二日連続投稿出来ました。
あと、タイトルをプログレッシブからパクってしまいました。
…………まあ、いいか!
「ふ……ふざっ、ふざけんなよ!」
そんな声が聞こえてきたので、僕とキリトは足を止め、声の主を見るべく発生源方向を見やった。
「も、戻せ!元に戻せよ!プラス4だったんだぞ……そこまで戻せよッ!」
再度叫び声。
場所はアインクラッド第二層主街区『ウルバス』。
僕らはエクストラスキル「体術」を獲得すべく、あるクエストをこなして、山下りをして来たところなのだ。
山を反対方向へ下れば二つ目の村『マロメ』にショートカットで到達出来たのだが、僕らがわざわざ『ウルバス』に逆戻りした理由は他にある。
それは、アイテムの補充と装備のメンテだ。
『マロメ』にも道具屋はあるのだが、キリトによると品揃えが悪いらしい。しかも、『マロメ』にはNPC鍛冶屋がいないのだそうだ。
ちなみに、優子から送られてきたメッセージによると、ユウ達は現在の拠点をもう『マロメ』に移しているのだそうだ。
そんな考え事をしていると、キリトは糾弾の現場を見るため人混みの中に消えてしまっていたので、僕もその後を追った。
「どっ、ど、どうしてくれんだよ!プロパティむちゃくちゃ下がってるじゃねえかよ!」
顔面を熟れた林檎のような色にしながら、男は再度喚いた。
「あいつ……」
「え?キリト、あの人知ってるの?」
ということは、最前線のプレイヤーなのだろうか。僕にはどうも見覚えが無かった。
「いや、第一層の攻略には参加して無かったと思うけど、最前線近くのプレイヤーではあると思う。結構いい装備着けてるし」
そう言われると確かに、あの金属防具はスピード重視型の僕とは比べものにならない防御力だろう。しかも、三本の角が生えたヘルメットまで被っている。
「なんだよ四連続失敗って!プラスゼロになるとか有り得ねーだろ、これならNPCにやらせた方がマシじゃねーか!責任取れよクソ鍛冶屋!」
ここでようやく、僕は状況を悟った。あの鍛冶屋が武器の強化を失敗してしまったのだ。
SAOの武器強化の過程を説明すると、まず強化パラメータは『鋭さ』『速さ』『正確さ』『重さ』『丈夫さ』の五つが設定されており、鍛冶屋に強化素材アイテムとコルを支払うことで任意のパラメータを上昇させることができる。
ちなみに僕の片手剣は鋭さと速さに+2ずつ振っていた。今は使ってないけど……。
また、当然鍛冶屋の熟練度で成功の確率は変化する。いま問題となっている鍛冶屋は生産スキル用の『アイアン・ハンマー』を装備している。街のNPC鍛冶屋が装備しているのは『ブロンズ・ハンマー』で、必要熟練度は『アイアン・ハンマー』の方が高いので、あの鍛冶屋はNPC鍛冶屋より強化成功確率は高いはずなのだ。
だからこそ、あの男も剣を託したのだろうが、その結果がコレだと少し同情してしまう。
「……何なの、この騒ぎ」
その声が聞こえてきたのは、僕の右隣りのキリトのさらに右隣り。
凛とした、だけども何処か可愛さの残るソプラノを響かせたのは、僕らには馴染みの細剣使い、アスナだった。
「それがどうやらあの金属鎧君が剣の強化を……」
それ以上キリトの言葉は続かなかった。いや、意図的に止めたのだ。
キリトは今、低レベルなレザー装備を羽織り、頭に黄と水色のバンダナを巻くという妙な変装をしている。
圏内に入る直前に着替え出したときは、思わず笑ってしまったが、そんな変装でも一瞬で見抜かれるのはキリトのプライドが許さなかったのだろう。
「……あ、その、えっと……以前どこかでお会いしました?」
僕が、さすがに苦し過ぎるだろ……という呆れ半分、苦笑半分の顔をキリトに向けているのに対して、アスナ先生は絶対零度の眼をキリトに向けていた。
「お会いしたどころか、一緒に食事したりパーティ組んだりしたと思いますけど」
「…………あ、思い出した。今思い出した。俺の部屋でお風呂貸したことも思い出し」
言いかけたキリトの足に細剣使いのブーツが刺さった。
あーあ、そんな臭い演技するから……お風呂?
「キリトオォッ!キサマアァーーッ!」
「え?……あっ!」
今更失言に気付いたのか。だが、もう遅い!
