南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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ものすごく遅れました。
投稿間隔をあければあけるほど、新規の投稿が怖くなっていく………



54話

中忍選抜試験本戦、当日。

その日の木ノ葉隠れの里の門は全開、試験会場には豪奢な神輿に担がれた他里の忍びや大名たちが続々と集まってにぎわっている。

 

「ねえ、やっぱり素直に車イス使うべきだったんじゃない?」

 

「嫌だ。ただでさえ寝たきり生活で身体がなまってるのに………」

 

「それはなまってるんじゃなくて弱ってるっていうのよマイカゼ」

 

カナタの再三にわたる忠告を受けながら、それでもマイカゼ(わたし)自身の足で試験会場に向かうことにこだわった。

松葉杖をつきながらよろよろふらふらと我ながら危なっかしいことこの上ないが、それでも私は自分の足で歩きたかった。

 

「下手に無理するとかえって入院期間が延びるわよ」

 

「だってぇ………だってリー先輩が」

 

「幼児か」

 

いのの呆れ交じりの忠告もサクラの短いツッコミも正論だ。

どうやら肉体的にだけじゃなく、精神の方もだいぶ弱っているらしい。

つくづく八門遁甲の反動は大きかったのだなと実感する。

 

全力の勝負だったんだ、やったこと自体に後悔はない。

ないが………それでもやはり意識せずにはいられないこともあるわけで。

 

「よし! 行くぞリー! まずはベストな席の確保だ!」

 

押忍(オッス)!」

 

ふと隣に視線を向ければ、見るからに元気が有り余って爆発している熱血師匠とその弟子の姿が。

2人は会場に入るとすぐさま最前列の席を確保するべく駆け出す。

走るリー先輩の手には当たり前のように松葉杖はない。

あれが私と同じ重体患者の姿なのだろうか。

この差はいったいなんだ?

 

「マイカゼ、無理はダメですよ。あとリー先輩と比べるのも。根本的に体の構造が違います」

 

「それは………そうなんだろうけどさぁ」

 

「他人は他人、自分は自分です。意識しちゃうのは分かりますが………」

 

そういって困った顔を浮かべているのはコト―――の分身だ。

式分身という、影分身と同じく実体と自我を有する分身の術らしいが詳しい理屈は分からない。

当たり前のように私たちと行動し、会話に混ざっても違和感は覚えず。

おそらく、カナタに教えられなかったら私はずっと気づけなかっただろう。

 

木ノ葉病院のベッドを抜け出したあの日以降、サスケと一緒にいるらしいコトの本体(オリジナル)はずっと姿を見せていない。

 

 

 

 

 

 

「えー皆様この度は木ノ葉隠れ中忍選抜試験にお集まり頂き、誠に有り難うございます!これより予選を通過した8名の『本選』試合を始めたいと思います。どうぞ最後まで御覧下さい!」

 

 

結局サスケは時間になっても会場に現れることはなく、火影様が本戦開始を宣言してしまった。

 

「………サスケ君、まだ来てないわね………」

 

「音隠れのドスって奴もいないな………なんかあったのか?」

 

予選を通過した下忍の人数は9名。

しかし、火影様の宣言した人数は8名。

さらにこの場に並んだ受験者の人数は7名。

ものの見事に数が合っていないな。

 

「何かあったといえば………心なしかデカくなってない? あの我愛羅の背中のひょうたん」

 

「大きくなってますね」

 

サクラの言う通り、我愛羅の背中のひょうたんが大きくなっていた。

1か月前の予選の時はしっかり見ていなかったが、それでもあの時と比べると倍はありそうに思える。

より砂の量と手数を重視したということなのだろうけど、重くないのかな。

思わず注目しているとそれに気づいたらしい我愛羅が私たちに視線を向けて………いや、より正確には隣のコトを睨みつけていた。

 

巻き込まれるのはゴメンだとばかりに思いっきりコトから距離をとるいの。

 

無理もないと納得顔で頷くサクラ。

 

ニコニコと我愛羅の殺気を笑顔で迎え撃つコト。

 

コトの眩しい笑顔の圧にそっと目をそらす我愛羅。

 

………ときどき、コトって実はさいきょーなんじゃないかって錯覚する時がある。

 

「いったい何やらかしたんだ」

 

「なんで私が何かやった前提なんですか………いやまあ実際その通りなんですけど。さすがにやりすぎちゃったかなぁ………」

 

