ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
やはりキャラ数が増えるに従って活躍の場を失う者が多くなり悲しくなってます。
当初では、もっとシグルドやフィン、アゼルも活躍する予定でしたがボリュームが多くなりすぎる事と、約二週間から一ヶ月の周期で更新しているこの小説では先に進まず無理がありまして泣く泣く割愛している部分があります。
できれば外伝などで追記していきたい、と思っていますのでこんなストーリーとかを幕間に入れて欲しい等がありましたらどしどし感想頂ければと思います。
今回もあまり物語は進みません、申し訳ありませんがお願い致します。
トラキア兵を退けたエバンスでは第2・第3の攻撃に備え負傷兵の治療と人員配置を急がれる。エバンスにいる諸侯達はその手配に追われ、まさに不眠不休の対応となる。
魔力の制御ができないエスニャはこの度参戦できずエーディンと共に重傷者の支援を行っていた。彼女も城内でみたあの踊りに心を奪われ、何も出来なくても出来る範囲で役に立つ事をと奮起していた。今は負傷者に使う水が尽きそうになっていた為、城内を出て水を汲み採りに向かっていた。
これで3往復しただろうか、しばらくの水を確保したかったので台車を引き奮闘する。この辺りの井戸水は地質の影響なのか水の溜まりが悪い、雨が降れば数日は汲み上げあれるがそれ以降は枯れてしまうのだ。
エスニャは台車を引いてユン川まで赴き数個ある樽に水を入れての往復をしていた、公女であるエスニャにとってこのような事は経験がないが今自分に出来る事はこれくらいしか出来ない。
重傷者の看病をしてもエーディン達の様に癒す事は出来ず、魔道書を持って戦う事も出来ない。
台車を押しながらあまりの不甲斐なさに涙が溢れる、折角あの魔法の踊りで勇気を得たのにまた心が弱くなる。彼女は健気にも涙を拭き取り再び歩き出す。
街道に車輪の音を立てながらエスニャは額に汗を滲ませて引き続ける、グランベルにヴェルダンダンが侵攻した時は春先であったが今はすっかり初夏の装いを見せていた。
夕方近くになり森からは夏の始まりの象徴であるヒグラシが鳴き始め、途中に見る畑からはカエルの歌が聞こえてくる。
エスニャは時の移ろいを感じ感慨に耽る。この僅かな時間の中でカルトと再会し婚儀を行った、姉さんに報告の手紙を出した時の返信は驚きよりも納得であったのが意外であった。
父上であるレプトールは、姉さんと私にはあまり興味がないようで手紙を出しても返答はなかった。悲しく思えるがそれは予想は出来ていて、父上は直系の血を継いだブルーム兄さんにしか興味がない上に自身も野心が強すぎるのだ。
私たち姉妹は政略結婚の道具位にしか考えていない、だから姉さんも私も不自由ない生活であるが家を飛び出したんだろうと今になって思えてきた。
姉さんも現在エッダのクロード様の元に押し入るようにして滞在している、さぞクロード様は迷惑しているのだろうと思ってしまいクスリと笑みを浮かべしまった。
その時、街道の脇の茂みより人影が勢いよく飛び出す、エスニャは小さい悲鳴をあげてしまう。
それは仕方がないだろう、彼は全身に火傷の跡があり苦痛の表情で飛び出してきたのだ。
「くそ!シュワルテめ!!トラバント様に報告して連れて帰ってやる。」
エスニャはその言葉と姿でトラキア兵の生き残りと判断する、そっと護身用に吊ってあるショートソードを確かめる。
「なんだ貴様は・・、それは水か!よこせ!!」
トラキア兵はエスニャを突き飛ばし樽の一つに顔を突っ込み荒々しく水を飲む、そして全身に水を浴びかけて火傷を冷やす。
