ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
クルト王子はその後アズムール王に俺が接見できるように尽力して下さった。王という立場上、一介であり他国の一公子に2人で会うことなど不可能に近い。
それを可能とする為に、強引とも言える方法を使って謁見することとなった。
クルト王子にお会いしたその日の夜、与えられていた部屋にいた。アゼルには事情もろくに話さず、先にヴェルトマーに帰ってもらった。
帰り際に彼は「カルト、頑張ってね。」の一言に俺の意思をくんでいてくれた事に感謝する。
指定された時間にクルト王子に渡されていた杖に魔力を送り合図を待った。その杖の先端に聖石が埋め込まれており、魔力を送ると緑に輝いた。
熱を持たないその冷光にカルトは心を奪われていると、脳内に直接語りかけられていることに気づいた。
「そなたがカルト公子だね、話はクルトから聞いている。早速だが準備はできているかね?」
「はい、ではお願いします。」カルトは緊張の面持ちで返答した。
準備というのは王に話した後、ここに戻ってこないとの意味であるからだ。装備品も、持ち物も自分の手に持っており心構えている。
するとカルトの魔力ではない魔力が杖を通じて発動し、魔法陣が出来上がる。カルトはその送られてくる魔力を阻害しないように杖の聖石にのみ魔力を集中させた。
そして魔法陣は輝きだし、カルトの身が包まれて行き、その場から消えたのだった。
閉じていた瞳を開くと、周囲の光景は変わっており初老の老人が杖を持ち立っていた。あれほどの魔力を使いながら息も切らしておらず、高齢にも負けず背骨も曲がっている様子もなくすらっと立っていた。
これがグランベルを統べる国王、アズムール王本人と疑う余地はなかった。
「アズムール王、招聘の術の使役ありがとうございます。」
「いささか久々なもので心配ではあったが、うまくいってなによりだ。」
その優しい口調に、カルトは微笑んでしまう。
「クルトから話は聞いている、そなたにはヘイムの血が流れていると・・・。確かにそなたから感じ取れる気配、ヘイムの血は間違いないようだ。」
カルトはその言葉に堰を切ったように反応した。
「王、なぜ私にあなた達の血が流れているのですか?私のようなシレジア出身の者にそんな気高い血があるとは到底考えられません!」
「・・・。」アズムール王はただ黙ってカルトの言葉を待つ。
「・・・おそらく、母上からその血を受け継いだようですが母上は一切の身の上を打ち明けておりませんでした。
父上にも訪ねたことはありますが母上は一般の出身の身で軍に入り、その魔力の強さから将軍にまで抜擢されて父上に見初められたと聞いています。」
「・・・・・・。」アズムール王は静かにカルトの話を聞き、沈黙を続けていた。
その表情は穏やかであるが、瞳の中には動揺と驚嘆に見舞われていると感じ取り、王の言葉を静かに待つことにした。
調度品の柱時計から小気味のいい秒針の音だけが部屋に残り、服の擦れる音一つもない静寂が続いた。
どれくらい王の言葉を待っていたのだろうか、悠久にも一瞬にも判断が取れなくなっていた頃にアズムール王はその沈黙を破った。
「カルト、そなたはクルトをみてどう思う。」
「クルト王子ですか?博識で、行動力もあり、魔力も潜在能力から測っても王以上の能力を感じます。」
「そなたなら、もしクルトが敵として出会った時にどういう戦い方をする?」
「・・・?そうですね魔力では絶対に負けると思いますので魔法を囮に武器攻撃を考えます。・・・!」
話の途中でアズムール王の言いたいことが判明し口を止めた、カルトはアズムール王に向き直りその心中を探る。
「その通りだ、魔力は強力だがクルトには肉体的な強さがない。
あやつは生まれながらに身体が弱く何度も病にかかっておった、医者の見立てでは成人まで生きてはおれぬと言われほとんどをベットで過ごしていたのだ。
儂はクルトに申し訳ないと思いつつ、ヘイムの直系が絶えてしまう事を恐れる日々を過ごしておった。」
「し、しかし!ロプトの血は途絶えたはずです。なぜそこまで直系こだわる必要があるのですか?
