少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

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第63話 碧沙と凌馬 ②

「わたしが、咲からですか」

「ああ。私たちだって無闇に争いたくはない。友人のキミが説得したほうが平和的な解決が見込まれるからね。だからもう一人、葛葉紘汰君のドライバー回収はキミの下のお兄さんにお願いしてあるんだ。彼は了承したよ」

 

 やはり。心の中で碧沙は思った。貴虎が何かを光実に明かしてから、光実はユグドラシル側だという気がしていた。

 

「わたしなんかが……そんなことできるんでしょうか」

「それについては心配要らない」

 

 凌馬はある物を碧沙の前に置いた。それは咲たちが使っていた戦極ドライバーと寸分違わぬ物だった。

 

「これ……」

「量産型だからキミでも使える。錠前はお兄さんのお下がりだけど」

 

 碧沙は量産型ドライバーとメロンの錠前を持ち上げた。重い。大きい。咲や兄たちは今日までこんな物を負って戦ってきたのかと思うと、泣きたい気持ちになった。

 

「キミに貸してあげよう。室井咲君がドライバーの引き渡しを渋るならこれを使ってくれ」

「それはわたしに、咲と戦えとおっしゃってるんですか?」

「そう聞こえたならそうなんだろうね」

 

 咲から戦極ドライバーを奪う。

 咲から、力を奪う。

 力がなくなった咲はインベスともアーマードライダーとも戦えなくなる。

 どこかで一度は望んだことだった。戦いのない日常で、ごっこ遊びのビートライダーズに戻って、また踊り始める――

 

 碧沙は大きく息を吸い、吐いた。

 

「申し訳ありませんけど、こちらはお返しします」

 

 碧沙は量産型ドライバーとメロンロックシードを凌馬に差し返した。

 

「――何故だい? キミは兄さんの力になりたいんだろう。それさえあればキミは貴虎たちと同じ所に並び立てるんだよ?」

「それでも、きっとこれはわたしが着けちゃいけない物ですから」

「確かに貴虎は家族を大切にする男だから、キミがこれを使ったら心配するだろうが」

「それもありますけど、もっと根本的なことなんです」

 

 碧沙は凌馬をまっすぐ見上げた。

 

「大事な人がキズつくよりは、自分がキズついたほうがいい。わたしが知ってる貴虎兄さんは、そういう人です。何でか呉島の男の人ってそうなんです。貴兄さんも、光兄さんも」

 

 本当にしょうがない、と。呉島碧沙は輝かんばかりの笑顔を浮かべた。だってそんなところさえ、碧沙には愛しくてならない兄たちなのだ。

 

「いちばん最初にベルトの被験者になったのも、一人で戦ってたのも、だからだと思います。これにたよったら、貴兄さんが守ろうとしてくれたもの、全部ふみにじっちゃいます。だからこれは頂けません。ごめんなさい」

 

 碧沙はぺこりと凌馬に向けて頭を下げた。

 

「……そうか。ではキミはどうやって室井咲から戦極ドライバーを回収してくるのかな?」

「話します。正直に。それが一番咲には効きますから。わたしたちの間には、わたしたちだけの言葉があるんですもの」




 これは光実と対比したくて書いたお話でした。弟みたいに奪い取るとかだまし取るとかではなく、完全なる正攻法で行く妹。
 これは作者の意見でもあります。そもそも奪わなくても友達なら話して返してもらえばいいじゃん、と。もちろん光実がそうせざるをえない事情を抱えているのは分かっていますよ? でも、それでも、こういう方法があるのだと書きたかったんです。これだけは、子供らしさを描くためではなく、「事情があるから奪い取る」風潮への作者の一石です。

 もう一つは、ドライバーを要らないと言う碧沙を書きたかったんです。知っていてもあえて力を持たないという碧沙なりの、兄たちへの、友達への報い方。「守られる側」であろうとするのも誘惑があって大変ですが彼女は力への誘惑を蹴り続けるでしょう。

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