南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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遅れました。
この話から本格的に原作から乖離します。


25話

「いてて、全くあいつらときたら思いっきりやってくれちゃって……」

 

身体が動かないことをいいことに己の部下(ナルトたち)に容赦なく袋叩きにされたその日の夜。

はたけカカシは、独りで出歩いていた。

周囲の警戒とリハビリを兼ねた散歩だ。

 

「良いんですか? そんな風に出歩いて」

 

否、独りではなかった。

カカシの背後にいつの間にかもう1人。

 

「テンゾウ、それはどっちの意味だ? 修行中の部下を放っておいて良いのかと聞いているのか、はたまた寝てなくて良いのかと俺の身体を心配してくれているのか」

 

「前者ですかね。あと今の僕は『ヤマト』です」

 

「……ああ、そうだったな。ま、大丈夫だろう。あいつらならわざわざ手取り足取り俺が教えなくても自分で勝手に伸びる」

 

「そういうもんですかね」

 

「成長期のガキなんてそんなもんだ」

 

ヤマトの問いに対してひどく適当な答えを返すカカシ。

 

「そんでもって俺の身体の方もすこぶる快調快調」

 

「いやだからそっちは心配していませんって」

 

ヤマトは己の部下の“こういう方面”において()()は、その有能さを高く評価し信頼していた。

現在、カカシの手に松葉杖はない。

もう必要がなかった。

もちろんまだ本調子とは言えないが、それでも今までの写輪眼を使った後の衰弱具合とは比べ物にならないくらいの回復速度だった。

 

(……この分だと全快まで3日もかからないかもな)

 

拳を開いたり閉じたりして体の動きを確認したカカシはそう自己診断する。

 

本来なら一週間は寝たきりを覚悟していたのだが、その予測をいい意味で裏切ってくれたのはヤマトの部下の白い少女、うちはコトだ。

 

「ま、助かったよ。お前も随分と素直で将来有望ないい部下に恵まれたじゃないか」

 

「そうでもないですよ。素直は素直でも、素直に言うこと聞かないですし。あと確かに先輩の言うとおり将来有望なんですけど…」

 

「「それ以上に将来が不安」」

 

カカシとヤマトのセリフが見事に重なる。

下忍(こども)が優秀であることが、必ずしも良いわけではないということをしみじみ実感させられて、上忍(おとな)2人はため息をつくのだった。

 

 

 

写輪眼を多用すると寿命が縮む。

 

コトから唐突に告げられたその一言を、カカシは写輪眼使いの1人としてどうしても聞き流すことはできなかった。

詳しい事情を尋ねたところ、コトはその質問を待ってましたとばかりに嬉々として己の研究の成果を語り始めた。

 

かつて、まだうちは一族が滅亡していなかったとき、彼女は姉のうちはミハネに「写輪眼ってどうやって開眼するの?」と尋ねたことがあったらしい。

 

『その時のお姉ちゃん曰く、写輪眼はうちは一族の一部の家系の人が失意、喪失などの強い負の感情を抱いたときに脳内から発せられる“特別なチャクラ”が視神経に作用して開眼するとのことなのですよ』

 

うちは一族の割と重大な秘密を、一般人(ツナミ)の前であっさりとばらしたコト。

すぐ隣でヤマトが頭を抱えていることにも気づかず少女はさらにぺらぺらと言葉を加速させる。

 

『この話を聞いたとき、私は疑問を感じたのです。『特別なチャクラ』って何がどう特別なのでしょうかと』

 

この疑問を、当時のコトは姉のミハネだけでなく、父や母はもちろん知り合いのうちは一族に片っ端からぶつけたが、結局納得のいく答えは終ぞ得られなかった

仕方ないのでコトは、写輪眼を開眼しているうちは一族のチャクラと、開眼していないうちは一族のチャクラを継続的に比較観測し続けることにしたのだ。

 

何気にさらっととんでもないことをしていたらしい白い少女に、上忍2人はあいた口が塞がらない。

いや、片方はマスクで口は塞がってはいるのだが。

 

