少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

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番外8 オトメの祝祭 ②

 

 

 来たる2月14日。咲は噴水公園に到着した。

 

 ぶかぶかのウィンドブレーカーと、これまたぶかぶかのキャスケット。七分丈のズボンにスニーカー。これでもおしゃれ着である。

 

 公園はベンチで井戸端会議中のママさんと、ほてほて遊び回る幼児で賑わっていた。

 そんな中をまっすぐに突っ切り水が流れる階段の最上段まで行って、しばし立って水の流れを見つめる。

 

 

「初瀬くん――」

 

 

 ――ヘキジャインベスを追って紘汰とここに来た日、咲が気絶した間に事は終わったという。ならばここが初瀬の死に場所のはずだ。

 

 咲はこのために買ったチョコレートを開けて地面に置き、両手を重ねて目を閉じた。

 

(守ってあげられなくてごめん、初瀬くん)

 

 短い黙祷を終えて、咲はチョコレートを回収して立ち上がった。

 

 ふと箱の中にストロベリーチョコレートで象られたバラを見つけた。咲はそれを摘み上げ、花弁の一枚を口に入れた。

 

 ぺろり。指についたチョコレートを舌先で舐め取った。甘いあまい味がした。

 

 

 

 

 

 

 来たる2月14日。自室にいた碧沙は、光実が呉島邸に帰宅するなり、彼の部屋を訪ねた。

 

「兄さん、いい?」

「碧沙。いいよ、入って」

 

 碧沙はチョコレートを入れた紙袋を背中に隠し隠し、光実の部屋に入った。

 

「兄さん。今日は何の日でしょーか」

「何だっけ~?」

 

 毎年お約束のやりとりなので、光実も心得顔で聞き返してくる。

 

「ふふ。じゃーん。はい、光兄さん。バレンタインのチョコです」

「ありがとう。嬉しいよ、碧沙」

 

 兄の「ありがとう」だけで、碧沙は満面の笑顔になれる。光実がチョコレートを受け取ってからも、碧沙はにこにこしたままだった。

 

「こっちがわたしで、こっちが咲から兄さんへって」

「咲ちゃんにもホワイトデーにお返ししないとね」

「あと、これね」

 

 碧沙は紙袋から、さらに紙袋を出した。

 

「咲とわたしから。葛葉さんに渡してほしいんだけど……わたしたち、いつ葛葉さんに会えるかも分からないから」

「いいよ。僕から紘汰さんに連絡つけるから」

「ありがとう」

 

 これで碧沙も咲もミッションコンプリートである。

 

「碧沙はもう夕飯食べた?」

「まだ。光兄さんといっしょに食べたくて待ってた」

「じゃあまず夕飯にしようか。その後、碧沙と咲ちゃんのチョコを頂きながらお茶にしよう」

「うんっ」

 

 

 

 その後、夕飯を終えた兄妹は、リビングルームで碧沙と咲が買ったチョコレートを茶請けに紅茶を飲みながら、バラエティ番組を観た。

 特に面白い番組ではないが、碧沙は光実と隣り合って座って、光実に凭れることができてご満悦だった。

 

「そうだ。貴兄さんの分、どうしよう」

 

 まだ帰らない長兄へのチョコレートは冷蔵庫に入れっ放しだ。

 

「部屋に置いとけばいいんじゃないかな。何かメッセージでも付けておけば、兄さんも碧沙からだって分かると思うよ」

「わかった。そうしてみる。ありがと、光兄さん」

 

 

 

 ――後日。研究部門の新人社員らが、貴虎のデスクにちょこんと存在を主張するスイートチョコレートの詰め合わせを発見し、誰からの贈り物か物議をかもしたという。




 咲と碧沙とであまりに落差がありすぎるバレンタインのお話。

 しめやかに始まったのにオチでこういうのをやるのがわたくしあんだるしあであるとお心得頂きたい。あ、でもオチは両方「甘い」で統一しましたよ?
 咲の「1コ買い忘れた」チョコは実は初瀬用だったんです実は。初瀬ちゃんよ安らかに。これがあんだるしあ流初瀬ちゃん追悼式です。

 片や碧沙は光実とらぶらぶv 兄妹なのに? というツッコミは面会謝絶します。兄妹だからいいんだろ(キリッ
 貴虎は女性的人気があるのかないのか分からないキャラなので物議をかもしたのは男女社員共にということで。

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