ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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道筋

「カルト、すまない。・・・こんな局面で君一人に任せてしまい、許してくれ。」聖剣を握り直し、再び一閃するとファラフレイムの炎は両断され太陽の色の炎は夕焼けの陽炎と溶け合うように消えていった。

 

「はあ、はあ・・・。シグルドめ・・・!!」さすがのアルヴィスも連発した大魔法に続き、ファラフレイムまで凌がれてしまい疲労がピークを迎えた。追撃は出来ず、荒い息を整えていた。それは瀕死で立ち上がる事ができないカルトも、失血からの意識低下から復帰したシグルドも、カルトを助ける事で精一杯だった。

3人はすでに限界を超えている・・・、誰が終いの一撃を初めに入れられるかにまで終幕が近づいてきていた。

 

「シグルド・・・、ありがとう。

お前は約束通り・・・。いや、それ以上に俺の両親すら救ってくれた・・・。礼を言うのは俺の方だ。」

 

「ならば、礼はこの後・・・。美味いワインをご馳走してもらおう。」少し笑うと、崩れた膝を叱咤してシグルドは立つ。

 

「シレジアの、・・・あの店を押さえておこう。」カルトは上体を起こしていく・・・。

 

「まだ立つか・・・、いいだろう。二人まとめて灰にしてやる!」アルヴィスもふらつく足に力を入れて魔力を込める。

 

「来い!アルヴィス!!」シグルドは気力で剣を構えるが、多量の失血でさっきの一撃が渾身だった・・・。目だけは強い光は発しているが力はまるで入ってない・・・。

 

「シグルド・・・、傷は癒えたが失われた血液までは戻ってない。無理はするな・・・。」カルトは必死に立ち上がろうとするが未だに回復が進まない、通常の人間ならとっくに死んでいいほどの火傷を負っていた。

 

アルヴィスがエルファイアーを使用する。シグルドは瞬間的に力を使い、そのエルファイアーを振り払う。

 

「カルト・・・。お前は以前エスリンを助けるために自身の血液を分け与えたそうだな、その後も戦い続けたと聞いた。君の戦いを聞いて私がへこたれているわけにはいかない。」

そう言うとシグルドはアルヴィスに走る、アルヴィスはファイアーを連続に飛ばして距離に対しての牽制を行うがシグルドは止まらない。

そのまま間合いにまで入ると袈裟懸けに切りつける。

アルヴィスは腰にある小剣でティルフィングを受けて流した。

 

「まだまだ!」シグルドは連続攻撃でアルヴィスに魔法を使わせない。

 

「アルヴィスめ、・・・シレジアの剣技を・・・。くっ!回復してくれ!!」カルトは必死にリカバーを使うが光が弱い、ヘイムの力を奪われて聖杖の力も弱まっていた。

必死に立ち上がろうとするが火傷のダメージは深く、カルトの変化した魔力では到底癒せない。それどころか命を保つだけで精一杯だった、それでもなお立ち上がろうとする気力がある事が驚きである。

 

シグルドがアルヴィスの小剣を砕く、カルトのように剣を砕かれずに捌き切れる魔道士などほぼいないだろう。アルヴィスの付け焼き刃ではすぐにその結果として出る。

 

砕かれたアルヴィスはそのまま切りつけられて倒れるが、すぐさま立ち上がる。剣がティルフィングの威力を弱めたので致命傷に至らない、起き上がり様にエルファイアーをくらいシグルドは吹き飛んだ。

 

転がるシグルドをカルトは上体を起き上がり、彼を止める。カルトごと数メートル転がると静止し、シグルドにリライブを当てる。

 

「シグルド!しっかりしろ!」

 

「・・・大丈夫だ、まだまだ。」シグルドは立ち上がってアルヴィスを見る、アルヴィスは回復を始めていてあちらもすぐには動けないようだった。

 

「シグルド、逃げるんだ。アルヴィスもあれだけ手傷を負っていたらここから逃げ切れる。・・・あとは俺が引き受ける。」小声でシグルドに語るカルトにシグルドも応える。

 

「・・・いや、ここから逃げても。この戦場からは逃げきれんさ、私も、カルトもな・・・。」

 

