ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
10月より予想以上の人員不足に、仕事の拘束時間が多くなりまして更新できないでいました。
5500字あたりまで出来ていたのに、あと500字書くのに一月近くかかってしまいました。
今まで二週間に一度のペースで更新できていましたが、4月まで更新が遅くなる見込みです。
申し訳ありませんが、ご容赦の程お願いします。
シグルドの披露宴の翌日、ジェノアの北西の教会・・・。
カルトが疫病で苦しんでいる惨状を知った教会で再び支援の申し出があると聞き赴く事となった。
転移魔法を使えば一瞬でいけるのだが、資材や人数が多いと魔力の消費が大きい。
距離はそんなに遠くないのでフュリーのファルコンで向かう事とした。彼女のファルコンなら他の天馬より体躯が大きい、一度の運搬で大丈夫だろうと思われる。
ファルコンに乗り込むのは従者のフュリーにエーディンとエスニャ、そして大量の資材をお願いした。
エスリンとカルトは馬が使えるので問題がなかった、カルトの後ろにはクブリがくっついている。
「クブリ、お前もフュリーのファルコンに乗れたんじゃないか?」
駆け足でかける蹄の音にかき消されてしまうので大きめに言う。
「まさか、貴女の乗るあの場に男である私めが乗るわけにはいけないでしょう。そんな事が出来るのは、カルト様かレヴィン王くらいなものです。」
「・・・俺もできねーよ。たしかにその場に乗ると言ったらフュリーにぶっ飛ばされちまいそうだ。」
「そうでしょう、今のようにカルト様の腰にしがみつく方が無難と思われます。
これぞ、腰巾着!ってやつでしょうか?」
「・・・、うまくいったつもりか?それに俺にはそんな趣味はない。他を当たってくれ。」
「そんな!カルト様は私が欲しいと言ってくれたではないですか?あの時のお言葉は嘘ですか?」
「滅多な事を言うな、あれは親父側から俺に付けと言っただけだ。誤解を生む発言はよせ。」
「ふふっ!」
隣で駆けていたエスリンが並走してくすりと笑う、二人は会話を聞かれている事に気付き苦笑する。
「男の人は面白い会話をしているのですね、兄もキュアンもそのような会話をしているのでしょうか。」
二人は俯いてしまう。エスリンは穏やかに微笑みながら言ったが、彼女の裏の顔が見える。
「男って、本当に馬鹿な生き物。」彼女が見下した表情を想像し、二人は沈黙してしまう。
「カルト様、失言でした。今から大変な野戦診療になります、気を引き締めましょう。」
そっとクブリは囁き、カルトは無言で頷くのであった。
教会に着いた一行はシスターに事情を伺う、教会内にいた疫病者は快方に向かっているのだが戦争で負傷した元ジェノア兵や元マーファ兵が行き場を無くしてこの教会に流れ着いたらしい。資材も、人出も足りなくなり敵国であるがカルトに相談したいとの事であった。
戦争で被害を受けたヴェルダンの裏側には、その恩恵を受ける事はできずにくすぶっている事を再確認する事となった。カルトはそのやりきれない実情に自身の無力さを実感する。
戦犯者である彼らはヴェルダンの市民から追い出されたのだろう、つい先日まで虐げられてきた市民はグランベルから派遣された治安維持部隊の威信を借りて彼らをここまで追いやったと思われた。
「彼らもまた狂った陰謀に巻き込まれた犠牲者だ、だが市民の怒りの矛先は彼らに向かったのだろう。
人はその憤りに対して落とし所が必要だからな。」カルトは俯いて隣にいるエスニャに言う。
「それでも、ここまで負傷した人を追い出すだなんて。ひどい・・・。」
「これが戦争だ、勝敗など関係なく実被害を受けて泣くのは諸侯や貴族ではない。兵士たちやその家族、そして街が戦火になれば一般市民が被害になる。
エスニャ、俺はこれからもこの惨状を無くすように尽力したい。一緒についてきてくれるか?」
「はい!カルト様。」
二人は、早速エーディンとエスリンの治療する現場に駆けつけるのであった。
負傷兵の惨状は予想よりもひどいものであった、寝床も足りずに厚手の布を木に括り付けて日差しを遮る事が精一杯。食事も排泄もとても手助けしきれる物ではなく衛生面から再び疫病が発生する恐れもあった。
エーディンもエスリンも予想以上に厳しい状態に開始早々、額に汗をしている。
