ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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終局

レヴィンの私室で、名残惜しく最期の言葉をかたったカルトはバルコニーにいたウェンディは、ファルコンの姿に変わると背中に乗るように促す。

フュリーは先に乗り、待つ事にした。

 

「カルト様!行かないで・・・ 、お願い!」エスニャとアミッドは背中に抱きつく。

 

「エスニャ、アミッド・・・ 。許してくれ、俺は・・・。」

 

「なら!私も・・・ 。」

「駄目だ!」

カルトは声を荒げて静止する。

 

「頼む・・・ 、ここで別れさせてくれ・・・。

お前達に、俺の無残な最期は見せたくない。

俺の中のロプトウスが、はらわたから食らい出てくるように暴れている。抑え込んでいられるのも時間の問題なんだ。」

 

エスニャの額に唇を当て、アミッドを一時抱き上げる。

 

「これで、最後だ。エスニャ・・・ 、短い間だったが、楽しかった。俺に家族のぬくもりを与えてくれたのは間違いなくお前だった。」

 

「わ、私も!カルト様と家族になれて楽しかった。

まだ、生まれ変わってもカルト様を見つけて、家族になります。」

ティルテュもマーニャも涙し、カルトを見送った。

 

 

「フュリー、ありがとう。・・・では、頼む。」

 

「・・・・・・うん。」ウェンディにそっと触れると空に舞い上がる。

 

ウェンディはバルコニーを2度、3度と旋回すると、シレジアから北の森林へ飛び立つ・・・。

 

 

 

「がはっ!・・・ごほっ!ごほっ!・・・ぐああああ!!」カルトは吐血し、ウェンディの体躯を赤く染める。

身体の中のロプトウスが暴れまわる中、カルトは必死に耐え家族との最期の会話をしていたのだ。命尽きようとしているカルトに無情に襲うロプトウス・・・、フュリーは怒りと恐怖を同時に覚える。

 

「カルト!すぐだからね!!すぐに、楽にしてあげるわ!」フュリーは涙を流し続けていた。

カルトと同じくらい、フュリーは涙を耐え家族への時間をできるだけ長く過ごさせる為に己を殺していた。

 

「はあ、はあ・・・。すまない、フュリー・・・。」

 

「いいの・・・、今はカルトを早く楽にしてあげたい。だから、ごめんね。」

 

「楽に、死なん・・・、俺には大事な最期の仕事がある。」

 

「まだ、なにかするの?・・・もうやめて!あなたがこれ以上苦しんでいる姿は見たくない!後は、私達に任せて眠って・・・、お願い・・・。」

 

「フュリー・・・、お前の気持ちは有り難い。

しかし、シグルドに託されたこの仕事をやり遂げなければ、俺の人生は完結出来ない。

俺が出会ったすべての人達の安寧を願い、ロプトウスの書を俺の魂ごと封印せねば、終われない・・・ 。」

 

「封印?・・・魂ごと?・・・やめて!あなたの魂も封印したら、あなたはエスニャの言う生まれ変わる事も出来ずに永遠に彷徨うことになるのよ!!・・・ううん、もしかしたら魂自身が消滅する事もあるのよ!」

 

「死後の世界なんて、あるかどうかもわからない物を俺は信じない。大事なのは、今であり、未来だ・・・。」

 

「そんな・・・。」

 

「そこだ!ウェンディ、そこに降ろしてくれ。」カルトが指差した場所はシレジア北東部の山頂に近い、森だった。

フュリーはその場所に覚えがある。

 

あれはアグストリアからカルトの転移で一人戻された時、カルトのお気に入りの場所に送ってくれた。

雪が融け、暖かい頃に鮮やかな花が咲き乱れ、一時の時間で舞い落ちる異国の木・・・。

フュリーはその光景を思い出し、懐かしむ・・・ 。

 

「俺は、この地でロプトウスを封印する。」カルトは降り立つと、すぐさま魔法の準備に入る。

 

魔法陣が浮かぶと、木を中心として展開しカルトは最期の魔力を放つ。

髪が再び、金色となりロプトウスの力を抑え込みヘイムの力が勝りだした。

 

「おおおおお!」カルトの中のロプトウスが暴れて抵抗するが、カルトの最後の魔力に押さえつけられる。

 

カルトのやけどの体から血が吹き出す、食いしばる歯が欠けて足元に転がる。髪は逆立ち、目から血が涙のように垂れ始める。  

 

「はああああ!」さらに魔力を上げる。

あたりは金色に染まり、強力な魔力が雪を排斥しだした。

 

「す、すごい・・・。」フュリーはそのあまりの天変地異に驚くが、ウェンディは目を細めて顔をしかめる。

 

「たりんな・・・ 。」

 

「えっ?」ウェンディのこぼす一言、フュリーは理解出来なかったがすぐ様それは現象となり現れた。

 

カルトの髪はもとのくすんだ栗色に戻りつつあった。

魔力は衰えだし、カルトの苦痛に歪む。

 

「駄目か・・・。」

 

「そんな・・・、あれだけの魔力でもおさえられないの?

