プロローグ
「火影様! 大変です! またナルトのやつが歴代火影様の顔岩に落描きを!」
「今度は4人全員です!」
アカデミーがにわかに騒がしくなってきました。
予想通り、いや予定通りです。
「さすがナルト君。いい感じの陽動なのですよ」
派手に暴れて目立って存分に人目を惹きつけているだろう同年代の金髪少年を脳裏に思い浮かべつつ、私は1人こっそり行動を開始しました。
水分身の囮はすでに教室に配置しています。
しかもただの水分身ではありません。
今回の作戦のためにオリジナルの魔改造を施した特別製です。
本物が教室を抜け出していることはまずばれない筈。
あとはささっと火影様の書庫に侵入し目的のものを素早く懐に収めたのち何食わぬ顔で教室の水分身と入れ替われば……
「作戦完了! 今度こそ私の完全勝利なのですよ!」
事前調査は入念に行いました。
目的のものがどこにあるかも把握済み。
失敗する要素は皆無!
テンション高く侵入者撃退用のトラップをかいくぐり書庫にまんまと侵入を果たしました。
見張りはいません。
火影様もナルト君の悪戯で出張ってます。
侵入の痕跡を残すようなヘマもしていません。
逃走ルートもすでに確保済み。
盤石です……ふふふ
私は意気揚々と目的のものに手を伸ばして……伸ばして
「……はっ!?」
己の作戦の致命的な穴に気が付きました。
「任務はどうやら失敗のようじゃな?」
ふと気づけば背後にはキセルを咥えたお爺ちゃん―火影様のお姿が。
とっさに窓からの脱出を試みるものの、窓の向こうには担任のイルカ先生の気配。
「……万策尽きましたか……」
たとえこの場で逃げられたとしても意味がありません。
見つかった時点で私の負けです。
私は乾いた笑みを浮かべて降参とばかりに両手を挙げました。
「迂闊でした……いや情報収集不足ですかね。まさか『封印の書』があんなにデカいとは」
作戦の失敗を悟って降参したすぐ後にアカデミーの先生にあっさり拘束され、同様に拘束されたらしい金髪の悪戯少年うずまきナルト君共々説教を受けたのがかれこれ30分前。
現在アカデミーの演習場で組手の授業の最中です。
他の女子生徒に混じって体育座りで男子が組手をしているのを見学しつつ溜息。
「水分身に札を埋め込んで自立行動させるアイデアは悪くなかったんですけどねぇ……」
そう、作戦自体は悪くなかったのです。
ただなんというか、盗みだそうとした対象が悪かったのでした。
今回手を出した『封印の書』は二代目火影様が火影に就任する前に考案したとされる忍術を初代火影様が書き記した巻物なのです。
記述内容は膨大、それに伴って太さも長さも普通の巻物とは比べ物にならないくらいにデカいのです。
当然、そんな代物を懐に仕舞い込むことなど到底不可能なのでした。
「うずまき君もそうだけどさぁ、コトも全然反省してないよね?」
「いえ? ちゃんと反省はしてますよ? この反省を活かして次侵入するときはしかるべき対策を……」
「いやいやいや、そういう意味の反省じゃないからね?」
隣に座っている長い空色の髪をポニーテールにした少女がじとっとした目でこっちを見てきます。
私こと「うちはコト」は曖昧に笑って首をかしげました。
名字の示すように木ノ葉のエリート一族「うちは一族」の血筋なのですが、一族特有の綺麗な黒髪はどういうわけか遺伝しませんでした。
白いのです。
一応うちは一族にも珍しいながら銀髪の人がいないわけではないのですが。
しかし私のそれは銀髪ですらありません。
本当に混じりっ気一切なしの完全なる純白。
ついでに肌も白いのです。
雪のように綺麗な……とかいうレベルじゃなく人形じみて作り物めいて白いのです。
おかげでこうして他の健康的肌色をした女子と並んでいると、カラー写真の中に一枚だけ混じったモノクロ写真みたいなどうしようもない場違い感を感じてしまいます。
浮いて浮いて仕方がありません。
そんな頭のてっぺんから足の先まで真っ白な私は、外見的にも内面的にも周囲から浮き上がった存在なのでした。
忍び五大国の1つである火の国。
豊かな自然と広い国土を有する大国に忍里「木ノ葉隠れの里」はある。
そんな木ノ葉に問題児は2人いる。
1人は言わずと知れた天下の悪戯小僧うずまきナルト
そしてもう1人は……
これはエリート一族に生まれながら全くエリートらしくない全身真っ白な異端の少女の物語である。
そんなわけで初投稿です。
主人公は巫女さんです。
ナルトの世界観的にいそうでいなかった巫女さんキャラです。
正確には巫女見習いですが。