ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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竜族

月明かり、少し眠っていたが急速に冷える空気と新鮮な空気を吸い込み覚醒する。

ウェンディの羽毛に包まれて寒さはなかったが頭部を露出していたので意識を取り戻した。

 

「うっ!つううー!」覚醒するなり体中の火傷が疼きだした。

眼下にはシレジアの、雪に包まれた白い大地が広がっていた。

 

「シレジアはもう雪景色か・・・ 、ついこの間までここにいたのにな・・・。」

 

「む!目が覚めたか、・・・よく生きていたな。」

 

「お前の羽毛が俺の体温を保ってくれていたからな、助かるよ。」カルトは包まって有り難る。

 

「それより、わかったか?シレジアに帰還させた訳が・・・。」

 

「多分、約束の事だろ?」カルトの少し自身のない返答にウェンディは満足する。

 

「わかっているじゃないか、なら言うことはない。急ぐぞ!」ウェンディは一層速度を上げると、カルトは振り落とされないように羽毛の一つを掴んで体を埋もれさせた。

 

「はあ・・・、はあ・・・。」時間が経っても体はまるで良くならない、命の灯火は終わりを迎えようとしている・・・。

ここまでよく持ってくれた。ここまで来たら、シグルドの言う最後の仕事まで完遂したい、その思いで繋いでいた・・・。

それとあと一つ・・・、ウエンディの言う約束も・・・。

本日のシレジアは夕方まで降った雪が止み、満月が闇夜を照らす白銀の世界であった。風もなく、気温は低いが体感温度はさほど厳しいものではない。

なにより、火傷で疼く痛みが緩和されるように感じた。

 

「・・・・・・帰っても、俺は・・・。」クロードのバルキリーの杖がない以上、カルトを救う術はない。

マーニャを救う事でバルキリーの杖は失われている、それにクロード神父もおそらく・・・。懐にあるロザリオ取り出して握りしめる。

 

「みんな、済まない・・・。シグルドを救えなかった・・・。くそっ!」

 

「・・・お前はよくやった。お前がいなければロプト教団の真実も知らずにバルドの末裔は殺されておっただろう、卑下する事ではない。」

 

「お前に何がわかる!」カルトはウェンディの言葉につい激昂する、すぐに顔を下に向けて謝罪の言葉を投げかける。

 

「あんな戦いの後だ。ましてお前はもう死ぬ身、気持ちが安定しない事は承知の上だ。

私にも見えるのだ、未来が・・・。」

 

「ウェンディ、君は一体・・・。」

 

「お前こそ失礼だぞ。私はエルダーファルコン、ヴェルダンでは神獣と讃えられ、この大陸では誰よりも年上なのだ。

・・・私はかつてこの大陸ではない地で生まれ、ここに連行された。

飛竜も、ペガサスも、ファルコンも・・・。ガレに捕らえられてこの大陸に連れてこられた。」

 

「な、何だと・・・。」

 

「我らは奴の戦力として連れてこられた。もっとも従う義理はないから従属した奴が死んだ時に野に帰り、この大陸で住みよい場所を探して繁殖した。」

 

「なら、お前は先の聖戦の生き証人なのか・・・。」

 

「ああ・・・。全てとは言わんが、大体の事は・・・。ダーナの奇跡から、神々の存在までな。」

 

「教えてくれ!聖戦とはなんなんだ?ロプトウスと聖戦士は何故生まれたんだ?」

 

「お前は、どう思う?自分なりに調べたのだろ?」

 

「神々の系譜、それはダーナの奇跡で与えられた血が脈々と受け継がれ、神器を持つ為に与えられた力、それはロプトウスを滅ぼす為。そこまでは理解できる、だがその厄災の中心であるロプトウスは何故産まれた!突然そのような力を持つガレが表舞台に現れた、そこが全くわからない。」

 

「そうだろうな、この大陸で起こった事は伝承に残っているだろうが、あの大陸で起こった事が理解できなければまるで意味がわからないだろうな・・・。」

 

