ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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オーガヒル

カルトの檄によりオーガヒルへ向かう一堂よりも早く戦線に着いた先発隊はすでに一線を交える直前にまで迫っていた。

オーガヒルの海賊や山賊たちは近隣各国へ散らばっているが、こと国軍と刃を交える時はこの地に集結し大量の軍隊と化して対応する。今回もアグストリアの動乱に警戒したオーガヒルの頭目は散らばっていた荒くれ共を集結していたのだろう。

しかしながらシアルフィの混成軍はこの蛮族さながらの集団を屠ってきた実績がある。一年以上前にこの混成軍が結束したきっかけとなったヴェルダン国との戦いで物量に物を言わせた戦術には慣れている、オーガヒルの連中はヴェルダン程の規模はない上にアグストリアの正規軍との戦いでさらに戦力な強化されている。今更遅れをとることなどない程混成軍は成長していたのである。

 

しかしながらキュアンとレックスの騎馬部隊は現在アグストリア北東部の村々を襲うオーガヒルの海賊の掃討に当たり、シアルフィ軍がマディノの跳ね橋を守護している為に前衛で戦う部隊がいなくなっていた。

シレジアの天馬部隊に魔道士部隊、アゼルの魔道士部隊とミデェールの弓騎士部隊、ジャムカのハンター部隊では心許なかったのだがマディノで合流した傭兵騎団が前衛を務める事となりバランスはなんとか取れる事となった。

 

傭兵騎団の能力はアンフォニー攻略時の戦闘でよく知っている。隊長であるヴォルツを失ったのは手痛い損失であるがその後に受け継いだベオことベオウルフは退団する者はほとんど無くまとめ上げたのである、彼らの多様な戦い様は強力な戦力となるのでエルトシャンとの雇用契約終了した彼らをシグルドは雇い入れる形となったのだ。

エルトシャンがグランベルの大軍との一戦を控えている今彼らを解雇する事などする訳がない、目的はシグルドに傭兵騎団を引き渡したかっただけである。

彼らはフリーナイトである為軍を転用した事にはならない。雇い、雇われる身である。その特性を活かしてイザークのアイラとシャナンを紛れ込ませ、傭兵騎団の保護も踏まえて一緒にシレジアへ逃す算段をエルトシャンは見出しシグルドはその意思を汲んだのであった。

 

 

傭兵騎団がオーガヒルの荒れ地を内陸部にある岩肌の露出する山沿いに東へ進めていった先に奴らの根城があった。

山肌と同化する様に作られたその建築物はもはや建築したものか山肌を削り出して作られた洞窟なのかわからないほどであり、一見ではやつらの根城と判断できなかった。

何処から運んできたのか、石材を積み上げて加工する事により建物の入り口を強調しているがその中は山肌の風穴に直結されている様な感じである。

 

「巌窟王の様な根城だな・・・。」ベオウルフは頭を押さえて呟いた。

 

「やつらはまだ出てこないな、根城内での戦闘を誘っているのか?」アイラはベオウルフの前に詰めて熟練の傭兵に状況の説明を求めた。

 

「いや、奴らのような族連中はアジトを荒らされる事を極端に嫌う。そんな誘いは無いはずだ、何か違和感を感じる。」

 

「違和感?」

 

「罠か、あのアジトはダミーか、だ。」ベオウルフは再度その根城を見渡すがやはり入り口付近に警戒するはずの族共がいない、後者の方を思ってしまう。

 

「時間が惜しい。とりあえず入り口までいってみよう、入るかどうかはその時に判断する。」

後陣の者たちにも伝令を伝えると傭兵騎団は、前進し始めていくのであった。

2人の予想は見事に外れてしまう事となる、それは想像もつかない事態がこの根城が起こりつつあるからであった。

 

 

ゆっくり目を開けると、クロード神父とティルテュが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。ここはどこだろうか?簡易のベッドに寝かされていた私は上体を起こしてあたりを確認する。

頭が鮮明になっていき、2人に救われた事に結論づいた。

 

「目が覚めましたか?」

 