「・・・最後まで戦うか?」

 

「私は、な・・・。逃げるのはカルト、君だ・・・。」

 

「な、何を言う・・・。俺は何があってもここから引くわけには・・・。」

 

「残念だが、クロード神父の運命は確実に進んでいる。

・・・その中で、最善を尽くすなら。・・・カルト、君がロプトウスの書を持って逃げ切ることだ。

カギの一つが揃わなければ、復活にはならない。」

 

「・・・しかし!お前は、諦めるのか?ディアドラの事を・・・。」

 

「諦めはしない、アルヴィスは刺し違えても私が倒すつもりだ、だが神父の言葉を無視できない。・・・ならばカルトを逃す事が今できる最大の抵抗だと思ってな・・・。」シグルドの顔はひどく穏やかだった。失血で意識もはっきりしているかわからない、余裕などどこにもないのに・・・。それでも彼はいつもの様に凛々しく、清らかに、カルトと戦略を練っていた。

 

「・・・どのみちヘイムの力を封印された俺には転移魔法を使う力はない、魔力も尽きてきている。

逃げきれぬようなら、残りの魔力を爆発させてアルヴィスにぶつけてやる。」カルトは起き上がろうとするが、シグルドは肩を抑えて地に戻す。

 

「その力は温存してくれ・・・、君にはまだ大事な仕事が残っているはずだ・・・。脱出する機会はじきにくる、私を信じて待ってくれ。」

 

「それは、どう言う事だ?・・・シグルド!」カルトは手を伸ばすが、シグルドは前へ進む。一度振り返ったシグルドの顔は再び穏やかな笑みを向けていた。

 

「シグルドー!!」カルトも追いたかった、必死に力を入れるがシグルドの最後の一言がのしかかり動けない。

 

力を温存、一体何のために・・・。

その自問自答に、シグルドの言いたかった言葉が可能性となって頭に浮かぶ・・・。

その可能性を知ったカルトは、力を入れる事をやめ、二人の結末を祈る事にした。

 

「シグルド・・・。」

「アルヴィス・・・。」二人は沈黙する。

互いに言いたい事があるが、どちらかの命が消える・・・。邪魔者が消える以上語る事など無用、無駄な会話は動揺を誘われかねない。

その思考が成立していた・・・。目が訴え、体が動くのを待つ・・・。

 

シグルドはティルフィングを構える、胸元まで腕を畳み剣先はアルヴィスへ・・・。上体を低く構えて利き足を後ろへ目一杯引いた。

 

「捨て身か・・・。」アルヴィスは呟く、聖剣の力と自身の突進力からくる一点突破の突き技。決まれば必殺であるが体は完全に無防備、躱されてもアルヴィスには遠距離攻撃ができる魔法のカウンターになすすべがない。

 

「・・・失望したぞ、シグルド。

いくら私が手傷を負っていても、正面からなら躱すくらいなんとでもできる。カルトの入れ知恵がなければお前は無能だったのか?」

 

「・・・聖剣はお前には破れない、それを証明しよう。」シグルドはさらに引いた利き足に力を入れる。・・・外す事など考えない、どのみち躱されたら再び力を入れる事は出来ないほどシグルドは消耗している。

 

「本気だな・・・。」アルヴィスは残された魔力を絞り出す。彼もかなり魔力が落ちてきているが、ここで出し惜しみなどできない。

魔力を最大限に開放し、迎撃態勢を取った。

 

「いくぞ!」シグルドは大地を蹴り上げる、踏みしめられた地は大きくえぐれて宙を舞う。恐ろしいほどの初速がアルヴィスの間合いを侵略するが、十分引きつけたところでアルヴィスの魔法が飛ぶ。

 

「ボルガノン!」シグルド前方の地が割れて炎が飛び出すがシグルドは速度を落とさない、そのまま炎に巻き込まれる。

アルヴィスも油断せず第2撃を準備する、案の定シグルドは突き抜けて初速から加速されてアルヴィスに迫った。

 

「馬鹿め!」アルヴィスは半身をずらしてシグルドの剣先を躱すと、凄まじい風圧と共にシグルドが過ぎ去った。

そこにアルヴィスのファラフレイムが発動した。

 

