もともと予選編においての最大の山場であるロック・リー戦。
初のマイカゼの戦闘ということで力が入りすぎ、長くなったので分割です。
続きはなるべく早めに投稿できると思います。
月光マイカゼは今でこそ己が凡才であることを自覚しているが、無論初めからそうだったわけではない。
むしろアカデミー時代はその逆、めちゃくちゃ調子に乗っていた。
己は剣の天才だと豪語し、事実として当時のくのいちクラスに接近戦で私に勝てる生徒など誰もいなかった。
黒歴史は誰にでもあると信じたい。
その天狗になった私の鼻を根元からへし折ってくれたのは、当時単なるクラスメイトでしかなかった空野カナタとその知人のうちはコト、そしてアカデミーに中途編入してきた日向ヒナタである。
ヒナタとはその時、体術の授業で対戦することになったのだが………
『いい? 日向さん。決して相手から目をそらさないで。自信をもって相手と目を合わせることさえできれば貴女は絶対負けないわ』
『ファイトなのですよ。ヒナタさん』
『う、うん。ありがとうカナタちゃん、コトちゃん!』
『ふん、たとえけっけーげんかいほじしゃでもまけるもんか!』
目を合わすこともできずコテンパンに負けた。
私は悔しくてその結果を認められなくて。
『ひきょーだぞあんなの! こんどこそせーせーどーどーしょうぶ!』
『………? わたしもまけないよ!』
一度勝利して自信をつけたヒナタは普通に強かった。
いや、ヒナタはもちろん強かったのだが、それ以上にヒナタの使う体術流派と血継限界、日向流と白眼が反則的なまでに厄介だった。
尋常ではない視界の広さと洞察力………動きを全部見切られてこちらの攻撃がほとんど通用しなかった。
連敗こそなんとか回避したものの『日向は木ノ葉にて最強』は伊達じゃないことは腹の底から(文字通りの意味で)痛感させられ、以降私はヒナタを勝手に己の好敵手と定め切磋琢磨することになる。
「なるほど、つまり彼女は先の試合でネジと熱い名勝負を繰り広げた日向のお嬢さんの永遠のライバルということか!」
「え、永遠かどうかはわかりかねますが。少なくともマイカゼはそういう風に思っていると思います」
リーとマイカゼの試合を観戦する傍ら、マイト・ガイはマイカゼのチームメイトであるうちはコトからマイカゼの情報をいろいろと教えてもらっていた。
もともと明るく、そして社交的な性格なのであろう。
コトは尋ねたガイが不安に思うほど無防備にニコニコ笑顔で詳しいことを話してくれた。
(………打倒ネジを掲げるリーと少しばかり境遇が似ているな)
当初はデタラメに思えたあの速いリーの動きを完璧に見切るという所業も、コトから来歴を聞いた後であればおのずと理由が見えてくる。
ふと、ガイは隣に立って自分と同じように両者の試合を観戦しているカカシに視線を向ける。
普段は斜めに装着された額当てで隠されている左目が解放され、高速で展開する戦闘劇を一瞬も見逃すまいと目まぐるしく動いていた。
写輪眼。
洞察眼において白眼に迫る性能を発揮するだけでなく、幻術、体術、忍術の全てを一瞬で見通し、ひとたび目を合わせればそれだけで相手を幻術に嵌めることすら可能な究極瞳術。
そんな代物にどう対抗するかは瞳術使いに挑む者たちの永遠の課題だ。
(その時、彼女は答えを得たのだ………)
ガイ自身、カカシの永遠の
視線を試合に戻す。
戦場を目まぐるしく駆け抜けるリーの動きが最初に比べて変化していた。
最短、最速ではなく、あえて遠回りに、時折緩やかに。
高速体術の間にあえて無駄な挙動を挟むことにより、リーはマイカゼの読みをかいくぐろうとしていた。
(無駄だ………リーよ)
「いや、いくら私がバカでも、さすがにそんなのには引っかかったりはしませんよ?」
「っく! どうして………」
「わかりやすいですねリー先輩。ウソつくのが本当にヘタクソです」
(彼女は本物の瞳術使い達と真っ向から渡り合えるほどに洞察力と察知能力を鍛え研ぎ澄ましている。そんな付け焼刃のフェイントなど通用するはずがない。違うだろう………そうじゃないだろう………リーよ)
ガイにはリーが焦っているのが痛いほどに理解できた。
どんな攻撃をどのタイミングでどこから仕掛けても、すべて見切られ受け流されるイメージしか抱けない。
じわじわと心と体を侵食する『本当の天才には何をしても無駄なんじゃないか』という絶望感。
(おそらく今のリーにはネジの姿がマイカゼと重なって見えていることだろう。呑まれるな、お前にはお前の答えが………)
リー先輩に“迷い”の動きが増えてきた。
表情の揺れ動きがはっきり見え、リー先輩が何を考えているかが容易に推察できた。
(しかし、何て見切りだ! いくら速く動けても全て受け流されたら僕の攻撃も意味がない………こうなったら………)
「私が受け流せないほど重たい一撃を繰り出すしかない、ですか?」
「っ!? 貴女は心が読めるのですか!?」
「リー先輩が分かりやすいんです。後は勘」
本当、ここまでの正直者は忍者ではとても珍しい。
だからこそ、ここまで真っ向勝負が成立しているともいえる。
とても楽しい。
「っ! うおおおああ!」
リー先輩の両腕のテーピングが解ける。
経絡系を流れるチャクラが限界を超えて加速し、肉体を極限まで活性化させるリー先輩。
コトが言っていた、八門遁甲というやつだな。
私には経絡系を見通す眼はないけれど、知識としては知っている。
具体的に何ができるかも覚えている。
私の周囲を霞むような速度で疾走、そして―――
―――表蓮華!
