僕とキリトとSAO   作:MUUK

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話進まず、思い出の結晶第五話です。

恐らく、今回から、劇的に進むのではないかと、自分で期待しています。さあ、何処までいけるかな?
進め!進んでくれ!


第三十一話「思い出の結晶ーⅤ」

SAO正式サービス開始から、丸四ヶ月の今日。アインクラッド第十層のボス攻略が開始される。

 

「……リーベ。お前は、本当にボス攻略に参加しないのか?」

「うん。ボクは、レムちゃんとお留守番しておくよ。頑張ってね、ムッツリーニ君」

「ファイトだよ、お兄ちゃん!」

 

そう言われれば、頑張らない道理はない。右拳を強く握り締めた後、レムの頭を優しく撫でてやる。気持ち良さそうに目を細めるレムの写真を撮りたくなる衝動を必死に収め、リーベに顔を寄せて耳打ちする。

 

「……もし何かあれば、相互通信を使え」

「うん。解ってるよ」

 

相互通信とは、探索スキルの派生modで、もし双方がそのスキルを保持していれば、迷宮区内にいてもメッセージを飛ばせるという代物だ。普通なら、あまりに使用可能な環境が限定的すぎて、取得するプレイヤーは殆ど存在しないのだが、使用出来ればその恩恵は大きい。

俺がこのスキルを取ってからは、ボス攻略後、直ぐにアルゴにメッセージを送信出来たので、ボス攻略成功の情報がスムーズに行き渡るようになった。

 

「ムッツリーニ。そろそろだ」

 

ユウからお呼びがかかる。時間だ。

 

「……じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」

「いってらっしゃい!」

 

そうして、俺はギルドホームを後にした。

 

 

じっとりと、睨め付けるような瘴気が、部屋全体を覆う。吸い込まれてしまいそうなほどの漆黒のボス部屋に、紅い光が二つ浮き上がる。鋭い眼光に総毛立つが、それも、今回で十回目だ。『The meternal uroboros』。そんな固有名が赤玉の上に浮かび上がる。

 

「シャアアラアァァアアッ!」

 

そんな、ウロボロスの悲鳴じみた雄叫びが、開戦の合図だった。

広場に松明の灯りが一斉に灯る。それによって見えたボスの全容は、巨大な蛇そのものだった。優に五メートルはあるその巨体は、威圧感だけでプレイヤー達を押しつぶさんとするほどだ。身体中漏れなく夜を思わせる紺色の鱗に包まれており、朱く光る眼と、チロチロと出される舌には、生理的な悪寒を感じずにはいられない。

まず先陣を切ったのは、ライト、ユウ、エギルなどが属するタンクのA・B隊。ライトが、流石のAGI値で一気にボスに詰め寄ると、体術スキル『エンブレイザー』で、ボスのファーストアタックを取った。僅かだが、確実な幅でボスの体力が削られる。

当然、ライトには大技を放った後の技後硬直が課せられているが、事前に判明していた弱点である鼻を突いたことで、ウロボロスも大きくノックバックし、結果、相手が攻撃モーションに入る前に攻撃範囲を離脱した。

直後、母なるウロボロスが天上にも響くような咆哮を上げる。

 

「グルラアァァアアッ!」

 

それを聞きつけたかのように、地中から這い出るような動作で、三体のMobが出現する。事前情報にもあったボスの取り巻き、『ベルセルク・ナーガ』だ。

ボスとは違い、半人半蛇の艇を成しており、全身が分厚い金属装甲に覆われている。得物は、シンプルな片手直剣だ。

今回の取り巻きを担当するのは、この十層からボス攻略に参加したヒースクリフという男が率いる『Knights of Blood』というギルドらしいが、俺は、自分の仕事に専念するのみだ。

俺がキリトと共に配属されたのは、アタッカー部隊のC隊だ。

そのとき、リンドが爽やかな、よく通る声で指示を出した。

 

「A隊!尻尾による横薙ぎの攻撃だ!それが終わったら、硬直中にC隊突撃!」

 

早速出番だ。脚に自然と力が籠る。短刀を構え、ボスの一挙一動に視覚と聴覚を集中させる。

ウロボロスが、極大の尾を地面に擦らせながら、真一文字に薙ぎ払う。硬質の鱗と壁部隊の持つ盾や、大剣とぶつかり合い、甲高い金属音と共に、真紅のライトエフェクトを撒き散らす。タンク部隊全員の体力が、一様に八割近くまで減少する。それを確認した瞬間、C隊が一気に突撃を仕掛ける。

アタッカー部隊の中でも、AGI値の配分が最も多い俺が跳躍し、ウロボロスの鼻先に肉薄する。

 

「はあっ!」

 

短い気合いと同時に放った一撃は、大蛇の鼻を深く抉り、ライトのファーストアタックと合わせて、ボスの一本目の体力ゲージを五分ほどまで減らした。

そして、俺が硬直に突入し、高度を下げると、それを待っていたとでも言うかの如く、刀身に翠色のライトエフェクトを迸らせながら、キリトがボスに突っ込む。

 

「せえぇやああぁぁあっ!」

 

キリトは、そう吼えながらも的確に、ボスの弱点を三連撃の片手直剣スキル『シャープネイル』で切り結んだ。

その一撃で大蛇がノックバックしたため、他のC隊のメンバーは、弱点の鼻に攻撃出来なかったものの、ローテーション一周目で、ボスの五段あるHPゲージの一段目を、三割まで減らせたことは大きいだろう。

いや、違う。これは、ダメージを受けてノックバックしているのでは無い。自ら上体を仰け反らせているのだ。この動作は、メターナル・ウロボロスの唯一の特殊遠距離攻撃、ポイズン・バレットだ。

