少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

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第59話 咲と舞とチームバロン

 

 

 咲たちは場所を改め、“ドルーパーズ”のボックス席に来た。

 

「よそのチームはみんな曽野村みたいな連中ばかりだ。みんなリミッターカットの裏技を見つけたからな。簡単な改造だけで、実体化したインベスを呼び出すことができる」

 

 言って、戒斗は紅茶に口を付けた。

 

「……その裏ワザ流したのって、錠前ディーラー?」

 

 咲は店の一番奥の個室席に目線を流した。タイミングが悪いことに、誰も座っていない。

 

「さあな。どこかの誰かが、ネットに流れた情報を元にやってみたらできたって感じだ。誰が流したかなんて分かりやしない」

「じゃあ、街で暴れてるインベスはっ」

「騒ぎの何割かは、便乗して悪さしているビートライダーズの仕業だ」

 

 ザックはポケットからクルミの錠前を出しながら、アイスコーヒーをストローで吸い上げた。

 

「俺たちだって護身用の錠前が手放せない。ウチのチームは恨みを買ってるからな」

「確かに買ってそう」

「ド突くぞクソチビ」

 

 咲はぷい、とよそを向いたが、すぐに俯き、ドラゴンフルーツとヒマワリの錠前を取り出した。

 こんな物があるせいで――

 

「……い」

 

 舞が掠れた声を零した。

 

「舞さん」

「ひどい、どうして……っ、これじゃもう、誰もあたしたちを信じてくれないじゃない……っ」

 

 舞の黒々とした瞳から、涙が一粒、二粒と落ちた。

 戒斗は何も言わなかった。咲も何も言えず、舞の膝の上の拳をさすってあげるしかなかった。

 

「――あんた、前に集まった時言ったな。街で暴れてるインベスが自分たちと無関係だって証明しないと、って。これでもう証明できなくなっちまったな」

 

 ザックの言葉は皮肉より同情、あるいは同病相哀れむ色のほうが濃かった。

 

(こんなことにならないために説得して回ってたのに。あたしたちがしたことってなんだったのよ!)

 

 咲はダンススクールの講師を思い出す。信じてくれる人も現れ始めていた。やっとこさ築いた信頼に、レッドホットは、他の多くのチームは、あっさり泥を塗ったのだ。

 

「先走るなよ」

 

 咲と舞は同時に顔を上げて戒斗を見返した。

 

「お前のほうだ、ガキ。さっきみたいに後先構わず変身してビートライダーズを襲うような真似はするなと言ってるんだ」

「なんであたしが、そんなことしなきゃいけないの」

「言って聞かないなら力ずくで。さっきのお前はまさにそんな空気だった。俺が止めなければ、大方、曽野村たちをタコ殴りにしてロックシードを根こそぎ取り上げようとでもしたんじゃないか?」

 

 言い返せなかった。曽野村と話した直後の咲の怒りはそれをやってもおかしくない値まで上がっていた。

 

 戒斗は溜息をついて席を立った。隣のザックも戒斗に続く。

 

「争わずに話し合いで解決しようと言い出した奴がこの体たらくか。――お前や葛葉の言うように、インベスゲームはやめてやってもいい。もはやインベスゲームどうこうの次元じゃないからな。だが護身用のロックシードはこれからも持ち歩く。それについて文句は聞かん」

 

 戒斗たちはボックス席を出ると、勘定をすませて“ドルーパーズ”を出て行った。

 

 咲は唇を噛んで、チームユニフォームをシワが寄るほど握りしめた。




 10人くらいが頑張る中で一人悪目立ちする奴がいると10人全部が悪く思われるよねって話。

 あえて場所を移してみました。何となく仲良し感が出るのと、後は喫茶店みたいな場所で真剣な話をするというシチュが作者が好きなので←ヲイ
 さりげなくザックにクルミ持たせてみました。これが紘汰や戒斗ならオレンジジュースやらバナナジュースにできるのですが。
 ザックもこの状況を憂えています。集まりでの舞の訴えがちょっとは心にあるんでしょうね。

 ここでいつもなら泣く咲ですが、泣きません。怒ります。成長と言っていいかは分かりませんが、ユグドラ脱走後の一番顕著な変化です。

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