他者のチャクラを継続的に観測し続けるなんて芸当、専用の忍具や機材を用意するか、複数人で印を組んで結界忍術でも行使しない限り不可能である。

個人で何の補助もなしに行使できる術のレベルを完全に逸脱しているが、どうしてコトには可能だったのかというと、それは並行して行っていた自然エネルギー(当時は謎チャクラと呼称)取り込み実験の副作用のおかげで、やたらとチャクラには鋭敏になっていたからである。

 

「おかげで観測し続けるのは別段難しくはなかったですよ?」というのはコト本人の感想だ。

カナタが聞けば即座に「このアホ天才が!」と突っ込んだであろう。

上忍2人は苦笑いしか出なかった。

 

そんなこんなで毎日コツコツ辛抱強く観察し続けた結果、コトは真実……とはいかないまでも、それでも納得できるある種の仮説を弾き出した。

 

 

 

写輪眼を開眼させる要因である『特別なチャクラ』とはすなわち『生命エネルギー』なのではないかと。

 

 

 

『チャクラだけなら多少消耗しても兵糧丸や医療忍術などですぐに回復することはある程度可能です。けれど、生命エネルギーの場合はそうはいきません』

 

元から図抜けた生命力(チャクラ)を有するうちはの血族ならともかく、他の忍びの身体じゃ身が持たないのだ。

生命力の消耗とは、言い換えれば身体の血肉を物理的に削っているに等しい。

多少血を流したり、怪我をする程度ならすぐに治癒できても、大きな失血などは精神力に関係なく回復に時間がかかってしまう。

怪我や貧血は根性で治ったりはしないのだ。

 

道理で兵糧丸などを服用してもあまり効果がないわけだ、と納得するカカシ。

 

『軽度ならただバテる程度ですむでしょう。まだマシです。でも重度だと……』

 

千切れた腕は生えてこない。

失った臓器は戻らない。

 

生命力をあまりにも大きく消費すればどれだけ時間をかけて療養しても戻らないなんてこともありえる。

繰り返せばそのたびに衰弱し、寿命を縮める結果になってしまう。

 

『うちは一族の人間でも、限界を超えて写輪眼を酷使すれば生命力の枯渇で視神経が壊死して失明しちゃうこともあったらしいですから、カカシ先生も気を付けてくださいね?』

 

『はは、ま、気を付けるよ。話を聞く限り安静にする以外の治療法はないみたいだし』

 

『いえ、そんなことはないです』

 

『……え?』

 

今までの話の前提を覆すようなセリフに呆気にとられるカカシ。

 

『原因ははっきりしているんです。生命エネルギーが枯渇しているなら、生命エネルギーを補充すればいいんですよ。幸い、ちょうどチャクラを生命エネルギーに性質変化させられる特異体質の持ち主がこの場に2人もいるわけですし』

 

かくして、それ以降のカカシの体調は劇的に回復することとなったのであった。

 

 

 

 

「……上層部はコトのヤバさ(このこと)に気づいていると思うか?」

 

「そこまで広まっていないはずです。うちはの生き残りと言っても所詮は問題児ってことであまり注目もされてなかったみたいですし。研究もそのほとんどが再現性のない机上の空論(もうそう)扱いです……ただ、火影様はさすがに認知しているでしょうね」

 

「つまり、『根』にはまだ知られていないわけか。なあ、参考までに聞きたいんだが、もしダンゾウがコトの事を知ったらどうすると思う?」

 

「あまり良いことにはならないのは確かでしょうね」

 

暗殺戦術特殊部隊、通称暗部。

その木ノ葉の暗部組織『根』を束ねる実務者ダンゾウに対してそう分析するヤマト。

ダンゾウにつけられた『忍びの闇』の代名詞は伊達じゃない。

 

「お先真っ暗じゃないか……将来有望なのに」

 

「有望なんですけどねぇ……」

 

 

 

『私の仮説が正しければ、チャクラを身体のどこかにため込み、年単位の時間をかけてじっくり寝かせて熟成させれば、ヤマト先生みたいな特別な体質の人じゃなくてもチャクラを生命に精製できるはずなんですよ』

