少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

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第38話 光実の役得

 

 

 光実がインベスゲームの秘密をチームに話そうと一大決心できたのは、実は妹のおかげだった。

 最初にインベスゲームの裏の意図を聞いた光実は、このことは舞たちには伝えないでおこうとした。

 だが、それを告げると、碧沙はきょとんと首を傾げた。

 

 

 ――“どうして? 仲間なのに”――

 

 

 話さないのはオカシイではないかと、どこまでも澄んだ瞳で見上げられて。

 光実はそもそも認識が妹と前提から食い違っていたことに気づかされた。

 

 それから光実は改めて考えた。

 

 隠すのは何のためか? チームのためだ。隠せばチームのためになるか?

 ならない――と、答えを出した。

 事はビートライダーズ全員の行く末を左右するのだから。

 

 そして、紘汰と話せる範囲を話し合って、舞たちに打ち明けるに至った。

 

 

 

(一度誰かを敵と定めて計画を始めた以上、勝ち負けははっきりさせなきゃいけない)

 

 黒板に書いた図面――チーム名と、説得に応じたかを〇×で示したそれを見上げる。

 現時点では×しかない。これを〇で埋め尽くした時、ビートライダーズはユグドラシル・コーポレーションに勝ったことになる。

 

 秘密を話す上で、光実が考えたのは人海戦術だった。

 

 秘密を知る人間の数が膨大なら、それはもはや秘密とは呼べない。その域にまで、インベスゲームの真相を知る人間を増やす。その上でシド辺りに告げれば貴虎、ひいてはユグドラシル・コーポレーションにも伝わるだろう。

 増えた人数をもって、ユグドラシル側を牽制する。

 

 もっとも簡単には行かない。まず他のチームが説得に応じようとしなかった。

 

(バロンは相変わらず聞く耳持たず。蒼天とPOPUPは碧沙たちが説得するって言ったけど、子供の言うことを聞くかは怪しいし、僕が行くことも考えないと。レイドワイルドはリーダーの初瀬が捕まらなくてまとまってないっていうし、インヴィットはそもそもリーダーの城之内が不在で……)

 

「――ッチ、ミッチってば!」

「うわっ、はい!」

 

 光実はようやく呼ばれたことに気づいてふり返った。

 

「ま、舞さんっ」

 

 不覚だった。よりによって舞の呼び声に気づかないなど。

 

「お帰りなさい。今日はRED HOTでしたっけ」

「うん。もー、曽野村のバカが聞きやしないったら! ――あ、外でチャッキー待たせてるから、すぐに出るんだけど」

 

 様子見に帰ってきてくれただけでも嬉しい。さすがにストレートに過ぎるので言わないが。

 

「――ミッチ、疲れてる?」

「そんなことないですよ」

「うそ。目の下、クマ出来てる」

 

 弁の立つ光実も、さすがに体に出る異変までは隠せない。光実は早々に降参した。

 

「……舞さんたちといる時と、踊ってる時。それが、僕が“僕”でいられる大事な時間なんです。それを守るためだから、疲れくらいへっちゃらです」

「ミッチ……」

 

 舞は痛ましげに目を伏せた。

 光実は少しだけ悲しかった。舞にそんな顔をさせたいわけではないのに。光実はいつも空回ってしまう。

 

 どうすれば舞の困り顔を解けるか悩んでいると、舞のほうが先に動いた。

 舞はいつも腰に結んであるチームユニフォームのパーカーをほどき、光実の肩にかけたのだ。

 

「ここんとこ寒くなってきたでしょ。ここ、暖房の効き悪いから、あんまり根詰めちゃだめだよ」

 

 舞は光実ににこりと笑い、ガレージを出て行った。

 

(普通逆なんだけどな)

 

 光実はパーカーの袂を掻き寄せ、布地に擦り寄った。まだ彼女の体温が残っていた。

 

 

 

「あったかいなあ――」




 はい、本当なら隠そうとする光実が隠さなかったのは妹の素朴な疑問のおかげでした。
 光実が隠しておきたいのは自分がユグドラシル側であること、兄が斬月であることですから、そこを除けばむしろ話すのはOKじゃないでしょうか?

 そうして勇気を出して踏み出した光実に、ちょっとしたごほうび(*^_^*) 舞のユニを貸してもらえました。よかったねミッチ。

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