「悪いですけど。その技はもう覚えてます」
「―――え?」
―――身体を仰向けに倒したリー先輩が、宙を舞った。
(リーの表蓮華を………同じ表蓮華で
(マイカゼは1度見た技なら大体覚えてしまう。特に今回はサスケの対戦ですでに予習済み。ひょっとしたらサバイバル試験中にも見る機会があったのかもしれないな。なんにせよリー君は軽々しく大技を披露しすぎたね)
(なんて奴だ………)
「ただしここからは私のオリジナルですが。行きます! 木ノ葉流剣術・最終奥義!」
「え?」
「最終………奥義?」
そ、そんな技ありましたっけ?
久方ぶりの接近戦で何やら舞い上がっているらしいマイカゼの叫びに、
ひょっとして私たちに内緒で秘密の特訓を………
「あ、ちなみになんで最終かって言うと、これは私がサスケやナルトの試合を見てついさっき思いついたばかりの新必殺技だからです!」
秘密なんてなかったです。
「連続技が流行りみたいだから、私もそれに倣って今使える7つの木ノ葉流剣舞を一気に連続で叩き込んでみることにしました!」
開けっぴろげです。
バカ正直にすべてを暴露したマイカゼはそのままの勢いで木ノ葉流の剣技を有言実行。
『双月の舞』
試合最初にも見せた鋏を閉じるような2撃が落ちてくるリー先輩を空中にくぎ付けにし、
『上弦の舞』
それを『小望月の舞』で突き上げ、
『望月の舞』で巻き上げ、
『下弦の舞』で追撃、
『
「名付けて―――木ノ葉我流剣舞!
とどめに
「………あ、しまった! 鞘がないってか
「「「ア、アホ~~~~~~!!」」」
あまりにもしょうもない理由で隙を見せて、リー先輩にあっさり反撃されてゴロゴロと床を転がるマイカゼ。
これまでの鉄壁ぶりがウソのようなその姿に私とカナタとヤマト先生まで揃って絶叫。
「もう! もう! これだからマイカゼは!」
「変に連撃なんかせず普通に一撃に力込めてたら勝ってたのに!」
ああ、そうでした。
これまではカナタがしっかり作戦を立てて手綱を握っていたのでそうならなかっただけで、マイカゼはもともとこういう1人で調子に乗せたらダメになるタイプでした。
「その場の思い付きでおかしな新術をいきなり実践するとか何考えてるんですかマイカゼは!」
「コトちゃんコトちゃん、人の事言えないってば………」
「ナルト君もね!」
「さ、3バカ………」
「月光マイカゼ………いろんな意味で侮っていたか………ナルトの意外性ナンバー1の地位を脅かす奴らがまさかこんなに多いとは」
(おまけに連撃としてもとんだ欠陥技ですね………ゴホッ)
内心で密かにそう評したのはマイカゼの技を誰よりも近くで見ていた審判にして兄の月光ハヤテである。
(7つの舞の出だしと終わりがまるで繋がっていない。これでは連続技ではなく、本当にただ異なる7つの剣技を続けて繰り出しただけじゃないですか)
おまけに連撃の最後は一度納刀せねば繰り出せない抜刀術の朔の舞。
納刀で連撃が途切れる上に、真上から迫りくる対象をどうやって居合で斬るというのか。
(仮に得物が竹刀ではなく真剣だったとしても繰り出せず、繰り出せたとしてもどの道納刀の隙を突かれて反撃を受けていたでしょうね………)
結論、
(まあ、連撃そのものは
とどめの朔の舞は不発なれど、6つの剣舞を受けたリー先輩。
隙だらけのところに反撃をまともにくらい吹っ飛ばされたマイカゼ。
「僕は………こんなところで終わるわけには」
「イタタ、効いた………でもさすがにこれで負けたら皆にバカだと思われる」
対峙する2人は立ち上がりこそしたものの、それなりにダメージを負ったみたいですね。
決着は近いのかもです。
あとマイカゼ、とっくに手遅れですよ?
