ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
短い期間に一気に書いていきたいと思いますのでご容赦の程お願いいたします。
翌朝、シグルド不在のままヴェルダン攻略に向けて尾根の野営地を後にする。シアルフィ軍には不協和音が存在していたが戦線に幾つもの功績を挙げているカルトの復帰により多少の改善が見られた。
カルトの功績の中で特に大きい効果はキンボイス捕獲ではない。ヴェルダン内の疫病への対応が住民感情を和らげる事になりマーファ城に侵攻に成功した時、ガンドロフの圧政による不満もあったのだろうが住民達はグランベル軍を迎え入れてくれる迄になっていたのだ。
カルトがこのような策を講じていなければ、住民からヴェルダン城攻略に必要な情報は得る事は出来なかっただろう。ジャムカのハンター部隊の数とヴェルダンへのルートなどがなければもっと自軍に犠牲者を出していたと断言できる程である。
「全軍止まれ!」カルトの制止にて即座に進軍が止む、徒歩での移動のため即座に制止できる。
「どうしたカルト公?もうヴェルダン城までもうすぐではないか?」レックスは彼の制止に疑問を投げかける。
カルト「ここから先は森を抜けてすこし平地が続く、平地にでれば間違いなくシグルド公子がうけた遠距離魔法の餌食になる。」
レックス「そうか、今までは森の中にいたから魔法が飛んでこなかったのか?しかしこの間シグルド公子が狙われたのはどうしてなんだ?」
キュアン「おそらく、あの場所は小高い丘になっていたから城からあの位置が視認出来たのだろう。」
アゼル「カルト公、対策はおありですか?」
アゼルに投げかけられる、遠距離魔法は決して命中率の高い魔法ではない。このまま進軍しても全滅する事はないのだが賭けに乗って闇雲に突撃をする事は危険である。
初日に逃げ帰ったハンター部隊と魔道士が連携を取っていれば、突撃で散り散りになった際にハンター部隊に狙い撃ちされる危険があった。ジャムカを捕縛して指揮系統がどのように機能しているのかわからない以上、無茶はできない。
「魔道士を中心に進む、暗黒魔法だが魔法防御能力の高い部隊で進めばもし遠隔魔法に命中してしまっても耐えられる。
ハンター部隊にも警戒が必要だがそれは最小限でかつ能力の高い者で対応しよう、危険には違いないがこれで犠牲者は最小に済むはずだ。」
アゼルはカルトの弱気な発言に絶対の自信は持ち合わせていない事を知る、あれだけ強大な魔力と知識を持とうとも部隊全員の命を救う事など出来ないのは当然であるが彼は守ろうと画策している。
そのカルトが犠牲者が出る事を承知の上の発言にアゼルは緊張感を高めていく。
《お待ちください。》
カルトの脳内に女性の声が響く、それは言霊の魔法で遠く離れた対象者と会話を行う事ができる魔法である。
相手の魔力に同調させる事で可能となる魔法である。
《カルト様ですね、私は精霊の森の巫女でディアドラと申します。》
《君がシグルド公子の言っていた女性か?もしかして彼と一緒にいるのか?》
《はい、シグルド様は無事です。あなた達より更に西の森の中にいます。》
《そうですか、シグルド公子を救出していただいて感謝します。
申し訳ありませんが今は有事中です、ヴェルダン攻略が終われば迎えに行きますので待機するようにお伝えください。》
《カルト様、今から私はヴェルダン城にいる魔道士の魔力を抑えます。協力をお願いしてよろしいですか?》
《魔力を、できますか?あの城からただならない魔力を感じます。》
《はい、長い時間とは言えませんが可能と思わます。》
《わかりました、あの城から魔力が感じられなくなったらできるだけ早く突撃します。かなり危険な策を講じなければならないと思っていました、少しでも兵士達が安心できる進軍ができるなら協力いたします。申し訳有りませんが、ディアドラ殿よろしくお願いします。》
カルトは軍に彼女の伝心を送り、その時を待つ。
作戦変更によりキュアンとレックスを先頭にアレク、ノイッシュなどの騎士団が全面に立ち、弓部隊のミデェールと魔道士部隊のアゼルとクブト、エスリンやエーディンも加わる事になった。
恐らく魔力の封じ込めに成功しても恐らく二時間程であろうとカルトは計算する。その時間までに平野地帯を一気に駆け抜けて再びその先の森に潜まなければならない。
残ったハンター部隊も次の森か、その手前で待ち構えていると思われる。慎重かつ一気に制圧する必要があった。
カルトはレックスと同行して前面に立つ、魔道士でありながら常に前線に立つ彼をレックスは心の強さに賛辞を送る。
昨日瀕死の重傷を負ったにも関わらず、回復して翌日にまた前線に立つ者など訓練を受けた兵士にもできない事である。それも二十歳にも満たない魔道士が実践しているのだ、鼓舞しない者などいなかった。
「・・・見つけた。」
