思えば、初投稿の頃、百越えれば上等だろうな、とか考えておりましたゆえ、三倍なんて自体に直面した今、ありがた過ぎて、むしろ恐怖しているレベルです。
感想、評価、お気に入りが全て、書く上での原動力となっております。批判も展開予想もリクエストも大歓迎です。当然、普通に感想を下さるのも。
そんな初心を忘れずに、これからも投稿していく所存であります!
燃え盛るような橙の陽が、アインクラッド第十層の淵に差し掛かっている。樹木は一つの画板となり、毒々しかった沼までも、純度の高い緋色をつけている。
そんな沼地から帰宅するべく、少し長くなった、でこぼこの影が三つ。手を繋ぎ歩くボク達は、僅かばかりのささやかな幸せを感じながら、ゆったりと歩を進める。
「今日だけで、全部取れたね!」
心底嬉しそうに声を上げるレムちゃんも、髪に花飾りと同じ赤が差し、いっそ神々しささえも感じてしまうような、鮮烈な色を放っている。
そんな彼女に、数刻の間見惚れた後、少し気になったことを聞いてみる。
「そういえば、最初はレムちゃん敬語キャラだったのに、いつの間に敬語辞めちゃったのかな?」
「お姉ちゃんが、わたしにセクハラした辺りからだと思うけど?」
「さ、さて!もう暗くなっちゃうし、早いとこギルドホームに帰ろうか!」
「あ!露骨に話を逸らさないでよね!」
危ない危ない。自分の撒いた地雷を踏んでしまうところだった。いや、もう踏んだな。
多分、お菓子で釣りは、スルメの所為でもう二度と使えないだろうし……どうしようかな……。
「肩車しながら帰ろうか?」
「やったあ!肩車!肩車!」
チョロい。子供は大抵、肩車好きだ。 リーベは悪いお姉ちゃんなのである。しかし、やっぱりレムちゃんは子供だ。敬語キャラも、ビッチキャラも、所詮は背伸びしたおませだったということだろうか。
しっかし、夕陽を背景に姉妹(仮)で肩車で帰るとか、自分で言うのもなんだが、すごく絵になると思う。出来れば記念撮影して残しておきたいぐらいだ。ん?出来るじゃん、記念撮影。
「ねえねえ、ムッツリーニ君。写真一枚、パシャっと撮っちゃってくれないかな?」
「……百コル」
「お金取るの!?」
「……冗談だ」
いや、さっきのテンションは確実に冗談じゃなかった。まあいいや。細かいことは気にしないでおこう。
その後、急にピタッと止まり、ムッツリーニ君は、ゴソゴソと腰のアイテムポーチから映像記録結晶を取り出した。きっと、アイテムストレージではなく、いつでも直ぐに取り出せる場所に入れてある辺りがミソなのだろう。もしかすると、道中でも何枚か撮られているのかもしれない。ボク然り、レムちゃん然り。ムッツリーニ君のプロ精神が垣間見えた瞬間だった。
叶うならレムちゃんは撮って欲しく無いのだが、きっと色んな趣味のお客さんがいるのだろう。もう文句は言うまい。
スカイブルーに輝くクリスタルを此方に向けながら、ムッツリーニは、聞こえるか聞こえないかぐらいの音量で言った。
「……はい、チーズ」
それを聞き、満面の笑みとブイサインを作る。
そういえば、レムちゃんはチーズが解るのだろうか、という疑問が浮かんだが、目線を少し上に向けると、その心配は唯の憂慮だと記されていた。
中指と人差し指の小さな谷が、レムちゃんの顔の直ぐ横に出来上がっていた。その笑顔は、真ん前を向いているせいで、写真が現像されるまでは拝めないだろうが、きっと天使のような微笑みに違いない。
パシャリ、というシャッター音は、残念ながら響かなかったが、代わりに、チャリンという甲高い音に伴い、長方形の紙が、カメラマンの手にオブジェクト化された。
「あっ!一瞬で出来ちゃうんだね。見せて見せて!」
「わたしも見たい!」
ムッツリーニ君が写真を持つ位置に目線が届かず、ぴょんぴょんと跳躍するレムちゃん。そんなレムちゃんにも見えるよう、ムッツリーニ君が写真の持ち手を下げたので、ボクも中腰になって覗きこむ。
「うわあ!良く撮れてるね!ていうか、夕陽が背景なのに、シャッター無しで逆光にならないとか、もう摩訶不思議なレベルだよ!」
「……沼の水面をミラー替わりにした」
「何その高等技術!?」
