とある日のことです。
今日はアカデミーは休みです。
そんなわけで朝から趣味の研究に没頭です。
私はうちはの敷地内のとある空き地に作った秘密基地で絶賛作業中です。
なお秘密基地といっても、そこいらの子供(私も子供ですが)がお遊びで木の上に作るようなチャチいのとはわけが違います。
土遁の忍術をはじめとする忍びの技術を惜しみなく使ってコツコツコツコツ、半年近い時間をかけて作り上げた超本格的な地下秘密基地なのです。
私みたいな未熟者でも時間と労力と情熱さえあれば難しい忍術を行使できるようになる符術はやっぱり最高です。
本当は神社にある自分の部屋の下を掘り返したかったのですが、お父さんが珍しく血相変えて止めてきたので、やむなく場所をここに変更したのでした。
お父さんのあの様子を思い出してみるに本堂の地下に何かあるのかもです……うちは一族秘密の集会所とか。
いつか覗いてみたいですね~
一人前の巫女、もしくは忍びになったら教えてくれるのでしょうか?
…ふふふ、やっぱり休日ってテンションあがりますね~
「……何1人でニヤニヤしてるのよ」
「っ何奴!?」
よもや私の秘密基地に侵入者が!?
振り返るとそこには呆れたような様子のそらのカナタさん。
「何そのリアクション…ていうかどのあたりが秘密なのやら。ここが完成した時いの一番に自慢してきたのはコトじゃない。おまけに呼んだのコトだし」
「そうでした!」
あまりの嬉しさのあまり自慢しまくってしまったのでした。
迂闊。
「……いえ大丈夫です。喋ったのまだカナタだけですし」
「たぶん大人のほとんどの人が気づいてると思うわよ?」
仮にも忍びが跋扈する木ノ葉の隠れ里だし。とカナタ。
プライバシーが行方不明です…
「不法侵入の常習犯である貴方がプライバシーを語るなっての」
「あう」
グウの音も出ないとはこのことです。
「で? 今度は何を作ってるの? どうせまた無駄に洗練された無駄のない無駄な物を作ってるんでしょ?」
「そうなんですよ! 見てください私の超発明!」
そうですよ、そのために呼んだんでした。
私はババーンと脳内で効果音を響かせながら背後にあるテレビ(廃品集めて自作しました)にコードでつながった機械と術式が入り乱れた箱状の装置を大公開。
さあ、私の凄さに慄け!
「(…皮肉が通じない)」
カナタがなぜか頭を抱えています。
ちょっと、この大発明を前にしてその反応は変じゃないですか?
異議を申し立てるのですよ。
「まあいいや…で? これはどういうものなの?」
よくぞ聞いてくれました。
そうですよ、その質問を待ってたんです。
やれやれといった様子なのはこの際なので目をつむりましょう。
私は件の装置から伸びたケーブルを、電極だらけのヘルメット(のようなもの)と接続し、それを被ります。
これにより、私はケーブルによって装置を介してテレビとつながれた状態なわけです。
その状態で私は気合一発チャクラを練り込みケーブルを通して装置に流します。
―ブツン
きぃーんという高周波のような音が耳をつきました。
私の思惑通り、テレビの電源が入ったのです。
残念ながら電波は何も受信していないのでテレビは電源が入っただけで何も映しませんが、それでも実験は成功です。
やはり私の術式理論に狂いはありませんでした!
「……」
「……」
「…………」
「…………え? これだけ?」
「そうですが?」
「……しょぼ」
「んな!?」
そんな!
チャクラを―すなわち身体エネルギーと精神エネルギーを性質変化させ別のエネルギー(今回は分かりやすい『雷』エネルギー)に変換するという私の凄い発明がしょぼいですと!?
「いや、それは単なるチャクラの性質変化なんじゃ?…電気を起こしたいならコトはもうすでに『起雷札』持ってるし、普通に符術の雷遁じゃダメなの?」
「違うの~確かにやってることは同じかもですけど違うの~」
あまりの反応に思わず幼児退行してしまう私。
なぜ分かってくれないんですか~
「そ、そんなこと言われても……この程度の電気なら私も性質変化で出せるし」
チャクラを性質変化させる機械なんてわざわざそんな面倒くさいもの作ってる暇があったら素直に性質変化の修行するわよ、とカナタはそういって装置に手を伸ばします。
だからこそ気づいてほしかったんですが…チャクラを性質変化させて『雷』を発生させるという所業を人間じゃなくて機械がやっているというその凄さに。
あ、ちなみに私の基本性質は『火』です。
うちは一族はみんな火属性なんですよね。
あと『水』と『土』も素養があるみたいで。
もっとも、私の場合『符術』があるので得意性質とかあまり関係がないんですが……ってカナタさん? さっきから装置に何を?……
「別にこんなの使わなくても電気は起こせるわよ、ほら」
―パリッ
カナタの起こした電気が装置を介してケーブルを伝い―――
「ぎにゃああああああ!!?」
―――次の瞬間、私の身体を未知の激痛と衝撃が駆け巡りました。
痙攣してひっくり返る私にカナタはあわてた様子で駆け寄ってきます。
「だ、大丈夫!?」
「い、いったい何が?」
「いや、私は性質変化させて起こした電気を装置? に流しただけで……ほんのちょっとだけのつもりだったのに」
ごめん、と素直に頭を下げるカナタ。
なるほど、そういうことですか…
「ふふふ」
「こ、コト? 大丈夫?」
「大丈夫ですよカナタ。それとあとこれだけは言わせてください」
私は極めて神妙な顔でカナタに向き直り、カナタもまた真面目な顔を返して
「ありがとうございます!」
「いや本当に頭大丈夫!?」
いや~忍者の才能はともかく、こっち方面には一日の長があるとそれなりには自負していたのですが。
私は私の思ってる以上に天才だったようです、自分の才能が恐ろしいです。
今回私が作ったチャクラに性質変化を起こさせる装置(以下、変換機)は私の思ってる以上にとんでもない代物でした。
ところで、電動機というものをご存知でしょうか?
