ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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失策

アルヴィスは揺れる・・・。

悪い事と一緒に埋めてしまったアゼルの笑顔、アゼルの母が分け隔てなく与えてくれた日々を・・・。

苦しい。その事すらもアルヴィスは苦しくなり、足元に落ちた黒い本を持つ。

 

「アルヴィス!」

 

「もういい!!これ以上語るな・・・。」アルヴィスの顔はひどく歪み、笑みなのか苦痛を耐える顔をしてるのかもはや判別できなかった。

 

「この本を持つとお前達の言葉が遠くなり気分が晴れる。カルト、お前もシグルドも邪魔だ、俺の前から消えろ!」黒い炎が立ち上らせた。

 

「お前を救いたかった。すまない、アルヴィス・・・。

だが・・・、だからと言ってこの命をお前に差し出すつもりはない!

・・・勝負だ!」

 

「カルト!僕も戦う!!一対一で戦う必要なんてないよ。」

 

「そうだ!あたしにもやらせろ!そいつはお前だけの相手ではない!」デューとブリキットも加勢に入るが、カルトは首を横に振る。

 

「アルヴィスは俺に任せてくれ・・・。アルヴィスとだけは、決着をつけないと何も始まらないし、終わらない・・・、そんな気がするんだ。」

 

「しかし!」ブリキットは弓を引き絞って拒絶する。全ての元凶が目の前にあるのに手を出すなでは引っ込むわけがない、射撃体勢にはいる。

 

「頼む・・・、何よりクブリを助けてやってほしい。二人でなら小柄なクブリくらいなんとかなる筈だ・・・。」

 

「カルト、シグルドを除いてなら逃してやらん事もないぞ・・・。まあ、ここを切り抜けてもグランベルから無事に逃げ切れる保証まではやらんがな・・・。」アルヴィスの言葉にカルトは軽く笑ってみせる。

 

「ふっ、とりあえず礼は述べておこう・・・。

デュー、さあもう行け!お前とは長い縁だったな、ブリキットと仲良くな・・・。」カルトの言葉にデューは察する。勝っても負けてもカルトとデューは二度と出会う事はない、そう思えて涙が溢れる。

 

「カルト、絶対に勝ってね・・・。僕待ってるよ!」デューはカルトのローブに顔を埋めて勝利を願う・・・、カルトはそっとデューを抱き寄せて互いの生還を願った。

 

「さあ、寛大な私でもそろそろ時間が惜しい・・・。最後の勝負と行こうか・・・、お前の顔はこれ以上見たくない。」アルヴィスが再び黒い禍々しいオーラを放ちながら迫る、カルトもまた魔力を放出されて応える。デューはクブリを背中に背負うとブリキットとともに丘を下り始める、シグルドはまだ目覚めない・・・。

危機は脱したが失血が彼の意識をまだ奪っている。シグルドも本当は託したかったが、アルヴィスは念を押すという事は彼を任せれば四人とも本格的に追撃部隊が派遣されて抹殺されるだろう。

苦渋の決断でシグルドは残す判断をした・・・。

 

「お前も、闇の炎に焼かれるがいい。」アルヴィスの黒炎は徐々に辺りから侵食するようにカルトを襲うが、カルトが左手をかざすとあたりの草と共に一閃され消え失せた。

 

「な、なに!」

「風の聖剣・・・、エクスカリバー。」狼狽えるアルヴィスをよそにカルトの目はアルヴィスの闇を見据えていた、そして左手に持つ聖剣は実体を持たぬ魔法で形どった剣である。

 

「は、馬鹿な!魔力を物質化して形成するなど聞いた事もない!」アルヴィスは頭の中でカルトの力を模索する。

確かにカルトは古代魔術の一つである付与魔法、エンチャントマジックを使ってみせた事があったが、ここまで大掛かりなものではなかった。それをわずか数年で昇華し、魔力を実体化させる事に成功したと言うのか・・・。