「あ、あなたトラキア兵ね。その水はあげるからさっさと帰って下さい!」
「なに?女一人が虚勢を張りやがって、こんな火傷を負っていても貴様くらい始末できる力は残ってるぜ。」
エスニャは一歩退く、魔法が使えればドラゴンナイトとはいえ飛竜を持たないトラキア兵など雑兵に過ぎない。魔法を使えないエスニャは非力な女の子でしかないのだ、今は魔道書を取り出して牽制するしかない。
トラキア兵はその動作に魔道士と判明し、警戒する。
「貴様、魔道士か?なぜそんな奴が水など運んでいた。」トラキア兵は退く仕草をし、質問する。
「あなた達のお陰でエバンスも人手不足なの、身分など関係ないわ。」
トラキア兵が後退をゆっくりする中、エスニャは魔道書を掲げながら動向に警戒する。
(お願い、あきらめてこのまま逃げて・・。)
必死に眉が落ちそうになるのを必死に堪えながら吊り上げを維持する。少しでも油断すれば気弱な顔になりそうだ、駆け引きを有利にする為仕草も表情も凍りつかせる。
緊迫した場が続く中でトラキア兵は後退を続けながらさきほど水を飲み、体に浴びせて落とした樽まで辿り着く。
その樽を一気に蹴り上げたのだ、エスニャその樽を交わすがその間にこちらに飛び掛かった。トラキア兵は魔道書を持つ右手を掴みエスニャの身体を抑え込んだ。
そして彼女の腰にあるショートソードに手を掛け、鞘から抜き出しすと彼女の首元へ刃を向けるのであった。
「形勢逆転だな、このまま殺されたくなかったら魔道書を捨てろ。」
血の気を失ったエスニャは右手の握力を抜いて魔道書を離す、トラキア兵はすぐにその魔道書を放り投げると草場に紛れていった。
「へへ、お前いい匂いがするな。」
抑え込んでいるトラキア兵はいつの間にか欲情に当てられ、戦いとは違う雰囲気を発していた。火傷を負っているにも関わらずその欲望をぎらつかせているトラキア兵にエスニャは戦慄する。
「や、やめなさい!それ以上私に触れれば舌を噛みます。」
「・・・やってみろ!死体になっても気にしねーよ。」
トラキア兵の下劣さに嫌気がさす、エスニャは涙を浮かべて抵抗を試みる。
「どっちに転んでも犯されるんだ、諦めて楽しもうや!」
草むらに連れてこられ再び暴行せんと襲いかかる、彼女は水を汲み上げエバンスを往復している為既に力が出なくなっていた。抵抗する力がなくなりなすがままになりつつあった。
生きても死んでもこの男に身体を蹂躙される事にエスニャは絶望する、そして彼女は心の奥底から怒りがこみ上げてくる。
(どうせ死ぬなら道連れがいいかな、カルト様ごめんなさい。)
彼女はこみ上げる怒りに任せ、すべての魔力を解放する。
その暴れ狂う魔力にトラキア兵は吹き飛ばされ、木の幹に叩きつけられる。
「な、なんだ!?何か・・・。」トラキア兵が見たものは恐ろしいものであった。
先程までいた彼女の表情は打って変わって怒りに燃え上がり、体から雷がスパークした魔力を体を覆っていた。
以前魔力が変質したしまった直後ヴェルダンで魔力を解放させた時は自身を傷付けた、今は雷が意思を持っているかのように彼女に放電する事は無く辺りの空間に向かって放電していた。
亜麻色の髪は逆立ち、スパークの光を受けて金色に見える。恐らく雷からくる電気が髪に移ってしまい帯電し、逆立っていると思うのだがトラキア兵から見れば彼女の逆鱗に触れてしまいこの様になったと思うだろう。
トラキア兵はショートソードを振る様にして彼女に対抗しようとする。
「あなたの勝手な振る舞い、許しません!」
彼女が右手を上げると何処かにやられてしまった魔道書が意思を持つ様に浮かび上がり彼女の手に収まる、そして怒りの鉄槌が打ち込むべく右手を突き出す。
「トロン!」