 

『熟成って……』

 

『熟成って表現がダメなら醸造でも発酵でも良いですよ?』

 

料理かよ、と思わず突っ込みそうになったカカシ。

これがまるっきり的外れなら聞き流せるのだが、あながちそうでもないことを知っている身としては迂闊に聞き逃せない。

というか、“長年チャクラを体の一部に貯蔵し続ける”という話自体に心当たりがありすぎる。

 

『まあ、まるっきり実現性がありませんけどね。そんな長時間チャクラをコントロールして特定の部位にため込み続けるなんて無茶もいいところですし。やり方次第では精製期間を短縮できるのかもしれませんけど』

 

『てっとり早くまとまった量の生命エネルギーを発生させるには、水と土の性質のチャクラを同時発生させて化合することですけど、同時発生させるには特別な道具もしくは本人の特別な資質が必要ですし、仮に同時発生が実現できてもそれらを化合するにはさらなるハードルが―――』

 

その後も、コトのウンチクは続き、素人(ツナミ)は基より上忍(プロ)であるカカシとヤマトまでも終始圧倒し続けた。

2人がどれくらい圧倒されたかというと、途中で写輪眼の話からそれて生命エネルギー、ひいては木遁の話になってしまっていることに気づかなかったくらいに呆けていた。

これでまだ写輪眼そのものには開眼していないというのだからカカシからすれば驚きで声も出ない。

 

 

 

もしコトが写輪眼を開眼したら、自分の部下のサスケ同様使い方や特性を指導するようにと火影・猿飛ヒルゼンから直々に指令を受けているカカシだったが。

 

(……もう教えることないんじゃね?)

 

もうすでに自分以上に写輪眼に詳しいのではないかと考えてしまう。

むしろ逆に現在進行形でうちはの機密(ちなみにこれはコトがかつて一族の領地を片っ端から家探しした成果であり、滅びていなかったら秘匿され続けてほぼ永久に日の目を見ることのなかった情報だったりする)いろいろ教えられる始末、自分如きに教えることなんてあるのかと割と本気で悩むカカシだった。

 

 

 

 

 

 

第七班の面々が、木登りの行を始めてから早3日。

3人はあっという間にマスターしてしまいました。

……いや、本当にあっという間でしたね。

 

そりゃ第九班(わたしたち)も一生懸命にアドバイスとかしましたけど、それにしたって早すぎです。

もっといろいろ教えてあげたかったのに。

あるいはそれをきっかけにすれ違い気味のサスケ君や勘違い気味のサクラさんともっと話が出来るかもと思ったのですが。

淡い期待でしたね。

 

確かに木登りの行は、いわば補助輪なしの自転車や鉄棒における逆上がりみたいなもので、1度コツさえつかんでしまえば「なぜ今までできなかったのか」が解らなくなってしまうくらいにあっさりできるようになってしまうような修行なのです。

慣れればほぼ無意識かつ印なしで壁に立てちゃいます。

でも逆に言えば最初のコツをつかむのがそれなりに大変なはず(実際第九班(わたしたち)は結構苦労しました)なのですが……たった3日って。

世の理不尽を嘆きたくなります。

 

特にサクラさん。

「案外カンタンね」というセリフは誇張でも虚勢でもなんでもなく、たった1回木登りを実演してみせただけでコツをつかんで木の幹を垂直に歩けるようになるとか信じがたい偉業です。

見ただけで一発模倣(コピー)とか、貴女はうちは一族ですか! と突っ込みたくなりました。

いえ、写輪眼なしで模倣を成し遂げたあたり、ある意味うちは一族以上にとんでもないかもです。

スタミナはともかく、チャクラのコントロールに関しては間違いなく天性のものを秘めてますね。

私なんか、足にチャクラを集中する感覚をつかむだけでも3日かかったのに……

 

「……これだから天才は」

 

「お前が言うな」

 

修行の時のことを思い出して、ふと愚痴を漏らした瞬間、カナタが間髪を入れずに突っ込みました。

 

