魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

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(;・ω・`)ほんとおくれてすまんかった。いつの間にか10点を二人も入れてくれている人がいて私タジタジである。こうして投稿するのもちょっとドキドキしている。


Child birth

 新暦60年某日、とある片田舎。

 

 人気の少ない小さな村のそのまた端。ろくに人が近寄らない場所に城と見紛うほどの豪邸がある。森のなかにひっそりと佇むそれはしかし、その奇妙さから強い神秘性を保持している。村の子供達はそれをお化け屋敷と呼び好奇心を高めているが、親から止められてしまい確認することができずにいる。実際のところ、その屋敷「時の庭園」を住処にしている一人の子供と彼らは友人関係にあるのだが、それについては気づかれていないようだ。

 

――「時の庭園」とは大型魔力炉を有する次元航行が可能なロストロギアである。そのまま家という外観を持ち、次元航行艦同等に機能を仕上げた製作者は果たして一体どんな奇抜な人物だったのか。今やそれを知るものはいない。住居部分だけでも数十に渡る部屋、広い庭には色とりどりの花々が咲き乱れ丁寧に手入れされている。地下深くに及ぶ研究棟は家主とその娘の珍妙な研究物に溢れかえり、立派なカオスを生み出している。とはいえそれも一角だけであり、使える空き部屋はまだまだ多い。

 

 さて、言わずともわかるであろうがここに住んでいるのはたった二人の住人。プレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサの両名である。わざわざ二人がこのような辺境に隠れるように住んでいる理由。それは2年前のとある事件で公式には死亡したことになっているアリシアにある。娘が死んだことを理由に含め賠償金を受け取ってしまったプレシアは、人目のある場所に住んでアリシアを見られることによる疑惑を覚えられるわけにはいかなかった。よって、学校に通わせアリシアに多くの友人を作らせて挙げられないことに苦いものを感じつつも、このような手段を取らざるを得なかったわけで。

 

 そんな状態でも「時の庭園」を購入したのは偏に良い暮らしをさせてあげようという彼女なりの親心――もといやりすぎなため親バカと呼んでも差し支えない――である。2年前、ジェックがいつつも親としての愛情をしっかりと注げていないと感じたプレシアはほとんどの時間を彼女のそばにいることを選んだ。学校が無い代わりに自分で勉強を教え、さながら専業主婦のように過ごし、生活費は賠償金と多くの論文を自宅で書くことで賄った。そのため今や彼女の持つ特許料は恐ろしい量になっており、もはや何もしなくても勝手に金が入ってくるという一生困らない勝ち組と化していた。

 

 一方、アリシアは大好きな母と穏やかに暮らせることを事情がわからないながらに喜んでいた。家から出る際には多少の変装を施さなければならないのはしゃくであるが、わずかながらも村民の友人ができた事はジェック以来の快挙だと認識している。そのジェックはあれ以来めったに姿を現さないのでそれについては大いに怒りをためているところであるが。何にせよ親子二人は平穏な毎日を過ごしている。そのはずだった。

 

 

「ねぇママー!私の妹はいつ生まれるのー?」

「ふふ、そうね妹は…………妹!?」

 

 朝食をいつもどおりに用意し、娘との何気ない会話にこれまたいつもどおり受け答えようとした結果は痛恨の一撃を食らった気分で始まった。妹、そう妹である。一ヶ月の別離を得て、当たり前のように二人で過ごせるようになってからこれ以上のものはいらないと思っていたプレシアにとって、その一言で様々な思いがよぎった。

 

 まずひとつ、いつか娘は妹が欲しいと言っていた。すっかり平穏が染み付いたプレシアはその事をすっかり忘れていた。

 

「その、近所のお友達じゃ足りないのかしら?」

「えー、違うよ―。妹と友達じゃ全然違う!どれくらい違うかって言うとーっ、これくらい!」

 

 ズバッと上に切った右手の上を左手が薙ぐように通り過ぎる。なるほどわからん。じゃなくて、おそらく娘はグラフに表すように、あるいはベクトルそのものが違うと表現したかったのだろう。この場合横切ったのが妹ということか。それが意味するところはさっぱりであるが。アリシアは親の教えによる理系の頭を直感で熟す稀有な思考を持っている。良い言い方をすれば天才的、といったところか。まさしくプレシアの娘である。