そんな外野の心象もつゆ知らず、マイカゼは身体中が切り傷だらけになってもなお立ち上がってくるリー先輩を笑顔で見やり竹刀を構え直します。
「最後はともかく、他はちゃんと手ごたえばっちりだったはずなんですが………うーん、これは竹刀でも繰り出せる必殺技を何か考えないと。何がいいかな………」
とっても楽しんでますねマイカゼ。
よほどフラストレーション溜まってたんでしょうか。
まあ今まで本当に機会がなかったのも確かですが。
ヤマト先生もカナタも、事前に策を弄するタイプですし。
チョキを繰り出す相手にはグーを、パー相手にはチョキを。
そういう事前の策略とか謀略とかで勝負する前から勝敗が決まっちゃうことは、マイカゼみたいな戦士にとってはとてもつまらないことなのでしょう。
どっちが勝つかわからないグーとグーのあいこのぶつかり合い。
それこそマイカゼが求める真剣勝負。
「………忍者としては果てしなくズレてますね」
「おまいう」
リー先輩がマイカゼを何ともいえない表情で睨みつけます。
「………なぜ」
「?」
「なぜあんなことを? あんな技使わずとも貴女なら………勝てたはずです」
リー先輩のこれは憤りでしょうか。
「何のことですか?」
「とぼけないでください! さっきの技です。手加減したのならそれは侮辱です」
「………………なんだかずいぶんと私を過大評価………いえ、
「それは………だったら!」
「言葉を並べたてる時間がもったいないです。滅多にない接近戦タイプ同士の大勝負なんですからリー先輩も拳で語ってください。私も刀で語ります」
「!」
受け一辺倒だった先ほどまでとは一転して、今度はマイカゼから攻撃を仕掛けました。
その動きは先までのリー先輩に比べるとどうしようもなく遅い、というよりぎこちない?
こんなのリー先輩に通用するわけが………
「っく!」
「当たった?」
「しかもなんで手刀? 竹刀は?」
リー先輩もただ黙ってやられるはずもなく反撃しますが、マイカゼはそれを流すことなく、まともに受けてしまいます。
「なんでマイカゼは受け流さないの? さっきまではあんなに………」
「リー先輩もです。動きが急に固く………」
こうなるともはやノーガードの殴り合いです。
「蓮華という技は諸刃の剣なのだよ」
「え!?」
「本来禁止技にあたる。蓮華を繰り出したリー君も、それを同じ蓮華で迎撃したマイカゼも、今は身体中が痛み動きまわるどころじゃない。そうだろガイ」
「そ、そんな」
「っく………」
「ああ、もう体中がメキメキ音を立ててる! これが命を削っている実感! これが戦い!」
マイカゼ、物凄い笑顔です………気持ちいいのでしょうか?
「で、でもだったら条件は同じはず。まだマイカゼの方が追い込んで………」
「いや、今度はリーが追い込む」
「な、なんで?」
「木ノ葉の蓮華は二度咲く」
おまけ
アカデミー時代、マイカゼとヒナタ対決前。
マイカゼとカナタの会話。
『貴女が次、授業で日向さんと組手する月光さん?』
『そうだが………それがどうかしたのか?』
『ううん、別に。ちょっと話をしに来ただけだから。 でも………これなら日向さんなら勝てるかなって』
『な、バカにするな! にんじゅつやげんじゅつならともかく、たいじゅつならだれにもまけない!』
『どうでしょうね。先生に聞いたんだけど、体術の授業だからって別に忍術や幻術を使っちゃいけないってわけじゃないみたいだし』
『え? そ、そーなのか?』
『知ってる? コトに聞いた話なんだけど、瞳術使いには印も結ばず目を合わせるだけで幻術に嵌めることもできる人がいるらしいわよ?』
『え………』
『そういえば、日向さんってあの日向一族の嫡子で『白眼』って瞳術が使えるのよね………』
『そ、そんな………』
『あ、もう行かなきゃ。じゃあね』
忍びの戦いは、始まる前から、終わっている………というのは言い過ぎか。
少なくともカナタは嘘はついていません。
これ以降マイカゼは正々堂々に拘るようになりました。
続きはなるべく早く投稿します。