「あの大陸?ウェンディが住んでいた大陸の事か?」

 

「・・・ ガレはこの大陸の者だ。何らかの理由で我らの大陸に渡り暗黒竜と地の契約を交わし、力を得た。」

 

「竜の力?」

 

「君と同じ、竜の力だ。」

 

「ロプトウスと、ナーガが?」

 

「そうだ。ナーガとロプトウスは心の力を源に発揮する魔法、ただしロプトウスは負の力を源にするがな・・・。」

 

「そんな・・・。」

 

「暗黒竜ロプトウスは、ガレの計画に乗ったのだ。

・・・ガレは狡猾な男だった。古代竜族は種としての限界を迎えつつあり滅びを迎えていた、その滅びゆく竜たちはその力と凶暴性を竜石に封じ込めて人以下の存在となって生き延びるか、理性を失い野獣として生きるか・・・。どちらにしても種としていつは滅びる運命を辿っていた。

ガレは、その滅びゆく暗黒竜と取引した・・・。」

 

「それが、血の契約・・・ 。」

 

「そうだ・・・、その血を受け入れたガレは人を超越した。

そして、滅びゆくロプトウスの一族を救うべく計画に移そうとした。・・・恐ろしい計画を・・・。」

 

「一体・・・、何が?」

 

「この大陸を制覇した後、人々を絶望に支配させロプトウスをこの地に召喚する事だ。」

 

「な!なに!!」

 

「ロプトウスは負の感情の象徴。この地を絶望で覆い、ロプトウスを召喚させてナーガの支配が及ばないこの地で自身の勢力を伸ばそうとした。」

 

「・・・・・・想像を超えるな。」

 

「どのような形でこの地に召喚しようとしているのか、それはわからん。だが、この計画だけは確かだ・・・。

私には人の事には興味がない・・・。だが、私の大陸の厄災をこの地に負債を負わせる事は我慢がならん・・・。

ナーガの末裔であるお前の答えを聞きたい、その上で私が出来る事があれば協力は惜しまぬ。」

 

カルトは目を閉じる・・・。命燃え尽きるこの最後で、聖戦の核心に迫る情報にカルトは体内に眠るロプトウスの書の始末を考える。

シグルドの言う最後の仕事、しくじるわけにはいかなかった・・・。

意を決したカルトは顔を上げる、その顔には全てを達観し出した結論だった。

 

 

 

「やはり・・・か・・・。」レヴィンは肩を落として、報告に項垂れる。バーハラの戦いでシグルドが戦死した訃報を諜報員からの伝令を聞き、落胆を隠せない。

フュリーとマーニャ、エスニャとティルテュ姉妹もその報告に登城し涙する。

 

「アゼル・・・、嘘よね・・・。アゼル・・・。」

 

「カルト様は!カルト様はどうなったのです!」エスニャは夫の報告を聞きたくて前のめりになっていた。

 

「カルト公は行方不明だそうです・・・。ただ、かなりの傷を負っているそうで・・・。」シレジアの少年魔道士が答えづらそうに報告書を記載を辿る。

 

「ああ・・・、カルト様・・・。」

 

「グランベルから各国の通達によりますと、この度のバーハラの戦いにて反逆者が逃げ込んだ時は引き渡すよう来ています。」

 

「グランベルめ・・・、たった2日でここまで手を回してくるとは・・・。

ティルテュ、エスニャ・・・。君たちは気にするな、今まで通りこの地で静養してくれ。敗走兵は残念ながら表立って匿う事は出来ないが、君たちは初めからバーハラに行軍していない。範疇外と思っていてくれ・・・。」

 

「あ、ありがとうございます・・・。」エスニャは呆然とするティルテュを庇い、礼を入れる。

 

「フュリー、今日は二人を泊める。寝室の準備を頼んでおいてくれ・・・。」

 

「はい、わかりました。」

 

「い、いえ!そんなお気遣いを・・・。私たちは城下の宿舎に・・・。」

 