しかも、細かい場所の指定をせずにやってのけたのだ。もう神掛かっているとしか言いようがない。
おそらく、パーソナルスペースまで計算した上で足を止め、ボクとレムちゃんを完璧な位置につかせたのだろう。戦慄を通り越して、尊敬の念すら抱いてしまう手際の良さだ。
そんな折、レムちゃんが、小さく可愛らしい指で、結晶を指差して言った
「わたしもそれ持ってるよ!」
そして、レムちゃんがポケットから取り出したものは、まさしく映像記録結晶だった。
そこまで驚愕するほどの自体ではないが、何故そんなものを持っているのだろうという疑問は拭えない。
しかし、そんなボクの心情などお構いなしに、レムちゃんは次々とクリスタルを引き出していく。その数、三つ。
「どうして、そんなにいっぱい持ってるの?」
「おばあちゃんがくれたの。大事な人との思い出を残しなさい、って」
「そっか……。いいおばあちゃんだね」
「うん!見せてあげよっか?」
そう言って、レムちゃんは、ボクから見て一番右にあった結晶のスイッチを押した。
細かな色彩の光が、続々と空気中に投影されていく。そして、透明なスクリーンに平面の映像が出来上がった。
それは、暖かかった。孫を慈しむ祖母。おばあちゃんを慕う少女。それは、思わず微笑んでしまうほど優しく、暖色を思わせる様相が、その空間には満たされていた。
しばらくは、その映像に魅入っていたが、そこである疑問が浮上し、口をついて出た。
「そういえば、お母さんとお父さんは?」
瞬間、レムちゃんの顔を見て、それが失言だと気付いた。しかし、気付いたときにはもう遅い。
声を押し殺しながら、レムちゃんは言った。
「知らない……」
「え!それって……」
どういうこと、そんな言葉が、閉じられた口中を彷徨う。
だが、踏み入ってはいけない領域だと思ったそれを、レムちゃんはいとも簡単に説明した。
「本当に、何も知らないんだよ。物心ついた時には、って奴だね。きっと、この人達の誰かだと思うんだけど……」
言いながら、レムちゃんはさっきとは違う結晶を取り出し、小さなボタンを押した。先程とは異なった情景が、すらすらと虚空に書き込まれていく。
そこに写真として映し出されたのは、三人の男だった。一人は、背が高く、凛と張った顔立ちの、勇者然とした男。一人は、少し優しく、中性的な雰囲気を感じさせる小柄な男。一人は、これまたファンタジーに出てきそうなほど整った顔の男。
だが何故か、三人目には、目に見えない嫌らしさが感じられでしまった。きっと、この人とは生理的に分かり合えそうにないな。思考には、そうふんぎりをつけ、ボクはレムちゃんに借問した。
「これは、どういう写真なの?」
「わかんない。この結晶にね、最初から入ってたの」
そんなことがあり得るのだろうか。隣の専門家も首を傾げている。
そこではたと、レムちゃんと行動を共にした三人組、というキーワードがボクの脳裏に引っかかった。キリト君とアレックスともう一人、確か、ボルトとかいう名前の人で、ベータ時代に、この限定クエスト、おばあちゃんのおうちを受けたのだとか。聞いた話では、ベータテストの時は、アバターのカスタマイズは自由だったはずだ。なら、こんな絶世の美男子三人が寄り集まっていても、なんらおかしくはないだろう。そういえば、アレックスはベータ時代はネナベだったとも、どこかで聞いたような気がする。
しかし、そんなことがあり得るのだろうか。ベータ時代に及ぼした選択が、NPCを通じて存在する。そんな現象が発生していいのだろうか。
……帰ったら、映像を見せて、確認を取ってみよう。不安感は拭えないものの、そこで推理を取りやめ、ボク達は、ボクに肩車されるレムちゃんと、それを横から眺めながら、スルメを齧るムッツリーニ君という構図のまま、ギルドホームへの家路に着いた。
☆
レムちゃんを寝かしつけた後、問題のVTRを、ベータテスター二人に検証してもらった。
「ああ、こりゃ俺達だな」
あっさりだった。もうちょっと驚きとか無いのだろうか。
そんなボクの内心を見透かしたように、キリト君が言った。
