少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

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番外7 オトメの祝祭 ①

 

 バレンタインデーに備え、ショッピングモールに来た咲とヘキサは、熱心にチョコレート菓子のディスプレイを見比べていた。

 

 ショッピングモールを入ってすぐの位置、この時期は必ず現れるチョコレートコーナー。最初は手作りキットの商品棚を見て回ったが、手作りよりも遙かに美しい細工のチョコレートがディスプレイの中にあるのを見て、きっぱり手作りから既製品に路線変更した。

 

「モン太とチューやんとナッツとトモで4つ。センセーので5つ。で、後は紘汰くんでしょ? ミッチくんでしょ? あたしは全部で7つ。あ、ヘキサのはベツに用意してあるから」

「うん。わたしも咲のはトクベツ枠。みんなにはわたしと咲で、わりかん? だっけ。あとはわたしも咲があげる人と同じかしら。兄さんたちに、葛葉さん……」

 

 チームメイトと、トモダチと、トモダチの兄とそのまたトモダチ。見事に友チョコしかないのが室井咲のバレンタインである。

 

 適当に詰め合わせを手に取ってみたりしていると。

 

「あ、咲。チームバロンの駆紋さんにはあげなくていいの?」

 

 咲は危うく商品棚に顔から突っ込みかけた。

 

「なんであたしがあの人にあげなきゃいけないのっ」

「イロイロ助けてもらったんでしょう? お礼に」

 

 助けてもらった。言われてしまえばその通りだ。ユグドラシル脱走前、駆紋戒斗に喝を入れられなければ咲は立ち直れたか分からない。

 他にも、黒影トルーパー相手に共闘したり、ロックビークルの後ろに乗せてもらったりした。

 

「――“お礼”ならなおさら、チョコなんかじゃ足りないよ」

 

 あれほどまでしてもらったのだ。ならば返礼は同じ戦場ですべきだ。

 咲はそう結論づけ、持っていたチョコレートの詰め合わせを棚に戻した。

 

 

「ねーヘキサ。ミッチくん、苦手なチョコとかある?」

「特に聞かないかな。でも甘いのよりビターのが好きみたい。毎年のケイコー見てると」

「オトナだ~」

「逆に貴兄さんはホワイトとかストロベリー好きみたいなのよね。……仕事づかれであまいものほしくなるって言うけどそれなのかしら。初めてあげた年、お酒入りのチョコにしたんだけどキツかったみたい。あれは反省したわ」

「何にせよオトナのセカイね。―― 一番モンダイなのは紘汰くんよ。イメージ、ミルクチョコなんだけど。ミッチくんみたいに苦いの好きだったらどーしよ」

「そう考えると、甘いのか苦いのか選ぶってあるイミ、キュウキョクの選択ねえ」

 

 何十種類もチョコレートの詰め合わせが並ぶディスプレイを、少女たちは右へ左へ。時に後ろの客を考慮して撤退し、また突撃する。それをくり返した。

 

「よし。コレに決めたっ」

「わたしも決めた。お会計行こっか」

「うん。あ、待って! 1コ足りなかった」

 

 二人してレジに向かう。会計は大きなお金があるヘキサがまとめて払った。

 

 

 それから彼女たちはフードコートへ行き、咲が計算して半金をヘキサに渡した。

 金勘定が終わったら、二人でメッセージカード作りである。咲だと、紘汰と光実に送る分だ。

 

 咲は書くのに詰まってはヘキサの顔を見て、へにゃら、と笑った。

 

「どうしたの咲。ヘンな顔」

「んーん。ヘキサと買い物に来れてシアワセだなーあの時がんばってよかったなーって」

 

 この今が、室井咲にとって何者にも代えがたい尊い時間なのだ。




 息抜き回です。せっかくバレンタインも近いので(*^^)v
 「これ」のために咲はユグドラシルから必死になって帰ってきたのです。あえて言葉にするなら「トモダチと過ごせる時間」のため。ちょっとだけミッチと理由が近いですね。だからといってミッチと同じ道を行くわけではないのですが。

 呉島兄弟は甘い・苦いの好みが見た目と逆な気がしました。というか逆だと面白いな作者が、と思いまして。

 実はまだ続きます。バレンタインデー当日の2/14に続きを上げます。

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