「うわっちちちちゃちゃあちゃあ!?」
なぜそれに思い至らなかったのか。
砂に取り囲まれている状態で砂に着火なんてしたら、火に取り囲まれる羽目になるのは至極当然のことでした。
やたらと香ばしい煙と炎にまかれながら
やはりカナタの言うように耐火処理が施されたうちはの特別製(改造)巫女装束を空蝉の術で脱いじゃったのは早計でしたか………いやいやあの場はあれ以外に選択肢はなかったはず。
うちはの家紋は炎を操る
他者の火遁で上手に焼かれるならまだしも、自分自身の炎でこんがり自滅するのはマヌケ過ぎるのですよ。
まあ、自嘲はしても自重する気はさらさらなかったりしますが。
特にこと今回に関しては後悔なんてありません。
「ケホッケホッ………ふぅ………やった、やってやりましたよ本当に」
「………………」
まさに人事を出し尽くしたといえる結果です。
スタミナもスキルもアイテムもアイデアも、今の私の全てを総動員しやりつくした感。
もっとも、変化しかり最後の仕上げしかりMVPは私ではなくユキちゃんなのですけどね。
件のユキちゃんは、疲労困憊でプルプル震えながらも、それでも後ろ足だけで立って胸を張り、前足を片方前に突き出したどうどうたる姿で今度こそ口寄せの時間切れで消えていきました。
その場に火打石がコロンと転がります。
最後のポーズはたぶんサムズアップだったんでしょう………ウサギの前足の形はよくわかりませんでしたが。
なにはともあれ本当に最後の最後までありがとうございます。
ユキちゃんこそ、ウサギの中のウサギですよ。
「今度機会があったら何か埋め合わせしないとですね」
「………………」
砂が、かつて砂であった“何か”がメラメラと燃えています。
最初こそウネウネのたうち回っていましたが、ついに動かなくなりました。
ここまでグチャグチャになったらもはやそれは砂ではない………ということなのでしょうね。
シカマル君風に言うのであればまさに「計算通り」の結果なのですが、正直、かつて砂だったものが炎上しながら向かってくる可能性も捨てきれず。
これ以上があったらもう完全にお手上げでした。
「………やはり、操れるのは『砂』だけみたいですね」
「………………」
私の問いに対し、我愛羅君は何の反応も示さず。
私は私で動けないので、試合に謎の空白が発生しています。
私が観察する限り我愛羅君の行使する砂を操る術は、原理的にはチャクラを磁力に性質変化させる血継限界『磁遁』に極めて近い性質を持っていました。
ここで誤解してはいけないのは、あくまで『磁遁』に近い
似たようなものといえばその通りなのですが、この場に限ればその微妙な差異は試合展開に大きな変化をもたらしました。
もし仮に我愛羅君の術の正体が正真正銘の磁遁ないし磁遁の応用だったのであれば。
試合開始直後、私が真っ先に投げた苦無が砂で受け止められることはなかったでしょう。
私の投擲した苦無はごく普通のありふれた鉄製の物です。
磁力が操れるなら、それこそ磁力で反発すればよほど簡単に苦無を弾き飛ばせたはず。
わざわざ砂を磁力で操作して盾を作って防御するなんて迂遠でひと手間かかる手段を選ぶ必要性はどこにもありません。
最後の火打石にしてもそうです。
火打石とは、金属を削るほど固い何かと火打金を打ち合わせて火花を発生させる原始的な着火器具。
つまりはこれも金属製の道具………磁力を操れるなら砂で妨害するよりよほど手っ取り早い確実な手段がとれたことでしょう。
なにせ反発させても吸着させても火打石は使用不能になってしまうのですから。
そして着火できなければ私の作戦はその時点で破綻、完全に詰みになっていたはずなのです。
(でも実際はそうならなかった。そういうことなんでしょうね)
今こうして砂が炎上し動かなくなっているという結果そのものが我愛羅君の術が磁遁とは似て非なる別の何かである何よりの証拠なのですよ。
「………………」
我愛羅君に未だ動きは無し。
我愛羅君の術の正体が磁遁ではないとすると、それはそれで別の疑問が持ち上がってきます。
結局、我愛羅君の砂を操る術の正体はいったい何なのか?