改めてカルトの才能にアルヴィスは嫉妬に近い感情を覚える。

 

「ヘルファイア!!」黒炎が地面の下から地割れが起き、地表へ吹き出す。カルトはジャンプして退避する足場を探して飛び乗るがアルヴィスは次の魔法を繰り出した。

 

「ブラックファイア!」再びジャンプして青空は逃れるが次は足場がないが、カルトは動じない。

左手に持つエクスカリバーを上段より一閃すると黒い炎は割れて消え失せる、まるでモーゼの如く割れた炎はともとに戻らずカルトの回りを焼くだけであった。

それどころかアルヴィスはその一閃を胸部に受けて衣服を破り、血が滲んでいた。

 

「終わりだ、アルヴィス!降参しろ!!」炎の障壁に阻まれて姿が見えないが、いるであろう方角に警告を発する。

返答がない様子にカルトはエクスカリバーを上段に振り上げて再び炎を斬ろうとしたが、その前にアルヴィスは自身の黒炎を全身に浴びながらカルトに迫った。

 

カルトの振り下ろす剣よりもさらに内まで間合いを詰め、右手でカルトの左腕を掴んだ。さらに膝蹴りがカルトの腹部に入り、聖剣が形を崩して消失する。

 

カルトの背後に周り、腕を背中越しに締め上げて地面に倒す。

痛みで呻くカルトだが、次第に笑い声になっていた。アルヴィスは不快な気分となりさらに締め上げる。

 

「何がおかしい!」

 

「いや、なに。あのエリートのアルヴィス様が、俺相手に随分泥臭くなったな、と思ってな・・・。」

 

「まだ減らず口を叩くか、もうあの時の私達とは立ち場が違う!もうあの時には戻れないのだよ!」

 

「それはお前だけだよ。俺も、アゼルも、あの頃の志しは何一つ変わってないつもりだ!変わったのは、お前の心だ。」

 

「だ、だまれ!ペイン!!」アルヴィスはとうとう純然たる闇魔法を使用する。カルトの腕の痛みが闇魔法の痛覚増幅魔法により、カルトの脳内に過剰に痛みを叩き込む。

 

「うあああああ!」まだ腕は折られていないのにバキバキに折られたかのような激痛、カルトの意識が刈り取られそうになるが必死に耐える。荒い息を整え、その激痛に耐えた。

 

「ほう、よく耐えたな。ならば次は、こうだ!!」アルヴィスはカルトの右腕をへし折る。さらにペインを使った痛覚増幅にカルトは再び声を上げた。

獣のようなうめき声の後、白目を剥いて崩れる。

 

「はあ、はあ、流石に意識が飛んだか。・・・止めだ。」

 

アルヴィスは魔力を開放させる、意識を失っていても油断は出来ないとアルヴィスは最大魔法の準備に入る。

 

 

(カルト・・・、起きてください。懐にあるロザリオを天にかざしなさい。)

カルトの意識に優しいクロードの言葉が響く、カルトは左手をゆっくりと懐に伸ばして探ると神父が着用していたロザリオが落ちた。先程デューと抱き合った時に彼が忍ばせたのだろう、こんな物を持っていた記憶などない・・・、震える手でロザリオを掴む。

 

「貴様も神に祈るのか・・・。だが、その時間もやらん!」アルヴィスはファラフレイムを繰り出す瞬間に、カルトは左手のロザリオをかざした。

爆発的な光がロザリオから発すると、ヴェルトマーから彗星のような光の飛来物が衝突する。

衝撃に吹き飛ばされたアルヴィスは、すぐさま立ち上がりカルトを見据える。

 

「ま、まさか・・・。この光は・・・。」アルヴィスは再びファラフレイムの準備に入ろうとするが、光の中心から放たれた風の刃にアルヴィスの左腕が飛んだ。

 

「ぐああああ!」アルヴィスは再び吹き飛ばされ、リライブで治療を始める。

 