「待て!やましいことは何もしてない!単純に風呂貸しただけだ!」
「本当、アスナ?」
「っ!……そ、そんなことしてるわけないじゃない!」
よかった〜。PKしなくて済みそうだ。
すると、キリトは僕らの服の裾を引っ張り、路地に入るよう指示した。
「や……やあ、アスナ。久しぶり」
「こんにちは、キリト君、ライト君」
なるほど、他の人に名前を聞かれるのが嫌だったから路地に入ったのか。
名前といえば、少し引っかかることがあったので、アスナに言ってみた。
「別にアバターの名前なんだし、君付けしなくてもいいんじゃないかな?」
「ん……いいじゃない、別に。わたしの勝手でしょ」
まあ、本人がいいならいいか。
すると、キリトが何か言いたげだったので主役を譲った。
「あの騒ぎは、三本角が剣の強化を鍛冶屋に依頼して、それが四回連続で失敗して数値がプラスゼロまで戻ったっていうんで頭に血が上っちゃったらしい。まあ……気持ちは解るけどなあ……四連続失敗じゃあなあ」
そういえば、それが本題だったっけ。
それを聞いて、細剣使いさんは肩竦めて、言った。
「失敗の可能性があることは頼む方も承知してるはずでしょ。あの鍛冶屋さん、お店に武器の種類ごとの強化成功率一覧を貼り出してるじゃない。しかも、失敗した時は強化用素材アイテムぶんの実費だけで手数料は取らないって話よ」
「え、ほんと?そりゃ良心的だな……」
「それでも、アレを見た後だとあそこで強化しようとは思わないけどね」
というか、あれだけ失敗して手数料取らなかったら赤字にならないんだろうか、と考えてすぐに思い直す。そもそも電気も何も使ってないから赤字になるわけないんだ。
「……たぶん、最初に一回失敗して、頭に血が上ってそのままもう一度、もう一度って強化依頼しちゃったんだろうな。アツくなるとドツボにはまるのは、どんなギャンブルも一緒だよなあ……」
「いやいや、わかってないな、キリト。レイズは吊り上げるのが楽しいんじゃないか」
「妙に実感のこもったコメントね」
「い、いえ、単なる一般論ですけど」
何かキリトが苦い顔してるな。ギャンブル関係で何かあったんだろうか。まあ、そっとしとこう。
アスナはそんなキリトを疑わしい目で見た後、脱線した会話を元のレールに乗せるべく言った。
「……まあ、わたしも可哀想だと思わなくもないけど、でもあんなに興奮しなくても……また素材ぶんのお金貯めて、再挑戦すればいいじゃないの」
「ん……いや、ところがそうはいかないんだよな」
「どういうこと?」
そのアスナの疑問はキリトから僕に引き継ぐことにして、僕は言った。
「『強化試行上限数』って知ってる?」
「ああ、なるほど……。あの人が持ってるのはアニールブレードよね。あれは確か……」
そのアスナの思考にキリトが先んじて言った。
「八回。つまり、四回の成功と四回の失敗で使い切っちやったんだ。あの剣はもう、二度と強化を試すことはできない」
SAOの強化システムには、『強化試行上限数』なるものが設定されている。その数量は武器の種類によって変化しする。例えば、初期装備のスモールソードならたったの一回だ。
そして、あの男の場合はアニールブレードに設定されている数である八回を使い切り、尚且つ最初と何ら変わっていないという悲劇が起きてしまっているのだ。
「…………なるほどね。それはまあ……確かに、荒れる気持ちも少しは解るわ。ほんの少し」
アスナの意見が少し同情に傾きかけたところで、男の絶叫が止まった。
どうやら、彼の仲間が二人来て必死になだめているようだ。
「……ほら、大丈夫だってリィフィオール。また今日からアニブレのクエ手伝ってやるから」
「一週間頑張りゃ取れるんだからさ、今度こそ+8にしようぜ」
うーむ。好い人達だなあ。ていうか、三人がかりで一週間もかかるのか。なんなら素手の方が気楽でいいかもしれない。
そういえば、キリトの剣もアニールブレードだよなあと思ってキリトの方を見やると、ほっと胸を撫で下ろしていた。
こいつ、たぶん一日ぐらいで取ったんだろうな。まあ、それもベータテスターの特権か。
そして、リィフィオールが肩を落として広場から出て行こうとするのに、罵倒を浴びせられ続けていた鍛冶屋が声をかけた。
「あの……ほんとに、すいませんでした。次は、ほんとに、ほんとに頑張りますんで……あ、もう、ウチに依頼するのはお嫌かもですけど……」
リィフィオールは鍛冶屋の方に向き直り、聞いてるこっちがいたたまれなくなるような声で言った。
「…………アンタのせいじゃねーよ。色々言いまくって、悪かったな」
「いえ……それも、僕の仕事の内ですから……」
うーん、リィフィオール可哀想!
「あの、こんなことじゃお詫びにならないと思うんですが……その、ウチの不手際で+0エンドにしちゃったアニールブレード、もしよかったらですけど、八千コルで買い取らせてもらえないかと……」
これを聞いて、観衆がざわめく。
アニールブレードの試行回数を使い切ったエンド品の相場はだいたい四千コルぐらい。八千コルというのは、相当に破格の申し出なのだ。
リィフィオールとその仲間達は顔を見合わせ、しばし呆然としていたが、やがて、当然のことながらその申し出に頷いた。
とりあえず、タイトルにはⅠと付けておきましたが、さて、何話構成になっちゃうんでしょう?
ちなみに今回出せなかった優子さん達の行動は次回やる予定です!