そして我愛羅君はどうやってその術を身に着けたのか。
いやそもそもなぜ『砂』なのか。
(砂と同じ『形態』を操っているわけではないですね)
もしそうなら砂と同じく粒子状の小麦粉だって操作対象です。
(かといって砂と同じ『物質』を操っているわけでもありません)
もしそうなら砂に含まれている鉄をはじめとする鉱物無機物その他もろもろが軒並み意のままになっているはず。
(重要なのは『形態』でも『物質』でもない………概念的に『砂』であることが操作の絶対条件)
強いて言うなれば『砂属性』の術。
この時点でもうすでに忍術の原則である火水風雷土の5大性質変化から外れてしまっています。
必然、それらを組み合わせて発生させる血継限界にも当てはまるはずもなく。
「つまり………忍術じゃ………ない?」
実際に形だけとはいえ実際にコピーしてみて使ってみたからこそ気付けた違和感。
「………………」
忍術のように体系化された技術ではなく、もっと雑多で、もっと根源的な原初の『何か』。
二代目火影、千手扉間様が多くの術と印を発明するよりも。
忍び一族の初代が秘伝に目覚めるよりも。
それどころか人間がチャクラを手にするよりもはるか昔の神話の時代。
(
まさに神業。
規格外という意味ではなく、文字通りの意味で人間業ではない異質な力。
(砂属性………砂の………化身。ならば我愛羅君の破壊衝動の正体は………ああ、なるほど)
「我愛羅君………貴方は一尾、砂の守鶴の人柱力だったんですね」
ふとこぼれた小さなコトのつぶやきに
(いったい! どんな思考と道筋でその結論に至ったの!?)
試合からは一度も目をそらさなかったと断言できる。
それでも理解を超えていた。
ありのまま今起こったことを話せば、コトの仕込みが結実して我愛羅君の砂が炎上、互いに武器を失い膠着状態に陥ったかと思ったらいつの間にかコトが死ぬほどヤバい砂の機密情報をぶちまけ始めた。
我ながら何を言っているのかわからない、何がどうしてそうなった。
頭がどうかしてる………写輪眼とか、解析能力がどうとかそんなチャチなものじゃない。
もっと恐ろしいものの片鱗が垣間見えたわ。
「………さっき、コトなんて言ったの?」
「わからない、小声だったし………」
「カナタ教えなさいよ。アンタの耳なら聞き取れたでしょ?」
「い、いや~、私にも聞こえなかったですわよ!?」
「ウソつけ口調乱れてるじゃない。ほら無駄な抵抗はやめてキリキリ吐きなさい。コトともどもアンタたちはポーカーに向かない人間なのよ」
「い~や~」
私が春野さんに両肩を鷲掴みにされガックガック揺さぶられている間にも、コトの独り言は止まらない。
「(しかし、ナルト君と同じ人柱力とするならば、封印術がいささか緩いというか隙間だらけなのは何故でしょう? 一尾の情動がここまで漏れるなんて封印の劣化具合を計算に入れてもうずまき一族由来の物とは考えにくいです………ひょっとして一族由来ではない? 封印術の系統そのものが違う? かつて第1回目の五影会談において初代火影様はパワーバランスを保つため抑止力として各里に封印された尾獣を
「コト、オマエ、マジデ、ダマレ」
「い、いきなりなんでカタコト? ってかやっぱり聞こえてるんじゃないの!」
情報漏洩が止まらない。
それを一方的に聞かされる私はたまらない。
毎度のことながら一体どこでそんな情報を仕入れてくるのやら、初代様が現役だったころの五影会談の概要とか初めて聞いたわ。
やっぱりコトに考える時間と余裕を与えちゃ絶対にダメだと改めて確信する。
高すぎる解析能力と収集能力に反比例してあまりにも口が軽すぎる。
(………いや、口が軽いとかそういう軽い理屈でもないのかしらね)
そもそもの話として、コトは根本的な部分で秘密を暴き立てるという行為の危険性と凶悪性を全く理解していない。
分かりあうことは素晴らしいことだと当然のごとく考えているから相手を
他人が嫌がることをしないという当たり前の道徳観を持ち合わせてはいても、それが忌避される行為であると気付く土台がそもそもない。
何故ならコトにとってそれは秘密でも何でもない、
理解する感性自体が最初から育まれていないのよ。
