ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
この回はまとまりがなく、あちこちで戦闘がおこっており話が飛びまくりです。
それ程激化していると思ってくださればさいわいです。
ハイライン城内では激しい攻防戦が繰り広げられた。
シグルドは投稿を呼びかけるが、ハイライン城主のボルドーは耳を貸す事はなく徹底抗戦を続けた。
グランベル軍には時間が無い。経過すればする程エルトシャン救出、アグストリア軍の再編成による反撃、備蓄物資の不足による行き詰まりもある。シグルドは制圧を率先して急いだ。旧友のキュアンも隣に続き、グランベルの同じ公子のアゼルやレックスも伴ってくれている。
自身の判断についてきてくれている諸侯達に感謝をせずにはいられなかった。
城外に息を巻いていたエリオットは逃走したが、部隊の精鋭を伴って城門すぐの所で待ち構えていた、おそらく城門で隊が絞られるのでここで交戦すれば勝機があると考えたのだろう。
キュアンの部隊は馬上槍のランスから、歩兵槍として携帯しているハルベルトに持ち替え参戦していた。
その槍捌きは馬上においても歩兵となっても素晴らしくハイライン軍は押されていく、レックスとキュアンの怒涛の突撃は快進撃となりエリオットとボルドーの親子に肉薄していく。
「シグルド様!伝令より、ノディオンのエルトシャン王が無事にご帰還されたそうです。」
「なに?それは本当か!」ノイッシュの言葉にシグルドは久方ぶりの歓喜の表情を浮かべる、現在アグストリアとは複雑な心境に陥っているが彼はやはりエルトシャンの救出も成し得たかった一つである事には変わりはない。その伝令に表情が緩んだがすぐに引き締め直す。
「カルト公は、どうなった?救出出来たのか?」シグルドの言葉にノイッシュは首を横に振る。
「彼がエルトシャン王を救出したそうです、城内ノディオンへ転移魔法を使用して脱出させたそうです。」
「なんて事だ・・・。ノイッシュ、作戦を変更するぞ。」
「はい!シグルド様、ご命令を!」
北の台地ではフュリーが戦線復帰した事により、残党狩りが行われていた。開拓地の居住区を襲っていた賊達を一掃した天馬騎士団はその大元がアンフォニー城主である事を知り、アンフォニー城への進軍をするかどうかの判断を迫られていた。
おそらく、襲撃の失敗を知れば次は情報の隠滅を図る可能性がありアンフォニーから軍が出動される恐れがある。
後手を踏めば再びこの台地が戦場になり開拓地はさらに荒れてしまう。
しかし、軍をハイラインの最前線に送り込まずにこちらへ誘導すればハイライン攻略後のアンフォニー制圧は速やかになるだろう。このような賊をけしかけて国の疲弊をなんとも思わないような王はおそらくハイライン攻略した直後のシアルフィ軍へ進軍するだろうとフュリーは見切っていた。その上でフュリーはその決断を独断で決めなければならなくなった。
「フュリー様、進軍しましょう。今なら奴らに奇襲をかける事が出来ます。いち早くアグストリアの王達を無力化しなければカルト様の救出が遅れてしまいます。」
副官の意見が飛ぶがフュリーの意見はそんな簡単な事ではなく複雑な物であった、それは今までのカルトの意見を聞いて来た者の意思でもあった。
「あなたの言う事は最もだわ。でも私達はシレジア軍、アグストリアとの直接な戦闘はカルト様の意思に反してしまう。
もし、彼がここにいたらどのような判断をするのか考えねばなりません。」
「ですが!それではカルト様をみすみす死地に追いやる事になります。」
「そうね・・・答えはそこに行き着いたとしても、それでも私達は考えなければならないの。私達の行動がこれからのシレジアの在り方になるかもしれないのだから。」
フュリーには困惑した表情はない。ただカルト助けるだけでは済まない事を知っているが故の苦悩を知った上で、彼女は困難な状況を受け入れ考え抜く事を選んだのである。
それは一団としてリーダーとしての資質が、彼女を聡明にしていくのである。
暫しの思考の後、フュリーは決断する。
「行きましょう!カルト様を助ける事も重要ですが、今はアグストリア開拓地の民の安全を最優先とします。ここからアンフォニー城を攻略します。」
一団は槍を掲げてその意思を伝えるのであった。
カルトはエルトシャン王の転移に成功した後、そのまま地下牢に投獄される事となった。
来賓としての扱いは剥奪され、手足には枷をつけ、携行品も没収、マッキリーのクレメンテ司祭を呼び付け魔法無力化のサイレスの杖でカルトの魔力を無力化する徹底ぶりであった。
エルトシャン脱獄によるシャガールの怒りはカルトに殴打を限りを尽くされ、力なく冷たい石畳の床に転ばされたのであった。
「小癪なガキのくせにアグストリアに楯突きおって!