フレイヤは瞑想状態からゆっくり双眸が開き、妖艶な美女であるはずなのだが酷く邪悪な笑みを浮かべるその姿は『悪い事をすれば魔女に火あぶりにされる』ロプトウスの迷信によく使われる子供の方便だが、その話の魔女そのものであった。
彼女はサンディマを餌にずっと聖女の出現を待ち続けた。この生き餌がビチビチと動き回るたびに忍び寄ってくる魚達混じってきっと大物が釣れると思っていたのだが、予想通りの収穫に彼女の笑みは抑えきれないでいた。
いますぐにでもあの場に赴いて掻っ攫いたい所であるが、バーハラでアルヴィスと戦ったあの銀髪の魔道士に気取られてしまう可能性があった。奴は聖遺物を使えるわけではないにも関わらず、アルヴィスと対等に戦い認めさせた程の男である。
もし奴に気取られれば今後の活動に支障があるとフレイヤは思い、今回は諦める事にする。
「チャンスはある、急ぐ事もない。」彼女は言い聞かせるようにして、役割を終えたサンディマとヴェルダンに見切りを付けた。杖のふと振りにてその場を後にする。
「なんだ!これは!!」
フレイヤが転移した直後、バルコニーにて遠隔魔法を用いてシアルフィ軍を待ち構えていたサンディマは白い魔法陣に覆われ魔力の無効化魔法を仕掛けられた。
この魔法の是非は対象者の魔力に対し、使用者の魔力による押さえ込みが大きいかにかかっているが精霊使いであるディアドラは魔道士よりも魔力が高く、高度な聖杖が扱える。サンディマも魔力は高い方であるが、ディアドラに軍配があがる。
サンディマの魔力の無効化に成功するが、次に重要な事は持続時間である。
魔力を抑え込む間ディアドラは精神を集中し続けなければならず、一度破られて警戒されれば再度仕掛けても以前のようにはかからないのである。
この勝機は一度のみと理解しているカルトには一秒の無駄にできない、その瞬間に突撃の命を全軍に送る。
ヴェルダンとの全面戦争はいよいよ終盤を迎え、最後の決戦が始まるのであった。
ヴェルダンより北に位置するアグストリアでは、ノディオンとハイラインにて戦闘が行われていた。
エルトシャンはエリオットの野心を知っている。必ずエバンスを我が物にしようと挙兵すると思っていた。
エルトシャン率いる大陸随一と言われるほどの騎士団、クロノナイツがシグルドの危機に呼応してハイライン軍と衝突する。
ハイラインの寄せ集めのような雑兵に無駄な動きのない統率されたノディオン軍に敵う事はなく敗走する。
「エルトシャン!これで勝ったと思うなよ、アグストリアはもうグランベルに平伏する様な諸侯はいない。貴様がいつまでもいい顔できると考えない事だ。」
敗走するハイライン軍に止めは刺さず、無力化させたエルトシャンにエリオットは悪態をつく。
「王よ、奴を生きて返して良かったのか?いずれ奴は同じ事を繰り返すぞ。」
ホリンまた義を感じてこの度の戦闘に参加するが杞憂に終わり、クロノナイツの戦力の高さを肌で感じただけであった。エリオットの不遜な物のいい様にホリンはエルトシャンに言葉を投げかけた。
「あのような男に遅れをとる私ではない、それに奴もアグストリア諸国の王子。手にかけてしまえばイムカ王がお嘆きになられるだろう。」
「なるほど政治部分も含めての処遇という事か、王ほどの器量があればこその決断であるな。
イザークなら奴の首はとっくに胴から離れていただろう。」
「・・・・・・。さあ、帰還するぞ!」エルトシャンの号令に一糸乱れぬ隊列を維持し、ノディオンへ帰路につく。無言であったが、彼の背中が物語っているように思えた。
(シグルド、キュアン。退路は守ったぞ、無事に戻って来い。)
踵を返すエルトシャンにホリンはそう解釈をしてしまう。紛れもなくこの三人には親友と呼べる絆があり、損得のなく行動する彼らの騎士道を垣間見たのであった。
イザークは義の国ではあるが、友情の精神はなかった。
友と呼べる者はいたが、戦争となれば友であろうと敵対すれば自分を殺して国家に尽くすことが美徳とされた。彼らは敵対することになった時、どのような行動をするのだろうか?ホリンの心はそう思ってしまう、そして彼の疑問は数年後に現実の事となる。
アグストリアもまた、戦乱の足音が予兆と共に訪れようとしているのであった。
ヴェルダンの攻防戦はカルトの予想通りの運びで事が進んだ、平原でのシアルフィ軍の突撃を森林に入らせまいとハンター部隊は平原での応戦するが明らかにヴェルダン側の悪手である。
ハンター部隊を指揮していたジャムカが健在ならばそのような指示はしないが、デューの的確な行動で彼を捕縛に成功した功績は大きい。指揮官がサンディマに変わり、慣れない平原での防衛を言い渡されたしまう。
彼らの持ち味である、待ち伏せからの一撃離脱ができないハンター部隊などシアルフィ軍にとって脅威ではなかった。