一応自覚はあったらしい。

 

「いやでも加減する余裕なんて全然なかったし………ううん大丈夫でしょうか………木ノ葉の病院にも1度訪れたそうですけど」

 

「まあ、互いに全力を出した真剣勝負の結果そうなったのなら、今更気にしても仕方がないか」

 

仮に後遺症があったとしてもそれは受け入れるほかないだろう。

我愛羅もその覚悟はできているはず。

後は試験に響かないことを祈るばかりだ。

 

 

中忍試験本戦はシンプルに実力を競う個人戦トーナメントだ。

対戦者のどちらかが命を落とすか負けを認めるまで戦うが、審判が見て決着がついたと判断した場合はそこで止める。

予選とほぼ同じルールだが屋内ではなく屋外での戦いであることが大きな相違点だろう。

天井はなく、広さも段違い、石畳ではなく土の地面で外周には木まで植えられている。

この環境の違いが戦いにどう影響するか。

また試験の合否は勝敗の結果そのものではなく、試合の内容を見て審査員の人たちが絶対評価をつけるらしい。

トーナメントに勝ち残れば評価される機会が増え、そこで中忍相応の実力があると判断されたら例えその人が一回戦で負けていても中忍になれるというシステム。

つまり、本戦に勝ち進んだ全員が中忍になるかもしれないし、逆に1人もなれない場合もあるわけだ。

 

そして肝心のトーナメントの組み合わせだが。

 

 

「少々トーナメントに変更があった。自分が誰と当たるのかもう一度確認しておけ」

 

病欠のハヤテ兄さんに代わって審判を務める不知火ゲンマさんがトーナメント表の書かれた紙を参加者に見せる。

 

シカマルの表情に困惑が浮かんだ。

その表には予選を通過して、シカマルと戦う予定だったはずの音隠れの下忍ドス・キヌタの名前がなかった。

もしや遅刻で失格扱いか………いや、サスケの名前はあるので、どうやらドスは本当に棄権したらしい。

 

「よかった。サスケ君が失格にならなくて………」

 

「だけど、試合に間に合わなかったら結局は同じだ。分身コトは本体のこと何かわからないのか? 確か一緒にいるんだろう?」

 

「さあ? 今の私は完全にスタンドアローン状態なので」

 

「仮に本体に何かあったとしても何もわからないって事か」

 

本体(オリジナル)との繋がりはほとんどないらしい。

病院で呼び出された時からチャクラの供給もなくずっと………正直、私は術の詳しいメカニズムとかはさっぱりわからないのだが。

影分身の術というのはここまで長期間持続するものなのか、いや、させていいものなのか。

もはや私には“このコト”が偽物ではなく自我を持った………いや、やめよう。

考えてもどうせわからないことだし、仮に分かったとしても仕方のないことだろうから。

 

「………ねえ、何の話?」

 

「分身? ここにいるのは本体じゃないってこと!? 本物のコトはサスケ君と一緒にいるの!?」

 

あ、サクラといのにそのことを話すのをすっかり忘れていた。

当然のごとく猛烈な勢いで詰め寄ってくる2人。

特にサクラは鬼気迫る勢いでサスケは今どこで何をしているのか体は大丈夫なのかと質問をぶつけてくるが私も分身のコトも詳しいことは何一つ答えられない。

私はカナタからのまた聞きだし、このコトは先に言った通り本体とは独立した分身だ。

つまり、詳しいことは何もわからない。

精々がコトとカカシ先生とサスケが揃って秘密の特訓をしているらしいということだけだ。

 

「何で黙ってたのよ!?」

 

「むしろなんでサクラさんは知らないんですか? 私はてっきり担当上忍のカカシ先生から直接話を聞いているものとばかり………」

 

「…………………」

 

コトの言葉にサクラの顔が凍り付いた。

ズーン、という擬音が聞こえてきそうな勢いで膝を抱えてうずくまる。

………え? 本当にサスケもカカシ先生も黙って行っちゃったの?

 

「………き、きっとあれだ! サクラには心配をかけたくなかったとかそういう………」

 

「その逆に辛くなるド下手クソなフォローをやめろぉ!」

 

「すみませんねド下手クソでホントに!」

 

どうせ私はおバカな口下手だ………なんで私がコトやサスケの事でこんなに気を使わなきゃいけないんだ。

そもそもこういう口八丁はカナタの担当だったはず。

 

「………カナタ?」

 

ふと、カナタの方を見てみれば何やら様子がおかしかった。

さっきからずっと口数が皆無で何事かと思えば、目を見開いたまま固まっている。

視線の先には貴賓席の火影様………いやその隣の風影様か?