もうシレジアには用はない、この内乱を終えたら一軍出して属国にしてやる。
クレメンテ!どうだ?魔力は抑えられたのか?」
「はい、さすがシレジアの公だけありまして簡単に抑える事は出来ませんでしたが、シャガール王の折檻で精神力が乱れたのか成功しております。暫くは破れないでしょう。」
「・・・くくくっ、あっはっはっは!」カルトはうつ伏せから仰向けに転がるとひとしきり笑いを発して、威嚇する。
「シャガール王、あんたは本当にこの内乱を抑える事ができると思っているのか?
いや、たとえ抑えたとしてもシレジアに攻め込む?馬鹿馬鹿しくて笑いすら出てくるね。」
「貴様!陛下に何という事を!」クレメンテは魔道の杖を持ち替えカルトの頭に打ち付ける。
「・・・エルトシャン王は必ずこの国の王になるだろう、あんたに使われる様な漢ではない。
それに、シレジアにはレヴィンがいる。飛空手段を持たないあんた達に攻略など出来ないさ。」
「シレジアの気候と地形がシレジアを守るか?ふ、はっはっはっは!
儂はシレジアとの協定は破棄する事に決めた。今までの食料や金はトラキア国に送り、見返りはトラキアの傭兵団を派遣してもらう事にしたのだ。
天馬など、竜相手では虫けらに等しいものよ。」
カルトの中でその予想を計算し出す、確かに竜騎士団の飛空能力はシレジアの天馬よりも高い。攻略難航のシレジアとは言えどもトラキアの騎士団が襲いかかればその牙城に穿つ可能性はある。食料の一国化もまだ完全ではないこのタイミングでは不利である事は伺えた。
「・・・ならば、尚のことあんた達をここで止めなければならないな。まだトラキア国が出張る前に・・・。」
「ふん!まな板の鯉であるお前が威勢を聞かせても何の感慨も起こらんな。
奴らがここまで来た時は見せしめに貴様の首を眼の前ではねてやる。楽しみにしているんだな!」
そこに配膳を持った少年兵がはいる、エルトシャン脱獄をまだ知らない少年兵はその状況に少し戸惑う素振りをみせるが
「・・・陛下!」その場に跪いて敬礼する。
「配膳か、まあいいそいつに与えておけ。
丁度いい、正規兵が来るまでこやつの監視の任に着け。」
「はっ!」少年兵は再び敬礼し、二人が退出するまで見送るのであった。
「・・・助けに来てくれたのかデュー。」にっ、と笑って少年兵に語りかける。
少年兵はヘルムで隠した頭を外すとアップにされた髪が下され、いつものしっぽ髪が姿を表す、そのあどけない姿が少年兵と思わされスパイである事の疑惑をことごとく躱してしまうのであった。
「おいらがアグストリア人と同じ髪と肌の色だから何とかなったよ、しかし随分酷くやられたね。」水筒に手をやると鉄格子越しに水を口に含ませる、カルトはあっという間に飲み干すしてします。
「デュー、悪いがこの有様で暫く動けそうにない。
魔力も封じられているから俺に構わず脱出してくれ、エルトシャン王は救出している。
それとシャガールをけしかけて色々情報を得た、デューはそれを持ち帰ってシグルド公子に伝えてくれ。」
「駄目だよ!おいらはホリンに約束したんだ、必ずカルトを連れて帰るって言ったんだ。
だからいつものように立ち上がってよ!」
デューは珍しく辺りを気にしないような声量でカルトを制止しようとする。先程まで大使としての扱いでは無くなったカルトはこの国では重罪人になってしまったのだ、シャガールの一存で命が脅かされるこの状況で残る事は命を捨てる行為に等しい。