 

 そのに、プレシアはアリシアの願いことは全面的に叶えるようにしている。だとすればその手段をどうとるか。普通であれば再婚して子供を作る、というものだがそれがプレシアにはできない。公的に死亡しているアリシアの存在が露見してしまうのはまずく、どう付き合っても後ろめたい思惑を隠すことはできない。受け取った賠償金は「アリシアが死亡した事」含むいくつかの事柄によって成立している。つまり生きていることが発覚すればあちらは訴訟も辞さないだろう。なので逆に彼女はアレクトロ社の記録改ざんをジェックと伝手のある人間に探してもらい、それを基に訴訟することでうやむやにしてしまおうという計画である。

 

 そのさん、娘がいなくなった悲しみで一時的に狂いかけ倫理的なネジが数本外れていたプレシアは手段を選ばなくなっている。再婚できないことが問題なのではなく、すでに彼女の中ではどうやって「妹」を生み出すかがポイントとなってしまっていた。

 

 そして彼女は閃く。――産めないなら作ればいいじゃない。私の研究で。

 

 一体どこのマリーさんか。ここで養子を取らずに科学的発想に至るあたり、プレシアらしいといえばらしいのだが。他にも手段があるだろうと思わずを要られない。アリシアは友人とは違うというなれば、まず大事なのは血のつながりだろう。遺伝的に妹であり、容姿も似た特徴を持っていれば問題ないはずだ。そして、保存液に残っていたアリシアの義体の遺伝子データ。あれはジェックいわく確かに義体であったらしいのだが、完全な人形などではなくきちんと遺伝子データを基に作り出したものらしい。わずかながら保存液にあったものをバックアップしておいた。加えてアリシアの健康診断などは自分で行っているので当時のデータはそのまま残してある。あの義体を作り上げた科学者は一言言って殴りたいほど憎たらしいが、逆に義体でありながらあれほどの生々しさを持っていた名前の無い彼女に、プレシアはある種情すら抱いていた。ただの遺体役として生み出されてしまった肉塊でありながら、科学的にそうだとは一切思えなかったのである。

 

「よし、わかったわ!ママに任せなさい!!」

 

 この時プレシアは決意した。生まれてすらいなかったアリシアと同じ容姿を持ったあの娘を、当時の年齢から産みなおす計画を。余談であるが、後に精子バンクなどに頼る気は無かったのかと聞くと「愛してすらいない誰のものともわからない男の子種を体に入れるなんて虫唾が走る」とのことであった。プレシアは意外と高潔らしい。

 

 

 

 

「とは言ったものの……どうすればいいのかしらね」

 

 言ってしまった以上どうにかしなければならないが、計画はさっそく暗礁に乗り上げた。機械工学にはめっぽう強いのだが、生命学となるとかじっただけのプレシアではそも発想からして困難であった。ならばまずは他人の論文からどうにかすれば、と思い検索。すると「プロジェクトF」の論文に辿り着いた。確かにこれならば義体とほぼ同等の器が作れる。だがこれはあくまで食用であって、地球で少し未来にて発見されるiPS細胞的なクローン手法に近い手段をとったものであった。おかげで管理世界の一部では高級な食用肉が養殖されている。だがこの手法では果たして人間的な「魂」とでも呼べるものを作れるかどうかまでは懐疑的であった。あの義体を見ていれば尚更その疑惑は重くなっていく。そして連絡をとってみようと思うにも、既にこの著者は死亡しているらしい。これを出した当時、何か著者に不幸が起こったらしいがその真相は闇の中である。

 

 まぁ、これを元手に研究してみるのもいいだろう。おそらく自分であれば2年とかからずに完成させる自信がある。最も、それは寝食を抜いた上での話であり、アリシアの願いを叶えるため早急にと考えても、健康的な生活をし「母」であることを自分に課しているプレシアには不可能だった。アリシアの悲しい顔は見たくない。かと言って妹がすぐに出来ないとも言いづらい。どちらもアリシアのためでありながら完全な板挟み状態にあっていた。

 

 