「ついこの間だって、偶然会った綺麗なお姉さんに……」

 

「あれは単なる日々の研究の成果です。誰だってできます」

 

「その「誰だって」の中には自分しか含まれてないことにいい加減気づきなさいよこのアホ天才が」

 

「なにおう!?」

 

「カナタも人のこと言えないと思うが?」

 

カナタの突っ込みにマイカゼがさらに言葉を重ねます。

ちなみにそういうマイカゼだって、私なんか及びもつかない素質を秘めていたりするんですけどね。

全く、自覚のない人はこれだから。

 

「どうして私の周りは自分の才能に無頓着な人ばかりなのやら……」

 

「ブーメランにも程があるわ! 嫌みか! あんたらみたいな規格外に比べられたら私が一番凡人よ!」

 

「待て、さすがに聞き捨てならない。カナタはどう考えても非凡だろう。この中で1番非才なのはどう考えても私だ!」

 

「私です! うちはの落ちこぼれは伊達じゃないのですよ!」

 

「随分とおかしな喧嘩をするのね……」

 

気づけば、売り言葉に買い言葉でやいのやいの言い合っている第九班(わたしたち)を、春野サクラさんが呆れたように見つめているのでした。

 

 

 

第七班が増援に駆けつけてくれたその日を境に、今まで幾度となく繰り返されていた橋づくりの妨害はぴたりとなくなりました。

原因はおそらくカカシ先生が相手の主力と思われる霧隠れの抜け忍、桃地再不斬を撃退したからでしょうね。

散発的に嫌がらせを続けても無意味だと考えたみたいです。

ヤマト先生が言うには、コピー忍者の異名で恐れられている『写輪眼のカカシ』がこちらにいるという情報が相手の迂闊な手出しを制限しているのも大きいとのこと。

もっとも、(くだん)のカカシ先生は写輪眼の使い過ぎで衰弱していて現在療養中なので張子の虎もいいところなのですが。

まあ、理由がなんであれ実際がどうであれ妨害がなくなったのは非常にありがたいです。

 

妨害がなくなったことにタズナさん達は安堵したみたいですが、私たちは到底そんな気分になれませんでした。

むしろこれは嵐の前の静けさというやつでしょう。

ガトー側は仮死状態になった(というカカシ先生の推理)桃地再不斬の回復を待って総攻撃の準備を進めているに違いない、というのが木ノ葉の忍び共通の見解です。

 

だったら、私たちはその間に少しでも橋を完成に近づけるよう頑張るだけです。

 

イナリ君に忍術を教えようとしたり、ヤマト先生に怒られたり、ガトー一味の嫌がらせからカイザさん達を守ったり、ヤマト先生に怒られたり、タズナさんにお金を貸してあげたり、ヤマト先生に怒られたり、カカシ先生を治療するついでにウンチクを語ったり、ヤマト先生に怒られたり、ツナミさんと一緒にお料理してナルト君達に振舞ったり、振舞った料理をその場で吐かれて泣きそうになったり、いろいろありましたがそれでも私達第九班のメインの依頼はあくまで橋づくりの手伝いなのですから。

 

「それじゃ、今日も頑張りますか」

 

「「おお~」」

 

まだまだ建設途中の橋の上にて。

カナタの号令に、元気よく答えるコト(わたし)とマイカゼ。

さて、第七班に負けないように張り切っていきましょうか。

最近クレーンの操作とかも教えてもらったりしているのですよ。

ますます腕が鳴りますね!

 

なんだかどんどん忍者から遠ざかっている気がしますけど気にしない!

 

「「気にしなさいよ」」

 

聞こえない!