太陽のような色の炎が出現し、シグルドに向けて発動した瞬間。

アルヴィスの体が、袈裟斬りに、左肩から腹部まで深く傷ついた。

アルヴィスは吐血し、片膝をつく。

 

「ば、ばかな。なぜ・・?」

 

ファラフレイムに襲われるシグルドを見ると、彼の左手にはもう一本の剣が持たれていた。それは先ほどの戦いで見たカルトのエクスカリバーを実体させた刃・・・。シグルドはそれを持ち、躱されたティルフィングの突きを躱された後にアルヴィスへ斬りつけた。

エクスカリバーは振りかざすと真空の刃を飛ばす、先ほどのカルトが黒炎を斬った現象を思い出した。

ファラフレイムが直撃し、シグルドの体を焼く中・・・。

 

「私の聖剣は一本ではない。父上と、カルトから授かった聖剣の痛み、人生の最後まで刻んでおけ。」アルヴィスはその言葉を聞くとそのまま崩れるように倒れた・・・。

 

「シグルドー!!」カルトの絶叫が夕闇を迎えた丘に響く・・・。

シグルドは再び、穏やかな目に戻るとカルトに手を振る。

 

「カルト、さらばだ・・・。ありがとう・・・。」炎がみるみるあたりの空気を吸い込み膨れ上がる、陽炎の中でシグルドの姿は消えていき、そして炎の中で無音の風切り音が響いた。

 

 

炎が消えていく中、残ったものは聖剣だけであった・・・。

大地に突き刺さり、緑の宝玉は一段と輝き夕焼けの光を反射されている。

 

カルトは這いずるようにアルヴィスへ向かう、意識はないが辛うじて呼吸している。

奴だけは殺す!カルトは殺気を隠そうとせずに迫った。

鬼気迫るカルト、彼も命は尽きようとしている・・・、その前にアルヴィスだけは始末するつもりだった。

 

「やめておけ・・・。」カルトの背後で声をかける存在がいた。

カルトは振り返ると、そこにはフュリーの相棒が少女の姿で佇んでいた。

 

「お、お前はウエンディ!どうしてここに!?まさかフュリーが?」

 

「安心しろ、フュリーはここにはいない。私だけだ。」ウエンディはカルトの脇に頭を割り込ませるとひょい、とカルトを持ち上げる。

 

「さあ、行くぞ!」

 

「ど、何処へだ!それに、アルヴィス!!奴だけは始末をつけなければ!!」

 

「今のお前では、アルヴィスを殺す事など出来ぬ。」

 

「ならば、頼む!奴を始末してくれ!」

 

「私は人と関わりたくないのでな・・・、まして私に関係ないあやつなど殺す理由などない。」

 

「じゃあ、なぜ俺を助ける!俺なんかじゃなくて!シグルドを助けてくれよ!!」カルトの言葉にウエンディは遠慮なく、頰を叩いて黙らせる。

 

「バルドの末裔がお前を助けてほしい、そう頼まれたからだ。

私はフュリー以外のやつの命令など毛ほども聞く気は無かった。だがな、やつの心が私の心を穿ったのじゃ・・・。

絶望の戦いと知ってなお、お前を生かそうと考えるバルドの末裔、その心意気とフュリーの願いが一致した。それだけだ。」

 

「フュリーの願い?」

 

「つべこべうるさい、私の背中でゆっくり考えてろ。」ウエンディはファルコンに姿を変えると、北へ、大空へ羽ばたいた・・・。

 

(いかんのう・・・、もうこやつの体はいかなる癒しの力も受け付けん・・・。命が持つかどうかは、こやつ次第か・・・。)

ウエンディは、加速する。

北へ、北へ・・・。白き大地のシレジアを目指すのであった。

 

 

 

今、一つの歴史が終わりを告げようとしていた・・・。

 

イザークの動乱を端に始まったグランベルの動乱は、各国の思惑が一人の青年を数奇な運命に引きずり込み、数多の英雄が道半ばにして志を全うし、潰えていった・・・。

 

志半ばで生き絶えた者・・・。

 

シグルド アルヴィスのファラフレイムにより倒れる・・・。

 