確かにこの百年で直系を失った家もありましたが政略結婚でまた神器を扱える者にが産まれるではないですか。」
「他の家ではそういこともあるだろうが、ヘイムは・・・。ナーガの血はそういう訳にはいかぬのだ。
先の大戦でロプトに加担していた血筋のものは全て粛清した、だがこの大戦に一石を投じて反乱を起こしたマイラの功績があり彼だけは粛清しなかったのだ。
彼には厳しい制約をつけ、ヴェルダンにある精霊の森に隠れ住む事になった。」
「なっ!!」カルトは史実に隠蔽された恐るべき内容に動揺する。
確かに、暗黒神の申し子が再び復活するという世迷い事を今だに信じている領主も存在し意味の無い魔女狩りや子供狩りを行う地域もまだ残っている。
もし今の事実が世に広がれば疑心暗鬼に苛まわれ、一層の狩りが加速するのであろう。カルトはその恐ろしさを肌で感じ、事実の秘匿を必要を感じとる。
「マイラの意思を汲み取ったが、ナーガの力をいつでも行使できるようにしておくことが最良ということですね。」
「うむ、その背景もあり儂は取り返しのつかぬ事をしてしまったのだ。・・・・・・、儂には歳の離れた妹がいた。その意味がわかるな?」
カルトは喉の渇きを一気に感じた、禁忌による血の集結。その集大成が自身であることを自覚する。
意識が遠くなるようにも感じた・・・、おそらく王は私への配慮もあり口を出せずにいたのだろう。
「妹はすでにあるものと婚姻する予定だったにも関わらず、儂は身勝手な手段を取ってしまった。そのショックからその後すぐ行方をくらましてしまい、二度と会うことも叶わなくなってしまった。
おそらく、その後たどり着いた地はシレジアでそなたの母親を産み育てていたのであろう。娘は生まれもったその力でそなたの父と出会いカルト、そなたが産まれたのだ。
すまぬ!儂の過ちでそなたにも、母上にも不遇な境遇があっただろう許してくれとは言わぬ、だが償いはさせてくれ!」王は頭を下げていた、グランベルの・・・大陸の頂点に立つ者が俺に頭を下げているのだ。
カルトは慌ててその手を取り頭を降った。
「頭をおあげください、私はあなたに償いも賠償も求めているつもりはありません。
ただ、私は自身の出生が知りたかった。・・・それだけです。」
「し、しかし・・・。」王の言葉を遮り、握った手を強く握り直した。
「王!私は償いの言葉よりも先に言いたいことがあるのです、御無礼ですが許していただきたい。」
カルトはの言葉に王は無言で頷く。
「お爺様、お初にお目にかけられて・・・嬉しいです。」
2人は涙を流し、その場に崩れたのであった。
「これから、カルトはどうするのだ?」
落ち着きを取り戻した2人は椅子に腰掛けてグラスに入った水を飲みながら語りかける。
「できるものなら、このままバーハラにとどまって欲しいところだが。」
「お言葉はありがたいのですが、私はその事実を凍結して世界を回りたいと思います。」
その言葉に王は落胆と、平穏な表情を混ぜ合わせたようになっていた。まだまだ困惑しているのだろう、時間が必要と考えた。
「そうか・・・、何かあったらいつでもここに来るがいい。ここはお前のもう一つの故郷と思っていてくれ。」
「ありがとうございます、また落ち着いたらここに立ち寄 ります。」
「・・・カルト、もし世界を回るのなら一つ使命を与えていいだろうか?」
「?なんでしょうか」
「ナーガの書を探し出して、ロプトウスの書を封印してくれ。」
「!!」カルトはその一言に雷のような衝撃を受けた、つまりナーガの書は紛失していることであり聖者として現在機能していないことになり。
ロプトウスが降臨した時に対処できないこととなるのだ。
「順を追って説明をしよう。」王の言葉を聞き漏らすまいとカルトは固唾を飲んで聞きいる体制をとった。
「なぜ、グランベルは共和制をとっているのか分かるか?一国で七人もの聖戦士を擁しているのは異常と考えたことはないか?