 

 

――ジリリリリ

 

 そんな事を考えてしばらくたったある日、非常に古臭いアンティークな装飾がほどこされた電話のベルが鳴った。金属の甲高いアナログ音がプレシアを思考の海から引き上げる。その音を少し聞いて、やっとプレシアはああ、電話ねと気づいた。こんな辺鄙なところに住んでいる人間に電話をかけてくる者は珍しい。近隣の村人にも教えていないほどだ。どうせ間違い電話だろう、そう思いつつ受話器を取る。

 

「はい、もしも――」

『やぁ、私ジョニーさん。今地球にいるの』

 

――チーン

 

「ママぁー?何だったの今の電話?」

「なんでもないわアリシア。間違い電話よ」

 

 意味がわからない電話を躊躇なく切った。というかドコよ地球って。少なくとも聞いたことのない場所からかかって……

 

「ねぇアリシア。地球って何かわかる?」

「わかるよ!ジェックと前に行ったところだもん!話したよね、日本の京都ってところ行ったって。ゲームメーカーのメッカなんだよ!」

「そういえばそうだったわね(この子そんなところまで行ってなにしてるのかしら……)」

 

 確かに随分前にアリシアが話していたことを思い出した。そう、地球。確かジェックの心のふるさとだとかなんとか言っていた。普段は管理番号で呼ぶためにそういった惑星呼称はてんで覚えていなかった。しかしそれならばなおのこと、そんなところから電話がかかってきたことに疑問を覚える。次元世界を隔てた通信はいかな量子通信といえども基本は不可能である。なにせそれぞれの宇宙が隔絶しているのだからつなぎようがない。もしもつなげようと思えば両世界と次元空間内に通信設備、中継ポートを設置する必要があり、非常にコストがかかるためビデオレターなどが推奨されている。

 

 かけてきた本人が嘘を言っている可能性もあるが、惑星名を言ったことや娘との縁を考えるとあれをただの間違い電話として処理したのはもしかして間違いだったのでは?と今更疑問がよぎる。

 

「困ったわね、どうしようかしら。もしかしたらアリシア宛だったのか――」

 

――ジリリリリン!

 

 再び鳴る電話。何故か先よりも強く鳴っているような気がする。まるで即座に切った自分を責めているようで微妙に受話器を取りづらい。だが女は度胸、もしも何か言われたら受話器を落としてしまったとか言ってスルーしてしまえばいいのだ。どこか違う方向に気合を入れながらむんずと受話器を掴み、再び耳に当てる。

 

「……もしもし」

『やぁ、私ジョニーさん。今あなたの住んでいる森の郊外にいるの』

 

――チーン!!

 

「ママー?なんなのその電話」

「なんでもないわ、ただのキチガイ電話よ」

「一文字だけ変わった!?」

 

 間違いない、あれはただの嫌がらせである。一体何の目的でかけてきているのか知らないが、プレシアは無言で杖型デバイスを手にした。一瞬で地球からここまできたとか、色々突っ込みどころはあるが気にしたら多分負けなのだろう。

 

――ジリリリリリン!!

 

 そしてやっぱり鳴る電話。二度ある事は三度ある、と言わんばかりに電話機も話し相手に負けじと自己主張を繰り返す。どうせ放置してたらこのまま鳴り続けるのだろう。甲高い金属音にイライラさせられるのはゴメンである。今度絶対電話を買い換えよう、絶対にだ。決意して彼女は同じ動作を繰り返す。

 

「ちょっと、いい加減にしなさい。一体何を考えて――」

『やぁ、私ジョニーさん。今ーー』

 

 

「君の後ろにいるのだがね」

 

 

「サンダーボルトスクリュー」

「あばばばばばば!?」

「ママそれ違う技!!SAY☆BYE!!」

 

 勢いのあまり全く違う技名を唱えてしまったサンダーレイジが唸りを上げて、背後に現れた不審者に襲い掛かった。それを見たアリシアはなぜか鶴のようなポーズをとっているが、それも違うと言っておこう。やったかしら、とプレシアは魔法を打ち込んで立ち上る煙を見る。だが期待にはそぐわずザシャリ、と音を鳴らしゆらりと一人の男が姿を表した。見た目はスーツの上にボロボロの白衣を着て、いかにもダメージを受けましたみたいな状態になっているが、その中身の肉体はピンピンしている。あれほど苛烈な攻撃を食らって何故彼は平気なのか、プレシアは眉をひそめる。