(これもある意味、一族滅亡が生んだ歪みの一端なのかしらね)
そのあたりの機微とか、踏み込む領域の線引きとか、心の距離感とか。
本来そういうのを教えてくれるはずだった
つまりは良心の問題ではなく両親の問題、自分が特別であるという自覚の欠如、サスケ君と同じうちは一族に生まれながら
(木ノ葉以外だと比喩ではなくマジで死ぬほど迫害されてたでしょうね)
誰からも理解されず、ある意味自業自得ゆえに味方もできず、白さんみたく抜け忍になって、人知れず息絶えるかあるいは第2の大蛇丸になりはてるか。
木ノ葉がその手の秘伝とか血継限界とかに物凄くおおらかな忍び里で本当に良かった。
日向、油女、犬塚、山中………その気になれば秘密なんていくらでも暴き立てる手段がある一族が一堂に集まって融和している木ノ葉の度量がなかったらこうはいかなかった。
(逆に言えば、なまじ木ノ葉の里にそれだけの器があったからこそこんなになるまで放っておかれたともいえるのだけれど………まあ、要するによ………コト)
それは木ノ葉だからこそ
「うあああああああああああああ!!?」
というか、現在進行形でとんでもないことになっている。
コトに砂を燃やされて以降、動きが全くなかった我愛羅君が突如絶叫。
典型的なパニック、恐慌状態。
「うぇええ!? ど、どどどどうしたんですか!?」
そしてコトも、そんな彼につられて思考を中断しパニックに。
いやどうしたんですかじゃないわよアンタの所為でしょうが。
なんでこんな時だけ察しが悪いのよ。
「(………んん? 待ってください。砂による無意識の自動防衛。見る限りでは努力と研鑽によって身に着けた能力とは考えにくい、つまりは生まれつきの………物心がつく前………生まれたその瞬間から………いえこれは生まれる前から憑りつかせる憑依の術? ………)………え゛!? ということは我愛羅君、ひょっとして今初めて!?」
ヤベェやっちゃった! とコトは大慌て。
なるほど、大人顔負けの殺気を放つ割にどこか幼い我愛羅君の雰囲気はそういうわけだったのね、これもある意味特異な能力を生まれ持った歪みのその一端って事なのかしら………じゃないわ今度は察しが良すぎる。
憑依の術ってなんだそれこんな一瞬で我愛羅君の出生まで遡るな。
まるで、というかまさに初めて母の庇護下から解き放たれた幼子のように叫ぶ我愛羅君にあわあわオロオロ取り乱すコト。
………どことなくアンバランスというかちぐはぐというか、ベクトルは全く違うけれど、ある意味物凄く似たもの同士なのかも。
「うわああああすみませんすみません大丈夫ですか!?」
「く、来るなあああぁあああ!!?」
「ほきゃあああ!!?」
「っ!? 我愛羅!?」
「なんだ!? コトがまた急にひっくり返ったぞ!?」
「な、何が起こったんだってばよ!?」
立て続けに起こった一連の出来事を並べると。
まずコトが血相を変えて我愛羅君に駆け寄り、それによりますますパニックになった我愛羅君ががむしゃらに腕を振り回し―――何かが飛翔して―――コトが唐突にひっくり返った。
よくよく見れば、倒れたコトのすぐ近くにコロコロと転がる砂の塊が………ああ、うん、そうよね、中身も器も砂だったんだから当然『蓋』も砂でしょうね………
「栓よ………砂でできたひょうたんの栓がコトのオデコにスコーンって………」
「はぁっ!? それじゃ最初と同じ………今までの戦いは何!?」
「いやそんなこと私に言われても………」
ほとんどの砂をダメにされて、それでも最後の最後にわずかに残ったほんの一握りの砂が勝負の決め手になった………といえば聞こえはいいけれど。
まだ砂が残っていたことに他の誰でもない我愛羅君自身が一番驚いているあたり、これって単なる偶然よね………なんというかもうグダグダよ。
仰向けに倒れたコトは動かない。
意図していなかった我愛羅君も驚きで動けない。
審判の月光ハヤテさんだけが白けた表情で動いた。
「ゴホッ………失礼………ふむ、完全に気絶してますね」
ああ、既視感。
「………決まりですね。うちはコト選手、気絶により戦闘不能! 勝者、我愛羅選手!」
いろいろあったけど、こうして終わってみればいつも通り。