それでもサンディマは多少の足止めをしてくれれば問題なかった。平地に出てくれば遠隔魔法であるフェンリルで一網打尽にできる自信があったからだ、シアルフィ軍を暗黒魔法で恐慌状態にできればハンター部隊でも対応できると自負していた。
しかし、ディアドラの使用した魔力無効化によりサンディマは切り札である魔法攻撃を失いハンター部隊はシアルフィ軍を抑えきれず森林へ敗走を続ける事になる。
「このまま森に入る!一気にヴェルダン城を落とすぞ!」
キュアンとレックスは怒号と歓声の巻き起こる中で突撃を続ける。立ち止まる事なくヴェルダンへ向かう一軍の中でカルトは冷静であり、彼の五感から警告が発せられた。
それは温度である、まだ春先のこの時期に北より暖かい風を感じる。
そんな事はあり得ない、彼の感性が判断した時全軍に止まるように発するが勝利目前の軍は止まる事ができないでいた。
キュアンの軍は止まってくれるが、レックスの部隊はそのまま突撃をされていく。
「どうした、カルト公!なぜ止めるのだ。」キュアンはカルトの位置まで戻り、カルトに問い詰める。
「おかしい、この森は変だ。北からわずかな熱気を感じる。このまま進めば敵の罠にかかる。」
「どういう事だ?」勝利目前に水を差した事もあるが漠然とした説明に、キュアンは少し苛立ちめいた感情が混じっていた。
「わからない、うまく説明できないがとてつもなく嫌な予感がする。すまないが少し様子を見たい、この森の入り口で待機してくれ。」
「しかしレックス公子の部隊が制止せずに進んでいるぞ、どうするつもりだ。」
「デュー、すまない行ってくれるか?」カルトの後ろに控えていた彼は一目散にレックスを追って森を疾走する。デューの危険回避能力なら二次被害にならない、それに状況が怪しくなれば彼を救出する術を持っているのでカルトは彼を使う判断をした。
半刻ほど経過した時、カルトの予感は事象となって現れる。
森が燃えている!レックスの部隊の一部がデューと共に戻ってきた時、その報告を受けた。
火の回りが異常に早い為、レックス達はここまで戻ってくる事は出来ず森の中を彷徨っているそうだ。
キュアン「カルト公はこれを察したのか?どうする。」
カルト「まずいな、ディアドラ様の魔法もそろそろ限界がきているはず。ここで森を出れば間違いなく奴に狙い撃ちされてしまう。」
エスニャ「でも、ここにいても火の手が回ってきます。」
アゼル「森を迂回して湖の方から向かうルートはどうだろうか?」
デュー「やめた方がいいよ 、道から外れると迷う可能性があるよ。火が回ってきたら先に行っている人と同じ事になるよ。」
まさか国の資産である森林を焼く行為に出るとはカルトも考えつかず、最善策が浮かばない。進むか、戻るか、どちらにせよ大きな決断を要する事となる。
「クブリ、天馬部隊に通達して空からヴェルダンを空襲するように指示してくれ。ハンター部隊が瓦解した今なら天馬部隊が使える。」
「なるほど、天馬部隊ならあの遠隔魔法を仕掛けられても空なら回避しやすい。魔法防御も高いのでうってつけですな、早速伝令します。」クブリは伝令魔法で天馬部隊とコンタクトを取る。
カルト「火の手がこちらに迫ったら俺が魔法で抑え込む、今は天馬部隊に賭けよう。」
キュアン「我らには打つ手なし、か・・・。悔しいものだな。」
アゼル「いえ、僕達が善戦したからこそ天馬部隊の奇襲は効果的になると思われます。胸を張って彼女達に任せましょう。」
エスニャ「レックス公子はどうされるのですか?」
カルト「残念だがデューが戻ってきた時点でこれ以上の捜索はできない、行けば犠牲者が増えるだけだ。
彼らの運に稀期待しよう。」
カルトはエスニャの提案を一蹴する、どんな形であれ単独行動に出た彼らを追って犠牲者を増やす事は指揮する者としてできない。同様の意見であるかのように皆その意見に反対する者はなくただ黙していた。
《カルト様》ディアドラの声が聞こえる。
《ディアドラ様、お疲れ様でした。》
《いえ、申し訳ありません。もう少し抑え込みたかったのですが、思ったより対応能力がある魔道師のようで先ほど魔力を解かれました。》
《気にする事はありません。と言いたいところですが、連中先の森で火を放ちまして足止めされています。天馬騎士団のヴェルダン攻略が望みとなっています。》
《森に火を?何て事を・・・。カルト様、今の時期は北西から南東に風が吹く季節です。時間はかかりますが森の外周に沿って北西に向かえば火の手に合わずにヴェルダンに向かえる可能性があります。》
《それはありがたい、早速手を尽くしてみます!》
カルトは再びディアドラの指示に従い行動を起こしていくのであった。
レックスが離脱する、という事はあのイベントが発生します。
ゲーム上ではかなり不自然なイベントでしたが、私なりに不自然でないイベントに作り変えたいと思っています。
賛否あるかと思いますが、よろしくお願いいたします。