バレンタインデーに備え、ショッピングモールに来た咲とヘキサは、熱心にチョコレート菓子のディスプレイを見比べていた。
ショッピングモールを入ってすぐの位置、この時期は必ず現れるチョコレートコーナー。最初は手作りキットの商品棚を見て回ったが、手作りよりも遙かに美しい細工のチョコレートがディスプレイの中にあるのを見て、きっぱり手作りから既製品に路線変更した。
「モン太とチューやんとナッツとトモで4つ。センセーので5つ。で、後は紘汰くんでしょ? ミッチくんでしょ? あたしは全部で7つ。あ、ヘキサのはベツに用意してあるから」
「うん。わたしも咲のはトクベツ枠。みんなにはわたしと咲で、わりかん? だっけ。あとはわたしも咲があげる人と同じかしら。兄さんたちに、葛葉さん……」
チームメイトと、トモダチと、トモダチの兄とそのまたトモダチ。見事に友チョコしかないのが室井咲のバレンタインである。
適当に詰め合わせを手に取ってみたりしていると。
「あ、咲。チームバロンの駆紋さんにはあげなくていいの?」
咲は危うく商品棚に顔から突っ込みかけた。
「なんであたしがあの人にあげなきゃいけないのっ」
「イロイロ助けてもらったんでしょう? お礼に」
助けてもらった。言われてしまえばその通りだ。ユグドラシル脱走前、駆紋戒斗に喝を入れられなければ咲は立ち直れたか分からない。
他にも、黒影トルーパー相手に共闘したり、ロックビークルの後ろに乗せてもらったりした。
「――“お礼”ならなおさら、チョコなんかじゃ足りないよ」
あれほどまでしてもらったのだ。ならば返礼は同じ戦場ですべきだ。
咲はそう結論づけ、持っていたチョコレートの詰め合わせを棚に戻した。
「ねーヘキサ。ミッチくん、苦手なチョコとかある?」
「特に聞かないかな。でも甘いのよりビターのが好きみたい。毎年のケイコー見てると」
「オトナだ~」
「逆に貴兄さんはホワイトとかストロベリー好きみたいなのよね。……仕事づかれであまいものほしくなるって言うけどそれなのかしら。初めてあげた年、お酒入りのチョコにしたんだけどキツかったみたい。あれは反省したわ」
「何にせよオトナのセカイね。―― 一番モンダイなのは紘汰くんよ。イメージ、ミルクチョコなんだけど。ミッチくんみたいに苦いの好きだったらどーしよ」
「そう考えると、甘いのか苦いのか選ぶってあるイミ、キュウキョクの選択ねえ」
何十種類もチョコレートの詰め合わせが並ぶディスプレイを、少女たちは右へ左へ。時に後ろの客を考慮して撤退し、また突撃する。それをくり返した。
「よし。コレに決めたっ」
「わたしも決めた。お会計行こっか」
「うん。あ、待って! 1コ足りなかった」
二人してレジに向かう。会計は大きなお金があるヘキサがまとめて払った。
それから彼女たちはフードコートへ行き、咲が計算して半金をヘキサに渡した。
金勘定が終わったら、二人でメッセージカード作りである。咲だと、紘汰と光実に送る分だ。
咲は書くのに詰まってはヘキサの顔を見て、へにゃら、と笑った。
「どうしたの咲。ヘンな顔」
「んーん。ヘキサと買い物に来れてシアワセだなーあの時がんばってよかったなーって」
この今が、室井咲にとって何者にも代えがたい尊い時間なのだ。
息抜き回です。せっかくバレンタインも近いので(*^^)v
「これ」のために咲はユグドラシルから必死になって帰ってきたのです。あえて言葉にするなら「トモダチと過ごせる時間」のため。ちょっとだけミッチと理由が近いですね。だからといってミッチと同じ道を行くわけではないのですが。
呉島兄弟は甘い・苦いの好みが見た目と逆な気がしました。というか逆だと面白いな作者が、と思いまして。
実はまだ続きます。バレンタインデー当日の2/14に続きを上げます。