 

「……ケホ、さすがにゴッドハンドスマッシュまでされてたら即死だったよ」

「そう、物理には弱いの。どんな方法で防いだか知らないけれど、欠点はあるようね」

「なんでそれで話が通じてるのか私は知りたい!」

 

 アリシア驚愕。時に天才同士の会話は主語も過程もぶっちぎるという、典型的な例であった。理解力が足りなければ解読するのも難しいであろう。そしてようやく現れた人物にアリシアは気づく。それは以前、幼い時(今でも幼いが)に地球で出会った謎の博士、ジョニー・スリカエッティということに。

 

「あ、スリカエ博士。こんにちは!」

「やぁアリシア、ごきげんいかがかな。今日はおみやげを持ってきたよ、芋長の芋ようかんだ。これを食べておっきくなるといい」

「それ巨大化じゃないですかやだー」

「ちょっと、あなた何勝手に人の娘に話しかけてるかしら?」

「ハハハ、痛いじゃないか」

 

 ガッチリと背後から掴まれた肩には女性とは思えない握力が加わっている。このままではジョニーの肩はスッポ抜けるだろう、天才科学者はひ弱であるという欠点は彼にしてもぬぐえない。いずれこのままではメキメキと……

 

「なんなのこのカオス」

「あ、ジェック」

 

 そこに転移で現る救世主ジェック。ジョニーと一緒に来ようと思っていたのだが、ネタがあるからといって先に行かせただけでこの有り様。少しだけ後悔してしまった。

 

「てぃっ!」

「ガハッ!……何をするアリシア、背後は弱いと言っているだろう」

 

 思考にとらわれていたところに背後からクロスチョップを見舞われぶっ倒れる。ジェックのレアスキルは他者やものにかける場合一度視認しないと働かない。つまり他者からの攻撃が縁のない状態にするには視界に収めなければならず、アリシアの突撃を食らってしまった。自分自身が攻撃そのものに縁がないとすることもできるが、今その状態とは無縁だろうということでかかっていない。

 ジェックを倒したアリシアはその上にまたがったままふんぞり返って叫んだ。

 

「何ってなにかな!遊びに来てって言ってたのにいつまでたっても来ないし!私寂しかったんだからね!」

「い、忙しかったんだよ」

「そういう人はだいたい暇を持て余してるんですー!」

 

 横暴すぎる、とジェックはつぶやく。実際彼は今まで地球関係のことであれこれしていたり、未だ発見されていないロストロギアを先立って見つけ絶縁することで世界そのものから隔離するなどの危険物処理を行っていた。なので決して忙しくないわけではないのだが、実際に空いている時も来なかったので自業自得である。

 加えてアリシアにとってほぼ初めてに近い友人であり、その友人が自分の存在も忘れたかのような振る舞いは事情を知らないとはいえ、いや知らないゆえに怒りが絶頂に達していた。

 

「貴公の首は神棚に飾るのがお似合いだー!!」

「いたっ、ストップ、ストップ!お願いだから頭を叩くのをやめてくれ!」

 

 半泣きで叩きまくるあたり子供らしいが、それを受けているジェックはたまったものではない。

 

「わかった、わかったから。今度一つだけなんでも言うこと聞くからやめてくれ!」

「むー、約束だからね!でも今は使ってあげない!何かとてつもなく大事なことが出来た時に使っちゃう」

「なんだか恐ろしいお願いをされそうで怖いよ」

「ふふーん、私を放っておいた罰なんだから。ところで……」

 

 すっとアリシアが指差す。

 

「アレは放っておいていいの?」

 

 その先には何度も雷を受けて真っ黒焦げになりながら笑っているジョニーの姿があった。

 

 

 

 

「やれやれ、ひどい目にあった」

「自業自得よ。よく初対面の人間にあそこまでふざけた行動をとれるわね」

「ヒューマンコミュニケーションのコツは尻込みしないことだと覚えているのでね」

「あなたは土足で踏み荒らす類じゃなくて?」

 

