『六本傷』の旗を掲げるカフェの一席に下を向いてうつむいている少年――ジンと上機嫌で話すピチピチのスーツを着た男――ガルド=ガスパー、そして彼の話を聞く四人の少年少女が居た。
「もしよろしければ私のコミュニティに黒ウサギ共々来ませんか?」
「な、何を言い出すんですかガルド=ガスパー!」
ガルドの言葉に月光は考える。どうやら自分達を呼んだジンのコミュニティはとても崖っぷちの状況らしいのだ。この箱庭の〝天災〟である〝魔王〟に身分を証明する〝名〟も〝旗〟も奪われて人材も子供しか居ないらしい。ガルドは〝こんな貴方がたを騙してコミュニティに入れようとした奴など見捨てて私のコミュニティに来ませんか?〟と言っていて、
「……」
彼がその言葉を吟味していると、突然同じテーブルに座っていた少女がガルドの問いに答えた。
「結構よ。だって私はジン君のコミュニティで間に合っているもの」
少女――飛鳥のその言葉に唖然とした表情を見せるジンとガルド。
彼女は彼らのことを無視して紅茶を飲み干し笑顔で耀に問いかける。
「春日部さんは今の話を聞いてどう思う?」
「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだから」
「あら、それなら私がお友達第一号に立候補してもいいかしら。私たちって正反対だけど意外に仲良くやれると思うの」
「……うん、飛鳥は私の知ってる女の子とちょっと違うから大丈夫かも」
なんて彼女達は自分達の〝未来〟を、下手したら死に様をも決め得る決断を軽く決めていて。だけどソレを見ている月光と大兎は軽く眼を細めるだけで何も言わない。逆に先ほどまで饒舌に話していたガルドが焦ったように飛鳥に声をかける。
「失礼ですが理由を教えてもらっても?」
「だから間に合っているからよ。そこの春日部さんは友達を作りに来ただけだからジン君でもガルドさんでも構わない。そうよね?」
「うん」
「それに私、久遠 飛鳥は裕福な家も、約束された将来もおおよそ人が望みうる人生の全てを支払って箱庭に来たのよ?ソレを小さな一地方を支配する程度のコミュニティの末端として迎え入れてやる、と言われて魅力的に感じると思ったのかしらこの似非虎紳士。それで、大兎君と月光君は?」
いきなり話を振られた大兎と月光は極めて自然な態度で飛鳥に言葉を返した。
「俺?俺は別にどっちでもいいよ。それに」
「高々一地方の支配者だからという理由で虎ごときが神を味方にできると思ったのか?なら残念だったな,今すぐ涙を流して〝身の程も知らぬことを言ってしまい申し訳ございません。もう二度と神に話しかけようなどとは思いませんから許してください〟といって土下座しながら神に虎ごときが話しかけた無礼を詫びろこの、雑魚が」
「って言うからなー。俺もジンのコミュニティでいいよ」
月光の言葉にガルドの顔が怒りを通り越して般若のようになっているのをみて、苦笑いしながら大兎は言葉を終える。
そしてまた、ガルドが口を開いた。
「お、お言葉ですが……」
「黙りなさい」
「……!?」
「貴方はそこに座って私の質問に答え続けなさい」
そうして尋問が始まった。
――――
大兎の目の前には激昂する黒ウサギ。どうやらあのガスパーって虎男は自分のコミュニティを大きくするために相手コミュニティの子供を人質にとっていて。でももうその子供達は殺されていて、しかも腹心の部下に食わせたからもう死体すら残ってないらしい。しかもこの話だけでは物的証拠にならないから罪を償わせるのは無理だという。だから飛鳥はガスパーにギフトゲームを申し込んだ。
「な、なんでこの短時間で『フォレス・ガロ』に喧嘩を売る状況になったのですか」「しかもゲームの日時は明日!?」「ソレも敵のテリトリーでのゲーム!?」「聞いているのですか!?五人とも!」
なんてマシンガンのように言葉を繰り出す黒ウサギを前にして、飛鳥、耀、ジンの三人は顔を合わせていった。
「「「ムシャクシャしてやった反省はしています」」」
「つか、止める暇もなかったんだよなぁ」
「あんなゴミと同じ空気を吸っていると思っただけで鳥肌が立つからな。俺の健康のためには仕方の無いことだった」
なんて暢気に笑っている大兎と当然の事を言っているような顔をしている月光を見て肩を落とす黒ウサギ。それにニヤニヤしながら何故か木の苗を持っている十六夜が話しかける。
「まぁいいじゃねぇか。コイツらも見境鳴く喧嘩売ったわけじゃねぇんだし」
「はぁ、まぁそうですね。それに十六夜さんが居れば勝てるでしょうし」
「なにいってんだ?俺は参加しねぇぞ」
「当たり前よ貴方なんて参加させないわ」
睨みあって顔を逸らす二人。そんな二人の様子に黒ウサギが慌てて言葉を発する。のを横目で見ながら大兎は月光と話しを続ける。
「これって俺たちもあの虎と戦わなきゃいけねぇの?」
「あぁ、あの馬鹿が俺たちを巻き込んで喧嘩なんぞを売った所為で、俺のような天才まであの雑魚の相手をしなくちゃならない」
なんてことを酷く面倒そうな顔をしている月光を見て、
「ははっ」
と、軽く笑う大兎。二人が話している間に『サウザントアイズ』なんて店に行くことが決定したらしい。
店へと続く道に咲く桜を見て飛鳥が不思議そうに呟く。
「もう夏だというのに箱庭の桜はずいぶん遅くまで咲くのね」
「いや、まだ初夏になったばっかだし気合の入った桜があってもおかしくねぇだろ」
「……今は秋だったと思うけど?」
「ん?十月に入ったばっかりだったハズだよな月光」
「貴様はついに日付すら分からなくなったのか?さっさと病院に行ってきたらどうだ。おそらくすでに手遅れでどんな名医が居ても無駄だろうがな」
「ははっ、ぶっ飛ばすぞテメェ」
月光と大兎を除いた三人が顔を見合わせる。
どうやら彼等は時間軸や生態系などが微妙に違う世界から召還されたらしい。
そんな話をしながら少し歩くと店に着いたのだが、すでに店員が暖簾を下げようとしていた。閉店時間五分前に客を締め出そうとする店員と黒ウサギが口論していると、突然何かが黒ウサギに激突して、用水路まで吹っ飛んでいった。
「……この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺にも是非」
「やりません」
「なんなら有料でも」
「やりません」
こめかみを指で押さえる店員とケラケラ笑う十六夜。彼等は割りと本気だった。
「ふほほほほ、ここか?ここがええんか?」
「い・い・か・げ・ん・にしてくださいこのお馬鹿さま!」
そう言ってその物体を投げつける黒ウサギ。十六夜のほうにまっすぐ飛んでいったそれを十六夜は、
「鉄、パス」
と、いって大兎に向かって蹴りつけてきた。
「え?ちょ、月光パス」
「はあああ?クソが!」
それを月光に向けて殴り、月光が踏みつける。月光が足を退けるとそこには和服を来た
「おんしら、初対面の美少女に華麗なコンボを決めるとは何様じゃ!」
その言葉に三者三様の言葉を返す。
「逆廻 十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」
「えーっと、ゴメン?」
「俺様だ」
立ち上がった和装ロリは十六夜を睨みつけたあと月光と大兎を見て驚愕の表情で呟いた。
「おんしら、何者じゃ?」
その言葉に大兎は苦笑しつつ頬をかいて何も言わず、月光は当たり前のように
「天才だ」
と、言った。