 

 

 

散発的な妨害がなくなったことによって、波の国の反ガトー派の行動は大きく2つに割れました。

まず1つは、橋づくり推進派。

妨害が鳴りを潜めている今のうちに少しでも橋を完成に近づけようという一派ですね。

自称橋づくりの超名人のタズナさんを筆頭に年輩の方の多くがこのグループです。

私達第九班もこのグループ所属ですね。

妨害がピークの時はほぼ無償でサービス残業(ようじんぼう)しまくってましたが、一応メインの依頼は橋づくりの手伝いなわけですから、妨害がなくなった以上本業に専念するのは当然のことなのです。

 

そしてもう1つが、再不斬が回復しきる前に、即ちガトー一味が戦力を整える前にこちらから攻勢に出ようとする過激派。

体力のある血気盛んな若者の大半がこのグループです。

旗頭はカイザさん。

『受け手に回ると対応がモロ後手後手になる。第七班(すけっと)もいるしこのチャンスを逃すわけにはいかない』とのことですが、仮にも第九班(わたしたち)に橋づくりの手伝いを依頼した張本人がそれでいいんですか?

言ってることは間違っていないとは思うんですけどね。

国を守るために戦う、と言えば聞こえはいいですが、それって言い換えれば単なる武力行使のテロ行為なわけで。

いろいろ心配です。

 

「実際のところどうなんでしょう?」

 

仮にカイザさん達の言うとおり、波の国の反ガトー勢力が一致団結して攻勢に出たとして、勝算はあるんでしょうか?

 

「微妙なところね……ガトーカンパニー傘下の暴力団とか雇った忍びの実力とか、どの程度の規模か知らないから何とも言えないけど……まあ順当なら返り討ち、良くて相討ちが関の山じゃないかな」

 

板材を運びながらなんとなく金槌を振るっているカナタに聞いてみたところ、彼女はいつも通りの淡々とした様子でそう評しました。

 

 

「むむむ、あまり希望はなさそうですね……」

 

相討ちじゃ実質負けもいいところです。

たとえそれでガトー達をやっつけることが出来たとしても、働き盛りの若者が軒並み全滅しておじいさんと子供と女性だけになってしまったらどの道波の国に未来はありません。

 

「仮に現時点で鬼人・再不斬が動けないと考えても、仮面の千本使いが健在だろうし……話を聞く限り相当な手練れであることは間違いないだろう。それ以外にも伏兵がいるかもしれないと考えたら迂闊に行動できないな……」

 

螺子を回しているマイカゼも攻勢に出るのは否定的みたいですね。

第九班の中では割と肉体派な方だと思っていたんですが、何気に慎重です。

 

ちなみに上司のヤマト先生は今のところ中立を貫いています。

忍者は依頼されたことだけに集中するべきでそれ以外の余計なことは考えるべきじゃない、らしいです。

さすが仕事人ですね。

ただ、建前上の意見はともかく本音のところはどうも保守派側みたいです。

私たち以上に石橋は叩いて渡るタイプですし。

もっとも、仕事に忠実であるが故に依頼主であるカイザさんに正式に戦うことを依頼されたら部下の私達共々断れないわけですが。

 

戦いになったらどうしましょう?

正直覚悟とかあんまり決まってません。

ぶっちゃけ超怖いです。

先日これを言ったらヤマト先生に甘いと怒られただけでなく、サスケ君に呆れた目で見られさらにはイナリ君にまで「忍者の癖に臆病」と言われちゃいましたけど、それでも怖いものは怖いんです。

 

というか、なんでイナリ君まで戦う気満々になってるんですかね……

 

『男だから! 男だから後悔しない生き方を選ぶんだ!』

 

時々、男の子の行動とか理屈とかが理解できないのは私が女だからでしょうか。

 

先日、ナルト君とサスケ君も、泥だらけになるほど無茶な修行をしてボロボロになって帰ってきましたし。

その後、晩御飯をロクに噛まずに争うように食べ、挙句に吐いて。

そりゃ疲労が胃腸にまで溜まって消化機能が落ちている時に、ロクに噛まずに大食いすればそうなるでしょうよ!

身体壊したらどうするんですか!