 しばらくして落ち着いてから、ひとつのテーブルを囲って腰を下ろした4人。それぞれに出された紅茶を好みの味に調整しながら話しだす。アリシアは溜まりに溜まったジェックへのネタを。ジェックはそれを最近見え始めた感情を顔に出しながら楽しげに聞き、大人二人は言葉のボクシングを交わしている。

 ちなみにその大人であるジョニーはあれだけの大被害を被りながらも、そして未だ真っ黒になったままながら一切ダメージを受けていなかった。

 

「その技術の秘密、気になるわね。AMFではないのかしら。少し気になったので魔法を連発してみたのだけど」

「さらりと君はすごいことをするね。まぁそのときは私もするが」

 

 AMFは知っての通りアンチマジックフィールドの略であり、逆位相の魔力波長によって魔法を無効化する防御フィールドのことである。この魔法が大々的に有名になるのは未来の話だが、この時代でも知っているものは知っている。ただ防御に使う技術と魔力消費が全く割に合わないことからほとんど使い手がいなかった。ジョニーの反応から少なくとも、魔法は通っている。そのためAMFでは無いことはわかっているが、それ以外に検討がつかないプレシアはとりあえず口にした。

 

「ふふ、よくぞ聞いてくれた。これは最近私が開発した傑作でね。攻撃を受けた瞬間に量子的に二人の私が存在し、無傷の自分を観測することによってダメージを無効化するのさ」

「何よそれ。ほとんど無敵じゃない」

 

「ところがそうでもない……実はただの欠陥品でね。なんとこれ、ギャグ時空が発生していないと機能しないのさ」

 

 意味不明とばかりに「は?」と呆けるプレシア。それもそうであろう、科学者がギャグ時空などという意味のわからん理論をぶちまけているのだ。困惑して当然である。

 

「ほら、マンガでもあるだろう?攻撃を受けてもピンピンしているアレさ。その瞬間は大体の場合必ずギャグ、いわばコメディ的な状況が発生している場合が多い。これも同じでね、意図的にギャグ時空を発生させて……というよりギャグ時空を発生させないと無傷な自分を引っ張り出せないのさ。そして、ギャグと認識してもらい他者に観測させることによってようやく自身の状態が確定する。ダメージを食らったビジュアルそのものは残るがね。とはいえ、痛いものは痛い。物理に弱いというのはそういうことさ」

「ふぅん、そういうこと。ならあなたは永遠に無敵なのね」

「おや、もしかして私は存在そのものがギャグ的と認知されてしまったのかい?……くっくっく、面白いね。ちなみに君はどう思うアリシア君」

「え…………いいと思います!」

「君今話聞いてなかったろ」

 

 不意に振られた話に適当に返す。もちろん今の彼女はジェックへ話をするのに夢中で全く聞いていなかった。

 

「ところで、あなたはうちのアリシアと……それとジェックとどういう関係なのかしら」

「彼とはとある同盟関係。そしてアリシア君とは……少しだけ髪の毛を分けてもらったなk―ー

 

「ふんっ!」

 

――ぐぇ!」

 

 容赦なく顔面をブローで撃ちぬかれたジョニーは悶絶した!

 

「よくも騙してくれたわね……そう、あの『子』を生み出したのはあなただったのね」

「くく、あれはただの人形だよ、中身は木偶もいいところさ。もしかして情でも感じたのかい?」

「私を騙しきれるのが人形なわけないでしょうに……。たしかにそれもあるわ。でも」

「……でも?」

「アリシアとそっくりに作ったってことはアリシアの裸を見たことと同じよ。少なくともあなたが変態ということは確定したわね」

「待ちたまえ、それは何か違う。少し落ち着いて紅茶でも……ぐぉ!?」

 

 さらに殴り続けるプレシアに一抹の狂気を感じてしまうジョニー。彼の存在自体がギャグだと認められてしまったためにダメージこそ無いが、ダメージを受けないのなら永遠に殴り続けてもいいわよね、とばかりにドコスカボコられている。グヘ、グハッ!とうめき声が上がっているが誰も気にしない。ちょっとこのプレシア、あの事件以来殊更アリシアに関することは敏感であり、ちょっとでも何かがあるとキレるようになってしまった。まさに過保護なモンペの誕生である。とはいうもののジョニーのやったこともやったことなので全くかばう点が無いが。