俺がそう認識したより刹那だけ遅く、リンドの指示が飛んだ。

 

「毒ブレスだ!総員、横に退避!」

 

その言葉がいい終わらない内に、毒の咆哮が俺達を襲った。

しかし、リンドの指示が的確だったこともあってか、実際に毒の被害を受けたのは、十数人に留まった。まあ、俺はその、十数人の内の一人なのだが。

毒は、麻痺などと違い、行動阻害効果が発生しないため、比較的対応が簡単なデバフだ。だが、これまた麻痺などと違い、死に直結するデバフでもある。基本的にSAOの毒は自然回復しない。解毒ポーションを飲めば数十秒後には回復するのだが、その数十秒で喰らうダメージも、毒の強さによって様々だ。

例えば、今回の毒の場合、一秒につき十ダメージ。俺なら、五分間回復しなければ死亡する計算だ。

そんな死に方だけはしたく無いので、とりあえず解毒ポーションを一気に呷る。苦味と酸味と魚臭さが配合された、何とも形容し難いフレーバーが口いっぱいに広がる。

セオリーとして、毒のバッドステータスが回復していないものは、動けるとしても後方で待機だ。あとこのぐらい大丈夫、なんて油断して、いつの間にか命を落とす、なんてこともよくある話で、俺も当然、常道に従い壁際まで寄って、自らの体力の下に表示された、紫色の泡を睨みつける。

前線では、早々に雑魚Mobを倒した血盟騎士団も絡めてのアタックローテーションが行われている。

そうして毒の回復を待つ俺に、とある人影が近付いてきた。

 

「やあ、ムッツリーニ。君も回復中?」

「……なんだ、ライトか……」

「なんだとはなんだよ!」

「……お前は、前線を離れていいのか?」

「うん。今はB隊が壁で、僕らA隊は、POTローテ中だからね」

 

そんな会話を繰り広げている内に、俺の体力ゲージから紫色のデバフアイコンが消えていることに気がついた。

そう解れば前線復帰だ。脚に気合いを入れ直し、弛緩させていた身体を引き締める。

そんな俺の様子に気付き、ライトは俺に声をかけた。

 

「あ!もう回復は済んだの?」

「……ああ、行ってくる」

「うん。行ってらっしゃい」

 

その掛け合いは、どうにも今朝のリーベとレムとの会話を思い出させ、俺の心に不安の種を振りまいた。

 

 

戦闘開始から、三十分が経過した頃、リンドの声が、俺達の士気を上限まで引き上げた。

 

「ゲージ、残り一本!こっから、ボスの攻撃パターンが変化するから気をつけろ!」

『うおおおおおおおっ!』

 

全員の鬨の声が、母なる大蛇の玉座を揺らした。

ここからのボスは、毒ブレスをやめ、毒液を鱗に纏わせて攻撃するようになる。ウロボロスの身体全体から毒液が染み出している状態になるため、攻撃しても防御しても毒を食らってしまう、というとても厄介なことになる。

それを解除するためには、鼻にピンポイントで攻撃し続けなければならないのだが、そうすると、鼻の攻撃役は、常に毒の脅威に晒され続けることになるのだ。

しかし、直接触れずに攻撃出来る遠距離武器使いがいるならば、その問題は全て解決する。そして現在、攻略組には、たった一人だけ、遠距離武器をメインアームとして使用しているプレイヤーがいる。

 

「せぇやあ!」

 

最早、堂に入った気合いと共に、元鍛冶屋の少年、ネズハの投擲したチャクラムか、流星の如き起動をボス部屋の上空で描きながら、ウロボロスの鼻へと到達し、その肉を裂いた。

瞬間、大蛇は大きくノックバックし、全身を覆っていた紫色の粘液も、いつしか消え失せていた。

 

「全員、フルアタック!」

 

C隊メンバーに、キリトの指示が飛ぶ。俺もその指示に倣い、渾身の『ファッドエッジ』をボスの腹にお見舞いする。

そして、キリト自身も最大級の大技を発動させた。

燃え盛るように色づいた刀身が、大蛇の腹を深々と切り裂く。片手直剣の技のはずなのだが、一撃のインパクトを見る限りでば、キリトの筋力ステータスもあいまって、両手剣のような風格を醸し出している。

しかし、攻撃はそこでとどまらなかった。今度は、キリトの身体全体が黄金色に光出す。そのまま、ウロボロスの腹へと、激しいライトエフェクトを放出しながら、体術スキルによる最大威力のタックルをくりだす。

更に連撃は続く。その直剣を、再度紅蓮に燃え上がらせ、大蛇の腹を数メートルほど切り上げた。

つまりキリトは、大技と大技の間を、硬直状態でも自動発動することが出来るタックルで繋ぎ、超火力を演出してみせたのだ。敵が動かないことが前提の技ではあるが、決まればその攻撃力は凄まじい。

見れば、残り三割を残していた体力ゲージは、グングンと減少し、遂には霧散した。

 

コングラチュレーションという決まり文句が映し出され、それと同じくして、獲得コル、経験値、アイテムが表示される。それらを素早く確認した後、俺は、リーベからの着信があるかどうかを確認した。普段ならば、眼前に通知窓が現れるのだが、戦闘中だと、視野を阻害しないために、どれほどの重要案件であっても、ポップアップしないのだ。

俺は、受信がない事、もしくは、無事であることの報告を期待しながら、受信メッセージ一覧のタグを押した。果たして……

 

『たす』

 

たった二文字の、その簡素な文面を見た瞬間、俺はボス部屋から飛び出していた。




日常シーンを書くと、筆が遅々として進まないのに、戦闘シーンは、一時間足らずで書き上がる自分の好き嫌いを理解して、涙が出そうになりました。

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