光が収束し、カルトが姿を表す。

折られた右腕は完治しており、その右腕には聖書が持たれている。

 

「くっ!アイーダめ、しくじったな!足止めも出来ぬとは・・・ 。」リライブを放つが出血がひどい、簡単には治癒しない。アルヴィスは焦る。

だが、アルヴィスの左腕は宙を舞い、アルヴィスの出血口に接触する。

 

「リブロー」カルトの魔法がアルヴィスに対して輝く白い光がアルヴィスの左腕を回復させたのだ。

 

「今のが、リブローだと!リカバー並みだ・・・ 。」アルヴィスは驚愕し、くっついた腕が完全に機能していることにも驚きを隠せない。

 

 

「神父、アゼル、デュー・・・。みんな、ありがとう。」カルトは礼を述べ、腕を広げた。

空に描く大きな魔法陣は北の戦場を暖かく照らした。死闘となっているシグルドの軍にリザーブを放ち、傷を癒やしたのだ。

 

「これで、少しは逃げきれればいいのだが・・・。」カルトは憂いの表情を見せて北の大地に祈る。

 

「無駄な事を・・・ 、死ぬのが少し遅れただけの事。お前たちはここで逃げ切れても俺がやがて大陸を支配し、根絶やしにするだけだ。」アルヴィスの言葉にカルトはゆっくりと向き、憂いの表情を崩さなかった。

 

「お前は、平等な世界を作るのだろう?俺たちを迫害する事で平等な世界を築けるのか?」

 

「俺の邪魔する奴は、この世界に必要ない!私を支持する者を集め、平等な世界を作る!」

 

「・・・それでは永遠に平等な世界など作れやしない、今の王国諸国と同じではないか。一部の特権階級が自分の都合のいい社会基盤を築く事と何が違う?」

 

「ならば!貴様はどのような世界を望む!!」アルヴィスはエルファイアーを放つ、カルトに襲いかかるがカルトの指運び一つで炎は霧散し、消え失せる。

 

「民衆主導の国家を形成する。代表者が政治の方針を決めて、法治者が判断して法を作り政を進める。」

 

「くだらぬ、知性の乏しい民衆の意見を反映させれば国は滅びるだけだ!絶対的な権力を持ち、平等な世界を作る事が最短の近道なのだ!!」

 

「・・・最短の道を目指すわけではないさ。試行錯誤して皆が参加する政治、間違える事もあるかもしれないが、成熟すればいい国家形成になると俺は思う。」

 

「ば、ばかな・・・、そんな夢物語。」アルヴィスは反論するがカルトの目は全く揺れていない、むしろアルヴィスの方が動揺していた。

平等な世界、アルヴィスの言葉よりカルトの方が明らかにそれは理想とする世界に近い・・・。平等と謳いながら民衆を卑下するアルヴィスの言動には無理があった、その民衆が国の大半を占めている事に気づいていないからだろう・・・。

 

「アルヴィス、もう退け。

聖書ナーガが俺の手にある以上貴様に勝ち目はない、それにお前を殺す事が目的ではない。ディアドラの記憶を戻しシグルドへ返す、お前はヴェルトマーへ戻ってシグルドの判断を受けろ。」

 

「・・・お前はどうするのだ。」

 

「なに?」

 

「ナーガの書を持ち、絶対的な力を持つお前はどうする?

その力でこの大陸を収めようとは思わぬのか?」

 

「・・・・・・俺はお前と同じ影だ、禁忌を犯したアズムール王により秘密裏に作られた偽りの聖者・・・。

ナーガの書はディアドラに返上し、お前の持つロプトウスの書を以前と同じように封印する。・・・俺はその後、消える。」

 

「消える・・・、自害するとでも言うのか。」

 

「この大陸から消える。・・・新天地を目指すさ。

お前も来い。この大陸で生きられないなら、お前も俺と共に新天地を目指そう。」

 