「クロード公、助けてくれたんだな。」

 

「はい、かなり際どいタイミングでしたがなんとか招聘が間に合いました。体は動きますか?」

 

「ああ、問題なさそうだ。」カルトは関節を動かして確認する、傷はクロードが癒してくれたのか服やローブは酷いものになっているが体の傷は全て癒されていた。

 

「酷い傷でしたよ、私のリライブでも完治できない程でしたのでリカバーを使いました。」

 

「感謝します、クロード公。それより私はどれくらい眠っていた?」

 

「丸1日くらいです、ここはアグスティ北東にある教会です。」

 

「そうですか・・・、外の状況はどうなってますか?」

 

「今、すぐ西でエルトシャン王がランゴバルド卿とレプトール卿を相手に善戦しているそうです。戦線を押していき、アグスティの渓谷あたりまで迫っているそうです。

マディノ辺りの賊は掃討されてシグルド公子の元にもどりつつあります。」

 

「そうですか・・・。それでシレジアからの軍船はまだ?」

 

「ええ、まだ海岸に到着した様子はありません。」

おかしい・・・、丸1日予定より遅れている。この時期は比較的時化が酷い事はない、別の要因があって遅れているのであろうか・・・。

 

「クロード公、御告げで両卿の事は伝心で聞いたのだがそれ以外にも何かありましたか?」

 

「・・・いえ、私が聞いたのはこれだけです。何か気になる事があるのですか?」

 

「暗黒教団の事です。レプトール卿とランゴバルド卿が権力欲を持っているのは知っているが、ここまで計画していたとは思えない。裏で奴らが2人をこうなる様に仕向けていた様に思うんだ。」

 

「暗黒教団、まさか彼らが聖地を裏から荒らしていたと・・・。」

 

「充分にありえます、私はイザークからここまで暗黒教団の影が見えていた。奴らは何を企んでいるのか、早く理解しないと手遅れになってしまう様に感じます。」

 

「確かにそうですね、皆さんの元に早く合流してこの話を陛下に聞いていただきましょう。彼らの悪事を暴いてこの騒乱を終わらせる事が出来れば何かが見えてくるかもしれません。」

 

「クロード公・・・。貴方はここにきてからアズムール王に伝心をお使いになった事はありませんか?

私は何度となく使用しているのですが、一度たりとも返事がありません。」

 

「どういう事ですか?私の魔力なら転移はできませんが、この距離なら伝心は使用できますよ。」

 

「私は転移魔法は得意でこの距離でもバーハラまで転移できますが、転移はおろか伝心すらできません。」

 

「まさか、妨害している存在がいるとでも・・・。」

 

「はい、おそらく我らは奴らにとって知りすぎてしまった存在の様です。

こうなってしまったら、直接バーハラまで登城してアズムール王に直訴するしかありません。」

 

「そうですか。では私もあなた達と一緒に行動をするしかなくなり、私も同じ反逆者として御告げを聞き入れてくれなくなりますね。」

 

「そうです、奴らの次の思惑にまんまとかかってしまった様です。

私達の持つ情報は商業ギルドや盗賊ギルドを通して広めてやりましょう、貴族連中には届かなくても一般人の噂から奴らの耳に入れば少しは牽制程度にはなるでしょう。」

カルトはクロードにそう言って魔力の具合を確かめる、丸1日寝込んでいたた為か魔力は7割を超えるほど回復していた。周りを見返すと2人が話し込んでいる間にティルテュは教会の外に出てしまっていた、相変わらず難しい話には加わらない所が彼女らしい。

 

「カルト公、あなたは運命は信じますか?」

クロードからの突然の言葉にカルトはクロードを見据えた、冗談を言う男では無いクロードの目を見れば様々な感情が入り混じっている事が伺える。しかしそこには輝かしさが無く、あるものは負の感情のみであった。

恐れ、怒り、憤り、嘆き、悲しみ・・・。カルトはその昏い感情に息を飲んでしまう。

 

「お告げの事ですか?」

 