むやみやたらと無駄に試合を、観客も含めて引っ掻き回して引き延ばし、粘りに粘って大きな波紋だけを残した挙句、しかし結局は負ける。
そう、まさしくそれはいつもの事、いつも通りのコトだった。
「とりあえず感想とか評価とかはひとまず置いておいてよ………無事に終わってよかったわ」
「無事!? こんだけ無茶苦茶やっておいてどのあたりが無事!?」
「無事でいいでしょ? 皆ほとんど無傷で終わったんだから」
「………確かにカナタの言う通りかもしれない。なぜなら、チャクラの消耗はあれど、コトも対戦相手の我愛羅もこれといったダメージは皆無だからだ………」
「精々がコトのオデコにタンコブができたくらいか? ………ある意味スゲーなそれ」
「私としては実際に試合したときよりも精神的に疲れたんだけど………」
「よかったじゃない、被害が精神だけで済んで………
「何その社会的自爆忍術!? そんなのまであったの!?」
「………いやマジで実際ありえたのよね。砂の盾もさすがに嗅いは防御の対象外でしょうし………あ、ちなみにこのサイシュウは終わりって意味の最終じゃなく最も臭いと書いて最臭………」
「ええい説明せんでいいわそんなこと!」
試合が終わって緊張が解けたのかワイワイ騒ぐ下忍一同を余所に、上忍たちは思考を巡らせる。
実際のところ、コトの所業は「引っ掻き回した」の一言で済ませていいようなものではなかった。
(思考能力、洞察能力、知性や発想は良い意味で、身体能力と運動神経は悪い意味でそれぞれ下忍という枠組みから完全に逸脱してしまっているわね。それでいて性格的な“向いてなさ”はヒナタ以上………なんて極端な子なの)
(フィジカルに乏しいのは確かに残念だが、逆に言えばそれだけ頭脳面に特化しているともいえるか。弱点が明確な分、それをカバーできるチームと組めさえすればそれだけで存分に長所を活かすことができる………ヤマトが自信をもって推薦しただけはあるな………だがなぁ)
(同じうちはの天才でも、カカシのところのサスケ少年とはまるで違う。彼女は決して万能ではないし、なれない。自分の欠点をとてもよく理解していた。そして短所が分かれば長所が光ることも! 窮地に陥っても淀まない思考、揺らがない精神、諦めないガッツ。結果こそ残念だったが、それでも彼女の青春は間違いなく輝いていた!)
(ま、振り返ってみれば試合開始直後に我愛羅君がコトを侮って半ば放置したのが全ての始まりにして最大の悪手だった。そしてコトは言わば天然の『相手を油断させる天才』だ………ならこの結果はある意味必然といえるかもしれない)
(可笑しな言い草になるが………コトは負け試合の方が強いんだ。勝利を度外視して好き放題しだしたコトはある意味恐怖、砂の彼もそれを大いに体感したことだろう。試合には勝ったがその代償としてイビキ先輩が言うところの『命よりも重たいもの』を失ったと言える)
各々の見解は異なれど、最終的には全員がほぼ同じ結論にたどり着いた。
((((これが予選で本当によかった))))
(ある意味不幸中の幸いじゃったのう………木ノ葉にとっても、砂にとってもじゃ。いやはや、ただでさえ各国のバランスが不安定な今、本戦の衆人環視の最中で
試合が終わった後、同期の下忍とひとしきり話したカナタはやれやれと言った様子で手すりを飛び越えた。
そしてさも面倒くさそうに倒れているコトを背中に背負いあげる。
「本当に世話の焼ける………あ、担架とか別にいいですよ。私が医務室に運びますので。正直、コトには必要ないっていうかもったいないです。本当にただオデコぶつけただけですし………」
「いや、しかし………」
戸惑っている医療班をひらひらと手を振って拒否し、手際よく周囲に散らばった忍具やら調理器具やら洗濯用具やらを拾い集めていく。
フォローや事後処理によほど慣れているのであろう、カナタは最後に脱ぎ捨てられた巫女装束を拾い上げバサバサと適当に砂をはらって肩にかけて、そのまま試合会場から出て行った。
カナタがコトを連れて会場を後にして、予選最後の第11回戦、秋道チョウジとドス・キヌタの対決が始まり………ふと、ヤマトの脳裏に疑問がよぎる。
(………ん? そういえばカナタは医務室の場所を知っているのか?)