「これでは、治療が間に合わない!一気に回復させる!」
カルトは天幕の外に出ると、杖を取り出して魔法陣を浮かび上がり発動させる。
「カルト様、何を!」エスニャの言葉も聞き入れないカルトは大量の魔力を放出させ、魔法陣が輝く。
その大量の魔力を感じたファルコンが首をカルトに向けると雄叫びをあげる、彼女は人の姿に変わりカルトのそばによってくる。エスニャはその変化に驚き、声も出せない。フュリーは軽く説明をしてエスニャを落ち着かせるが当の本人は意にも介せずに驚いて見せた。
「リザーブか」
「・・・リザーブ?」ファルコンの言葉にエスニャは反復する。」
リザーブ、それは術者が認識するあたりの対象者全員に回復魔法を施す回復魔法の最上位魔法である。
司祭の中でも使いこなせるのは一部の物であり、使用できても回復量はライブ程度である。
エッダのクロード公クラスなら相当な回復量が見込まれるが、司祭でもないカルトではどこまで回復させられるのか未知数である。カルトはこの大魔法でないとこの難局は乗り越える事は出来ないと見積り、賭ける事とした。
重症者から先に見たいが魔力の使用が大きくそれ以外の者に治療が施せない、しかし重症者を後回しには出来ない。そのジレンマをカルトを解消するための手段であるがその賭けに失敗すればカルトは誰一人救う事なく、魔力のみを膨大に消費してしまい今以上に過酷な回復を残された者に強いてしまう。
カルトは杖を振り魔力を一気に開放する。光が魔法陣から迸り辺りを包み込み、負傷兵たちを癒していく。
大きな回復量ではないが、一気に負傷兵を癒していくこの魔法で軽症者なら後は安静にしていれば快方に向かえるはずである。
しかし、このリザーブの魔法は消費魔力が大きい!一瞬でも気を抜けばたちまち魔力が霧散してしまうだろう。
予想以上の消耗に早計な判断だったかと思ってしまう、しかしここで中断するわけにもいかないカルトは身体中の魔力を振り出して魔法の維持をする。
そのお陰か、周りからは歓声が聞こえる。軽傷者くらいなら、全快しているだろう。
カルトは重傷者でも生命を維持できるくらいまで回復させたいと杖にさらに魔力を込めた。
「カルト様!もう大丈夫です!おやめ下さい。」
我に返ったカルトは周りを見渡す、軽傷者どころかリライブが必要であった重傷者ですら傷はほぼ癒えている。その膨大な魔力を使用したカルトを慮ったのか、エスニャは必死にカルトに呼びかけていたのであった。
聖杖を掲げ終わったカルトは、一息つくとその場にへたり込んでしまった。
「始めての割にはうまくいったようだな、一回で魔力が尽きてしまったよ。」カルトはエスニャに手を差し出して起こしてくれるように頼むと、彼女は自身の肩に手を回して起き上がらせる。
「無理してこの魔法を使えば、次はカルト様を助けないといけなくなります。戦場では使わないでください。」
「全くだ、まだまだ精進が必要らしい。」カルトはエスニャに引きづられるようにしてエーディン達の元へ向かうのであった。
リザーブを用いた回復で、カルトの魔力はほぼ無力と化してしまったが後は残りの者で事足りるまでに安定した。
使い物にならないカルトは一人協会の外へと追いやられ、回復を兼ねて休息する事にした。春の風は優しくカルトの頬を撫で、どこからか聞こえる水のせせらぎを聞きながら時を過ごしていた。
「訳を話してもらおうか、クブリ。」
せせらぎの音に混じり草を踏み分ける音を聞き分けたカルトは背後からくる部下に語りかける。
規則正しかった、踏み分ける音が途絶えその場に立ち尽くしている事が伺える。
「申し訳ありません、カルト様。まさか教会がここまで切羽詰まる状況とは思っておりませんでした、連絡を受けた時にすぐさま出動していればこのような事に・・・。」
「そうではない。」
カルトはクブリの言葉を遮る、その強い口調にクブリは珍しく黙り主人に言葉を待つ。
「クブリ、俺はお前を信用している。そのような言い訳は無用だ、お前が俺の為にここまでついてきてくれている事は充分に感謝している。
だから正直に話せ、お前は俺に何かを隠しているな。」
「カルト様・・・。」
「確かに協会の状況を把握しなかった事は落ち度もあるかも知れぬが、お前の目が曇ってしまったのは何かを別の思惑があったからではないのか?