「すみません、ティルテュがいたので先程は止めました。

運命の存在、あなたはどう捉えますか?」

 

「運命・・・考えた事はあまりなかったが・・・。もし、自分に決まった運命があったとしてもやる事は変わらないだろう。自分に出来る事をやるだけだ。」

 

「そうでしょうね・・・。しかし、この戦い私達が敗北する事がわかっていたら・・・。あなたはどうされますか?」

 

「なん、だと?」

 

「私達は、負けます・・・。私達が関わった全ての国は破滅に傾き、戦友達も殆ど死に絶えてしまいます。

この啓示を受けた私は、運命を受け入れるしか無いと思っています。」

悲しみをたたえたクロードは運命を享受し、全うする事を決めたのだろう。全力を尽くし最期のその時に向けて活動する事を覚悟した言葉であった。

 

「カルト公、あなたはこれを聞いてどう行動しますか?」

 

「・・・馬鹿野郎だ。」

 

「・・・?」

 

「そんな運命は馬鹿野郎だ!俺は絶対に受け入れない、最期の最期まで抗ってやる!

負けは、負けと認めた時なら俺は死んでも最後まで諦めないぞ!」

カルトはクロードに向けて怒りでも呪いでもなく決意を込めた言葉を言い放つ、クロードは驚きの顔の後笑顔を見せた。

 

「カルト公、あなたならそう言ってくれると思いました。あなたならきっとこの運命を変えてくれると私は思っています。」

クロードは立ち上がり、カルトの対面に向き直ると両肩に手を置いた。

クロードは魔力を解放して、その両肩の手からカルトに魔力を注ぎ込み出す。カルトの体が発光し、全身の魔力が反応しだす。

しばらくするとクロードは肩から手を離して、カルトに向き直ると肩で息をしていた呼吸を整え出した。

 

「クロード公、これは?」

 

「あなたは魔法防御が苦手のようだ、これで少しは抵抗力が出た筈です。」

 

「ば、馬鹿な!この魔法はその代わりにクロード公の防御力が落ちてしまう危険な魔法ではないか!」

 

「私は、いいのです。それよりも聞いて下さい。

私は御告げで確かに敗北の事を知りましたが、貴方だけは違います。私の御告げに貴方の事は一切触れられていなかったのです。

貴方は恐らくこの世界において予見できぬ者なのです。」

 

「どういう事ですか、クロード公?あなたは一体何を見てきたのですか?」

 

「私達は、このアグストリアでエルトシャン王と刃を交える運命にありました。それが、貴方という異端者により運命が変わってきているのです。」

 

「俺が、ですか?」

 

「はい。私の見た予見ではアグストリアにいたジレジアの者はレヴィン王子です、貴方ではありませんでした。

それが、貴方に代わっていて運命が大きく異なっていた。

だからこそ、貴方の行動が私の見た運命を変える者として認識しています。」

 

「レヴィンがこの場にいた、それが俺に変わった・・・。」

カルトは想像を張り巡らせ、思考の渦に入りだすと一つの可能性に到達する。

自身がイレギュラーな存在だとすれば、イザークへ旅立った約2年前から運命は変わりだしていた事になる・・・。

いや、神が俺が生を受けた事自体がイレギュラーと認識しているとは思えづらい。もっと自然な考えで思えば俺に流れるナーガの血がイレギュラーと思えばもう少しスマートな気がしてくる。

(!!俺はイザークで死んでいた存在なのか・・・。)

あのダーナの古戦場の砦でナーガの血を覚醒する事なくあのバランとか言う暗黒魔道士に殺される運命だったんだろう。

その運命を・・・、お袋が俺に渡した魔道書で運命を抗わせ、ホリンがダーナの闘技場で魔道書を裂いた事で邂逅したんだ・・・。

カルトは自然と涙が頬を伝う・・・。

かけがえのない母と親友は、俺を救ってくれていた事に感謝する。

そんな親友を斬り殺さねばならなかった運命を悲観するわけには行かない、ホリンは自分の信念を貫いて俺と戦って逝ったんだ。今は彼が遺した意思を継いで護っていくと再度心に誓う。

