少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

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第19話 遊びにだってルールはある

「――あたし、何でか分かる、かも」

 

 え、と紘汰が首を傾げて咲の答えを待つ。

 

「前に、あたしが行ってるダンススクールのインストラクターの人が言ったの。『アタシん時と違って、今のガキはチャンスだけなら恵まれすぎてる』って」

「チャンスに…恵まれすぎ?」

「センセーはコドモの頃からダンスやって、たっくさんオーディション受けて、コンクールに出て優勝して、やっとプロになった。でもそれもケガして長く続かなくって、今インストラクターやってるの」

「へえ…」

「『最近じゃ、ネットに動画を投稿すれば誰だってアーティストになれる。そういう意味じゃチャンスに恵まれすぎだよ、お前らは』って。少しキズついたけど、ほんとだなって思った」

 

 彼女の意見は、幼い咲には耳に痛かった。まるでインターネット世代の咲たちの生き方そのものを否定され、責められている気がした。

 

「そう、かもな――でもさ」

 

 紘汰は屈んで咲と目線の高さを合わせる。澄んだ目をしていた。

 

「いくらチャンスに恵まれたって、それを掴めるか、みんながそれを活かせるかっていわれたら、そうじゃないだろ? 手の届くとこにある分、目を付けられやすくて、オトナの都合で消費されて潰れてく奴だっているだろう。だから俺は、昔と今と、カタチが違うだけで、がんばんなきゃってとこは変わらないと思う」

 

 紘汰が起き上がってニカッと笑った。

 

「……いいの、かな。そんなふうに思っちゃって」

「ん~――実は俺もさ、現役でチームやってた頃、そんな感じのこと言われたりしたからさ」

「そうなの?」

「そう。だから咲ちゃんもさ、あんま卑屈になることないんじゃないかな」

 

 卑屈。言われてみればそうだったかもしれない。恵まれた自分は、ずっと「ごめんなさい」を想って抱えて踊らなければいけないと心の奥で思っていた。

 

「俺たちストリートダンサーに一番大事なのは、技でも上手さでもない、楽しむこと! ……ってこれも舞の受け売りだけど」

 

 胸をこつんと叩かれた。咲は胸に手を当てる。

 

 ここにあるものは? ダンスをする時にここはどうビートを打っている?

 いつだって楽しくて弾けそうに打っていた心臓。

 

「……なぐさめてくれてる?」

「へ? あ、いや、そうじゃなくて。いやそうなんだけど! ごめん、俺ばっか話しちゃって」

 

 咲は首を振り、両手で胸を押さえた。何となく、今までより軽快に打っている、気がした。

 

「ねえ。メアドこーかんしない?」

「俺と?」

「今日はあたし、あなたにそーだんにのってもらったから。今度はあたしが、あなたに何かあった時、そーだんのってあげたいなって。だめ?」

「だめじゃないよ、全然。ちょっと待ってな」

 

 紘汰がポケットからスマートホンを取り出す。咲も自前のお子様用スマートホンを出して、番号送信の操作をする。

 青と黄色のスマートホンを突き合わせると、液晶に「葛葉紘汰」の表示。

 

「かつ……は? ……ごめん、何て読むの?」

「かずらば、こうた。紘汰でいいよ」

「ありがとう――紘汰、くん」

 

 咲は今日一番の笑顔で紘汰を見上げた。笑い返す紘汰が、何となく、まぶしかった。




 ロスジェネとIT世代のどうしても埋まらない溝。

 テンポの問題から板東さんではなくヒロインたちの講師の言葉にさせていただきました。
 こうしてこういう場にお世話になっている自分ですら戸惑うことがあります。時代の波にそろそろ付いて行けなくなっています。
 「お前らはいいよな」。大変胸に痛い言葉です。
 咲の言葉は自分の胸の内であり、紘汰の言葉は自分の反論です。

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