責めるつもりはない、が説明はしてもらうぞ。」
クブリはその場にかしこまりフードを外して敬礼する、フードを基本的には外さない彼にとってこの敬礼こそが最敬礼である。
「申し訳ありませんでした、カルト様。
申し上げたいのですが、お目にかけてくださる方が早いと思います。申し訳ありませんが教会の裏にあります旧聖堂へ一緒に来ていただけないでしょうか?」
クブリの連れられるままカルトは協会の裏にある聖堂へと向かう。
教会が建つ前にあった聖堂が朽ち果て始めた為、協会を設立後は物置になっていると聞いている。そこに一体何があるのかカルトはまだ状況が飲み込めず、クブリの後に続く。
教会裏の聖堂は中庭、現在は教会であふれた人たちの野外病院と化した場の向こうにあった。途中には自家栽培の為の畑が少しあり、人工的に引かれた用水路を渡る橋を渡ってすぐに見えてくる。
そこでカルトは以前ときた聖堂の変化に気付く。朽ちかけていた聖堂は新たな木材と石材で修繕されており、新たな塗料で風化したひび割れは見事に埋められていた。
「こ、これは?あの聖堂がここまで修繕されているとは・・・。」カルトは驚嘆するように言う 、クブリは少し表情を綻ばせ説明を始める。
「私はここにカルト様を連れて来たかったのです。」
「な、何?どういう事だ?」
「私はカルト様がエスニャ様と結ばれたとしても式等は一切しない事は予想できていました、そのやまれぬ事情も理解できています。しかしエスニャ様があまりに可哀想です。
なので私は今日ここでカルト様が式を挙げるように計画を練っていたのです。」
「クブリ!幾ら何でも出過ぎた真似を !!」
「承知しております!しかし私は司祭です、カルト様の新たな門出を祝わなければならぬ身であります。
事情を教会のシスターに話を付け、この聖堂を修繕する事が出来れば式に使っていいと約束を交わしました。
式を挙げた後は外に投げ出されたあの負傷兵をここで救護できます。」
カルトはじっとクブリの言葉を聞きいる、一瞬怒りを覚えたがクブリの司祭の立場を考えた上での言葉に反論する事はできないでいた。
「この聖堂の修繕、キンボイス王子が率先してくださったのですよ。」
「キンボイス王子がか!!」
「はい、キンボイス王子は修復の話を聞きつけこの教会にお越し下さいました。事情を知るや否や人材も、資材も瞬く間に集めてきて私財まで投入してここを修繕したのです。
彼もまたカルト様によって救われた方です、何か思うところがあったと私は感じます。」
キンボイス王子はジャムカ王子と違い市民感情は悪く、後に派遣されたエッダの者達でさえ処断の声が多く聞こえた。ジャムカ王子を監視下の中でヴェルダンの王として育成する事が最も能率のいい更生方法である。
しかしカルトとシグルドはその提案に柔和案を提案し続け、ジャムカ王子をシアルフィ軍に受け入れてキンボイス王子をジャムカ王子の代わりとして監視下に置く事に成功するのであった。つまり、ジャムカ王子は人質になった事になる。
そのキンボイス王子が直々にこの教会の修復を手配したとクブリは言うのだ、彼の拘束はカルト達が想像するよりもずっと辛いはずである。私財まで投入した彼の中には快楽主義の人格は改善されて行っている事にカルトは喜びを感じた。
「キンボイス王子はカルト様の過去をお聞きになり、このヴェルダンで幸せのきっかけになって欲しいと願っております。その意を汲んで頂けませんか?」
「クブリ・・・、お前のような部下に恵まれた事に感謝する。
俺の意見をここまで変えたお前に・・・。」
カルトは微笑みをクブリに向けたのだった。
それはクブリの、エスニャの、キンボイスの、願いを聞きい入れ。カルトの本心が肯定された瞬間であった。
カルトの突然の式であるが、準備は万端であった。
シスターしかいない教会であるがクブリは司祭であるし、キンボイス王子は教会の修復だけではなく物資の供給まで行っていた。
