ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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仕事が忙しい中、急遽宿泊になり時間ができたので勢いで執筆してみました。
淡路島から一気に書いてます。


意思

「カルト・・・。」アルヴィスはシグルドにアズムール王から預かった白銀の剣を渡した後にカルトと会見した。

「あの時以来だなアルヴィス、負けたにも関わらずあの取り計らいに感謝する。」カルトは一つ礼を言って頭を下げた。

 

現在エバンス城内まで攻略したシグルド達は、ヴェルダン軍の掃討にかかっておりもう少しで完全に制圧できる状態にまでさしかかっていた。

一通りの重症者の治療を終えたカルト達はヴェルダンからの増援に対処すべく陣営を構えていた、エバンスから食料等を持ち込まれ休息をとりつつの対応をしていた所にアルヴィスの突然の訪問だった。

カルトは人払いをし、アルヴィスと二人になってからの会話である。

 

「何の事だ?あの時に帰ろうとした貴公にたまたま出会ったのがクルト王子であっただけの事だ。」

「・・・・・・まあいいさ、そういう事にしておこう。」

カルトは笑って返すと、アルヴィスは平静の態度を貫いた。昧の悪さがあるのだろう。

 

「・・・・・・。」

「アルヴィス?どうしたんだ。」

アルヴィスは静かに佇んでいたが、不意に懐へ手を入れると、一つの魔道書を取り出す。

 

「これは陛下からお前に渡して欲しいと頼まれた品だ、そして感謝の意を伝えてほしいと言っておられた。」

その魔道書は光魔法のもう一つの高位魔法であるリザイアである、カルトはみてすぐ判断できた。

オーラの魔法習得からこちらも物に出来ると思っていたが光魔法を習得できる魔道士は少ないからか、見つけることはできないでいた。

「アズムール王が私に?」本を受け取ったカルトはアルヴィスを見る、無言で頷くアルヴィスに表情を読み取ることはできなかった。

「アズムール王のご厚意に感謝すると伝えて欲しい。」とカルトはアルヴィスに伝える。

 

「カルト、君はいつから光魔法を使えるようになった?リザイアは高等な光魔法、一握りの物しか扱えぬ魔法だぞ。」

「・・・・・・。」さすがのカルトもここでは即答が出ない、アズムール王がリザイアをアルヴィスに託した時点でカルトの境遇を伝えたものと推測していた。

おそらくアズムール王はアルヴィスに本心は伝えずに、カルトはなんらかの特別な存在として認識して貰うための行動ではないかと想像し、結論に至る。その意図を汲んだカルトは必死に言葉を紡ぎ出そうと思考を回転させた。

「もともと光魔法の素養があったようだ。

あの時アズムール王に謁見した時に私の素養を見出され、魔道書を賜ったのだ。」

 

「・・・それは、陛下の縁者であるといっているようなものだ・・・。違うか?」

アルヴィスの鋭い視線がカルトの誤魔化しを正確に貫く、彼の洞察力はグランベルにおいても抜き出る者はいないであろう。

彼の生い立ちと謀略を察知しなければならない環境において疑念を正確に読み通す能力は、悲しいことではあるが疑うことこそ本質が見えてくる世の中を渡り歩いた業である。

 

「・・・やはりお前には気付かれたか、おおよそその通りとだけ言っておこう。

シレジアとグランベルが同盟したあたりでおかしいとでも思ったのか?」

これ以上の詮索されると核心部分まで追求されてしまう、カルトは涼しい顔をして話の論点をずらそうと画策する。

 

「以前に術を交えた時に陛下や王子の纏う魔力に近い物を感じた、君の風の魔力に混じってもう一つの資質があることを知ったのだ。光の魔道士は限りなく少ない、初級のライトニングまでなら扱えるものはいるが陛下の賜ったリザイアは聖者の血を受け継ぐ物しか考えられないからな。

カルト、君は古に別れた聖者の血を継いだ者と推測したものだ。」

 

アルヴィスはやはりまだ核心までの追求はできていない、カルトはそこに安堵する。

もしアルヴィスにその事が露見すれば間違いなく俺はグランベルに連れ帰られるだろう、そしてアズムール王から拝命したナーガとロプトウスの書の捜索と世界に暗躍する暗黒教団の目的を見出すことができなくなる。

せめて捜索が終わるまでは自由に動ける身でありたかった。

 

アズムール王はおそらくアルヴィスにその事が露見してもいいくらいの覚悟でカルトにリザイアの書を渡したとおもわれる。

が核心の意図はそこではないように思えた、クルト王子という絶対的な存在がいる今ではカルトの存在は国家を揺るがしかねない、露見すればアズムール王の立場は盤石では無くなるはずである。

そんな中でアルヴィスに露見してもいいと思えるこの行動にはカルトの思考ではまだ結論が出ないのであった。

 

