少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

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番外4 彼が得たもの

 バロン連盟が分解してから間もなく。珍しい客が白いカーディーラーにいた戒斗を訪ねてきた。

 

 先日戒斗が敗れるきっかけになった、リトルスターマインのリーダー、室井咲だった。

 普段着なのか、チームユニフォームとは趣が異なり、ウィンドブレーカーのフードを被って、まるで人間てるてる坊主だ。

 

「何の用だ、ガキ」

「ガキじゃないっ。あたしは室井咲ってゆー名前があるし」

「……で、その室井が何の用だ」

 

 咲はアウェイにいることなど全く感じさせない威勢の良さで、ポケットからヒマワリのロックシードを取り出し、戒斗に突き出した。

 

「返しそびれたから、もってきた。もともとあなたのでしょ」

 

 それは戒斗が、この少女のチームとのインベスゲームで「ハンデ」として貸し渡したロックシードだった。戒斗は黒星を喫した日を思い出し、気分が悪くなった。

 

「俺は負けた。それは貴様の戦利品だ」

「いらない」

「俺も要らん」

 

 咲はぶすくれたが、結局ヒマワリロックシードをポケットに入れ直した。

 

「……ほんとにもらっちゃうからね? あたしたちのにしちゃうからね? いいのね?」

「構わないと言ってる」

 

 さらに咲はぶすくれた。まるでリスのように頬を膨らませている。

 

 ――本当に、何故こんな「ガキ」に駆紋戒斗は負けてしまったのか。返す返すもあそこでハンデをつけた過去が悔やまれる。

 

「用が済んだならさっさと帰れ」

「……まだすんでない」

「なに?」

 

 この期に及んでまだ何かあるのかと思うと、戒斗は辟易した。

 

「んと…あの、ね…………ありがとう」

「――は?」

「だって。あの時あたしたち、ロックシードもってなかったから。ヘキサがもってるなんて思わなかったけど。でも、ないって思ってた。なのにバロンはわざわざインベスゲームしかけてきて、しかも敵のあたしたちにロックシードを貸してくれた。あのままあたしたち追い出しちゃえばカンタンだったのに、そうしなかったでしょ? あたしたちの踊れるとこ、あそこしかないから。だから、ありがとう、なの」

 

 チームバロンは強い、強いからリトルスターマインに情けをかけた。強者の余裕だ。――決して、理不尽に追い出される弱者と、己の家族を重ねたわけではない。

 それをこの少女は嬉しそうに、親切な人に優しくされたかのように話す。施しを恵みだと信じて疑っていない。強者に必要なプライドを室井咲は備えていない。なのに――

 

(ありがとう、なんて言われたのは何年ぶりだろう)

 

 そんな下らない、どうでもいいはずのことに、気づいてしまったから。

 

「――そんなに」

「ん?」

「そんなにダンスが大事か」

「大事に決まってるじゃん。ダンサーだもん。それに、同じキモチの仲間が踊りやすいようにしてあげるのが、リーダーのツトメってやつじゃない」

 

 リーダーだからチームメイトのために身を粉にして働く。それは戒斗の中にはない概念だった。

 

 咲は綺麗な笑みを浮かべたまま、黙る戒斗に対して首を傾げている。

 

「……用が済んだなら今度こそ帰れ」

「そんなに帰ってほしい? ――あ~、はいはい、分かりました、分かりましたよ」

 

 咲は水色のランドセルを揺らして走って行った。

 少女がカーディーラーを出ていく音を聞き届け、戒斗は、らしくないことばかり考える自分に対し舌打ちした。




 時間軸は異なりますが「彼らが奪えなかったもの」と対にしたつもりのお話です。
 以前に「戒斗は意外とリトスタの子たち気に入ってんじゃね?」的な指摘を受けまして、そこからインスピを得て書きました。インスピを下さった××××様、ありがとうございます<(_ _)>
 このヒマワリロックシード、後に大事な展開で登場しますので覚えてて頂けると作者が喜びます(*^^)v
 ちょぴっと戒斗の価値観に変化をつけてみました。戒斗は舞とのツーショットで十分「強さ」の価値観の変化受けているでしょうから、ここでは「ダンス」や「仲間」に焦点を当ててみました。

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