僕とキリトとSAO   作:MUUK

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活動報告に、バカテス陣のリアル名とアバター名の対応表を載せてみました。
もし、わかりにくいと思われた方は、御一見を!

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第二十四話「ギルド結成クエスト」

早朝。名前も解らない小鳥達の声が、チュンチュンと気持ちよく響く。

暦の上では冬の筈なのだが、小春日和とはこの事だろう。少し暖かいとさえ思える微風が、僕の頬を撫でた。

今日は、待ちに待った、ギルド結成クエスト決行日だ。

朝食は、昨日アレックスが狩りまくったブタを、僕が調理したもので済ませた。

とても上等とは言えない味だったが、まあ、食べられないレベルでもなかった。

そして、準備を整えた僕らは、アインクラッド第三層主街区から、南へ向けて歩き出した。そう、歩き出したのだが……。

 

「めちゃくちゃ早かったね」

 

本当に早かった。もうちょっと長旅かと思っていたのに、ものの十五分ぐらいで着いてしまった。

 

「だって、実際の距離は、たった一キロですからね。第三層全体の直径だって、九キロちょいしかないわけですから」

 

そうか、考えてみると、一番でかい第一層の直径でさえ十キロぐらいだったんだから、そんなもんなのか。

村の様子を見てみると、NPCが何人か立っているだけで、プレイヤーは、まだここまで来ていないようだった。

まあ、三層が開通したのが昨日の今日だからな。しかもこの村は、主街区と迷宮区の直線コース上にない。つまり、ギルドクエストを受けるプレイヤーしか、この村には立ち寄らないのだ。

キバオウやリンドと鉢合わせたら嫌だな、と思いながら、キリトに、気になっていたことを尋ねてみた。

 

「ねえ、キリト。村長さんの姿が見受けられないんだけど……」

「多分……寝てるんじゃないか?」

「寝てる!?NPCって寝るの!?」

 

キリトが、答えようと口を開きかけたが、その寸前に、アレックスが僕の疑問に答えてくれた。

 

「高位の役職を与えられたNPCは、人間に近い動きをするようになるんです」

 

なるほど、ある程度数を絞れば、完成度の低い自律人工知能ぐらい与えることは可能だということか。

そういえば確かに、これまでも何度か、これって本当にNPC?って思うことがあったのだが、あれはそういうことだったのか。

そんな考え事をしていると、村のほぼ中央に位置するレンガ造りの家から、一人の老紳士が、押扉を開けて、悠然と登場した。

彼の双眸は、老いてなお爛々と輝いており、壮年の頃は、勇猛に剣技を振るったであろうことは想像に難くない。

老いの象徴であるはずの、皺や、長い白髭さえも、彼の威厳を助長しているとさえ思える。

すると、此方に気づいた長老が、白いローブの裾を地面に擦らせながら、近付いてきた。

そして、僕らの三メートルほど手前で止まると、少しだけ唇を舐め、厳しさと優しさが同居した声で告げた。

 

「君達は、絆の儀式を受けたいのかね?」

 

絆の儀式、それがギルド結成クエストのことなのだろう。確かに、ギルドメンバーというのは、この世界において、最も強い絆の一つだ。

コンビや配偶者よりは、個人個人の関係性は薄れるものの、複数人の関係としては、これほど強いものはあるまい。

僕と同じ解釈をしたのか、ユウは、代表として、その問いに首肯した。

 

「ああ、そうだ」

「ならば、儀式に必要な祭具を君達自身の手で集めてきてくれたまえ。そうすれば、私が神官となって儀式を執り行おう」

 

そのセリフと共に、ユウの前にクエスト受注選択の通知窓が現れる。

 

『ギルド結成クエストを開始しますか?』

 

それに、コンマ一秒と迷わず、ユウがイエスを押し込む。

すると、それを見てとったのか、システム的に決められているのか、碧眼の村長が、ハリのいい重低音で話し始めた。

 

「ではまず、君達にこの儀式の意義について説明しよう。そもそも、絆というものは……」

 

あ、ヤバイ。一番眠くなるタイプの話だ……。

 

「いや、流石に早過ぎると思うんじゃが!?」

 

いやあ、可愛らしい声だなあ。そう思いながら、眠りに陥ろうとする僕の肩を激しい衝撃が襲った。

 

「痛っ!」

「貴様、長老様の御前で眠りこけるとは何事か!」

 