夥しい放電が彼女から放たれる。エルサンダーの数倍とも言える雷がトラキア兵に放たれ轟音が響く、それはまさに怒りの裁き。
トロンはサンダーやエルサンダーのように自身の魔力を雷に変えるだけでは無く、自然界に帯電する電気を魔力で呼び寄せて一気に放つ魔法である。その威力は自然界に発生する雷にほぼ等しい、受けた者は一瞬で黒炭に変わる。
トラキア兵もその例外ではなかった、トラキア兵は言葉を発する事もなく黒炭となり倒れ込んだ。
超魔法を放った後我に還る、突き出した右手や体を確認して自身の変化を確認しても以前のように身体をにダメージを負っていなかった。
魔力も増している上にカルトの瀕死から救う為無理に魔力を変質させて使ったままにも関わらず、魔法を使役できた事に驚きを隠せない。
懐よりエスニャは杖を取り出すと「ライブ」を使用する。トラキア兵に突き飛ばされた擦り傷が癒されていく、やはり彼女の魔力は変質したままである。
「私は、一体・・・。どうなったの?」
「殻を破ったんですよ。」
エスニャは振り返る、そこにはマリアンとクブリの姿であった。
「申し訳ありませんエスニャ様、まさかあなた自らみずを汲みに行ってるとは知らずに遅れてしまいました。」
「いえ、私が勝手にした事ですから・・・。それよりクブリ、先程言いました殻を破るとは・・・。」
「簡単な事ですよ、あなたはもともとそれくらいできる資質を持っていたのです。無理に使えない魔法を使った訳ではなく、眠っていた力を無理に使った事による反作用で魔力を持て余していたのですよ。」
「これが、私の?」
「はい、このまま才能の大きさに使いこなせない方も多いそうですがエスニャ様は見事に使いこなせました。
カルト様は意外に脆い部分をお持ちです、それを支えてあげる事が出来るのはエスニャ様だけのように思えてなりません。どうかカルト様をお願いします。」
クブリは深々と頭を下げエスニャに敬礼する、主従関係では解決できないカルトの心情を理解する事が出来るのはエスニャだけと判断するクブリの気持ちが伝わりエスニャは同意に笑みで返す。
「クブリのような部下を持ったカルト様は十分幸せだと思います、そして私も・・・。エバンスを頼みます。」
「はい・・・お気をつけて。」
エスニャは杖を取り出し魔力を込める、虹色の魔方陣を発し姿を消すのであった。
マッキリーを制圧したノディオン軍に追いついたシアルフィ軍は共闘する為にエルトシャンと謁見する。
彼の目的であるカルトの救出と内乱の解決、そしてグランベル進出への阻止が残っている。
エルトシャンは話し合いに応じないシャガールに対する次の手はアグスティの軍部を撃破した上での話し合いをする事としていた、武力が無力化されればグランベル進出は出来ない上にアグストリアに残った戦力はエルトシャンのみとなる。意見を聞き入れるしかないと読む。
もうじき北の要塞であるシルベールよりエルトシャン直轄の精鋭であるクロスナイツが到着する、アグスティの精鋭騎士団であっても引けは取らないがその戦いは今まで以上に過酷な戦闘になる事は明白であった。
エルトシャンはシグルドの共闘は拒否しこのままエバンスへ撤退するように進言していた。二人の意思は平行線を辿っていた中、事態を進める者が乱入する。それは幾多の問題を解決に導いてきた者の帰還である。
「カルト!よくぞ無事で・・・。」
シグルドの労いにカルトは笑みで送りエルトシャンに向き合う、エルトシャンも笑みを讃えカルトへ歩み寄る。
「カルト公やはり無事だったか、貴公はあの場でやられるような器ではないと信じていた。」
「ああ、少しばかりやばい事態があったがなんとか切り抜けてきた。