「・・・・・・・・・。」アルヴィスは黒の聖書、ロプトウスを取り出すとファラフレイムの書と共に持ち、カルトによろよろと歩んだ。

頭の中は混乱しているのだろうがカルトがナーガを持ってしまった以上ロプトウスの書を持ち、多少の闇魔法を用いても勝ち目はない。

最大限の力を発揮できないアルヴィスとナーガを持ってしまったカルトでは絶対的な差を生んでいた。それを証明するかのようにアルヴィスがファラフレイムまで出してきているという事は実質降参を意味する。

カルトはナーガを取り出して前に突き出す、アルヴィスはその書に合わせようと同じく突き出した。

 

・・・終わった。クロード神父は負ける、と言っていたがこれが成就すれば負けではない。

シグルドの軍は多数の死者が出てるが全滅はしていない、シグルドも生きている・・・これで上々だ。

カルトの脳裏に安堵が一瞬生まれるが、自身ですぐに否定する。

運命は変わっていないと断言していたクロード神父の言葉の意味を探ると違和感があった、この結末はあまりに弱すぎる。

カルトのこの思考がアルヴィスに隙を与えてしまう。アルヴィスはロプトウスの書をカルトの胸元に押し当て、反対の手に持つファラフレイムの書を捨ててカルトのナーガの書を奪い取る。

 

「なに!」

 

「ぐわあああ!」アルヴィスはナーガの書から嫌われて、手に火傷を負いすぐさま投げ捨てる。アルヴィスはナーガの書をカルトから離させる事に成功し、ロプトウスをカルトに与える事に成功した。

 

黒の聖書はカルトの胸元から体内に入り込んでいく。そしてカルトの白銀の髪はくすんだ栗色の髪になり、神々しい魔力は失われいった。

 

「な、これは・・・。」動揺するカルトにアルヴィスは咄嗟に捨てたファラフレイムを拾うと笑う。

 

「お前の血をロプトウスの書で封印した、これでお前は以前の風の力を多少操れるだけの魔道士に成り下がった。

私も今ので闇の魔法は使えなくなったが、安いものだ。」

 

「くっ、まさかこんな事が・・・。」カルトは自身の魔力を探るが光の魔法は全く使えなくなっていた。エクスカリバーもオーラも使用不能、魔力の質も低下していた。

 

「死ね、カルト!!」魔力を最大限に捻り出す。

カルトも対抗策を考え、魔力を放出させるが逃げの一手しか思いつかない。一撃目の攻撃にカルトは後手に回ってしまい、的確な反撃ができない。

 

「ボルガノン!」

 

「!」地から迸る炎、ファラフレイムを考えていたカルトはさらに動揺する。咄嗟ではエルウインドの飛翔しか思い浮かばず、宙に逃げるがその後は以前と同じ戦略で仕留めにくる。

 

「メティオ!」天空から降り注ぐ炎に直撃を受け、大地に叩きつけられ、そして・・・。

 

「エルファイアー!!」カルトはその身を巨大な炎に包まれた。

さすがのアルヴィスも第三撃にファラフレイムを使えなかったが、今のカルトには致命傷であった。

全身火傷を負い、力なく倒れる姿が現れる。

 

「・・・カルト、悪く思うなよ。」一瞬間を置いたアルヴィスは再び魔力を集め出す。

 

ファラフレイムの準備ができ、カルトは瀕死の重傷を負いながらアルヴィスを見据えた。その目は以前のアルヴィスのように思えた・・・。

 

(アルヴィス、やはりお前は・・・。)

 

放たれる炎の最大権限、カルトは覚悟を決めて目を閉じた。

 

(クロード神父、これがあなたの見た運命の扉ですか・・・。すみません、俺のアルヴィスへ甘さが運命を変える事が出来ない要因だったのですね。)

 

覚悟を決めたカルトだが、その炎は直前で割れてまぬがれた。

再び目を開けるカルトの前には常に諦める事を知らず、最後まで潔く戦い続ける聖騎士シグルドが、今再び戦場に舞い戻ってきたのであった。


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