無茶しても壊れるだけで強くなれるわけないのにどうして……

 

「……全く、あまり無茶しないでほしいです!」

 

「怒るところそこなの?」

 

「他にあるんですか?」

 

「私がコトの立場なら、せっかく作った料理を味わいもせずに吐かれたことにまずキレると思う」

 

「それは……ま、まあ大人ですから」

 

マイカゼの指摘に、とっさに胸を張って誤魔化しました。

実のところ、顔を青くしているナルト君とサスケ君見たら、そんなこと考える余裕とか吹っ飛んじゃっただけなんですが。

 

「ウソだね」

 

案の定、一瞬で見抜かれました。

 

「良くも悪くもコトは子供だからなぁ。そういうところも含めて美徳だと思うが」

 

しみじみ語るマイカゼ。

そんなに子供っぽいですかね私。

 

「ワシから見ればお前たち皆超子供なんじゃがのう……」

 

そう言ったのは、ほどよく離れたところで私達を眺めていたタズナさんです。

そりゃタズナさんみたいな年輩の方目線だと私たちどころか、下手すればヤマト先生まで子供に映るでしょうよ。

 

「褒めとるんじゃよ。今時珍しいくらい超純粋で素直で良い子達じゃとな。到底忍者とは思えん」

 

そんなタズナさんのコメントに私たち3人は微妙な顔を浮かべます。

果たして喜んでいいのやら……

 

……と、そんなやり取りをする私達をずっと見ていたサクラさんが大きく伸びをして欠伸しました。

他の第七班の面々がそれぞれの用事でこの場にいないさなか、彼女だけがどういうわけか私達と一緒にここにいるのですよ。

 

「1人でヒマそうだな。あのキンパツゴーグル小僧とすかした小僧はどうした?」

 

タズナさんの言う小僧2人は第七班メンバーのナルト君とサスケ君のことですね。

 

「修行中」

 

まだやってたんですかあの人達。

私が見る限りもう十分だと思うのですが。

 

「お前はいいのか?」

 

「私は優秀だからカカシ先生がおじさんの護衛をしろって!」

 

「ホントか……?」

 

「………」

 

ひょっとしてはぶられた?

 

「何見てんのよコト!」

 

「あ、ごめんなさい」

 

思わず視線が生暖かくなってしまいました。

サクラさんは不機嫌そうに鼻を鳴らすと詰まれた角材に腰かけて再び大欠伸。

本気でヒマそうですね。

まあ、襲撃のない護衛任務なんて退屈以外の何物でもないのでしょうけど。

 

「本当なら護衛そっちのけで修行に明け暮れているあっちの方が不真面目なはずなんだけど……」

 

「こうしてみるとどっちが怠け者なのか微妙なところだな」

 

しみじみ語るカナタとマイカゼ。

そんな感じで午前中ダラダラだべりつつ作業すること4時間あまり。

気づけばお昼になってました。

 

あまり進みませんでしたね。

喋りながら作業していたというのもありますが、それ以上に工事に参加している人の人数が以前と比べて少なくなっているのが最大の原因です。

若い人を中心に工事から手を引いてカイザさんの元に集まっているからどうしようもないのですが。

 

「タズナ!」

 

ふと、頭にバンダナをまいたタズナさんと同年代のおじさん―――タズナさんの大工仲間のギイチさんです―――が血相変えて駆け寄ってきました。

 

「ん…どうしたギイチ?」

 

「大変だ! カイザの奴が書き置き残していなくなった!」

 

「「「「!?」」」」

 

私たちは絶句して後片付けもそこそこに大慌てで波の国に帰り、総出で大捜索が行われました。

 

 

 

『ガトーのアジトと思われる建物をモロ発見した。こっそり潜入して探ってくる。大丈夫無茶はしない カイザ』

 

置手紙にはそう書かれていました。

 

「置手紙残して失踪とか、何を考えとるんじゃ!?」とはタズナさんのコメントです。

ちなみにタズナさんがそう叫んだ時、周囲から「お前が言うな」的な視線が集中したりしたのは余談です。

義理とはいえ親子ですね~

 

 

 

 

 

 

「カイザさん! ようやく見つけました!」

 

「コトの嬢ちゃん!?」

 

姿を消したカイザさんの捜索が手分けして行われてからほどなくして、私は割とあっさり木の影に隠れていたカイザさんを発見することが出来ました。

 