咄嗟に振り返った僕の視界に現れたのは、警策を持ち、睨みを効かせたお坊さんっぽいNPCだった。

驚きながらも、キリトに小声でそっと耳打ちする。

 

「キリト、こんな人がいるのに、ベータのときは、どうやって寝たのさ?」

「いや……ベータではいなかったんだけどな……。茅場も、いやらしい調整するな……」

「あなた達は……もうちょっと真面目に聞くことが出来ないのかしら?」

 

何時ものように、遺憾なく優等生ぶりを発揮する優子。別にこんな話、どうでもいいと思うんだけどなあ……。

 

そんなこんなで、なんとか村長の、有り難ーーーい御講話を承ったあと、メニューウィンドウの時刻表示を見ると、十二時を三十分ほど過ぎていたので、僕らは、まず昼食を取ることにした。

幸い、村にはNPCの板前が営む食堂があり、そこで食事が出来た。

僕は天丼(らしきもの)を頼んだ。何故か、出汁が洋風っぽい味付けだったのだが、これが案外イケる。五分とたたずに平らげてしまった。

ちなみにアレックスは、その店の名物『ホワイトピギーのカツレツ』を頼んでいた。ホワイトピギーに、何か恨みでもあるのかな?

 

 

「はあぁっ!」

 

気合いと共に放たれた優子の斬撃は、第三層の雑魚Mob『ミニマム・ゴブリン』の身体を引き裂き、ポリゴン片へと変えた。

片手剣を腰の鞘へと戻しながら、優子は、此方に向き直り、言った。

 

「こいつで何匹目?」

「二十二匹目だと思います」

「なっかなか出ないわね、ゴブリンの秘薬」

「そりゃそうですよ。ベータの時の情報ですけど、ドロップ率は、一〜二パーぐらいだったはずですから」

「はあーー、そりゃ出ないわけね。よし!もういっちょ行きますか!」

 

何か、すごいノリノリでゴブリンを殺してまわってるな、この二人。

ちなみに、ゴブリンの秘薬というのは、ギルド結成クエスト、通称、絆の儀式に必要な祭具の一つらしく、この層に点在するMob、ミニマム・ゴブリンからドロップするらしい。

というわけで、僕らは先ほどからゴブリン狩りを続けているわけだが、二人が強過ぎて、さっきから僕に何もさせてくれない。

 

「二人とも強いから、もう僕、このパーティにいらないような気がしてきたなあ……」

 

とまあ、ちょっとした自虐ネタを言ってみたのだか、二人の反応は予想を大きく上回って熱かった。

 

「何言ってんのよ。あなたもちゃんと手伝いなさい!」

「そうですよ、ライトさんっ!ちょっとは一人で敵を倒して下さいっ!」

 

というか、僕が一人で敵なんて倒せるわけないじゃないか!俊敏全振りのくせに武器を持ってないこの僕が!

何か……自分が情けなくなってきたよ……。もう、アイデンティティとか気にしないで武器持っちゃおうかな……。

そんな後ろ向きの思考を、元気な優子の声が堰き止めた。

 

「さて、まだまだ行くわよ!」

 

五時間後、僕らは、まだゴブリン狩りを続けていた。

 

「何よコレ!ぜんっぜん出ないじゃない!」

「もう、二百匹は倒したはずなんですけどね……」

「あ!新しいのがPOPしたよ!」

 

僕がそう言った瞬間、女子二人は、ゴブリンへと突撃し、剣とメイスで滅多打ちにして、一分とたたずに倒した。

軽く鳥肌が立った。

 

「はい、次ィッ!」

「まだです!まだ血が足りません!」

 

あれ?この子達って、こんな性格だったっけ?

もうこれ以上、彼女達をゴブリンと戦わせてはいけない気がしてきた。

そこで新たにPOPしたゴブリンを見て、そんな益体の無い思考を飲み下す。

バーサーカー二人が一気に数メートルの距離を詰めると、各種ソードスキルで小柄なゴブリンを切り刻んでいく。

よし!僕も負けてられないな。

そう思い、右腕を横腹に構える。すると、右腕全体が、黄色に発光を開始する。体術スキル『エンブレイザー』だ。

地面を踏みしめ、思いっきり跳躍する。途轍もない速度で繰り出された貫手が、矮小な体躯のゴブリンを突き刺す。

すると、元々レッドゾーンだった体力ゲージがみるみると減少し、ゼロになった瞬間、ミニマム・ゴブリンは、青白いポリゴンとなって爆散した。

そして、ドロップしたコルとアイテムが表示され……

 

