ペコは気まずかった。
先日の、突然の戒斗の脱退宣言。しかも戒斗にしか使えないはずの(とペコは思っている)戦極ドライバーをザックに託して。その場でチームメイト全員で問い詰めたが、戒斗は「他にやることができた」の一点張りで、意思を覆すことはなかった。
幸いにも、宣言、即、脱退とはいかなかったので、ペコたちは安心した。
それもリーダーとしての仕事をザックに引き継ぐためのモラトリアムでしかないが。
戒斗と同じテーブルにいるペコは、手元と戒斗の横顔に視線を何度も往復させる。何を、どう、切り出せばいいのか。
「言いたいことがあるなら言え」
肩が跳ねた。ペコが目線を泳がせる間、戒斗はペコに視線を固定したままだった。
「……戒斗さんがいない間にトップランカーだけで一度集まったことがあるんです」
ペコはようよう戒斗をまっすぐ見た。
「そん時言われました、リトルスターマインのガキに。リーダーが帰ってきた時のために踊りやすい舞台を整えるのもチームの仕事じゃねえの、ってそんな感じのこと」
心臓が口から飛び出しそうなくらい緊張しながら、ペコはついに言った。
「ぼく、踊りたい、です。踊りたいから一番のチームに入ったんです。今回の合同ダンスイベントだって、ぼくは、出たい、です。このまま時間が過ぎて、踊る場所がなくなるなんて、イヤ、だから」
自分はリーダーがいなければ何もできない無能ではないつもりだ。だから戒斗が帰ってきた今、戒斗が最高のダンスを披露できる舞台を整えようとした。
ペコは戒斗とだから踊りたいのだ。
戒斗やザック、チームバロンの全員で踊りたい。
「なのに戒斗さんがチームを抜けるんじゃ、何のために」
「ペコ。いつまでも俺に頼るな」
「戒斗、さん……」
「
「は、はい」
「なら、これからも俺無しでバロンはやっていけるんだ。だから俺は出ていくことができる」
「あ……」
戒斗はまっすぐペコを見据えた。今まで見た戒斗のまなざしの中で、それは一番優しく見えた。
――思い出す。リーダーの戒斗がこんな人だったから、ペコはチームバロンに入りたいと思ったのだ。
「お前らはダンサーだ。踊れ。俺がいないステージでも」
ペコは悟る――ああ、彼は本気なのだ、と。本気でペコたちとは違うステージへ行こうとしているのだと。
実感すればするほど涙が込み上げそうになった。
そんな情けない
そして、二度と戻って来なかった。
チーム鎧武の舞が合同ダンスイベント参加の説得に来る、ほんの1日前の出来事である。
タイトルの彼は戒斗でもあり、実はペコでもあったという話。
本当はこれもうちょい筋が違う番外編として考えていたんですよね。戒斗が帰ってくる前にインベスゲームをやめようとしたって設定で。でも18話を観て、投入タイミングが「ここだ!」と思って、手直しして上げさせていただきました。
バロンみたいなリーダー絶対のチームで「踊りたい」と言えたペコは凄くないですか?
余談ですが、ペコの一人称「ぼく」だったんですね。でも外向きには「俺」と言って。もしかして元は気弱なタイプだったのかな?