「気にするな、今君たちの子供を乳母たちが上で世話しているんだ。

ここで泊まった方が早い。・・・それにフュリーも喜ぶだろう。」

 

「ティルテュ様、エスニャ様・・・、今日はご一緒して下さい。

ウエンディもどこかへ出かけてしまって寂しいです・・・。お願いします。」深々と頭を下げるフュリーに二人は同意する。

 

「フュリー、俺はここでこの件の処理をしている。

そちらにはいかぬから、気兼ねなくくつろいくれ・・・。

お前も、深夜に火急の報告ご苦労だった、休んでくれ。

 

「はっ!ではこれで失礼致します。」少年魔道士は早々と退席すると、レヴィンは一人残されて山積みの書類に目を通す。

 

机の上にある、オレンジカクテルに手を伸ばす。

カルトが気に入り、よく愛飲していたこのカクテル・・・。レヴィンもすっかり気に入り、喉に流し込んだ。

 

「バカヤロウ・・・。」私室からバルコニーの外に見える月を見上げる、白銀に反射する冷たい月の光が、辺りを驚くくらいに明るく照らしていた。

 

「今日のオレンジは・・・、目にしみやがる・・・。」果実を絞る容器を壁に投げつけるとその場で崩れるように座り込み、レヴィンは膝を抱えて項垂れた・・・。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

いつの間に眠っていたレヴィン、不意に髪が風になびき冷たい風が頬を撫でた。

 

「う・・・、いかんな。眠っていたか・・・。」隙間風に起こされたレヴィンは、バルコニーの出入り口の窓に手をかけた時、そこに血だらけになり壁にもたれて立っているのがやっとのカルトと再会する。

 

「カルト!!」

 

「・・・よお、レヴィン。」そのまま崩れるように倒れるカルトを抱いて抱きしめるレヴィン、あたりの雪はカルトの地で染まり広がっていく・・・。すぐさまレヴィンはリライブを使うが、カルトがその手を止める。

 

「いいんだ・・・。俺はもう朝日を見ることができないだろう・・・。」カルトの言葉にレヴィンは声を張り上げる。

 

「バカヤロウ!なぜ帰ってきた!!シグルドと運命を共にしなかった!!・・・ここに帰ってきたら、お前を重罪人として罰せねばならないだろうが!!」

 

「俺には、まだ仕事がある。それが終われば、好きにすればいい・・・。レヴィン、頼む・・・。エスニャに、伝言を・・・。」

 

「大事な事はお前自身が話せ!エスニャも、お前の子供達もここにいる!誰か、誰かおらぬか!!」レヴィンは慌ただしくあたりの者に対して声を張り上げた。

 

 

「エスニャ様!カルト様が帰ってこられました!!すぐレヴィン様の私室へ!!」フュリーはレヴィンから伝心を受けてエスニャを私室に戻らせる。知らせを受けた3人はすぐ様レヴィンの私室へなだれ込むが、レヴィンが制止する。

 

「・・・カルトはもう助からない。

皆、心して面会せよ。」レヴィンの言葉に4人は涙を流す。

 

「泣いてる時間はない!心して話せ・・・、時間が惜しい。」レヴィンの喝に4人は軍の妻の顔になり、その扉を開いた。

カルトは、バルコニーの壁にもたれゆっくりと顔を上げると、笑顔する。

 

「エスニャ・・・。ティルテュ、フュリー、マーニャ・・・。」

 

「あ、あなた・・・。激務、お疲れ様でした!」エスニャは一礼すると、二人もそれに倣う。

 

「・・・レプトールは、シグルドが倒した。エスニャの伝言、確かに伝えた。」

 

「うん、・・・うん・・・。」

 

「アゼルは・・・、立派に勤めを果たした・・・。アゼルがいなかったら、全滅したかもしれない・・・。あいつは正義を守り通した・・・。」

 

「カルト様・・・、ありがとう・・・ございます!」ティルテュは泣き崩れる。

 

