鴉と黒ウサギが異世界から来るそうですよ!?   作:黒須 紅

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子供がたくさん居るそうですよ?

  「世話になったな。白夜叉」

 

十六夜が店の入り口で白夜叉に礼を言う。それに白夜叉は〝カカカ〟と笑みを返す。

 

「なに、私は娯楽に餓えておる。じゃから気にせずにまた来てもよいぞ?」

 

 先ほどコミュニティの状況を知っているか聞いてきたときと同一人物なのか確信が持てなくなるほどに、優しい雰囲気を纏った白夜叉を見て黒ウサギはウサ耳をへにょらせる。

 

「しかし、そうじゃの。老婆心ながら二つ忠告をしておこうかの」

 

そう言って飛鳥と耀のほうを見る白夜叉。

 

「魔王に挑むというのなら小僧共はともかくおんしら二人の力では魔王のゲームは生き残れんぞ。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬのを見るのは何時見ても悲しいものじゃからの」

「……えぇ肝に銘じておくわ」

 

苦虫を噛み潰したような顔で白夜叉の言葉に答える飛鳥。それを見て満足そうに頷いた後。十六夜のほうを向いて言葉を発する。

 

「おんしには箱庭において挑んではならぬものを教えておこう」

「オイオイ!そんなのがいるのかよ!?ちょっと楽しみだなオイ!」

「やめておけ。今のおんしでは確実に殺されるぞ」

 

白夜叉の言葉にいつもの笑みを消し言葉の続きを促す大兎。

 

「二つあってのう。まずは魔界(マクアエ)の長である(インドラ)の末裔、アンドゥのスクラルドじゃ。敵対したものは即座に消し炭にされるそうじゃから気をつけたほうがええぞ」

「なに!?」

 

白夜叉があげた名前に驚愕の声を上げる月光。実は月光とスクラルドの間には浅からぬ縁があるのだが、ここでは置いておくことにする。

 

「どうしたんじゃいきなり……。で、もう片方は《月の裏側の神》という分類上は神群になる者たちでのぉ。特に《孤独を埋める人》と《原初の光》と呼ばれる二人には絶対に近づくのではないぞ。箱庭に居るかどうかは分からんが《孤独を埋める人》は完全に狂っておるらしいからの」

「ゲホッ!ゲホ!」

 

白夜叉が挙げた通り名に咳き込む大兎。白夜叉の言う二人とはとても深い関係性があるのだが、そのこともここではおいておくことにする。

 その後少し白夜叉と話しをした後、彼等は自分たちが所属するコミュニティの本拠地へと歩いていった。

 

――――

 

 そしてコミュニティの土地へと足を踏み入れた彼等の目の前にあったのは広大な荒野だった。土を触っている十六夜が黒ウサギに問う。

 

「おい黒ウサギ、魔王との戦いがあったのは何百年前のことだ?」

「三年前のことでございます」

 

その言葉に傲慢不遜な笑みを引きつらせ、冷や汗を一筋たらして十六夜が叫ぶ。

 

「いくらなんでもありえねぇだろ、この風化しきった町並みが三年前だと!?」

「テラスにカップが出たままじゃない。……まるで直前までお茶を飲んでいたみたいに」

「この土地の一帯だけ生き物がいない……」

 

 土地の様子を見て月光はその鋭い眼を細めて大兎に問いかける。

 

「もしも、おまえが全力を出した時。……この風景を作り出すことはできるか?」

「無理かな?本当の意味で何も無い空間なら作れるけど、これと同じことをするのは無理だ」

 

月光の問いに冷静に返す大兎。

 結局彼等五人の胸に魔王の力の脅威を残して彼等は居住区へと進んだ。

 

――――

 

 館の前で二十人前後の子供たちが整列していた。彼等が身の回りの世話をすると言っている時の黒ウサギの姿は、あの月光も感心するほどに組織を支えていた者としての風格を漂わせていた。

 

『よろしくお願いします!!』

「ヤハハ!なかなか元気あるじゃねぇか」

「おう、よろしく頼むな」

「そ、そうねこれからよろしく」

「……よろしく」

「……」

 

子供たちの挨拶に二名は笑顔で、一名は引きつった笑顔で、一名は憂鬱そうな顔で言葉を返した。一名それはもう苦々しい顔で何も言わなかったものが居るが、言わなくても誰か分かるだろう。

 その後水路に十六夜が得た〝水樹〟から水を引いてこの場はお開きになった。


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