「これまでも何度か、こういう場面はあったからな。ベータの情報が、本サービスにまで干渉しているっていう状況が……」
きっとキリト君は、幾度かこういう違和感を感じていたのだろう。だからこそ、ボク程には驚かなかった。
そこで、アスナが空気中に浮かんだ光学写真をみて言った。
「この三人の、誰がキリト君なの?」
「俺は、この右のアバターだよ。真ん中の、レムの頭に手を置いてる奴がアレックスで、左の男がボルトだ」
「そっか、右の人か。このアバターと女の子を足して、二で割ったら、今のキリト君のアバターって感じだね」
「……うるさいな」
茶化したアスナを、ジト目で流し見るキリト君。きっと、中性的な顔立ちであることを気にしているのだろう。
「それはそれで、可愛いと思うけどね」
「なっ…………」
ボクがそう言うと、キリト君は照れたように押し黙った。はっはっは!キリト君も結構、からかい甲斐があるなあ。その時、アスナと目線が会い、二人で同時に吹き出してしまった。そんなボクらを見て、更にジト目を作るキリト君。
そんな雰囲気はお構いなしに、アレックスは写真を、遠い何かを見るような視線で見据えて、語り出した。
「懐かしいですね……本当に。あのときは、毎日学校が終わるのが、楽しみで仕方ありませんでしたよ」
「ああ、授業中でも、休み時間も、トイレでも風呂でも、ずっとビルドやら、取得スキルやら考えっぱなしだったよ」
「いや、流石にそこまでじゃなかったですけど」
キリト君のゲーム脳を、全員で朗らかに笑う。そして、キリト君は、本日三度目のジト目。
キリト君は、そんな空気を一蹴したいのか、転換の接続詞を使って言った。
「でもまあ、学校って言えば、ライト達のとこも、相当面白そうだけどな。召喚獣、だっけ?それを使って戦争するんだろ?そんな学校だったら、俺も勉強したかもな」
キリト君が、この話題を持ち出せるのは、ギルド名が、ザ・サーヴァンツに決定した時に、文月学園生ではない、キリト君、アスナ、アレックスの三人にも、試験召喚システムについての説明をしたからだ。
その話題は、文月学園が恥じる、唯一の観察処分者、ライト君が繋げた。
「うん、試召戦争は、めちゃくちゃ楽しかったね。まあ、それでも僕は勉強しなかったんだけど」
「試召戦争と言えば、こいつがAクラスに戦争ふっかけようとした理由が傑作でな。確か、ひ……」
そこまで言いかけたユウ君の口を、ライト君が飛びかかるようにして押さえつけた。
「な、何言ってんだこのバカは!今ここで言わなくても良いじゃないか!」
そんな二人の様子を見て、ティアが毅然と立ち上がり、言った。
「……浮気は許さない」
「うわあ、やめろティア!俺をまた、黒鉄宮送りにする気か!?」
今、ティアはユウ君の手を取り、自分の胸に当てている。こうすれば、確かにハラスメントコードが発動し、ユウ君は黒鉄宮送りになるだろう。だが、今の問題はそこじゃない。そう。ユウ君の手がティアの胸に当てられているのだ。そんな状況に反応する方が若干名。
「死に晒せ!このクソヤロオオォォオオッ!」
「…………万死に値する!」
「ひ、秀吉!助けてくれ!」
「しょうがないのう……。姉上とアレックスよ。ライトがAクラスに戦争をしようとしたのは、姫路のためなのじゃ」
「へえ……そっか……姫路さんのためだったんだ……。とーーっても面白そうな話だから、ライト君。そこに正座して、説明してくれる?」
「確かに、とーーっても面白そうな話ですね。私にも説明してくれますか、ライトさん?」
「…………はい」
おお、すごいな秀吉君。女子二人を使って、一言でライト君を無力化するとは。
その時、ギィギィという木の擦れる音がして振り返ると、ピンク地に白の水玉のパジャマを着て、眠そうに瞼をこするレムちゃんがいた。
「ああ、うるさかったかな?」
ボクがそう言うと、レムちゃんは小さく首を振り、微笑みながら言った。
「楽しそうだったから、起きてきたんだよ」
「そっか、しゃあ一緒に喋ろっか!」
「うん!」
ふと思いました。定期更新ってどうだろうか、と。
というわけで、活動報告にてアンケートを実施します!
皆さん、どしどし書き込んで下さいね!