「ど、どうしてここが!?」

 

「こう見えても私、感知タイプの忍びなんですよ。猫探しや失せ物探しの依頼は結構得意なんです」

 

すれ違っただけの他人とか、初対面の人ならともかく、1つ屋根の下にしばらく暮らしてそれなりに打ち解けて記憶した相手の気配ならよほど遠くに隠れてでもしない限り見つけることはそう難しくないのですよ。

 

「参ったな……」

 

「さあ、家に戻りましょう。みんな心配していますよ」

 

「悪いがそういうわけにはいかない」

 

「……どうしてですか?」

 

「……義父(おやじ)達の「敵の戦力が解らないのに攻勢に出るのは危険だ」という意見も一理あると思ってな」

 

「……なるほど」

 

それで敵の情報を少しでも集めようと考えたわけですね。

理屈は分かりました。

とても勇敢で男気や行動力に溢れていて、尊敬に値すると思います。

ですけど……

 

「無謀です」

 

「言われなくてもモロ分かってる。でもじっとしてなんかいられないんだ。それになんか嫌な予感もする」

 

「嫌な予感?」

 

「ああ、海が荒れてる。こんな時は大抵よくないことが起きるもんだ。男の……いや、漁師の勘だ」

 

納得できるようで納得できない理屈です。

正直、男でも漁師でもない私には意味が解りませんでした。

しかしどう説得しましょうか……カイザの眼を見る限り決意は固いようですし。

 

 

「フン、だったら、俺が代わりにアジトに潜入してやる」

 

 

「「!?」」

 

私たちが振り返ると、そこには鋭い目つきの黒髪の少年が木の上から私達を見下ろしていました……何で木の上から?

木登りマスターアピール?

いやいや今はそんなことよりも!

 

「サスケ君!? どうしてここに?」

 

「忍びは潜入、諜報のプロだ。文句ないだろ?」

 

「そ、それは、願ってもないことだが……」

 

枝から飛び降りて音もなく着地したサスケ君は間にいた私を見事に無視してカイザさんに話を持ちかけます。

何言っているんですか!

 

「ダメです! 無謀です!」

 

仮にやるにしても先生に連絡して許可を取らないと。

 

「だったらお前がカカシとヤマトに連絡しろ。俺は1人でやる」

 

「……っ!?」

 

こ、この人は!

こうして話をしたのは久しぶりですが、相変わらず話になりません!

 

 

思えば、この時の私は正気じゃなかったんでしょう。

そうとしか思えません。

理由は、いろいろ頭に血が上っていたからかもしれませんし、久しぶりにサスケ君と会話できて嬉しかったからかもしれません。

 

 

「わ、私も行きます!」

 

顔を真っ赤にして興奮していた私は、思わずそう口走っていました。

 

「フン、足手まといだ」

 

「どっちが!」

 

こうなってしまっては、もはや後には引けないのです。

 

「カイザさん! そんなわけで連絡お願いします!」

 

「お、おう……」

 

展開の早さについていけず目を白黒させているカイザさんを後目に、私とサスケ君の2人は張り合うようにして、ガトーのアジトに向かうのでした。

 




第九班(アドバイザー)の介入により第七班の修行時間が一週間から3日に短縮、カカシの療養期間も同じく短縮です。
原作キャラの強化はしない方向ですけど、この程度ならいいかなと。

ナルトの世界における「天才」って大抵がロクなことしない、もしくはロクな目に合わない印象です。
将来有望だけどお先真っ暗、は何もコトだけの話ではない……
例外なのはサクラとシカマルくらいかな……

なお、写輪眼開眼時に発生する特別なチャクラ=生命エネルギーは独自設定です。

オビトがカムイをあれだけ連発しても平気な理由、ダンゾウがコトアマツカミの長すぎるインターバルを大幅短縮できた要因など、そういうのを全部鑑みた結果、この推測が妥当かなと。

ヤマトに医療忍術のノウハウがあったら超速再生は無理でも自然回復くらいはできるようになってたんじゃないかなぁと夢想。

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