「ああ、分かっているさ。俺とてここで死ぬわけにはいかない、自棄になってるわけではないさ。
ただ、俺は俺の目的の為にもまだここに残らねばならないような気がするんだ。」
カルトの目に命を捨てる失意は無い、デューはそれを信じる事にする。一つ頷くと再びヘルムをかぶった。
「わかったよ、でも!カルト一人にはしないよ。僕もこのまま変装してギリギリまでここで一緒にいるよ。」
カルトは一つ驚嘆の表情をするがデューの気持ちは揺るがないだろう、彼にも彼なりの仁義を持っている。
カルトは笑って同意する。
「お前も、無茶をするなよ。」デューも笑って返すのであった。
ハイライン城の城内戦はシアルフィの混成軍が圧倒的な勝利となった。
例え今回が正規軍との戦いとはいえ、物量で襲いかかるヴェルダンの軍勢を蹴散らした経験値は大きく影響していた。混成軍であるが指揮系統に不備はなく、諸侯たちの各々の能力がうまく機能し始めている事が大きいとシグルドは判断していた。
城内のボルドーは大広間で待ち構え、大剣を振り回してキュアンに挑むがいかんせん力量の差は歴然としており歯牙にもかけないでいた。キュアンは一閃のうちに心臓を貫き絶命させる。
エリオットは城門で敗走すると、父親を見捨てて城の脱出を図った。
アゼルの魔道士隊が遅れてハイライン到着時にエリオットと遭遇し、アゼルのエルファイアーにて焼死する末路となった。
アンフォニー城は間髪入れずにハイラインに向かってくるだろうと思っていたが、一向にその気配はなく静けさを保っていた。
「シグルド様、アンフォニーはどうやら北の台地の天馬部隊に兵を差し向けたそうです。天馬部隊の支援に向かいましょう。」オイフェは各部隊の情報をひとしきり集め、シグルドに提案する。
「・・・、部隊を二つに分ける。
エルトシャンを救出した今カルト公の命が危ない、一刻も早くアグスティに向う為にもここで本隊がアンフォニーへ向かうわけにはいかぬだろう。」
「人選は如何されますが?アンフォニーは正規兵は少ないですが戦闘経験の多い傭兵部隊を中心に構成されています。甘く見れば分隊を突破され、本体の背後を突かれてしまいます。」
「シアルフィ軍を中心に構成しよう。
騎馬部隊は北の台地に向かった部隊を、天馬部隊と連携して討つ。こちらに向かってくる部隊をアーダン隊長を中心に重装部隊で戦線を押し上げる。念の為アゼルの魔道士部隊も参加してもらおう。
残りの者はハイラインで治療を行いつつ、今すぐ出撃できる者はノディオンを経由してアグスティへ向かう。」
「わかりました、すぐに手配します。」オイフェは再び慌しくシグルドから離れていく、彼も徐々に自分の役割を把握し必要な情報を集めてきてくれる。シグルドの立派な右腕となっていた。
ノディオンに無事転移したエルトシャンは傷の手当も終わらぬ内にマッキリーに向けて進軍を始める、精鋭部隊であるクロスナイツ不在ではあるが残された軍を招集し瞬く間に支度を行ったノディオンはやはり国内屈指の軍と言える。
「兄様!シグルド様が来られるのを待ちましょう、いくらカルト様の命が危ないとは言え無茶ですわ。」ラケシスは止めても聞かない兄上に同行する為、馬に乗り並走する。
「・・・シグルドにはノディオンを救ってくれた事に感謝するがもうこの国は取り返しがつかないほどグランベルに制圧されている。」
「兄様・・・何て事を仰るのですか!シグルド様は悪意を持ってこの様な事をしていると言いたいのですか?