 

「……全く。ジェック、あなたもなんて奴と付き合ってるのよ。こんなのと縁持つだなんて、どうかしてるわ」

「と言われても。必要な人材だから仕方ないね。それに彼はあなたにとっても有用だと思うけど」

「そうね。今更ながら気づいたけど、あれほどの技術を持った人間なんて一人しかいないわ。そうでしょう、ジェイル・スカリエッティ」

 

 なんでそれを知っている、と思いつつプレシアの目の向けた先にいる人物こそ、今現在彼女が必要な技術を持っているジョニー……改めジェイル・スカリエッティだった。巷では消えた大天才と知られており、プロジェクトFという題名で出された論文は食用動物の完璧なクローン、または食肉の部分培養として他者の追随を許さないものだ。噂の通り彼の行方は名前だけを残し誰にも知られていなかったが、死んだという事実(ただし偽装)は管理局の裏側にしか知られていないためその事実と直結しない知識のプレシアは彼のことに簡単に気づけた。

 

「くっくっく、バレてしまっては仕方ない。そうとも、私が変なおじさんだ」

「そのとおりだと思うけれど。ふたりとも何か異論はあるかしら?」

「ないよー」「ないね」

「昔から怒鳴られたり頭ごなしに命令をされることはあったが、こういう扱いは初めてだよ」

 

 顔を見た目だけボコボコに腫らしながらショックを受けるスカリエッティ。しかしきっと彼は内心喜んでいるだろう。新しいことは彼にとって興味の対象である。とはいえ字面から見ればただの変態にしか見えない。

 

「まぁ、何にしてもどうせだから技術提供なりなんなり、協力してもらうわ。もちろん、文句はないわよね?あんなことをしでかした罪は重いわよ?」

「くく、構わないとも。しかし何故そこまであれにこだわるのか、理由を聞かせてもらっても?」

 

 質問にプレシアは軽く目を閉じる。浮かんだ表情はわずかに後悔している、というもののよう。

 

「……簡単なことよ。私があの『子』を少しでも、アリシアと同一と見てあの『子』を見てあげてなかったこと。たとえ姿形がそっくりだった作り物とはいえ、あの『子』が血を分けた子供であることは変わりないわ」

「それで産みなおそうというのかい?」

「科学者なりの傲慢だし、私のわがままとただの感傷であることは理解しているわ。それでも、よ。あなたはそれを笑うかしら、生命の天才さん?」

「笑うも何も私もまだ学んでいる途中さ。なに、力の限りを尽くさせてもらおう」

 

 立ち上がり握手を交わし合う二人。こうして時代の科学者が手を取り合った。これによってある一人の少女は非常にスムーズに生まれることだろう。元の歴史とは違う、良き母と姉を持った家族となるために。

 

「……なんだかよくわからないけど、まとまってよかったね!」

「そうだね。とはいえこれからが心配だけど。ジェイルがだいたいなにかやらかすんだし……」

「そういえばジェックは初めてあった時から全然背が伸びないね!」

「……君も大概空気がよめないね」

 

ーー

 

ーーーー

 

ーーーーーー

 

 それから、一年の時が流れる。老衰しリニスが死んだことに泣きに泣いたアリシアを慰めるために使い魔にしたり、時々訪ねてくるジェイルがそのたびに変な騒動を起こして一悶着あったり、なんだかんだあったがプレシアも特に病気になどかかることもなく……無事に一人の少女が誕生した。

 

 ベースとなったのは五歳当時のアリシアの遺伝子であるが、赤い瞳と多大な魔力を持ち、知識の基礎転写のみにとどめた少女はどこかポワポワした天然な娘であった。しかしきっとアリシアならこう言うだろう。違うからいいの!と。それでも幼いころの自分そっくりな姿はまるで双子になったみたい、と喜んでいたが。

 

 そして初めて彼女を見たアリシアはこう告げた。

 

 

 

――こんにちはフェイト!私があなたのお姉さんだよ!