予選会場を出てしばらく廊下を歩き、ふと後ろを振り返る。
ついてきている人は誰もいない。
前を見る、誰もいない。
上を見る、誰もいない。
最後に耳を澄ます………人の気配は無し。
今、この場には誰もついてきてない………たぶん。
少なくとも
「………よし、やや強引になったかもだけどとりあえずはなんとか誤魔化せたかしら」
背中に背負っているコトの右腕
コト本人は未だ気を失ったままのはずなのに右腕だけがまるで別の生き物のようにバタバタと暴れだし、青黒い痣のような呪印模様が腕全体に広がりさらには胴体の方に伸びていく。
「っ! だから私は巫女服脱いだのは悪手だって言ったのよ!」
っく、鎮まれコトの右腕!
正直な話をすれば、私は
解説してくれたコトですら推測どまりで詳しいことは分からなかったのだから、なおのこと私に分かるわけがない。
精々がこれは大蛇丸の細胞で造られたマーキングの一種で、放っておくと拒絶反応で死んでしまうか適合してそのまま大蛇丸に乗っ取られてしまうらしい程度のことしかわからない。
周囲にバレないように試合会場から連れ出したのも、はたけ先生が同じ症状であると思われるサスケ君に対してそうしていたから、私もそれに倣ってそうしただけでしかない。
ただ、不特定多数に見られるのはヤバいというのは何となく察せられた………木ノ葉の面々はともかくとして、少なくとも他里の人たち………特に“音”にこれを見られるのはとてもマズイ気がした。
もっとも、
持ち物検査でワンアウト、身体の精密検査でツーアウト、目覚めた時の質疑応答でスリーアウト、人生サヨナラゲームセットが確定するわ。
叩いて出てくる埃の量が多すぎる………
(特に“あれ”がバレるのは絶対に避けないと。明かすにしても最初はヤマト先生か、呪印の対処法を知っているっぽいはたけ先生に後日こっそりってのがベストないしベター。私の判断は間違っていないはず………だといいなぁ)
何にせよバレた時、なんでもっと早く言わなかったんだってむっちゃ怒られそう………コトと次第によっては物理的に首が飛ぶかも………嫌だなぁ。
内心でそんなことを考えつつ、私はコトをその場に寝かし巫女服をかぶせる。
コトによって無茶苦茶な魔改造が施された巫女装束は、先の対戦で披露した忍具の口寄せ機能のみならず、サスケ君の首に巻き付けた呪符と同じ、呪印を封じる枷としての術式も施されているのよ。
「日頃の行いいいいぃぃぃいい!?」
暴れる右腕の呪印を封じる術式があったはずの、肝心かなめの右腕の部分だけ引き裂かれていた。
たぶん、我愛羅君の砂の手につかまれて空蝉で逃げた時に引っ掛けたのね………なんてこった。
それもこれもこの改造巫女装束がやたら多機能すぎるのがいけないのよ。
何故1つにまとめちゃったのか、せめて呪印の封印機能は別に分けておけばこんなことにはならなかったのに………性能を追求するあまり、実用性をどこかに置き忘れるのはコトの悪い癖ね。
そうこうしているうちに、呪印はどんどん広がりやがて胸、首、そして顔にまで到達ってマズイマズイマズイこうなれば試合会場にUターンしてヤマト先生をいやはたけ先生を連れてくるかでも間に合うか………とか考えていたら、突然コトの眼がカッと開かれた。
「っ!?」
右目の写輪眼が紅い光を放ち、呪印が再び右腕の方に押し戻されひいていく。
右腕はまるでどこかに助けを求めるかのように虚空に掌をかざし、その後パタリと動かなくなった。
役目を終えた右目も再び光を失う。
「………写輪眼に呪印を押し返すような機能あったかしら? ………いやそもそも写輪眼なの?」
なんか、いつもの巴模様とは違ったように見えたんだけど………なんかこうハートマークのような、もしくはクローバーのような………
いったいコトの身に何が起こっているのか、いや潜んでいるのか………腕といい目といい賑やかすぎじゃない? ………こんなところまで我愛羅君と似なくていいのに。
「………まあ、コトが目覚めたら勝手に調べて勝手に把握するでしょう。うん」
とりあえず今のところは見なかったことにしよう。
ちなみに、コトの呪印は最初から音にも、音と手を結んでいる砂にも筒抜けです。
つまりカナタが隠せたのは木ノ葉(特にヤマトとか。あの場にいた同期の面々は知っている)だけ………
いますよね~
中途半端に気を回したせいで、余計に事態をややこしくする人………
ともあれこれで予選編は終了。
閑話を挟んで、中忍試験本戦、木ノ葉崩し編に突入です。