他の国は聖戦士の一人が国を起こして王として君臨しているのに、隣国のアグストリアも共和制ではあるが聖戦士は一人だ。」
王の言うことは最もである、聖戦士一人の力は一国に匹敵する能力とカリスマ性を持つ。
戦争が終われば一国の王となりたかったものが多かった筈なのに、グランベルにてヘイムの下で結束されるなんて事は考えにくかった。
「ナーガの力はロプトウスに対抗できる唯一であると同時に他の聖戦士が束になっても簡単には屈しない力を持つにも関わらず、ヘイムを除くグランベル六人の聖戦士はナーガの血筋を守ろうとしたのだ。」
カルトは必死にその言葉の意味を探り続ける、強者にも関わらず守らねばならないとはどう言うことなんだろうか。王の言葉を何度も反芻し、答えを紡ぎ出そうと臨んだ。カルトはさらにその前の王の使命を考えた上で一つの結論が生まれた。
「ナーガの書で持って、ロプトウスの書を封印していた。」
「そうだ、神々の品は破壊はできない。負の最大顕現であるロプトウスの書を封印するには対をなしているナーガの書で持ってしか封印できなかったのだ。
ヘイムはロプトウスになり得る存在が出てきても書を手に入れないようにしたのだが代わりに自身は他の聖戦士に保護してもらう道を選んだのだ。」
カルトは世界の創造ともいえるその仕組みに深く理解し、王の言葉が染み渡って行った。
「では、なぜ書の封印が解かれてしまったのですか?」
「書は封印とは言えナーガの書を持ち出せばロプトウスの書の封印が解けてしまう不安定なものであるからな。
この城の厳重な場所に安置しており、さらにヘイムが結界を張って何者も入り込めないようにしていたのだが結界を破り二つの本を持ち出した者がいたのだ。」
一体何者が破ったのだろうか?聖戦士くらいの絶大な能力なら可能かもしれないが、そんなことをするメリットがどこにもない。
やはり暗黒神を信仰する者の中から結界を破るほどの強者が行ったようにしか現在は考えられなかった。
「わかりました、ナーガの書とロプトウスの書の捜索してみます。」
カルトは王に宣言し自身の目的に追記する、国王は微笑みを讃えてその回答に安堵する。
「それとな、シレジアの国王が崩御が近い情報も入ってきている。
反国王派のダッカー公とそなたの父であるマイオス公はそれぞれのやり方で反抗しようとしているようだが、三つ巴の効果もあり硬直状態を維持しているが崩御があればすぐに内戦になるだろう。
目的もあるだろうが、一度戻ってみてはどうだ?」
「そう、ですね。一度帰ってみて策をレヴィンと論じてみようと思います。今の、ヘイムの力を得た私なら何か出来ることがあるかも知れません。」
「シレジアの内戦も、大陸の不安因子の一つ。カルト申し訳ないが頼んだぞ、無理はせずにな。」
王の優しさがカルトの身にしみ渡る。
「これは儂からの餞別だ。先ほど使ったから用途はわかるな?」
先ほどここまで転移した杖を受け取る、アルヴィスに破壊されたがマジックシールドの杖と同様でこの大陸にはない杖である。
あらかじめ自身の魔力に込められた品を手掛かりに手元に引き寄せる魔法で、レスキューの杖という聖杖である。
「ありがとうございます。ではお爺様、行ってまいります。」
カルトは転移の魔法を用いてその場から退場した、アズムールは目を細めてその場にいた孫に祈りを捧げるのであった。
カルトと行動を別にしたデューとホリンは無事に自由都市ミレトスに到着した。イザーク館に足繁く通い、国内情勢を確認していたのだがここで事件が発生する。
イザークとグランベルとの戦いは初戦ではイザーク領にも足を踏み入れることなく防衛線で食い止めていたのだが、グランベルの大軍による物量に物を言わせた攻撃がとうとうイザークの防衛線を突破され乱戦になった。
ちりぢりになった互いの軍であるが、少数部隊のイザーク軍はさらに少なくなり各個撃破されてしまう。
マナナン王はここでいつか訪れる敗北を察知したのか、自身の子であるシャナン王子と妹君のアイラ様を包囲される前のタイミングで国外脱出をさせたのだ。
ホリンの父親言う通りになったのだが、逃走経路が予想出来なかった。
アイラ様は自由都市であるミレトスを目指すと予想していたのだが、グランベルを突っ切って逃走しているらしい。
この逃走経路を塞がれていたのか、世間を知らない王女の逃避行に問題があるのかは定かではないが自身の誤算であった。
ホリンはデューとともにミレトスからグランベル公国のシアルフィ領へ抜ける大橋へむかうのだった。
「カルト、君は今頃どうしているだろうか?できればまた、一緒に旅をしたいものだ。」とホリンが呟き。
「何行ってんのさ、早くアイラ様達と合流しないとイザークの将来がなくなっちゃうよ。」とデューが突き返す。
「ふっ、そうだな。・・・合流しなくてもアイラとシャナン王子は運命が生かしてくれるように思えてならないがな。」と一人つぶやくのであった。
潮風吹き抜ける大橋を渡る二人、国境の検問があるがすでにデューの手引きで憂いはなかった。
デューの仕事の良さにはホリンも驚かさせる。どのようにしてこんな事ができるのか聞いてみたところ、彼らは仲間達で出資しあってギルドを作り様々な地にネットワークが張り巡らせてあるそうだ。
その地の有力者や果ては国家の権力者などと繋がり、情報から資金融通、果ては暗殺までまで請け負う事もある。
そのギルドを使ってデューは本日の検問者に賄賂をすでに渡しているのだ。受け取った検問者から偽造の通行許可を発行してもらい、既に受け取っている。
検問で彼らは全く疑われる事なくグランベル国内に入り込み、アイラ達を捜索する行動を起こしていくのであった。
異大陸の武具はこれからも出てくる予定です。