「さすがアルヴィスだ、君の推測からの結論に脱帽する。

できればこの事は口外してくれないように頼む、アズムール王もこのような遠回しにアルヴィスに伝えたかったようにも汲み取れる。」

「無論だ、陛下のご意志に背くつもりはない。カルトお前の口から聞けてよかった。

これからも裏表なく対等に付き合ってくれると嬉しい。」

 

「ああ、俺も同じ意見だ。これからも俺の目標でいてくれよ。」

二人はようやく笑顔を見せるのであった。

 

 

 

フュリー達天馬騎士団は天馬達の警戒にかかり、ガンドロフを追走できずにいた。

それはフュリーが一度イザーク領のリボーで戦った、暗黒魔法の手練れの者と同様の感覚であった。

悍ましく、底知れぬ恐怖を肌で感じた。

 

「気をつけて、魔法の手練れがいるわ!天馬から離れないで。」

フュリーは一団に投げかける、必死にその悍ましい殺気の位置を特定する為に周囲に気をやった。

 

「フュリー様、あちらを!」

一人の騎士が指差した方向に暗黒の靄のような物が見えており、それが禍々しい六芒星を形どっていると気付いた瞬間にその黒いエネルギーが稲妻の閃光のようにこちらに迫ってきた。

 

「くっ!」フュリーは背中に括り付けていた一本の杖を取り出して地面に突き刺した。その杖は瞬く間に白い光を放ち地面に五芒星を展開して一団に光の弾幕を作り上げた。

 

それは、カルトがフュリーに持たせた結界の杖である。

自身の魔力を物体に付加させ、持ち主に対して一度だけ魔法を行使できるものであった。

カルトはエンチャントマジックとも言える、武器や持ち物に魔力を停滞させて特殊な能力を持たせる事ができた。マリアンにわたした髪飾りなどがそうである。

 

古のエンチャンターは今でも現存する炎の剣や守りの剣のように魔法の発動を何回も行うことのできる武具を作っていたらしい、しかしカルトのできる武具は一度使えば破損したり、永久効力であっても絶大な力を付加できないでいた。

 

しかし、この局面においては一団の生を確実にしていた。黒い閃光はカルトの結界の杖が守りきり、役割を終えた杖が一瞬に砕ける。

「今のうちに人質を乗せて退却する、急いで!」

遠距離魔法とおもわれる攻撃を防ぎきると次弾を打ち込まれる前に退却の指示をだした。

先ほどの攻撃は相手位置が正確に把握できないと命中できるとは思えない、一刻も早く撤退する必要があった。

馬車の中に乗り込むと11人の女性が載っており、助けが来たことを認識した彼女たちは一斉に指示に従い馬車を飛び出した。

「あなた達はシレジアの・・・。」

「はい、シレジアの天馬騎士団です。シグルド様要請で人質救出に参じました。

話は後にしてペガサスの後ろに、増援と遠距離攻撃がきます。」

 

各々が天馬の後ろに乗り込み、順次飛び立っていく。ヒュリーとエーディンは全員の様子を伺ってからその殿を飛んだ。

 

「ああ、これでまたグランベルに帰れるのですね。シグルド様とあなたに感謝致します。」

「私はフュリーと申します、この作戦を考えついたカルト公にも是非お会いしてください。」

「ええ、シレジアの厚意をユングヴィの代表してお伝えします。」

二人は微笑みあって森林を滑空していくのであった。

 

その時、耳に空を切り裂いて迫り来る金属片に気付いた。フュリーはとっさに天馬に方向に転換を手綱と鐙で指示を送るのだが間に合わず、天馬の右臀部に手斧が命中したのだった。

天馬の翼は推力を失い、滑空から失速まで一瞬であった。

 

地上に落とされた二人のうちフュリーは地上に落ちる寸前に天馬から飛び降りて受け身をとるが、背中と左腕を打ち付けてしまいわずかに呻いた。エーディン公女は墜落の衝撃を受けて気を失っている。

意識を失うわけにはいかなかったフュリーの咄嗟の判断であった、すぐに腰に差している細身の剣を構えて敵襲に備えた。

 

「お嬢ちゃんいけねえなあ、俺が素直に尻尾巻いて逃げ帰ったとでも思ったのかあ?」

茂みから先ほどの逃走したはずのガンドロフが再び眼前に現れた瞬間、自身の甘さが引き起こしたミスに気付き叱咤する。

おそらく先ほどの逃走はフェイクであり、遠距離魔法はそのフェイクを隠すための手段であったのだ。

派手で威力の大きい遠距離魔法に警戒がいってしまいガンドロフが追走している可能性を見事に消されていたのだ。

 