 

「(なんであの時の………影武者? ………見なかったことに………いやいやいやさすがにダメでしょそれは)」

 

「風影様の顔がどうかしたのか?」

 

「ど、どどどどうもしないわよ!??」

 

いったいどうしたカナタ。

 

「あ、私ちょっと用事を思い出したわ」

 

「え、もうすぐナルト君とネジ先輩の試合が………」

 

分身コトの戸惑ったような声にも耳を貸さず、あからさますぎる言い訳を残して足早に行ってしまったカナタ。

本当にどうしたっていうんだ? ………。

 

 

 

 

 

 

「間が悪い………気づいたのがもう少し早かったらガイ先生が近くにいたのに………とにかく誰か大人に、上忍の先生に知らせないと、ヤマト先生はどこかしら………キャッ!?」

 

「ああ、失礼」

 

「いえこちらこそ前をよく見てなくて………ってそのお面、暗部の方ですか? ちょうどよかっ………じゃない!? その声は!」

 

「………本当、優秀過ぎるのも考え物だね。君もそうは思わないかい?」

 

「薬師カブ―――」

 

 

 

「―――さて、どこまでがあの方の想定内なのか。どうせすぐにバラすから放っておいたのか、はたまた僕がここでこうすることも計算のうちなのか」

 

 

 

 

 

 

「運命がどーとか、変われないとかそんなつまんねーことでめそめそ言ってんじゃねーよ。お前は俺と違って、落ちこぼれなんかじゃねーんだから」

 

「勝者、うずまきナルト!」

 

 

結局、カナタはナルトとネジ先輩の試合が終わっても戻ってこなかった。

せっかくいい試合だったのに一体どこで何をしているのやら。

 

「五行封印・改(仮)がない………消えてる? いや開印術? しかし八卦の封印式は手つかず………まさかナルト君が自力で? いやさすがに不可能………ではいったい誰が? でもあの九尾のチャクラは」

 

そしてコトは何を言っているのやら。

頭いい奴の言動は本当によくわからない。

 

観客席の最前列ではリー先輩が感極まった叫びをあげて泣いていた。

戦った2人への純粋な称賛、自分がそこにいけなかったことへの悔しさ、しかし絶対に追いついて見せるという決意、それらの感情が無茶苦茶に入り混じった慟哭だった。

 

無理もない、私から見てもナルトとネジ先輩の対戦はそれほどの名試合だった。

 

正直な話をすれば、ナルトが勝つなんて思っていなかった。

実際1か月前までのナルトだったらあのネジ先輩に全く勝ち目はなかっただろう。

しかし、ナルトはこの1か月で大きく化けたようだ。

 

点穴を突かれて止められたチャクラを気力と根性で強引にこじ開け、波の国でも見たあの(あか)いチャクラを今度は暴走させることなく見事にコントロールし、諦めない執念と気迫が死角のないネジ先輩に心の死角を作りだしてみせた。

影分身を囮に地面を掘り進んでの地下からの奇襲の一撃は本当に痺れた。

 

もともと根性と体力は抜きんでていたナルトだ。

そこにチャクラのコントロールという技を身に着けて、心技体揃いつつあるということなのかもしれない。

 

 

「やったー! ナルトが勝ったー!」

 

「すごかったぞー!」

 

「よくやったぁ!」

 

 

そして、心動かされたのはどうやら私だけじゃなかったようで。

試合を見ていた観客の全員がナルトに称賛の拍手を送り、会場は万雷の喝采に包まれた。

当然、私も惜しみなく拍手を送り、コトもまた満面の笑顔でナルトを称賛した。

当初こそしきりに首をかしげていたものの、はしゃぐナルトを見ているうちに消えた術式云々はど~でもよくなったようだ。

 

というか、ナルトは元気にはしゃげるんだな。

ヒナタから食らったことがあるからわかる。

柔拳ってまともに受けるとめちゃくちゃ痛いはずなんだが。

内臓を鍛える方法があるならぜひ教えてほしい。

 

 

「………悔しいなぁ」

 

 

 