 

 

 

 

 

 

「って感じのことがあった」

「えぇ話やなぁ……えぇ話、……えぇ話なんか?ていうか自分のこと全然話とらんやん自分!」

「はやてー、なんかデジャヴを感じるぞー」

 

 おい!とツッコミを入れる似非関西人、もとい八神はやて。視点は戻って現代、アメリカの基地にてジェックの話を聞く大家族に移る。実際彼が話したことといえばテスタロッサ家族のことと、それ以外は終始ロストロギア集めに奔走していたことくらいで大した情報が無かった。ヴィータは他に言うことはないのか、と呆れていた。

 

 聞いている間に食事も終わり、しかしそれだけ長い時間使ったにもかかわらずこれだけとは。あいも変わらず秘密主義やなと、はやては嘆く。というより彼の本質が口下手なのに起因しているものあるのだろう。重要な部分しか抜き出して話さないからこういうことになる。良くも悪くも彼は事務的なのだ。

 

「ふむ、貴様のやっていたことはわかった。その活動の積み重ねが今の我々の状況を生み出しているのだろう。平和な世界において、既に闇の書、いや夜天の書を直すための方策まで整えられている。本来ならリンカーコアを抜き出しお尋ね者にでもされかねない、されているかもしれない我らを、助けようというのだからな。騎士として言うのは筋違いかもしれないが、これを幸せと言わずなんというのだろうな……。

 しかし私が言うのもなんだが、貴様は今それで幸せを感じているか?」

 

 同じ魔導生命体であるシグナムが問う。いわば魔導生命体とはひとつの目的に向かって動くよう作られたプログラムだ。人であるからこそ同じように考え、感じることもできるが、その奥底にある命令に従順であることだけは変えられない。ジェックはさて、どうだろうね。とだけ答えた。

 生まれてからそれなりに時間はたったが、未だ彼は少年であり、知識もあるが確かな答えは出せていなかった。生みの親である高町なのはのゴチャゴチャした思いから生まれた彼は、ある意味命令を無視しており魔導生命体としては欠陥品そのものであるが、またある意味では多様に考える『人間』でもある。

 だからこそ、この命令を完遂したとしてもそのようにただしく幸せを感じれるかどうかは疑問であった。そればかりはなってみないとわからない。

 

「まぁ、それはあとの楽しみにしておこうじゃないか。それより、もう数日したら君たちにはちょっとしたサプライズがある」

「お、なんやスカさん。生半可なもんやったら私はおどろかへんよ?」

 

 とは言いながらどこか期待に満ちた目のはやて。大体彼のやることはトラブルも多いが、それゆえに面白いことも多いのだ。乗じてはやてが悪乗りすることで更にカオス度が増し、騎士たちが慌てて取り押さえるかアリアに叩き潰されるかどちらかで殆どの場合終わりを見るのだが。案の定、それを聞いたアリアはげんなりとした雰囲気でため息を吐いていた。

 

「ふふ、それはだね――……

 

 

 

 

 

 

 時はマギテクススポーツのエキシビジョンが始まる、更に前。7月終盤あたりまで遡る。場所は日本、海鳴市にある高町邸。

夏の陽気に照らされながら、大会に備えフェイトに負けじと特訓し流した汗が輝くなのはの姿があった。っふ、っふと呼吸を整えながら振り続ける木刀は次第に早くなり、ぶわわっと高周波のような音を立てながら徐々に見えなくなる。お前本当に小学生か!とツッコミを入れたいが、そこはくさっても戦闘一家高町に生まれてしまったためなんの違和感もない。町中を暴走するかのごとく走る姿も、曲芸じみた剣技ももはや周囲の人々にとっては馴染みのものである。実際剣技はかなり恐ろしい腕前に昇華しているのだが、使う少女がかわいらしいこともあってあまり恐怖感を抱いている人はいない。

 

 剣を幾度か振り切ったあと、ふはっと彼女は深呼吸した。どうやら集中力に重点するために無呼吸で振るっていたらしい。その後、ゆっくりと呼吸を整えながら「今日の訓練おーわり!」と道場を後にする。もちろん掃除も忘れなく。

