少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

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第65話 賭け

 

 次の日。咲とヘキサはリトルスターマインの仲間を野外劇場に集めて、どうすればヘキサが兄との関係を壊さず、咲が戦極ドライバーを手放さずにすむか、話し合いの場を持った。

 

「ロックシードが生る森だけでもヒジョーシキなのに、そのベルト造ったのが天下のユグドラシルとか……どこまでヒニチジョーを突っ走るのよあんたたち」

 

 ベルトの詳細について伝えたナッツの第一声である。

 

「ごめんね、ナッツ。どーもあたしたち、そういう星の下に産まれたみたいで」

 

 こういう時、下手に常識から物事を否定しないコドモの感性はいい。

 

「ヘキサがユグ社のエライ人の妹って違和感ねーな。な、チューやん」

「……むしろしっくり」

「そんなにわたし、おかしかった?」

「おかしかったってゆーか」

「……にじみ出てた」

「とりあえず今は、そのベルトのこと話し合う集まりってことでおk?」

「オーケーよ、トモ。じゃんじゃん案ちょーだい」

 

 コドモたちは一斉に頭をひねった。

 

「いっぺん返して盗み出す……のはそもそも返したベルトがどこにあるのか分かんないもんねえ」

「ハイ! 粘土でニセモノ作るっ」

「モン太それさすがにムリあるっしょー」

「……でもニセモノはいい案じゃ?」

「バレた時ヘキサが責められるから却下」

「あー、ヘキサが返す、って部分は守らなきゃなのかあ。返した上で――」

「返した上で向こうがこっちに自主的に送り返してくれたらいい――ってこと?」

「それいいっ。どうすれば向こうをその気にさせられっかだな」

 

 

 話し合いの結果――いざドライバーを返す日になって、咲たちがしたのは、返す戦極ドライバーに手紙を添える、それだけだった。

 

 手紙は戦極凌馬宛て。内容はシンプルに「もっとドライバーの力を使いたいからもう一度ベルトを貸してください」というものにした。この文面を考え出すまでにリトルスターマインは1時間ディスカッションした。

 そして、硬筆が得意なトモの書いた下書きを、サインペンで咲がなぞって完成させた。

 

 百均で買ったプレゼントパックに、戦極ドライバーと、ヒマワリとドラゴンフルーツの錠前を納めて蓋を閉じる。

 このドライバー入りの箱をヘキサが貴虎に渡し、貴虎から凌馬が受け取る。これで「ヘキサがベルトを取り返した」という点はクリアだ。

 

 そこから先こそが賭け。

 

 もしもドライバーに添えた手紙が凌馬に届かなければ。届いても凌馬が相手にしなければ。戦極ドライバーは二度と咲の手に戻って来ない。

 だがもしも、貴虎や湊が手紙を握り潰さず確かに凌馬に届け、凌馬が咲の手紙に興味を持ってくれるなら――

 

 

 

 

 その日の咲はダンススクールでのレッスンを終えるや、ステージは臨時休業で、自宅に急いだ。

 

「ただいまっ」

 

 どこにでもある一軒家の自宅玄関から居間へ一直線。居間のテーブルの上には様々な郵送品が並んでいる。

 咲はその中から、数日前に送ったのと同じ箱を見つけて、引っ掴んで自分の部屋に駆け込んだ。

 

 宛先は咲個人。差出人は空欄。咲は封を破って箱を開け――その顔に笑みが広がるのを抑えきれなかった。

 

 箱にはていねいに梱包された咲用の戦極ドライバーと、いくつかの錠前が入っていた。錠前はヒマワリとドラゴンフルーツの他にもあったので、言外に咲に被験者になれとでも伝えているのだろう。

 

 ともあれ、戦極ドライバーは咲の下に戻ってきた。

 

 ――咲たちは賭けに勝ったのだ。




 コドモだって知恵を絞ればできることはあるんだよって話。

 名づけてドライバーダブル返還作戦。
 凌馬は被験者を欲しがっていましたから、咲から「もっと使いたい」と申し出るのは渡りに船のはずです。今回の咲たちの「賭け」はそこを突きました。分の悪い賭けではありましたがね。返す返さないは凌馬の気分次第だったんですから。
 申し出に乗ったのですから凌馬も「面白い子たち」ぐらいには思ったのかもしれません。

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