電気を流すと磁界が変化してコイルが回転し動力を発生させる…いわば電気エネルギーを運動エネルギーに変換する装置です。
モーターといった方が通りがいいですかね。
そしてこのモーターの面白いところは、電気エネルギーを運動エネルギーに一方的に変換させるのではなく、その逆、つまるところ運動エネルギーを電気エネルギーに変換することも可能だということなのです。
要するに何が言いたいかというと、私の作った変換機もそんなモーターみたいな特性を有していたということなのです。
つまりチャクラを電気や炎といった属性に変えるだけでなく、逆に電気や炎などの自然現象をチャクラに変化させることができるのです。
これに気が付いたのはカナタのおかげです。
カナタが発した電気が装置を介して流れ込んできた『あれ』は決して電気エネルギーなんかじゃありませんでした。
そう、あれは紛れもなくチャクラ!
いや厳密にはチャクラに似た何か……精神エネルギーとも身体エネルギーとも違う未知のエネルギーなのですが、そんなことは些細な問題です。
むしろ未知のエネルギーを発生させる装置とか既存のチャクラを発生させるよりよほど凄いじゃないですか!
重要なのはとにかく凄いってことです!
ちなみにそれらのことを興奮気味にカナタに説明したところ、彼女の反応は
「ふ~ん? それで?」
でした。
興味がないにもほどがありますよ!
しかしそれも仕方がありません。
今のところこの未知のエネルギーはどういうわけかカナタには認識できず、私にしか感じ取れないのですから。
家族やアカデミーの先生からは私には感知タイプの素養があると言われたことがありましたけど、そのせいですかね?
ちなみにカナタは幻術タイプとのこと。
女子には割と多いタイプです。
いや、そんな話は置いといて兎にも角にも変換機です。
この変換機は内部の術式を書き換えることにより電気以外のエネルギーにも流したチャクラを性質変換させることができる優れもの。
特殊なものはまだ無理ですが基本の五大性質変化(火水土雷風)は一通りできるはず。
ならば必然、『雷』以外の属性も変換機を通せば『未知のチャクラ』に変化させることができるということです。
試すしかないじゃないですか!
私は嬉々として変換機を分解、改造に着手するのでした。
「…あ、うん、私帰るから。頑張ってね?」
え、何か言いましたかカナタ?
結論から言うと、他の属性も問題なく変換させることができました。
正直、『火』や『風』はともかく物質であるところの『土』や『水』は無理あるんじゃないかなとか思っちゃったりもしたんですが、びっくりするほど無問題でした。
まあ、もともとチャクラが質量ある物体にも定量的エネルギーにも変化し放題の万能物質ですから当たり前と言えば当たり前だったのかもです……チャクラって何なんでしょうね…
そして今回の実験により新たな事実が発覚。
なんと属性によって変換した際に発生する『不思議チャクラ』も微妙に違うのです。
『水』を変換した際に発生するそれはなんかぬるって感じなんですが、『火』を変換した場合はカッ!って感じで……って何ですかこの学者にあるまじき曖昧極まりない微妙表現。
でもそうとしか言いようが…おまけに現状発生した『名状しがたいチャクラのようなもの』を観測できるのが私しかいない以上、私の主観に偏ってしまうのは仕方のないことで…ってそろそろ名称も統一しないとさすがに混乱しますね。
以下便宜的に装置が発生させるそれを『謎チャクラ』と呼称することにします。
ともかく、それぞれの属性から発生した『謎チャクラ』がいったいどういうものなのか詳しく調べたいのです。
しかしながら残念なことにその方法が………………実はあるんですけど。
最初の『雷』の時と同じです。
てっとり早く直に浴びてみればいいのです……その『謎チャクラ』を。
私は変換機に『火』のついた蝋燭をセット(比較的相性が良いと思ったのです。仮にも『火』のうちはですし)し、ケーブルをつないでヘルメットをかぶりました。
ごくり、と唾を飲み込む音がやけに大きく響きました。
『雷』の時はとんでもない激痛と衝撃が体を襲いました。
では『火』は?
大したことにはならない…と思いたいです。
(でも蝋燭程度の『火』なら…でも静電気レベルの『雷』でもあの激痛だとすると…)
正直、すんごい不安です。
でも他に『謎チャクラ』の効能を確認する術がありません(この時私は動物で試せばいいということを頭から完全に失念していました)
「………………いきますか」
さあ、今こそ覚悟を決める時です。
全ては真理の探究のために!
私は半ば捨て鉢のヤケクソ気味に装置を起動。
蝋燭の火が一瞬揺らいだかと思ったら即座に装置に吸い込まれ、術式を介して変換された『謎チャクラ』がケーブルを伝って私に流れ込んj;あこわもfっもmkぉあpvwふぁをplわsに―――
バカと天才は紙一重と言いますが、コトはまさにその言葉の体現者です。
真理の探究とか目指すものは仮にも大蛇丸と同じなのに、やってることが…
自来也やナルトとは全く違う別のベクトルから「忍者とは忍術を扱う者のことを指す」という言葉を否定して根本からぶち砕こうとしてます。