 今日は家族全員が出払っていたため、訓練は軽く済ませる程度にしておいた。恭也や美由希はそれぞれの用事で、ユーノは大会の調整、両親は翠屋とそれぞれに都合があった。まるで昔のような状態だが、今のなのはに全く寂しさはない。あの時以来、皆それぞれなのはとともに様々な絆を築いてきた。それを信じられるからこそ、こうして帰りを待つことができるのである。なのはの心はいまや陽だまりのようにおだやかだった。

 

 汗を流しリビングに戻ったところで、タイミングを図ったかのように電話が鳴った。まだ電話口にも出てないのに「はーい!」と言いながら受話器を取る。耳にしたのは知らない男の声だ。

 

『こんにちは。その声はなのはちゃんだね?』

「え、えと、どなたでしょうか?」

『おっと、すまない。私は三雲連次だ、よくお父さんの世話になっている、ね』

「三雲……え!もしかして首相さんですか!?」

 

 電話の相手はハッハッハ、そのとおりとのんきに笑っている。対するなのははガッチガチに緊張した。いくら父と知り合いとはいえ、そんな雲の上のような人と会話する機会が、それも普通の電話であるとは思いもよらなかった。ちなみに見る人にとってはなのは自身もそうだということは気づいていない。

 

「そ、そそそそそれでどうしたんでしょうか?お、お父さんは今仕事中ですけど」

『はは、そんなに畏まらなくても構わんよ。何、私が君と少し話したかっただけだ』

「……私と、ですか?」

 

 うむ、と三雲は肯定する。

 

『士郎くんには既に伝えてあるのだが、やはりこれは君に直接伝えるのが筋だと思って電話させてもらったのだよ』

「な、なんでしょう?」

 

 ちょっとだけ彼が何を言い出すのかドキドキして待つ。首相がたった一人の少女に放つ言葉。それは何かきっと重いものを持つのかもしれないと。

 

『大会が終わった後の8月終盤なのだが、

 

 

――アメリカに、行かないかい?』

 

「…………ふぇ?」

 

『というか、もう確定してるんだけどねアメリカ行き。まぁそういうことなので、準備しておいてくれ。詳しくは士郎くんにお願いしてるからねぇ。ではまた!』

 

 ボーゼンとしている間にプツンと切られる電話に、なのはは何も返すことが出来なかった。

 

「え、えぇぇぇぇぇ!?」

 

 どうなってるのー!?と大慌てする。しかし、当然ながらそこに答えをくれるものは誰もいなかった。

 

 

 ――行き先は映画の聖地、ハリウッド。

 

 

 

 

 

※入りきらなかった小ネタ※

 

「ところで、プロジェクトFのFって何の略かしら?」

「…………フェイトさ」

「フェイト、ね。次女の名前はそれでいこうかしら」

「ずいぶん安直だね。さすがの私もびっくりだよ」

「そうかしら?ある意味運命的だと思うのだけれど」

(どうするか……皮肉を込めてファットマンだとつけていたことは言わないほうがいいのだろうね)

 

 

 

「ふむ、つまるところこれは私とプレシア君二人の共同作業ということか。

 ……プレシア君、――私と子作りしないか痛い!」

「いっぺん死ねばいいと思うわ」

 




※ギャグ時空による無効化=ドリルミルキィファント(ry

※実は61年あたりに使い魔精製禁止の法律ができてるらしいのでリニスは本作ではわりとギリギリ、もしくはアウトである。

 どんな時でもギャグ化してくれるスカさん万能説。リハビリに近い形で文章を綴ったのでなんだかドマイナーなネタばっかり仕込んでしまったが後悔はしない。夜中のテンションで書いたのでどこか文章のつながり(主にキャラ同士の会話中における疑問やら気づいたことやら)がスッポ抜けてる可能性があるのでなんか変かな、と思った方はご連絡を。

あとやっぱり時間なくて改訂部分は後回しでまずは先行します。次回がいつになるかわからないのが申し訳ない。いい加減はよStSいけやと思ってる方もいるでしょうからまきまきではいきますけど。

次回は最後のお楽しみを一旦置いて現在の管理局の状態をやるかもしれません。

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