にカルトは安堵していたのだった。

 

カルト自身がヘイムの血を引く者と宣言したが、確認したランゴバルドが死去しレプトールが隠匿した事で闇に葬られてしまう。しかしながら自軍に属する者達には知れ渡ってしまい、カルトを見る目が皆変わってしまったのだ。シレジアの同胞ですら、カルトに接する態度をあからさまに変えてしまい辟易としてしまうのである。

 

今シレジアでは、アグストリアの一年と同様に第2期ベビーブームの襲来が起きつつあった・・・。カルトとエスニャの間に身籠った第二子に続き、エーディンもご懐妊していると聞く・・・。

なにより・・・。

 

「うおおお!これで王家の後継は安泰だ!!」町の酒場からは祝宴で彩られていた・・・。

 

「・・・レヴィンの奴、マーニャとの勝負にまんまと負けやがって・・・。」カルトは微笑んで酒場の喧騒に突っ込んでしまう。

 

「フュリーさん本当に良かった、彼女はずっとレヴィン王子をお慕いしてましたから・・・。でもマーニャさんは譲った形とは言え、すこし寂しそうでした。」

 

「そうだな・・・。エスニャ、側室という手は・・・」再びエスニャから殺気に近い魔力が溢れ出す、髪が逆立つ程の・・・。

 

「カルト様、シレジアにはそのような廃れた文化があるのかしら?」

 

「い、いやあー・・・。レヴィンはほら!色男だし、王子様だし、セティの血統書付きなんだぜ。一人や二人くらい。」

 

「あら、ではここにいるのはなんなのかしら?色男はレヴィン様に劣るとしても、皇子で血統としてはセティ様に劣るとも勝る物をお持ちですよ。カルト様は私だけでは飽き足らないとでもいうのですか?」エスニャの怒りがまさにカルトの頭上に落ちる、そうな緊迫感であった。

 

「俺は、ぜっーたいにそんな事しないよ!エスニャ、身体に障るから。」カルトは自身の魔道のローブにエスニャをまとわせて身体を寄せ合った。エスニャはカルトのローブの暖かさに安堵し、腕を絡めて二人帰路するのであった。

セイレーン公のカルト、妻を娶っての凱旋であった。

 

 

長く臥せっていた彼女はゆっくりと起き上がる・・・、輸血による感染症を引き起こし一時は命の危険すらあった。峠を越してから彼女の病状は穏やかに回復し、本日床から起き上がったのだ。

この数ヶ月ですっかり痩せてしまい、四肢に力が入らない。辺りの静止物を頼りにゆっくり歩いて行くがすぐにへたり込む。

 

「エスリン!」キュアンは食事を持って妻の元に現れるが、床から出た彼女を見て慌てて介抱する。

 

「ごめんなさい、あなた。」

 

「先生からすぐに歩かないようにと言われた筈だ、無茶をしてはいけない。」

 

「でも、アルテナが・・・。」

 

「心配ない。アルテナはもう母乳は離れているし、食用も旺盛だ。

今はゆっくりと鈍った身体を治してアルテナを抱いてやらねばな・・・。」

 

「ふふっ・・・。そうね、あなたをずっとアルテナから奪ってしまっていたから罪滅ぼししなきゃ。」

 

「ああ、治ったら他の国にはなかなか見られない雪景色を見て回ろう。」

 

「・・・ごめんなさい、あなた。

実は、私あれを渡したかったの・・・。」エスリンは細くなった指で指し示した。部屋の隅にあるエスリンの荷物、馬車から移動してくれた大きな荷物の一つをキュアンに指し示したのである。

キュアンはベッドにエスリンを戻すとその一つの荷物の中身を確認する、その荷物は細長く立派な桐の箱に納められていた。

エスリンが頷く事を確認し、キュアンはそっと開けるとその中身に驚愕する。

 

「こ、これは!ゲイボルグではないか!エスリン、なぜこれが・・・。」

 

「カルフ様が、戦いが激しくなると感じた時に渡せと・・・。」

 

「そうか・・・。しかしなぜ今になって私に?

今までの戦いは全て薄氷の上の様な戦いばかりであった筈・・・。」キュアンの言うことは尤もであった。ゲイボルグがあればそれこそアグストリアで村々の海賊を一掃し、エルトシャンを救出に向かえたのかもしれないほどと考えてしまうのである。

 

「それは・・・。」エスリンは俯いてしまう、憂の表情にキュアンはそっと彼女の肩に手を置いて言葉を待った。

 

「カルフ様にお聞きしました、ゲイボルグにまつわる悲しいお話を・・・。」

 

「ゲイボルグを手にした者は愛する人を失う・・・。確かに言い伝えられているが私は信じない、人の運命は武器に左右されてはならない。強い武器に自我を飲まれては一流の騎士ではない・・・。」

キュアンはそこでエスリンの意図に気付く事となる。

この大戦でキュアンもかなりの力をつける事が出来たのだ、武具に似合うだけの技量をもち合わせれば先程述べた様に強力な武器に過信する事は無くなる・・・。エスリンはその事も意図してゲイボルグを渡さなかったのだとキュアンは断定した。

 

「キュアン?」

 