キュアン シグルドの救援に向かうもトラキアの謀略によりトラバントのグングニルに敗れる。

 

エスリン キュアン戦死後、陣頭の指揮に立つがオイフェを救い、命を落とす。

 

アレク バーハラの血戦にて、最後まで退路を守り戦死。

 

ノイッシュ アレクとともにバーハラの血戦にて退路を守り戦死。

 

アーダン 退路の殿を守り通し、戦死。 仁王立ちのまま落命し、敵をも驚かせたという・・・。

 

アゼル バーハラの血戦にて、ロートリッターのメティオの使い手を道連れにしてボルガノンで地形破壊を引き起こす。

南北を分断させ、シグルド軍の生存数を引き上げた・・・。

 

レックス アーダンと共に、最後まで殿を守り通し戦死。

 

ミデェール アレク達と共に退路を守り、戦死。

 

ホリン アグストリアにて、カルトに決闘を挑み戦死。

妻アイラとその子供達の居場所を撹乱する事に成功した。

 

アイラ バーハラの血戦にて、誰よりもバーハラ兵を斬り殺して生き絶える。

 

ジャムカ バーハラの血戦にて、アイラと同じくらいバーハラ兵を葬り、戦死。

 

ベオウルフ アレク達と共に、最後まで退路を守り戦死。

 

クロード ヴェルトマー城にてナーガの書を入手するが、ロプト教団員と戦い、刺し違える。

 

 

生き延びた者・・・。

 

オイフェ イザークに落ち延び、次の世代を育成する。

マリアンと結ばれ、一児を設ける。

 

マリアン イザークに落ち延び、オイフェと結ばれる。

自身の飛竜をアルテナに与え、指導にあたる。

 

エスニャ シレジアで子供達を育てるが、フリージ軍に姉と共に連れ去られる。ブルームに反旗を翻し、戦死する。

 

クブリ デューの孤児院で傷を癒し、シルヴィアと再会する。その後各地を巡り行方不明に・・・。

 

フィン リーフを育てながら、圧政から人々を守る生活を送る。

 

エーディン イザークに逃げ延び、ティルナノグで人々を助けている。

 

デュー ブリギットと共に落ち延び、ミレトス自治区で孤児院を設立。バーハラの血戦で孤児となった子供の面倒を見る。

 

ラケシス トラキア半島でフィンと共に戦うが、紛争の中戦死する。

 

シルヴィア シレジアでクブリを待っていたが帰らず・・・。

一児をシレジアで産み、その後デューの知らせを聞いて再開する。

 

フュリー レヴィンとの間に二人の子をもうける、その後病没。

 

ティルテュ エスニャ共々フリージ軍に囚われ、トラキア半島へ。

ブルーム夫人に虐げられ、自殺。

 

ブリギット デューと共に孤児院を設立、尽力するがある日を境に行方不明に・・・。

 

バイロン ティルナノグで若き世代を育て上げる。

 

キンボイス ヴェルダン王となり、アグストリア、シレジアとの貿易にて富を得る。兵力を増強し、グランベルに対抗する。

 

シャガール アグストリア王。賢王となり日々ヴェルダンとシレジアの関係に尽力し、アレスの帰還を待ちわびている。

 

レヴィン シレジア王、とある事件にてロプト教団に襲われる。

命を落としかけたが、生還・・・。

その後突然王政を撤廃し、各地を巡り行方不明。

 

レイミア シレジアで一児を設けるが、待ち人帰らず。ヴェルダンに移り住んだとの噂が立つ・・・。

 

マーニャ クロードとの間に一児を設ける、出産の予後が悪く病没。

 

パメラ レックスとの間に一児を設ける、その後ロプト教団との戦いで戦死。

 

ディートバ ベオウルフとの間に一児を設ける、ロプト教団に殺される。

 

 

運命の扉は開かれ、光は・・・。




これで通常の親世代はここで終わりとなります。

が、あと数話カルトの話を描かせていただきます。
彼の最期、見届けて下さいますと有難いです。

また、親の世代だけで100話を超えてしまいました。
このまま子世代の話を次の話で書くべきか、新たな小説として書いた方がいいのか迷ってます。

よろしければ、アドバイスをお願いします。

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