ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
「アゼル、久々だな。」
久々に交えた挨拶は恭しくの挨拶ではなく年少の頃と同じように話しかけた、アゼルは笑みを絶やすことなくカルトに歩み寄り、握手を交わす。
「相変わらず、だね。変わってないようで安心した、と言いたいけどその髪の色はどうしたの?」
「ああ、苦労して白髪になったんだ。」
「またまた。それ白髪と言うか銀髪だよね、髪の色が途中で変わるなんて珍しいね。」
「まあ、そんなことはどうでもいいさ。それよりアゼルはどうなんだ?俺はこのとうりシレジアを出てぶらぶらしている。」
アゼルは以前と変わりなくその柔らかい物腰と優しさを備え、そして利発は少年のままであった。
「僕も変わらないさ、今は兄に変わってヴェルトマーを管理している。」
アゼルの表情が少し翳ったことをカルトは見過ごさなかった、彼は以前よりアルヴィスとの確執があったがやはりまだそれは埋められることはないようだ。
アゼルと会うことができたのはエスニャと出会い、文を渡してから二日後であった。
翌日にエスニャの姉であるティルテュがアゼルに文が渡り、翌日にカルトに会う為にわざわざエスニャと出会った場所までティルテュと共に出張って来てくれたのだ。
この二日間連絡待ちも兼ねてエスニャの魔法指導をしていたのだが予想以上に早く、さらに本人がここまで来てくれるとは思わなかったのでカルトも流石に驚き、そして嬉しく思った。
「アルヴィスも健勝のようで何よりだ、奴に変わってということは奴はバーハラにずっと滞在しているのか?」
「うん、今はアズムール王の身辺警護に就いているよ。」
「そうか・・・アルヴィスはそこまで上り詰めたのか。・・・・・・アゼル率直に聞きたいんだがイザークによるダーナの侵攻時にメルゲンにいたのだが、メティオの魔法を見たんだ。あれはロートリッターによるものだよな。」
「・・・・・・うん、そうだよ。」
「いくらヴェルトマーが隣接しているとはいえ、精鋭をダーナに即時に送るとは考えにくい。イザークの動向は読めていたのか?」
カルトの実直な言葉にアゼルはさらに翳りを浮かばせる、重くなった唇をこじ開けるかのようにゆっくりと動かした。
「あの争乱の三日ほど前に、兄がヴェルトマーに突然帰って来たんだ。いつもは休暇でこちらに帰ってくるだけなのにあの日はヴェルトマーの戦力確認に帰還してきた。部隊の仕上がりの悪さに激昂した兄は、そのままヴェルトマー近郊で軍事訓練を実施すると言い出したんだ。」
「随分と唐突だな、ロートリッターを預かっていたアゼルとしては苦々しいな。」
「うん、僕の力不足が原因さ。文句は言えないよ・・・。」
「アゼル・・・。」
彼の落胆ぶりは予想以上であった、しかしながら彼は俺よりも若い・・・。
まだまだ成長する伸び代は大きいのだが、兄の能力の高さと比べるので自分自身を見失っているのだろう。
アルヴィスも不器用な所は以前と変わらないようでアゼルには悪いが少し微笑んでしまった。
「アゼル気にするな、俺だってお前の年だったら同じ結果になっていたさ。
残念ながら傍系の血と直径では生まれ持った能力が全然違ってしまう、俺もレヴィンとの差は歴然だよ。」
「じゃあ、僕はこれからも兄の期待に応えることはできないのかな。」
「言ったろ、生まれ持った能力だけで決まるわけではないさ。自分をよく知って個性の能力を見つけるんだ、俺の場合は、これだと思っている。」
カルトは腰に吊っている白銀の剣を見せる。カルトはレヴィンに劣る部分を剣で補い、剣で切り開こうと考えていたのだ。今となってはレヴィンに匹敵する能力を開花させてしまったので現在は保留となってしまったが諦める予定はない。
「俺も魔力はレヴィンに劣っていた、でも体格に恵まれた俺は魔法戦士として歩む事を選んだ。
アゼルにも違った能力があるんじゃないか?」
「そ、そんな・・・。僕には兄ほど魔力はないし、統率力もない。自分に見出せるものなんて。」
アゼルは下を向いてしまう。
「アゼル、そんな事はないよ。アゼルはとても優しくて、周りを気遣う心配りがあるわ!
