駆紋戒斗の機嫌がすこぶる悪い。
チームバロン№2であるザックはリーダーが発する威圧感を背中にひしひしと感じていた。
(それもこれもみんなあのクソガキどものせいだ)
数時間前。チームバロンはあるチームからステージを奪いに行った。
リトルスターマイン。最近現れた、小学5年生6人だけで構成されたキッズダンスチームだ。
そんなコドモのお遊び同然の集団が、“ビートライダーズホットライン”でランクインしていないにも関わらず放送された。
戒斗の主義は「弱者は然るべき所に収まっているべし」。ただ物珍しさだけで話題になった上に、強いわけでもないのにビートライダーズと呼ばれた。戒斗にはそれが許せなかったのだ。
だからわざわざロックシードを相手に渡してまで潰そうとしたのに。
そこで高い音が響いた。ふり返る。戒斗が乱暴にイスを立った音だったらしい。
「どこ行くんだよ」
「――風に当たってくるだけだ」
戒斗は階段を登って白いディーラーを出て行った。吹き抜けの天井に長く足音が反響した。
ザックと、同じテーブルに座っていたペコが、重ねて長く息をついた。――ようやくあのプレッシャーから解放された。
「あーあ。もー今日最悪だー」
ペコがテーブルに突っ伏した。
気持ちは分かる。チームバロンは負けたのだ。たかが小学生の仲良しこよしグループに。
「何回も言うな。気分悪ぃ」
「けーどさー、ザックぅ、俺らいつも通りやったのに」
スリングショットで敵チームのロックシードを、持ち主の手から弾き飛ばす。
ザックとしては、卑怯と言わば言え、の精神だ。戒斗の意思に反していても、彼は彼なりにチームを守りたい。
だが今日はそのスリングショットが失敗した。
ペコが狙いを外したわけではない。ターゲットの少女と少年が、
「錠前ってさあ、正直大の男の俺らの手よりデカイよなあ――」
「ああ。だから戒斗みたいに指に通しとくか、掌全体で1コ持つか。あのガキどもの手なんて滑り落ちそうなくらいに見えたのに――」
ザックとペコは同時に黙した。
(特に女のガキのほう。チビのくせに、とんでもねえ目で睨んできやがった)
もはやあれは執念の形相だった。
渡さない、奪わせない、と。
ステージ以上の何かを守り通そうとする貌は、立派にビートライダーズのものだった。
――と言えば戒斗がさらに怒るので言わないが。
せめてもの救いは、リトルスターマインがランク外のチームだったためランキングが変動しなかったということくらいだ。
(ごっこ遊びが許せなくて潰しに行ったのに、ごっこ遊びだってとこに救われてる辺り、皮肉過ぎんだろ俺ら)
ザックはイスにもたれて上を仰いだ。視線の先の階段から帰ってくる戒斗が、その時には気を静めてくれていることを、今は祈るばかりである。
チームバロンがリトスタに負けて帰った直後のお話。
パチンコが当たってもロックシードを手放さないくらいに咲もチューやんも緊張・興奮状態だったのです。自分たちのたった一つの居場所を守るために。ゲーム後、彼らの手にはロックシードを握った痕が残っていたんです。
ザックさんは苦労性な気がします。不機嫌な戒斗にもビクつくより「やれやれ」と思っていそうな気がします。むしろビクつくのはペコの役w