僕とキリトとSAO   作:MUUK

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もうちょっと早く投稿出来るかと思ったんですが、中々難しいもんですね。
というか、今気づきました。四千文字ずつの投稿は、伏線の張り方が難しいです。



第五十四話「音声記録」

木洩れ陽が、瞼に差し込み目が覚めた。

光の加減とか、ホント上手く作り込んであるよな、このゲームは。と、改めて感嘆してしまう。

半端に二度寝をした所為か、妙に気怠い。

ベットから腰を上げて、台所への扉に手を掛ける。

軽く既視感(デジャヴ)

いや実際、深夜に見た光景なのだから、デジャヴもクソも無いのだが。

開帳するとすぐ、赤味噌の風味が鼻腔を擽った。

アスナかアレックスが朝ご飯を作ってくれているのだろう、と思いながらキッチンを見やった。

ところが、そこに立っていたのは、栗色の髪をしたレイピア使いでも、漆黒の髪をしたメイス使いでもなく……

 

「……優子?何してんのさ?」

「うっひゃああぁぁあーーっ!?

お、驚かさないでよ!」

 

背後から声を掛けると、優子は耳を(つんざ)く金切り声の悲鳴を上げた。

 

「え……別に、驚かすつもりは無かったんだけど?」

「嘘よ、嘘!絶対嘘!だって足音聞こえなかったもん!」

 

ブンブンと首を振って、僕の言葉を否定する優子。溢れ出る殺気にさえ目をつぶれば、中々可愛い動作だろう。

しかし、音が聞こえなかったというのは、単純に優子が聞き逃しただけなんじゃないだろうか。

 

 

「それって、優子の注意力が無かっただけじゃ……」

「何?アタシの所為にするって訳?」

「いや、別にそういうわけじゃないんだけど……」

「いいわ。なら、こっちにも考えがあるんだから。いつか、もんどりうつほどビックリさせてやるから精々覚悟してなさい!」

 

もう既に殺気だけで戦々恐々としてる僕に、これ以上ダメ押しする気なのだろうか、優子は。

『ビックリさせる』という内容に対して命の危険を感じながら、僕は優子に問いかけた。

 

「ところで、何で優子が料理してるの?」

「何でって、悪い?」

 

剣呑な目つきで、僕の心臓を握り潰さんとする優子。この質問は地雷だったろうか?

愛想笑いを浮かべながら、当たり障りの無さそうな言葉を取捨選択して言った。

 

「ええっと……優子がご飯を作るなんて、珍しいなぁって思って、ね?」

「いいでしょ、そのくらい!もう、向こう行っててよ!」

 

そう言って、優子は僕をキッチンから押し出した。

逆らっても良いことは無さそうなので、大人しく味噌汁が出来上がるのを居間で座って待つ。

 

「……誤算だったわ。こんなに早く見つかるなんて。驚かそうと思ってたのに……」

 

優子が何かブツブツと言った気がするが、高菜らしき物を炒る音で聞こえなかった。

ジュワジュワと、食指を強制的に動かす音に期待で胸を膨らませる。すると誰かが、階段を下る木音が僕の耳朶を打った。

振り返ると、そこに居たのは色付いたショートボブを寝癖で固めた、目つきの悪いソードマンだった。

 

「おはよう、ボルト」

「ああ、おはようライト。それに優子も」

 

ボルトの挨拶に、優子は小さく頷くだけだった。だが、この二人の折り合いが悪いのはいつもの事なので、触れずに受け流す。

だがそれでも、少し空気が重たくなったのには違いないので、和ませる為に、ボルトに軽い質問をした。

 

「ところで、昨日の夜居なかったみたいだけど、どこ行ってたの?」

 

このギルド、サーヴァンツの方針は、ボス戦以外の行動は基本的に自由。故に、誰が何処でどんな行動をしていようと全くお咎めは無い。

けれど、ボルトは基本的に夕食時には帰って来る人なので、少し気になったのだ。

 

「ん……昨日は普通に狩りをしてたな。没頭してたら思ったより時間を食っちまって、レベルアップしてキリが良かったんで帰ってきたんだ」

「ふうん。何時くらいに?」

「ギルドホームに着いたのは、五時くらいだったかな?」

 

となると、ボルトは二時間しか寝ていない訳だ。

得心いった。それならクマの一つもできるだろう。

 