確かに、目立ちにくいかれしれないけど・・・。私はそんなアゼルが好きよ。」
ティルテュが話に割り込んで彼を援護する、彼女の優しさとアゼルの優しさはグランベルの諸侯達にはない稀有なものだと思う。
しかし腐敗した宮廷体質はその優しさを飲み込こんで偽りと奸計の前に挫折し、人は人でない感情に染められてしまうのだ。おそらくアルヴィスは優しさを持つアゼルにはその影響をうけないように一人で宮廷の政を受けてきたのであろう、アゼルは変わらずにアルヴィスは相当その影響を受けてしまっているように思えるのだった。
ティルテュの失言で赤く染まってしまった彼女をとりあえず突っ込まないようにして話を続ける。
「アゼルには馬を操る能力があるじゃないか、体格はなくても馬上での戦闘能力を伸ばせば体格も関係ないんじゃないか。俺は魔法戦士だが、アゼルは魔法騎士を目指して見るのはどうだ?」
「魔法騎士?」
アゼルは自分を考え直す、確かにアゼルは乗馬の技術が素晴らしく体格が恵まれているようなら騎士を目指す選択もあった。自分の血筋で魔道士に固執するあまり見失っていた。
「そ、そうよ!アゼルには乗馬の技術があるわよ。機動力と魔法力を併せれば、アゼルにも活かせる能力があるわ。」ティルテュもその提案に賛成の意見を述べた。
「馬は魔法の発動に怯えるかもしれないが、訓練次第でなんとかなるかもしれん。どうだアゼル?一つ賭けてみる価値はありだぜ。」
カルトの提案にアゼルは一気に表情を引き締めた、決意の現れである。
「カルト、やってみるよ!今までにない事だけど先人の常識を超えてみせるよ。
ありがとう、カルト!」
アゼルの一つの成長をカルトとティルテュ、エスニャは多いに喜んだ。
いつの日か魔法騎士アゼルの誕生を待ち、その時にはこの大陸の不安分子を吹き飛ばす一つの光明になってくれることを望むのであった。
グランベルの首都、バーハラ城の中庭に一つの光が現れ不測の事態に衛兵が集まり出した。
その光の中より、四人の若者が現れる。
ヴェルトマーから転移したカルト、アゼル、ティルテュ、エスニャは衛兵の取り囲む中で堂々と正面玄関を無視して張り込んだのだ。
賊扱いにされてもおかしくないこの状況であるが、ヴェルトマーのアゼル公子とフリージのティルテュ公女とエスニャ公女の三名をしらない衛兵などいるはずもなく槍を構えていたが、即座に降ろされた。
衛兵隊長がアゼルの前に歩み寄った、顔は案の定険しいものである。
「アゼル公子、兄上が近衛の者であるが些か不躾な訪問であるな。その者はグランベルでない者と見受けるが、名乗って貰おう。」
「おいおい、いくら他国の者と見受けても自分自身名乗らない輩に名乗る必要はないな。」
挑発とも取れないその発言にアゼルですら一瞬動揺してしまった、敵国ではないにしても訪問手段も強引であるにも関わらず一歩もひかないカルトに場数を感じた。
「・・・・・・。失礼した、私は衛兵隊長のリカルドだ。」
「シレジア国、マイオス王弟の長兄カルトだ。よろしくな。」カルトはリカルドの手を拾い上げて無理矢理握手をする。明らかにリカルドの表情は凍り付いているがカルトのその読めない行動に戸惑い、飲まれて行く。
「リカルド隊長、申し訳ありません。
カルト公子は以前にここへ魔道士養成に滞在していたことがありまして移動に転移の魔法を使ったのです。本当は正門前に転移するつもりでしたが、記憶違いでここへ飛んできてしまったのです。
