少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

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第31話 ヘルヘイムの森 紘汰&ヘキサ ②

 

 さすがのヘキサも、いかにも兵士らしい職の人々に銃を向けられ、実は体全体が小刻みに震えていた。だがここで折れれば光実の計画は頓挫する。それを支えに笑顔を保った。

 

「おい! お前、どこから入った! 何者だ!」

「え、わたし、ヘンな裂け目みたいなのがあって、そこに入ったらここにいたんですけど。ここ、どこですか?」

 

 幸いにも声は震えていなかった。

 

 兵士の一人がどこかと通信するような仕草をする。その間も包囲は解かれない。

 その内、何かの指示が出たのか、兵士が二人来てヘキサの両腕を乱暴に掴み上げた。

 

「いた…っ、何するんですか!」

 

 わざと大袈裟に痛がって見せれば、周りの人々の目がヘキサに向いた。注目が最高値に達したのを、ダンサーならではの触覚で確信した。

 

「っ、あなたたち、ユグドラシル・コーポレーションでしょう? いいんですか? わたしは呉島貴虎の身内です。わたしにヘンなことしたら、貴虎がだまっていませんよ」

 

 前もって考えていた台詞を告げると、兵士と、加えて白衣や防護服の人々もざわめき始めた。

 

(光兄さんの考えてた通りだった。貴兄さんの名前に反応するなら、貴兄さんは確実に関係者)

 

 兵士の腕の力が緩んだが、ふりほどくことはしなかった。ヘキサはただ兵士の応対を待った。

 

 そうしていると、ヘキサを掴んだ兵士に通信が入った。入ったと分かったのは、先と違って至近距離で捕まっていたからだ。

 

《その子の言ってることは本当だよ》

「プロフェッサー凌馬――」

《その子は正真正銘、貴虎の身内だ。せっかくのクリスマスだ。彼女を案内してあげたまえ。彼女は“特別”だからね》

 

 通信が切れたようだった。防護服や白衣の人々が急にヘキサに礼を取った。我が兄ながら恐ろしいネームバリューである。

 

 白衣の一人がヘキサをテントに案内すると申し出たので、ヘキサはにこにこを保ちながら付いて行った。

 

 

 

 

 

 しばらくは呆気にとられていた紘汰だが、はっとした。

 

 どう言ったかまでは聞き取れなかったが、ヘキサが作ってくれたチャンスだ。

 紘汰はもう一つのテントの裏から回り込み、テントに入り込んだ。騒ぎのおかげで誰もいなかったので易々入れた。

 

 テントの中にはラックと棚が一つずつと、テーブルの上にPCとディスプレイが2台あった。画面は2×2分割され、“森”のあちこちを映し出している。

 

 紘汰はまずラックのファイルから検めることにした。

 

 手始めに「ドライバー装着者リスト」というファイルを取ってその場でめくった。

 

 1ページ目は紘汰の顔写真付きパーソナルデータだった。名前や生年月日はもちろん、住所、学歴と職歴、行動経過観察。

 家族構成では両親が無いことや、姉・晶のデータも付記されている。

 

 紘汰は戦慄し、次々とページをめくった。

 

 自分だけではない。戒斗、初瀬、城之内、凰蓮、咲――ベルトを持つ人間のデータが全員分、詳細に記されていた。

 

(あれ? 全員分?)

 

 ファイルをめくり直す。めくり直す。――いない。ベルトの持ち主で一人だけ、光実の名がない。

 

(もしかして、ユグドラシルは知らないのか? アーマードライダー龍玄がミッチだって)

 

 だとしたらこれは大きなアドバンテージだ。光実だけなら、ユグドラシル・コーポレーションに察知されることなく動き回れるということだ。

 

(ああ! でもミッチだけにそんな危ねえ役回りさせられねえし! どーすりゃいいんだよ。俺、ミッチみてえに頭よくねえから分かんねえよ~)

 

 紘汰はひとしきり悶えたが、諦めて別のファイルを開いた。




 度胸据わりすぎです妹さん(((( ;゚Д゚)))
 ネタバレ?するとヘキサのこれは全部演技です。光兄さん譲りの黒さです。ここ「兄」か「貴虎」かでずいぶん悩みました。
 そんな彼女を受け入れた凌馬の真意とはいかに(>_<)!

 紘汰が知る秘密の内容が少し変わりました。モルモット云々を聞かない代わりに、ユグドラシルがどんなデータ=手札を持っているかを知りましたが……ここは光実が知ったほうがいい場面だったカモ(-_-;) 紘汰くんは根っからの肉体派ですからねえ。

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