エルトシャン王、シグルド公子と共闘してくれ。もうこの問題はアグストリアだけの問題ではないんだ。」
「どういう事だ。」
「恐らくどのような状況でシャガール王を説得しようとも無駄だ、裏でロプト教団がシャガール王を操っている可能性がある。」
「ロプト教団が、噂には聞いているが教団ごときが国に入るこむ事は可能なのか?にわかに信じがたい話だ。」
「俺はイザーク、ヴェルダン、そしてここアグストリアと来ているが各国で奴らは不穏な行動を取っている、その国の重要となる人物に接触して争いの火種をつけて回っているように感じている。
ヴェルダンではバトゥ王の子供を助ける口実で入り込み、彼を洗脳してグランベルに侵攻させた。
ここアグストリアでも、エルトシャン王を救出した後に地下牢で奴らと接触して確認した。
エルトシャン王、その上でもう一度進言する。協力させてくれないだろうか?」
「エルトシャン、頼む!私もここで君を失いたくない、友として共闘させてくれ。」
「兄様、私からもお願いします。もう、この国は私達で処理できる問題を越えてます。
ここでもし私達がシャガール王を止めてもシグルド様達がここまで来ている以上、共闘を示さないとこの後禍根が残ります。」
エルトシャンは黙り込み目を瞑る、彼はやはり周りが説得を試みても自身の決断をする以上考えを止めるわけには行かない。
長い沈黙を経た後、彼は決断する。
「シグルドすまなかった、俺達は士官学校の頃に約束した事を違える所だった。国を背負うと簡単な事が見えなくなるのだな、シグルドやカルト公を見ていると原点が見えて行動しているのだな。俺もあやかろうと思う。」
「兄様・・・。」ラケシスはその決断に安堵する、黙って見つめていたキュアンでさえこの時は笑顔を見せるのであった。
「しかしだ、シグルド。もしアグスティの軍を破ってもシャガール王の処断は許さない、身柄は私に任せてもらう。これだけは譲れんぞ。」エルトシャンの鋭い眼光がシグルドを襲う。
「もちろんだ、私は君が無事であるなら何も言う事はない。アグストリアの国政事情は君に任せる。」シグルドの言葉にエルトシャンは満足したのか、立ち上がり配下に伝える。
「よし!まとまった所で軍議を行う!
我がノディオンのクロスナイツとシアルフィ軍が加わればアグスティとはいえども負けはしない。」
カルトは士気が高まっていくこの場に置いても1人深く思考の中へ入り込む。
ロプト教団がアグストリアに入り込み、ヴェルダン同様何か策略を張り巡らせているが全容がまだ解らない。
奴らは何を企み、ここで何をしようとしているのかまだカルトには解らないでいた。
ロプト教団がディアドラを狙うのは間違いない、それはマイラの血から暗黒神ロプトウスの復活は見えている。だがそれだけでは弱かった、今までこの100年間マイラの子孫は残っていた筈なのになぜ今の世になって彼らが活動し始めたのか、そしてそれは何を意味する事なのか、それが突き止められなければ予防策も対抗策も得られない。
カルトは確実に真実に近づきつつある、しかし決め手に欠けるその情報に不安感が募るばかりであった。
アグストリアの決着は近い、この決着は今後の未来を左右しなねない一戦と心に誓うがその暗雲は晴れずにいるカルトであった。
エスニャ
LV 14
マージファイター
雷 A
炎 B
風 B
HP 39
MP 49
力 7
魔力 19
技 18
速 15
運 14
防御 4
魔防 13
スキル
連続 怒り 必殺
魔法
サンダー 3
エルサンダー 5
トロン 12
ライブ 3
リライブ 5
ワープ (最低消費量、人数と距離による)
到達レベル前にクラスアップににて全力アップしました。
連続に加えて、怒りも発動しました。