 

一瞬で心を立て直したカルトは涙を拭くと、クロードと向き合う。

「さあ、行こう!運命を変える戦いへ!!」

クロードは心中を吐露して安堵するのであった。彼はここで折れる男ではないと信じていたらだが一抹の不安はあった、それが杞憂となった事が喜ばすにはいれなかった。

そして、ここでかわした決意が確かに運命を変えた一石となった事は誰にも知る由はなかった・・・。

 

 

 

「ちっ!貴様らに捕まってたまるか!!」ブロンドの髪を揺らしながら1人の女は窓より飛び出る。屈強な男共の手からすり抜けるように疾駆した身は山肌を駆け下りる様に飛び出した。

 

このまま、疾駆しても地面に叩きつけられては肉塊と化してしまう・・・。彼女はすぐさま弓を引き頭上の岩肌に矢を放つ、後からついていく様に細い縄がくねる様に上がっていくと矢が岩肌に突き刺さると縄を伸ばして落下速度を落としながら振り子の要領で移動していく。

 

彼女はまだ混乱していた・・・。

父親と思っていた前頭目は私の父親ではなかった。どこかの船に乗っていた私を助け、育ててくれていただなんて・・・。

腹心のドバールが勝手に部下を使って空き巣紛いにアグストリアの村を襲い、その愚行を諌めていた時に奴らの本性が暴走し反逆される事となったのだった。その時にドバールから真実を聞き、多いに心が乱れてしまう。

無事に大地に降り立ったが頭上より弓や投石が行われ出した、再び大地を蹴りアジトから離れる。

このまま逃げても次はアグストリアからこちらに向かってきている国軍に捕まれば確実に殺されてしまう。

 

どうすれば良い・・・、彼女は必死に生き抜く方法を考えるが混乱した頭では生き抜く方法は見出せない。

ならば、ドバールだけは許しておく事はできなくなってきた。殺される前にあいつだけは私の手で殺してやる・・・。

そう思った彼女は、その場で立ち止まると弓を持ち直してアジトを睨みつけるのであった。

 

 

 

「動きがあった!」やつらの根城から一斉に賊が飛び出してくる、突然の出現にベオウルフやアイラ達は臨戦対戦を取る。

賊の方もまさか、国軍がここまで来ている事に気付かなかったのか突然の鉢合わせにお互い騒然とする。

乱戦と化した戦場は一気に戦死者が膨れ上がった、傭兵騎団の熟練の対応に空から急襲する天馬騎士団により賊共は散り散りに逃げ惑い始めた。

 

「海に逃げ込むぞ、海岸で止めるんだ!」

天馬に命じて伝令を送るとアゼルの魔道士部隊が対応する。対岸に停泊している船に逃げ込む賊共を逃すまいと魔法で追撃する。

それでも間に合う事はできず、一隻の船が出発する事となった。ドバールとピサールは安堵する事となった。

 

「ふう、まさかここまで詰めていたとはな。」

 

「兄貴!見てくれ!跳ね橋が下されているぜ!」

 

「バカな、あの跳ね橋は潰した筈だ。一体いつの間に・・・。」

 

「ぐわっ!」1人の賊が苦悶の表情を浮かべて海へ沈むと、もう1人も同じ様に苦悶の表情を見せて倒れこむ。胸には一本の矢が背中まで貫通しており、一瞬の内に絶命していた。

 

ドバールとピサールは矢の方向である船首を睨みつけるとそこにはずぶ濡れになった1人の女が強烈な殺気を隠す事もなく現れたのであった。




あの賊達のシナリオを考えていたのですが本編でも殺害数稼ぎと資金稼ぎにしか記憶になく、割愛する様な展開になりました。
私の想像力ではドバールとピサールで出番を作るのはキツかったです、でももう少しオーガヒルの賊はこの後も少しだけ出てきますのでご容赦下さい。
あの女って、あの人ですがこれでは出番が少ないのでちょっとしたやりとりも予定しています。
見捨てずに、見守ってください〜。

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