「殿を飛んでいたのは失敗だったなあ、俺の手斧なら無音攻撃は可能だしあの高さだったら充分届くぜ。

女どもを取られちまったが、あんたが手に入ったのならまあよしとするか。」

ガンドロフの卑下た笑いがフュリーを恐怖に駆り立てられる、精神的優位を失ったフュリーは冷静さを失い正面から斬りかかる。

ガンドロフは涼しい顔をしてその一撃に合わせるように斧を降りかかり、刀身の薄い刃は一瞬で砕け散る。

その威力に突き飛ばされたフュリーは倒れこむが諦めるわけにはいかない、ここで諦めることはエーディン公女の命運をも諦めることになるのだ。地面に伏されそうになるも右手で支えて回転し、身をひねって立ち上がる。

「兄貴〜、やっぱり助けてくれると思ってましたぜ。」

茂みからさらに先ほどの部下が顔を出す、ガンドロフ逃走後捕縛したあの男は気にくくりつけておいたのだが復帰したガンドロフが縄を解いてこちらに向かっていたのだろう。

 

「お嬢ちゃんは甘いなあ、命を助けたからといって俺の部下は恩に着る奴はいないぜ。」

「そうそう、俺は気にしないぜ。」

フュリーは後ずさり腰のバックに手を伸ばすが、ガンドロフは即座に距離を詰めてフュリーを羽交い締めにする。彼女は天馬に聞こえる笛で救援をしようとしたがガンドロフの野生の勘が彼女の希望を即座に奪う。

「何を企んでいるか知らねえが、余計な真似はさせないぜ。」

「くっ!私はどうなってもいい。彼女と天馬にだけは手を出さないで!」

彼女の必死に嘆願にガンドロフと部下は少子抜けを起こして笑い出す。

 

「お願いできる状況か?お前たち二人は如何あっても俺に隷属されるのさ!」

「こ!この人でなし、きっとカルトが貴様たちを地獄に落としてくれる。」

 

ガンドロフは涼しい顔をして部下にフュリーを投げつけるように押し出す。

足元のおぼつかないフュリーはふらふらと部下の元に足が進んでしまい、受け止められてしまう。

 

ガンドロフは天馬に刺さった手斧を引き抜いてエーディン公女を担ぐ

「ふ、この場面で啖呵を切るとはいい度胸じゃねえか。おい、我慢できなかったっけ?ここで遊んでやれ!

済ませたらさっさとマーファに帰ってこい!」

 

何を言っているのかわからないフュリー対して部下の男は鼻息を荒々しく押し倒す。

「兄貴、その言葉待ってました!遠慮なくいただくぜ!」

「きゃ!な、何を!」

草場に押し倒され、色欲に塗れた男が顏を近づける。

ガンドロフはそのままエーディンを連れて立ち去っていくの止めようとフュリーは必死に叫ぶが男に組み敷かれた状態では身動きも取れず見るしかなかった、それどころか自身の純潔をも奪われる恐怖にも苛まれていく。

 

屈辱だった、カルトの命にも答えられずに敵の大将にいいようにあしらわれて現在は下品な男に陵辱されようとしているのだった。しかしここで諦めるわけには行けない、カルトはこれまで絶望とも言える状況からも危難を振り払い今日までに至ったのだ。

 

胸当てを肩口の革をナイフで切断、チュニックを切り裂かれながらもフュリーは股間に膝蹴りを見舞った。男は痛みでナイフを振り回し左腕を刺されるがフュリーは怯むことはなかった。刺された左腕を捻り、ナイフを取り上げると男の太腿部に突き刺したのだ。

 

「ぎゃあ〜!!」

部下の男はさらに素手を振り回して上半身のチュニックを強引に切り裂いてフュリーの肢体を露わにする。

少女と女性の境界線である、甘美な裸体に負傷をした男を未だに魅了した。怪我により萎縮したと思える性欲を呼び起こし、本能が男を突き動かしたのだ。

フュリーはその予想外の行動に再び境地に陥る、左大腿部にナイフが突き刺ささったままフュリーに欲情をぶち撒ける。

とうとう下半身にまで手を伸ばす下衆にフュリーの抵抗する力が残っていなかった、今まで荒くれの男に抵抗できていたこと自体に奇跡に近い。フュリーには再び自身の筋力を呼び起こす底力は残っていなかった。

(レヴィン王、カルト様・・・ごめんなさい。私は穢されてしまいます、その前に屈辱から逃れる事をお許し下さい。)

フュリーは舌を上下の歯の間に挟み込んだ、純潔を奪われる前に自決を選んだのだ。

 

 

もっとレヴィン王に仕えたかった、カルトに認めて欲しかった。レヴィン王とカルトの作る新しい時代を見たかった。

私よりも力ない市民はもっと屈辱を受けていたのだろう。このような事を受けてなお奴隷に身を落としても生きている彼らを尊敬した、でもフュリーには耐えられるものではない判断であった。

(私の体を穢しても、私の魂は穢せない!!)

フュリーは決死の思いで自身の舌に自決の想いを発したのだった。




少し暗い回になりました、少し卑猥な表現が出ていますが事実戦争にはそのような側面があると思いまして表現しました。

しかしフュリーにはそのような死亡フラグはありませんのでお付き合い下さい。

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