「ああ、なるほど。それで寝不足気味なんだ」

「うえ、そんなに眠そうか、俺?」

 

どうやらボルトには自覚が無かったらしく、たじろぐような苦笑するような微妙な表情を浮かべた。

 

「うん、結構ね。だってクマ出来てるよ」

 

そう指摘すると、ボルトは照れ臭そうに頬を掻いた。

 

「まいったな……。もう一回寝ようか」

「うん。その方が良いと思うよ」

 

ボルトは、僕の意見に小さく首肯した。そうして、後ろ向きにキザったらしく手を振ると、階段を徐に登って行った。

すると即座に、僕の眼前に漆器のお椀が置かれた。

 

「やっと出てったわね、あの根暗野郎」

 

さらっと暴言を吐く優子。

あまりにもあんまりなので、咄嗟にボルトの擁護をしてしまう。

 

「あの……優子?最近、ちょっとボルトに当たり強くない?」

「今更なに言ってんのよ。元からよ、元から。大体、いけ好かないのよね、アイツ。SAO(ここ)に入る前からね」

 

いや、そりゃまあ僕だって、ボルト及び根本はあんまり好きなタイプじゃないけど。

同じ屋根の下で暮らす仲間なのだから、関係は良好であるに越したことは無いだろう。

ギルドの信頼関係を案じていると、心配の種がどんどんと料理を運んできた。

そうして出来上がったのは、鮭に鱈子、高菜に味噌汁、とろろに納豆、トドメとばかりに雑穀米まで付いた純和風の食卓だった。

アインクラッド内では望むべくもないと思われた食事内容に、素直に感嘆の声を上げてしまう。

 

「うわあ、凄いね!鱈子とか納豆って、どうやって再現したの?」

「鱈子は、『カルパクアブ』っていうモンスターの卵を、色々な味で漬け込んだの。

納豆は、NPCショップで買ってきた『パルビーンズ』をベースにしたわ」

 

えっへん、とでも聴こえてきそうなほど鼻を高くして、優子は嬉しそうに説明してみせた。

よほど自分の努力が形になった事が誇らしいのだろう。

ところでカルパクアブと言えば、蛆虫を巨大化させたようなゲテモノMobだ。

となると、これは蛆虫の卵と云うことに……。

いや、さすがにこの想像は、作ってくれた優子に失礼極まりない。

それよりここは、アレから鱈子が作れると思い至った優子の創造力を賞賛すべきだろう。

 

「その製法って、優子が考案したの?」

「あ、いや、殆どアレックスとアスナとティアが味の解析をしたから、アタシはそんなに……」

 

優子は、しおらしく自分の功績を否定した。

だが、本当に何もしてないなんて事は優子に限ってあり得ないだろう。

もしそうならば、優子は衒う事などしない。

そうなると、優子は自分の腕に自信が無いのか、はたまた、料理で頑張る事がカッコ悪いと勘違いしているのか。

 

「そんなに謙遜しなくても。優子もきっと頑張ってくれたんだよね。ありがとう」

「な、何言ってんのよ!別にアンタの為じゃ……自分で言うのもなんだけど、テンプレ過ぎるわね、コレ……」

 

テンプレって何の事だろう。

まさかテンプラと言い間違えたなんて事はないだろうし……などと思っていると、優子の上げた声が僕の思考を中断させた。

 

「ともかく!お礼を言うくらいなら、食べて美味しかったって言いなさい!」

「あはは、それもそうだね。それじゃ、いただきます!」

 

食前の通過儀礼を済ませ、勢いよく手を合わせる。

そして、まずは味噌汁に手を付けた。

カンカンの液体に舌が痺れる。汁が喉を下ってから、鼻に届く味噌の香り。

具材は、大根、人参、玉ねぎと魚のアラだ。野菜達の食感の差が楽しい。

こうなると、このままご飯にかけてねこまんまも一興だろう。が、優子の前なので自重する。

二口目。

今度は魚を摘まんでみた。

味や食感は鯛に似ている。味がしっかりと染みていて、これまた美味しい。

漆器のお椀を木机に置いて、一息ついた。

 

「美味しい?」

 

僕の顔を覗きこみ、上目遣いで優子が訊いた。

瞳には不安と期待が内在し、答えが芳しくなければ今にも泣き出してしまいそうだ。だが、顔全体ではポーカーフェイスを装って、内心を必死に誤魔化している。

くっ……この顔は!美味しくなくても美味しいと言ってしまう魔力が有る!