名目は教会に溢れかえった負傷兵への救援となっており、クブリとキンボイス王子の奇策に気付く者はいなかった。
エスニャが聖堂でこの式を伝えた時の彼女の笑顔は生涯忘れる事のできない物となった。彼女の涙と笑顔にカルトは心の奥から彼女を慈しむ事を誓うのであった。
そしてその突然の式にも関わらず、先日式を終えたばかりのシグルド、ディアドラ夫妻やキュアン王子なども駆けつけ参加する事となったのだ。
聖堂の天井にあるステンドグラスが緑地の陽だまりを受けて七色に輝く中、式が執り行われる。
そこにはシグルド公子が行われた厳かな雰囲気ではなく、暖かくて笑顔が溢れでるような物であった。
ここはエバンスのように調理師も給仕もいないのである。
給仕はシレジア軍が率先として行う事となり教会のいる身寄りのない子供達が飾り付けを手伝ってくれたが、驚くべき点は調理はなんとキンボイス王子が自ら行うと言うのだ。彼に限らずヴェルダンの王子達は毒殺に怯える過去を持っているため自身で調理する技能を持っているらしい。その腕を振るうと言うのであった。
飾り付けを行った子供達も参列する中、カルト公とエスニャ公女の式が進行する。
純白のドレスは急遽あしらえたドレスではあるが、エスニャの採寸に合わせてくれたのはエーディン公女。
頭髪を結い、整えたのはエスリン王女である。
その装いを見事に着こなし、カルトの元に歩くエスニャには常に笑顔を湛えていた。
二人出会い、手を取って祭壇に向かう姿に七色の光が包み込まれる中、クブリの待つ祭壇にゆっくりと向かう二人に祝福の拍手が送られていく。
「カルト様、エスニャ様。おめでとうございます。私めのような若輩者が、親愛なるカルト様の婚姻の儀に立ち会える事を嬉しく思います。ましてや私は婚姻の儀を執り行う事が初めてでございます故、嬉しきこと最上であります。
では、カルト様。
我がシレジアは食料も乏しい国であります。それでもなおエスニャ様と共にこの苦しみを共有し、乗り越え、喜びを分かち合えていける事を望みますか?」
カルトは無言で頷く。
「エスニャ様。あなたはこのシレジアを受け入れ、カルト様と共に歩む事を誓えますか。」
「・・・はい。」
「よろしい、二人はここに宣言いたしました。カルト様、エスニャ様に誓いの品を・・・。」
カルトは裾より青く光る指輪を取り出し、肩膝をついて彼女の指へ滑り込ませた。
そしてゆっくり立ち上がり、彼女に微笑む。
「昨晩、ようやく完成させた指輪なんだ。これはイージスリングと言って、君をきっと護ってくれる。
これを婚礼の品として受けっとてくれ。」
「カルト様・・・。」彼女はまた、笑みと涙が混じり出す。
「これにより、婚礼の儀を終えました。二人に幸ある未来を!」
クブリは二人にライブの魔法を使い、体に光を纏わせる。
ステンドグラスの七色の光と共に純白の光が追加されるのであった。
この後の会食では、身分の隔たりもなく皆カルトとエスニャの幸せを願う宴が夜通し行われる事となった。
子供達もお腹を膨らませ、幸せな顔をして寝てしまっている。
その光景を傍目で見ながらカルトは身分制度の撤廃と、市民が安寧して暮らす国民主導制度の立案再度決起に誓ったのであった。
作中に出てきましたイージスリングですが、カルト自作のアイテムになります。
シールドリングとバリアリングを合わせたアイテムです。
実はヴェルダン攻略でマジックリングをエスニャに渡す計画で作中によく名前をだして伏線にしようと思っていたのですが、せっかく主人公がアイテムを作り出す能力があるのに既製品を渡すことに抵抗を覚えまして今回に至りました。
ようやく、外伝が終了致しました。
次回からゲームでいうと二章のアグストリアの動乱となります。
小説置いてここは 起承転結 の転にあたる部分と認識しています。
話をまとめていく中で厳しい部分でありますが、精進していきたいと思いますのでご感想やご意見等お待ちしております。