カルト!」

輝く魔法陣はみるみるうちに歪み、黒く侵食を始める。ロプトウスがカルトを媒介にむりやり外に出ようとしているようである。

地獄の入り口が見えるかのような禍々しく変わり、カルトの周囲が黒い沼に変わるかのように瘴気が溢れ出す。

 

「くっ!くそ!!俺の、最期の魔法が・・・。」

 

「カルト!」フュリーの悲鳴に近い絶叫が飛び、カルトを救わんと走り出す。

 

「フュリー!来るな!!」

フュリーは制止も聞かなかった。今までカルトの言う事には聞いていたフュリー、最後の最後で彼女は意思の強い目を持ち走る。

 

「よっと!」ウェンディはフュリーの足を払い、転倒させる。 2回転し、地面に顔から突っ込む。

 

「ウェンディ!・・・何を、するつもり?」

立ち上がるとウェンディはカルトの横にいた、カルトの頭に触れ魔力を放出させて崩れた魔法陣を再構築する。

 

「私の未来、見えていたのだよ。

私は、ヘイムの末裔と共にする。」

 

「そ、そんな・・・。ウェンディ、あなたまで失うなんて・・・ 。」

 

「安心しろ、私がカルトを守ってやる。私の魂は人間とは比べ物にならないくらい強い。いつか、現世にカルトと共に戻れるように努力しよう。」

 

「ウェンディ・・・ 。」涙するフュリーにウェンディは申し訳なさそうにして、笑う。

 

「フュリー・・・、お前が私を外に連れ出して見えた未来だ。 お前が私を配下に置かなかったら、カルトは確実に救えなかっただろう・・・。

これはお前の功績だ・・・。だから胸を張れ!俯くな!進め!」

ウェンディの励ましがフュリーを立ち上がらせる、涙を拭き目に力が戻る。

ウェンディは一つ頷くと、笑顔を見せる。

 

「さあ、フュリー・・・もういけ。そしてこの地を護ってくれ。

ロプト教団はいづれこの地を嗅ぎつけて封印を時にやってくる、これからはお前たちが私達を守ってくれ。」カルトはそう言って目を閉じる。

 

「さあ、行こうかヘイムの末裔、お前と運命を共にするのも一興。」

 

「ああ・・・。「さらばだ、フュリー・・・ 。」」

 

二人の言葉が合わさり、白い光の爆発が夜を昼に変える。

フュリーはその閃光に目が眩み、しばらく開ける事が出来なかった。

 

「カルトー!ウェンディ!!」フュリーの呼びかけに応じる気配はない。目が開かず、手探りに辺りを歩んでも静寂に戻ったこの地はどうなってしまったのか逸る気持ちを抑えながらゆっくり歩んだ。

 

不意に、顔に何かが張り付く感覚、そっとそれを手に取り目を開ける。

そこには、あの鮮やかな色の花びらが一枚、フュリーの掌に乗っていた。

 

「えっ!まさか!」フュリーはカルトとウェンディのいた木を見つけて見上げるも、花は咲いてもいないし、新緑もない。

今から厳しい冬を迎えるこの時期に花など咲くわけがない、不思議と思いつつフュリーは花びらをそっとしまった。

夜が終わりを迎え、眩しい朝日が登り始める。その朝日が凍った空気中の水分を乱反射させたのだ、あたり一面がキラキラと輝きまるでこの日を祝福するかのようであった。

 

「カルトとウェンディの仕業ね、これは・・・ 。」木に語りかけ、輝く空の中で笑うフュリーだった。

 

「花が咲いたら、会いに来るね。」そっとそう言い、この地を後にするのであった。

 

 

 

こうして異端の英雄、カルトはその数奇な生涯を終えた・・・。

ロプトウスの書を封印した事により、史実とは大きな変化となった。復活が遅れ、各地に改変した国々が打倒アルヴィスとなり大きなうねりを生んでいく・・・ 。

だが、それでも尚、運命の扉は徐々に、徐々に開いていく事になる。




長きに渡り見てくださった方々、ありがとうございます。
今回で、親世代の最終回となります。
色々考えた結果、ここまでを上巻とし、子世代を下巻として再出発予定です。

しばらくは完結とせず、補完する内容があれは親世代に話を追加したりしながら子世代を描く予定です。

よろしければ下巻でもお付き合いしてくださいますと幸いです。

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