「エスリン、ありがとう。

君はやはり私を正しく導いてくれる、私は君を娶る事が出来て幸せと感じている。」優しく抱擁するキュアンにエスリンは澄んだ水晶の様な笑みを投げるのであった。

 

「フィンも、レンスターで子供が出来たそうだ。

身体を癒したら一度国に戻ろう、あいつの幸せを見ておきたい。」

 

「そうね、まさかフィンがあのお姫様を娶るなんで思ってもみませんでした。」

 

「エルトシャンが戦死して、心の拠り所を失って随分やつれたそうだ。フィンが支えて、新たな一歩を二人で歩みだしたんだろう。」

 

「早く二人を祝福してあげたいですね、鈍った身体を早く何とかしますね。」

 

「無理をせずに、な・・・。」夫婦の会話は続いて行く。エスリンの頑張りでリハビリは驚異的な速さで進むのであったが、シレジアで第二子が出来てしまいレンスターに帰国するのは1年以上先になってしまうのは二人の落ち度であった・・・。

 

 

「こんにちは、クロード神父。今日もお祈りですか?」クロードはセイレーンのバルコニーで日課の祈りを捧げていた、この風雨の中で微動だにせずに祈る彼の神々しさにマーニャはついセイレーン訪城の際に声を掛けてしまう。

 

「こんにちは、マーニャさん。今日はどの様な用件ですか?」

 

「今日はレヴィン王とラーナ様がお見えになる予定ですので先に私が確認に見に来たのです、カルト様はすぐいなくなってしまいますから・・・。」

 

「そうですね・・・。彼は今城内にいますので杞憂に終わると思いますよ。」

 

「クロード神父はそんな事も分かるのですか?」

 

「大それた事はありません、彼の波動を追っただけですから。」

 

「神父様はなんでもお見通しなんですね・・・。」

 

「私はそんな大それた者ではありませんよ、皆さんより少し先が見えるから故に何も出来ない無能な神父です・・・。」

 

「なぜそんな事を仰るのですか、先が見えると言う事は迷える人を救う事になるのではないですか?」

 

「・・・絶大な権力者が一人の餓えた人を救済できますか?」

 

「えっ・・・。」クロードの突然の質問にマーニャは考える、言葉の表面上ではなんの事もない事である。権力者なら餓えた人を救う事は容易である・・・。

 

「一人を救済すれば同じく餓えた人を全て救済せねばなりません、それが国単位の人となればどうでしょうか?絶大な権力者と言えどもそれ程を救済する術は持ち合わせてはいないのが今の世の筈です。

この様に強力な力を持つ者でも、人の運命を変える事は容易ではないという例えです。

何かを変えてしまえば、その事象に対して別の何かが負債を負う事になる。運命を変える事は簡単ではありません。」

 

「そんな・・・。では神父様は飢えた人々をどのようにお救いするというのですか?飢えて死ぬ事が運命と言えるのでしょうか?」

 

「・・・残念ですが私にもわかりません。ブラギの代弁者と言われている私も迷い、苦しむただの人間ですから・・・。」クロードは自虐気味に自身を語り、バルキリーの杖を取り出す。

 

「この杖の力を最大顕現まで高めれば、死者すらも蘇らせる事が出来ると言われています。

けれどこの杖を歴代のブラギの代弁者は扱えた者は三人しかいないそうです、父に関してはこの杖を見る事もなく私の手に渡ってしまった、私の代になってこの杖が現れた意味を考えなくてはならないのです。」クロードは脈略もなく自身の中の苦しみ、戸惑いを吐露する。祈る事だけで人々を救う事が出来ない現実を、訪れる運命を変える事が出来ない事実に苦悩している一人の青年であった。

 

「・・・私は目の前に飢える人がいれば救います、それが原因で国が傾こうとも私は救います。平等でなくても、誠実でなくても、私は目の前の人から救います。」

 

「マーニャさん・・・。」

 

「その杖の事ですが、クロード神父はもうお答えは出てるのではありませんか?あなたがそう言いながらも迷い、苦しんでいる事が何よりではありませんか?

あなたもまたレヴィン様やカルト様のように殻から脱して、新たな世界を望んでいるから悩んでいると私は信じます。」マーニャはクロードの手を握り微笑む、彼女の実直な笑顔にクロードのわだかまっていた心がほぐされていくような感覚を覚える。

 

「その杖も、私も、あなたのいう運命を変えて欲しいと思ってますよ、クロード神父・・・。」そういうとマーニャはバルコニーから城内へと消えていくのであった。




カルト LV26
ロードマージ

HP 45
MP 68 ※ゲームには存在しないです、あくまで私の主観。
力 15
魔力 27
技 20
速 24
運 18
防御 12
魔防 20

剣 A
光 ☆
火 B
雷 B
風 A
杖 A

スキル

追撃 連続 見切


魔法名 MP消費量
ウインド 3
エルウインド 5
トルネード 8
ブリザード 7(シレジア地域のみ使用可能)
ライトニング 4
リザイア 7
オーラ 9
エクスカリバー 14

ライブ 3
リライブ 5
リカバー 7
リブロー 6
リザーブ ※ 人数と範囲による。
ワープ ※ 人数と距離による。
マジックシールド 8 (現在使用不能)

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