ただ、ただ兄様を、カルト様をお救いしようとしているだけではないですか、なぜその様な事を仰るのですか!」
「国と国の前ではその様な事は奸計による政の肥やしなる。シグルドが大きく動けば動くほど、グランベル本国では憶測の渦に飲まれていき全く別の物へと変化していくだろう。それを理解せねば、シグルドは今後苦境に立つ事になる。」
「どういう事ですの?」ラケシスにはおおよそ検討もつかない言葉であった。
「今はまだ、知らぬ方がいい。どのみち行く先にその答えが出てくるだろう。
俺が今なさねばはない事は、カルト公の救出とアグストリア内乱の早期平定が大切だ。
陛下には申し訳ないが武力で訴えかけてでも国外進出を止めねばならない。」
「兄様・・・。」
エルトシャンの眼には何か決意を持ち、宿る決意にラケシスは危うさが無くなっていることに安堵する。
獅子王はここから始動し始めるのであった。
アンフォニーから出撃した傭兵騎団は北の台地でフュリー率いる天馬騎士団と壮絶な戦いを繰り広げた。各地の歴戦をくぐり抜けた傭兵騎団、例え空から急襲可能な天馬騎士団も簡単に打ち破れる相手ではなかった。
森林の視界の悪さを利用して傭兵騎団に切り込み、先手を奪うが個々の判断が早く立て直した傭兵騎団は反撃に出る。天馬騎士が直接攻撃にて降下するタイミングを見計らっての迎撃に備え出し被害が最小になりつつあった。
フュリーは低空飛行にてファルコンの体当たりを繰り出し落馬した傭兵どもを天馬に討たせる戦法に切り替えた。
大型であるフュリーのファルコンは森林の道を縫うように飛行し、敵を視認しては一気に速度を上げる。
そしてその攻撃を数度繰り返した時、反撃をする者がいた。騎乗しているが大型の大剣を振るい、ファルコンに一刀を入れようと体当たりを繰り出すファルコンに猛然と馬を走らせてくる。
フュリーはファルコンの頭部付近まで移動すると括り付けてある長槍を装備し、大剣に備えた。
ファルコンは接触する直前にフュリーに攻撃を託し、フュリーは長槍であらん限りの突きを繰り出す。
傭兵はその槍を肩に敢えて受け、体を捻ってフュリーをファルコンから引きずり降ろそうとしたのだ。
フュリーはその意外な攻撃にバランスを崩し、地上へ堕ちる事となる。
彼女は無理にファルコンの背に残る事を止めて、茂みを視界で捉え身をそこへ委ねた。受け身もうまく取れたので即座にシェリーソードを取り出すと傭兵に対峙する。
傭兵もその激突に馬から落馬しており体勢を立て直して、大剣を構えた。
フュリーは軽く左右へステップすると傭兵へ猛然と斬り込んだ、傭兵はその身軽な多段攻撃を大剣であるにも関わらず器用に受け止める。
「やるな、いい腕だ。」傭兵は少し笑うと、大剣でフュリーの攻撃に横薙ぎの一撃を繰り出した。
武器破壊の一撃と判断したフュリーはシェリーソードで受けずに後ろに跳躍して避けると、体当たりを敢行していたファルコンが旋回して戻ってきていた事を風切り音で認識していた。再度跳躍すると、ファルコンの背に乗り傭兵に再び体当たりを繰り出した。
傭兵は横へ飛んで交わしたが、ファルコンは空中へ舞い上がり旋回すると再び低空飛行からの体当たりに入る。
すぐさま傭兵は馬に騎乗すると再び大剣で持って迎撃体勢をとる。
ファルコンは体当たりに入ろうとするが、フュリーはそれを制止させる。
(この傭兵に拘る必要はないわ、今は数を減らさないといけない。)
フュリーは空中から他の傭兵の存在を探すと、ファルコンに向かうように指示するのであった。
フュリーと交戦した傭兵、あの人です。
何とかあの一団をオリジナルの展開にしたいと思っているのですが、相当難しいです。
次回も更新が遅くなると思いますがよろしくお願い致します。