「クロード神父は、最後まで、運命を抗った。俺に・・・ナーガの書を届けてくれた。」カルトはロザリオをマーニャに手渡しながら伝える、カルトはクロードの最期は見ていないが感づいておりありのままをマーニャに伝える。

 

「カルト公、ご配慮・・・。ありがとうございます。」マーニャの覚悟は相当な物で気丈に振る舞う、フュリーを気遣っている様が痛々しく伝わった。

 

「カルト、あなたも立派に役目を果たされたのですね。お疲れ様でした。」フュリーも涙ながらに再度一礼する。

 

「ああ・・・。エスニャ、子供は?・・・生まれたんだろう?」

 

「はい!見てください・・・。あなたの言う通り、女の子です。

・・・名前はカルト様がつけてくださると信じて、まだつけてません!是非、この子の為に名を・・・お願いします!」エスニャはカルトに抱かせるとカルトは穏やかにその寝息を立てる愛娘を愛おしく見つめる。

 

「・・・・・・リンダ。この国の言葉の意味は、・・・希望の光。

この子は、きっとこの大陸に光をもたらす。

・・・リンダ、お前にはこの魔道書を。」カルトは懐からオーラの魔道書を添える。

 

「アミッド・・・、いるんだろう?出てきなさい。」カルトはさらに後ろからこちらを見ているアミッドに声をかける。

 

「アミッド!いつからそこに?」エスニャは振り返り驚く。

 

「ちちうえ!ごめんない!!だいじなおはなしちゅう!」走り出てきて一礼する、カルトはアミッドをリンダと共に抱き寄せて笑う。

 

「いいんだ・・・、アミッドもよく頑張ったな。

お前にはこの剣とサークレット、それとこの本をやろう。」

 

「ちちうえ?これは・・・。」

 

「エクスカリバーの書だ。俺の・・・、オリジナルだぞ・・・。

最近、ようやく完成した本だ・・・。受け取れ。」

 

「あ、ありがとうございます!・・・ちちうえー!!」アミッドは胸にすがりつくと堰を切ったように泣き出した、我慢が限界を迎えたのだろう・・・。

 

「カルト・・・。酷なようだが、お前は重罪人だ。

1回目の無断出国は叔父上たちの謀反阻止で不問としたが、今回は違う。同盟国への謀反者シグルドに同行し、二度目の無断出国。それも公務を預かる身でだ・・・。

お前に言い渡す処分は、死罪。・・・わかるな?」

 

「そ、そんな!レヴィン様、お考え直しを!この体では長くは持ちません、残りの命だけでも全うさせてあげて下さい!!」フュリーが制止するもレヴィンは首を横に降る。

 

「駄目だ!・・・残り少なくても、お前は我が国の罪をうけなければならない。この意味、わかるな?」

 

「・・・ああ、俺はどこで最後を迎えればいい?

斬首台か?それとも吊るし台か?」

 

「・・・お前には功績がある、そのような適応しない。

このシレジア国内で、自害を申付ける。好きな場所で始末を付けろ。

見届け人は、フュリーとウエンディ。お前達に任せていいか?」

レヴィンはバルコニーの外に語りかけると、白髪の少女が歩み出て承認する。フュリーは混乱しているが、ウエンディに促されて一礼する。

 

「執行は今日の朝までに行う事、それまではフュリーとウエンディの監視下の元で、自由とする。」

 

「レヴィン王、・・・あなたのご配慮に感謝いたします。

セイレーン公カルト、見事明朝までに立派な最後をお見せします!」

 

「っ・・・!

・・・以上とする!カルト、すまなかった・・・。」カルトの手をレヴィンは握りその目を見る。手の温度はまるでないが、命つきかけているにも関わらず輝きはまだ失っていない。レヴィンの顔は見る見るうちにくしゃくしゃになる。

 

「さらばだ、親友・・・。」そういうと、レヴィンは退室する。

残された者達は、その部屋で嗚咽と悲鳴で、木霊した・・・。


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