本当に申し訳ありませんでした。」
アゼルの詫びにリカルドは一応の納得はしたのか、溜飲を飲み込んだ。
「兄上はどちらにおられますか?」アゼルはリカルドに語りかける。
「今は自身の執政室におられます。よろしければ兵をやって面会の場を設けますが。」
「お願いします。」
グランベルの首都であるバーハラの城は途方もなく大きい、有事の際に各諸公とその主力部隊を抱えるくらいの規模はあるかと思われた。
現在のグランベルは隣国のイザークとの騒乱もあり各諸公が集まっているらしい、そんな中で大胆にも転移を行ったカルトの胆力には驚かせてくれた。
先程のアゼルの一言は嘘から出た一言である、カルトは始めから中庭に狙って転移したのだ。しかしながら成功するとは露とも思えず、成功した時のリスクを考えていなかった。
この大陸で複数人の人間を転移させるなんて離れ業を行うなんてカルト以外には思いつかないだろう。思いついたとしてもその膨大な魔力を一度に消費すれば足腰もたたないくらいに披露するはず、しかしカルトは息切れもへたり込む様子もなくリカルド隊長を言い負かすその大胆さには感服してしまった。
聖杖まで使いこなしているカルトに、以前とは全く違う人物に思える。性格こそはカルトそのものだが潜在能力の高さは、以前とは雲泥の差があるのだ。
それに彼のまとっている雰囲気は、兄達のような聖戦士の気概まであるように思える。
アゼルはカルトの言っていた、魔力の劣等感で魔法戦士を目指していたと言っていたが現在の所はどうなんだろうと思ってしまった。
「待たせたな、アゼルがバーハラに登城するとはどのような要件だ。」
アルヴィスは厳しくも口調は穏やかだ、この気難しい男は相変わらずのようでカルトは胸を撫でた。
「兄上、シレジアのカルト公子がお見えになられました。兄上に是非お会いしたいととの事でしたのでお連れしまた。」
「シレジアのカルト公子か、久々だな。しかし随分雰囲気が変わったな。」
「アルヴィス公は、変わらずで何よりだ。」
「カルト公子、積もる話はあるが今は有事である。できれば用件は速やかにお願いしたい。」
「では、駆け引きなしに言わせてもらう。アズムール王に謁見をお願いしたい。」
「断る。現在は有事である、例え信用できる者でも他国の者に王にお会いさせることはできない。」
アルヴィスの即答にカルトは少し顔を歪める、予想できたとは言えやはりここまで拒絶されると穏やかでいられなくなる。
「クルト王子にもお会いできないだろうか?」
「同様だ、今はお会いさせる訳にはいかぬ。」
「譲渡案はないのだろうか。」
「伝言か文でよければお伝えしよう、ただし検閲はさせてもらう。」
二人の言葉の攻防が鋭く続く、特にカルトの引かない姿勢に三名が気を揉んでいる。
カルトは王に会って何を伝えたいのか言ってくれない、おそらく王に伝えるまでは誰にも言わないつもりであろう。しかしアルヴィスは許すはずもなく水かけ論争に発展しつつあった。
「・・・アルヴィス、俺たちがいつも互い違いした時の解決方法でいこう。」
カルトとアルヴィスは頑固で一歩もひかない性格の為衝突は日常であった、能力の高い二人はよくいつもの方法で解決していたのだ。
「俺たちはあの頃と違っている、グランベルトして・・・。」
カルトの怒りはここで爆発した、机に拳を突き立てて天板を破壊する。派手な音と共に土台を残して崩れ去る。
「寝ぼけたか!アルヴィス!!