「あ、出た」

「え、嘘!?ちょっとオブジェクト化してみなさいよ!」

 

優子に言われた通り、アイテムストレージから、ゴブリンの秘薬を選択し、オブジェクト化する。

僕の手の平に、直径二センチぐらいの、真っ黒の丸薬が現れた。

 

「確かに……これで間違いないですね……」

「何でロクに戦ってないライトの時に出るのよ!」

「うーん……釈然としませんね……」

「さ、さあ!村に帰ろう!」

 

女性陣の、殺気の篭ったジト目を一身に受けながら、無理矢理帰路についた。

 

 

今日の昼に入った定食屋は、夜には見事なまでに居酒屋に変化していた。

結局、夜ご飯も此処で食べることになったので、少し低めの暖簾を潜る。

 

『へい、らっしゃい!』

 

活きのいい大将の声が飛ぶ。店内を見渡してみると、僕ら三人以外の皆は、もう既に端っこのテーブル席に着いていた。

 

「おお、やっと帰ってきたか。遅いぞお前ら!」

「うるさいな、ユウ!こちとら、全然アイテムがドロップしなくて大変だったんだぞ!ちょっとは労え!」

「そういや、お前らの担当はゴブリンの秘薬だったっけ。あれは、運悪いときは、本当に出ないよな」

「ほら、キリトもこう言ってるじゃないか!知りもしないくせに、遅いとか言うなよ!」

「ああ?何でお前、そんなに怒ってんだよ?」

「ずっと殺意にあてられてきた鬱憤だよ」

 

ユウは頭に疑問符を浮かべている。まあ、確かに、状況を知らなければ、何を言ってるのかわかんないんだろうな。わざわざ説明する気もないけど。

 

「で、結局ドロップしたのか?」

「……ええ、したわよ……」

 

キリトの借問に、優子が不機嫌そうに答える。

そしてキリトも、何が何だかわからないって顔をしだした。きっと、レアアイテムがドロップして不機嫌になるなんて、キリトの超絶ゲーム的思考回路からすると、考えられないことなんだろう。

 

「まあ……何はともあれ、今日の午後だけで、十個中五個集まったんだから、単純計算で、明日の午前中には集め終わるな」

「え?四班しかなかったのに五個集まったの?どの班が二つ集めたの?」

「ああ、俺とアスナの班が、一つ目が終わって時間余ったんだ。んで、もう一個集めてきたんだよ」

 

そこで、居酒屋の主人が、全員分の生泡だて麦茶と枝豆みたいなものを運んで来た。

とりあえず、枝豆もどきに手を伸ばしてみる。

房がドーナツ状になっているところ以外は、完全な枝豆のそれを、長年の生活で培われた、日本人なら誰でも出来る絶妙な力加減で押す。

いつもの、ムニュっと飛び出してくる感覚。食べてみると、独特な食感と風味、そして仄かな塩味。はい、枝豆です。

 

「この店、結構美味いよな」

 

何の邪気もない声でキリトが言った。

それに僕が反応した。

 

「うん、普通に美味しいね」

 

最初に出会ったとき、僕らを助けてくれたときのキリトとは、こんなごく普通の会話など、望むべくもないものだと思っていた。

そんな取り止めのない会話に、こういう日常的なのって幸せだな、と思う。

そこではたと、僕自身の思考を自嘲する。こんな、非日常極まる世界で、何が日常的だろうか。そう、ここはあくまでデスゲームの中なのだ。

HPゲージがゼロになれば、絶対的に無慈悲な死を迎える、それでいて、現代日本では見るべくもない、自然と建造物が織り成す、美しくも残酷な、そんな世界。

楽しんじゃいけないとは思っていない。ただ僕は、慣れてしまうのが怖いんだ。慣れてしまえば、この世界の住人になってしまえば、もう二度と現実へは戻れない気がして。

この世界は、確実に、僕らの生きる道には無かったはずの、捻じ曲げられた運命だ。それとどう向き合っていくべきなのか。それをどう思うべきなのか。今の僕にはまだ答えは出せそうにない。だけど、この城には、あと九十七もの層が残されている。それらを全て見届ける頃にはきっと、僕らは、この世界で生きた意味を見つけ出せるのだ。

 




ギルド結成クエストも、半分が終わりましたね。
原作では、殆ど内容が語られていないので、クエスト内容や、村長の雰囲気など、想像で進めまくっておりますが、ギルド結成クエスト……こんなんでいいんでしょうか……。
いい……ですよね?

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