いやまあ、実際美味しいから気兼ねなく太鼓判を押せるけどね。

 

「うん、美味しいよ。文句無くね」

「ほ、ホントに!?お世辞だったら承知しないわよ!」

 

破顔したり怒鳴ったりと、忙しく表情を変える優子。そうして、僕より男らしく味噌汁をかき込んで、盛大に言い放った。

 

「やったぁーーーっっ!!初めて美味しく作れたわ!」

 

座っていた椅子を吹き飛ばすように立ち上がり、優子は両手で思いっきりガッツポーズした。

途轍もなく感慨深そうな優子の叫び。その無邪気な笑顔には、こちらまでほっこりしてしまう。

だが、優子には僕が箸を止めているように見えたらしく、鱈子を片手ににじり寄るよってきた。

 

「さあ、食べなさい!もっともっと食べなさい!」

「う、うん。分かったから、そんなに急かさないでよ」

 

そう言って鱈子もどきへと箸を伸ばした。

その時。

 

「ただいまー!」

「ただいま帰りましたっ!」

 

元気いっぱいの声と共に玄関を開け放ったのは、我がギルドが誇る美少女剣士二人組だった。

 

「おかえり、二人とも。買い物お疲れ様」

 

僕に先んじて優子が出迎え、それに乗じて、僕は気になることを訊いてみた。

 

「おかえり、アスナ、アレックス。買い物ってどこ行ってたの?」

「二十五層の大朝市だよ」

 

枝垂れる髪をかきあげながら、アスナは質問に答えてくれた。

だがしかし、その返答は新たな疑問を僕に産んだ。

 

「朝市?」

「え──もしかしてライト君、知らない?」

「うん。朝弱いから、そういうイベントには疎くって……」

 

僕が遠慮がちに言うと、アスナががっと身を乗り出した。

 

「勿体無いよ!」

「そ、そんなに?」

「うん!だってあの朝市、ノーブルフォックスが一万円で売ってたりするんだよ。ね?お買い得でしょ?」

 

それは確かにお得だ。

ノーブルフォックスと言えば、大きい物で一頭三万円の値が付く高級食材。

それが、定価の三分の一で売られているのだから、僕だったら即買してしまいかねない。

となると、前から料理してみたかったパルサークラブも……などと、食い意地のはった妄想をしていた、その時。

マスタールームの大扉が、馬車馬に鞭打つが如く押し開かれた。

そこから登場したのは、当然の事ながら、ギルドマスターのユウだ。

ユウは、寝起きにも関わらず顔面蒼白で、三白眼を効かせながらリビングの隅々まで観察している。

急激な空気の変化に不快を覚え、僕は冗談をした。

 

「どうしたのさ、ユウ。怖い夢でも……」

「おい、お前ら!しょ……ティアの姿を見てないか!?」

 

叩きつけるやようなユウの声音は、今が異常事態であると僕に認識させるには充分過ぎた。

全員が気圧されて押し黙り、一人、また一人と首を横に振った。

ユウが奥歯を鳴らした。

 

「クソ。やられた……ソロのところを襲われ……いや、アイツは、昨日誰かとフィールドに……

アスナ……違う。

アレックス……違う。

キリト……いや、アイツは一週間以上帰ってきてない。

秀吉……違う。

ムッツリーニ……違う。同時にリーベも違う。

ライトも俺も当然、なら────ボルトか!」

 

ブツブツと独り言を呟いたあと、ユウは二階に向かって階段を駆け上がった。

ユウが何を言っているのか解らないまま後を追う。

僕が二階に到着した時、ユウはボルトの部屋の前に立って、今まさにノブに手を掛けるところだった。

 

「ボルトは今寝てるから、多分開いてな……」

 

ガチャリ────開いた。

 

扉が響かせる軋みは、蛇の這いずりにも似ていた。

そして、部屋の中には、ベッドに横たわるボルトが────いない。

代わりに置き捨てられていたのは、ヘドロのように濁った緑色をした音声記録結晶だけだった。




今回は、殆ど日常回つて感じでしたね。
日常部分は二千文字に抑えようと思っていたのですが、書いてるうちにいつの間にやら四千文字になつわているという事実。
あな恐ろしや、雰囲気書き。

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