俺たちは以前、国の概念や利権を超えて話し合う場を作っていこうと誓ったじゃねえか!!貴族だけではない、みんなが住み良い世界を作る為にはどうすればいいかいつもはなしていただろう!」
カルトはアルヴィスに詰め寄り睨みつける、カルトはそれほどまでにアルヴィスを買っていた。
彼はハンデとも言える生い立ちに正面から受け止め、現在の地位まで登りつめたのだ。アゼルから聞いた話でカルトは自身の活躍のように喜び、讃えていた。
彼の言う誰もが住み良い世界の第一歩になると信じていたカルトの想いとアルヴィスの思惑に違いが生じていたことに誰よりも感じ、反発したのだ。
「カルト公子・・・。いいだろう君の言う方法で決着をつけよう、だが決行は明日だ。
明日の朝に決着次第で君の条件を聞こう。」
「そこで負けたのならすぐさま引き上げよう。後腐れなしだ。」
カルトの表情は崩れることはなく、怒気をはらんだまま答えた。対するアルヴィスは表情を崩す事はなかった。
「一体なに考えて入るのさ!兄上と勝負だなんて!」
アゼルの叱責にカルトは下を向いて反省のポーズであった。カルト自身こんな結末など考えてはいなかった。
アルヴィスの言葉に熱くなり、つい言ってしまった短絡的な物だった。そんな言葉に過剰に反応してしまった自分自身も驚いている。
「すまん、アゼルつい売り言葉を買ってしまった。
しかしながらチャンスはできたじゃないか。」
「兄上と一対一で勝てた人はここ数年では見たことないよ、それもほとんど3分もかからないんだよ。」
「本当か!あいつそんなに強いのか。」
「兄上はもともと魔力が強い上に、ファラフレイムを受け継いでからは負けなしだよ。
カルトも聖戦士の神器の力は威力だけじゃない事くらいは知ってるでしょ。」
そう、聖戦士直系のみが扱える神器を持つと身体能力も向上する。
シレジアのフォルセティを受け継いだ聖戦士は疾風のごとき速さを持っていた。
それはもう人の限界を超えた動きであり通常の物では到底辿り着くことはできない領域である。
「兄上の魔力と魔法防御能力の前に打ち勝てる人はこのグランベルではいないと思うよ。」
「そうか、まあ勝負は時の運!
短時間で相手の力量を押さえ込んで、自身の力を最大限に活かせば勝機もあるさ。」
「でも、カルトはどうしてもアズムール王にお会いしたいのでしょう。勝てなきゃ会えないわよ。」
ティルテュは髪をいじりながら話に割り込む、彼女はどうも難しい話は苦手らしい。エスニャに関してはアルヴィスに啖呵を切ってからオロオロしっ放しで状況に追いつかず頭が真っ白になっていた。
「ん、ああ!どうしても会いたいが、会えないこともまた運命かもな。その時はその時さ、今はまたアルヴィス と手合わせできる事を感謝するよ。」
「男の人の考えることはいまいち解らないわ。」ティルテュも話はいいとばかりにエスニャの隣に座って居眠りを始める。
「カルト、君と一緒に連れてきた子はヴェルトマーで預かってはいるがあの子は一体?」
「戦災孤児でな、しばらく預かっているのだがどこかにいい環境があればそこで過ごしてもらおうと想っているのだ。」
「あの子、髪を隠してはいるがイザークの子供だよね。」
「ああ、ここにはさすがに連れてこれなかったからな。少しだけ申し訳ないが頼む。」
「わかった、でもこの動乱はまだまだ大きくなりそうだからこれが済んだらすぐにグランベルからでたほうがいいよ。」
「ああ、気を使わせてすまない。」
アゼルもあまり言いたくないだろう、自身の保身ではなくカルトとマリアンの身の保証を心配してくれているアゼルに感謝するのみだった。
カルトはアルヴィスに勝てるのか!
次回に続きます。