しかし、中忍試験は盛り上がった空気のまま可笑しな方向に進み始めた。

次は今回の中忍試験最大の注目カードであるサスケと我愛羅の対戦………のはずだったのに肝心のサスケが姿を見せず後回しに。

 

続く蟲使いのシノと傀儡使いのカンクロウの対決は何故かカンクロウが棄権を宣言、結果シノの不戦勝となった。

 

試合は流れに流れて、ようやくまともになったのは影使い奈良シカマルと風使いテマリの対決。

シカマルはいつも通りやる気のなさそうな様子で、対するテマリは何やら気が立っている模様。

この試合もすぐに決着かな………と思いきや。

意外や意外、太陽、天候、影、障害物、地形、それらすべてを駆使した複雑怪奇な頭脳戦を繰り広げた。

先の試合に勝るとも劣らない名試合だったと言えるだろう。

そのあっけない結末を除けばだが。

 

「だから言ったでしょ、ギブアップするって。いのはシカマルのこと何も分かってないねー」

 

「あ~もったいない何で~!? 中忍になれるチャンスだったのに!」

 

「あいつはあいつだよ」

 

訳知り顔でいのにそう語るのは観戦に途中から加わったチョウジ。

いのはそれでもしばらくは納得いかない様子だったが最後には「まあ、シカマルらしいか」と苦笑を浮かべる。

 

そのやりとりにはチームメイトに対する深い理解と信頼を感じ取れた。

………なるほど、第10班はこういうチームなのか。

 

「こういうの好きですよ私。ラストは締まらなかったですけど」

 

「お前がそれを言うかコト」

 

「いや、アンタも人の事言えた口じゃないでしょマイカゼ」

 

「あれは仕方がなかったし………そ、それにしてもシカマル君の戦術は見事だったな!」

 

「………そうですね。まさかナルト君が掘ったトンネルまで活用するなんて」

 

「………というかこれ、試合が繰り上げされなかったら普通に勝ってたんじゃ?」

 

「少なくとも序盤の時間稼ぎの工程は確実に省略できてたわね」

 

「確かにいのさんの言う通りかもしれないですね。シカマル君の使う奈良一族秘伝の影の術はその性質上、日の傾き具合で射程が大きく変動しますから」

 

「日が暮れて暗くなるほどに利用できる影の領域が増えて、第2試合、準々決勝、決勝と勝ち進むほどに有利になっていたかもってこと? ………つくづくギブアップがもったいない~」

 

「まあ、たらればの話をしても仕方がないけどさ」

 

「あくまで重要なのは内容であって勝敗は二の次だから、チャクラが尽きた状態じゃ勝ち進む意味がないと判断したのかもですよ」

 

「判断早すぎじゃない? もうちょっとなんかなかったの?」

 

コト、いの、サクラと頭脳派が揃うとなかなか会話についていけなくて少し寂しい。

なおチョウジはそんなこと全く気にせずポテチを貪っている。

あ、ナルトが観覧席から飛び出してシカマルに物凄い勢いで文句言っている。

言いたい事いろいろありそうだなぁ………

 

 

 

………ふと、私は会場の真ん中を見つめた。

熱気、あるいは圧のような。

何かが来る、そんな予感がした。

 

「………ん!?」

 

「あれは!」

 

試合会場に突如発生した旋風。

舞い飛ぶ木ノ葉の中から姿を現したのは―――

 

「いやー、遅れてすみません」

 

困ったように笑うカカシ先生。

 

「ひゃわわ、エライ場所にエライタイミングで出ちゃいました………」

 

うろたえた様子の、おそらくは本物のコト。

 

「………………名は?」

 

「うちはサスケ」

 

そしてふてぶてしい表情のサスケ

 

ようやく、ようやくだ。

この中忍試験の最後の受験者が登場した。

 

 

 

 

 

 

「………ってかなんであんな場所に?」

 

「たぶん時空間忍術の座標がズレた………いえ、ズレなかったせいですね。試験会場に直接飛ぼうとして、本当に会場のピッタリど真ん中に出ちゃったんですよきっと」

 

「ドンピシャ………優秀過ぎるのも考え物だな」




次回はサスケ対我愛羅ですね。
そして次回が中忍試験本戦編の最後になりそうです。


本戦にオリキャラが参戦せず原作と変わらない部分を飛ばすとどうしてもこうなってしまいます………その分サスケの戦いはがっつり流れとか変えていきたいところ。

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