僕とキリトとSAO   作:MUUK

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さて、第二話です!やっとデスゲームが始まっちゃいますよぉー!フゥゥーーーッッ!え?キモい?すいません…。では、本編どうぞ!


第二話「デスゲーム」

「秀吉、ユウ、ムッツリーニっと………。よし、これでOK!」

 

ログインしてすぐに、初々しい手つきでフレンド申請画面に三人の悪友を列挙した。

数刻と待たずにフレンド申請結果が報告される。

『Hideyoshiが、フレンド申請を受理しました』

その一文に、思わず頬が緩む。まだ何も成し遂げていないというのに、肩の荷が下りたような気分だった。

しかし感慨を抱く間も無く、馴染みの薄い無機質な音色が鳴り響いた。

 

『もう始まりの街の東側で狩り始めておるぞ』

 

 

始まりの街を東門から出て直ぐに、凛々しい美青年二人と、厳ついゴリラのようなスキンヘッドのおじさん一人の集団がいた。

どうやらアレで間違いなさそうだ。

アンバランスな三人組へと、大きく手を振りながら駆けていった。

 

「もう、ユウ! 先に始めるなんて酷いじゃないか!」

 

と、スキンヘッドの厳ついおじさんに怒鳴りつけた。

それを受けておじさんの口から放たれた言葉は、僕にとってあまりにも突拍子が無い意味を内包していた。

 

「わしは秀吉じゃが?」

 

………………………………………………………………え?

 

「ライト?何故何も言わず嗚咽をもらしておるのじゃ!?」

 

秀吉が重低音を響かせる。

その声が、僕には地獄の審判に思えた。

 

「秀吉! 単なるネナベならまだいいよ! でも、わざわざゴリラみたいなおっさんにする必要はないじゃないか!」

 

秀吉の両肩をひしと掴み、ぶんぶんと前後に振り回した。

僕の中で、秀吉への愛情その他もろもろが行き場を無くして暴れ狂う。

その時、いきり立つ僕の肩に、色白の手がポンと置かれた。

振り返ると、二人の美少年の内一人。大人しげな雰囲気の男が、その美貌を台無しにした白目で立っていた。

 

「……ライト……諦めろ……これが現実…………」

「白目を剥いてる奴に言われても説得力無いよ!」

 

仮想世界でも現実逃避が出来ないなんて、世界は……残酷だ……。

 

「どうしたんじゃお主ら。揃いも揃って。む、さては、ワシのバリトンボイスに心奪われてしまったのかの?」

「はぅっ………!」

 

ムッツリーニは胸に手を当て、悲哀の面で呻いた。

うん。確かにこれは、相当な威力でハートをキャッチされてしまったようだ。

地に伏したムッツリーニが、サムズアップした右手を僕へと向ける。

 

「…………後はまかせた、ライト。必ず秀吉のアバターを、変え……(ガクッ)」

「ムッツリーニィィイイィッッ!!」

「むぅ…………。お主ら、酷いぞい……」

 

頰を膨らませ、秀吉は人差し指同士を合わせていじけ出した。

本来ならば可愛いらしい動作なのだが、これをやっているのが五十代半ばのおっさんなのだから気色悪いことこの上ない。

ふと辺りを見回す。

命の茂る新緑の大地。ここに白いワンピースの秀吉がいてくれたなら、どれほど映えることだろう。

一見して分かる落胆と非難を視線に宿し、秀吉を真っ直ぐに貫いた。

 

「だいたい、なんで秀吉はそんなアバターにしたのさ!?」

 

ここがSAOの中だということも忘れて、僕が放った心からの質問(きゅうだん)だった。

 

「こうすれば、わしを女だと思う奴もおらんじゃろ♪」

 

嬉しそうな秀吉(おっさん)の顔。

秀吉を男扱いしておけばよかった。始めてそう思った瞬間だった。

 

「ところで明久、お前のその名前R…いや、やっぱりいいか……」

 

ユウは何が言いたかったんだろう?バカの考える事はわからないな。

 

「まぁ、とりあえず、あやつを狩ってみてはどうじゃ?」

 

隣のおっさん(秀吉)がそう提案してきた。

指差す先に居たのは、全長一メートルほどの、小さなイノシシだった。

 

「ソードスキルっていうのを使えばいいんだよね?」

 

このSAOには、プレイヤーの動きをサポートしてくれる『ソードスキル』というものが存在する。その何百という、システムに規定された技のアシストによって、剣道等の経験が無い人でも、強大なモンスターに立ち向かえるというわけだ。

 

「うむ。イメージとしては、そのソードスキルの始めのポーズをとって、ちょっとだけモーションをかけて、後はシステムにまかせる、といった感じじゃな」

「うーん。ちょっとよくわかんないけど、とりあえずやってみるよ」

 

そう言って、僕は片手直剣スキルの初期技『スラント』を発動させるべく、剣を中段から上へと振り上げた。

その直後、僕の剣が、その刀身に淡い光を纏わせだした。そうなれば、もう止まりはしない。

剣は、使用者たる僕の支配を離れ、虚空を貫き、モンスターを斬り裂いた。

瞬間、イノシシは無数の破片となり、爆散した。

仮想の感触が手を中からジンジンと打ち返す。それとは対照的に身体中を爽快感が覆う。ここは現実じゃないにも関わらず、身体に何か熱いものが流れていると、そう思えた。

 

「……ふぅ」

 

思わず、溜息が出る。

それは感嘆の念からだった。

自ら剣を取り、それを揮い敵を討つ。

その過程が、僕の想像を遥かに超えていたからだ。

それから僕たちは飽きることなく、何時間もイノシシとオオカミ狩りを続けた。

 

それは、僕にレベルアップのファンファーレが鳴り響いてすぐのことだった。

始まりの街から荘厳で重厚な鐘の音が響きわたる。

瞬間。

僕ら四人の体が青いライトエフェクトに包まれた。

 

 

SAO内の光は、ナーヴギアから直接脳内の視覚野に送られる電気信号により大脳が作り出すものである。そのため、アバターが目をつぶったところで何の意味も無い。そう頭では理解していても、僕はその眩い青の光に抵抗せずにいられなかった。

そして、仮想の瞼を開け、既視感を覚えた。

そう。それは、つい数時間前。この仮想世界に生を受け、目を開いたその瞬間の光景と酷似していた。いや、同一と言っても過言ではないだろう。

とどのつまり、僕らは草原から始まりの街にテレポートしたのだ。

そして、僕らの先にも、後にも続々とプレイヤーがテレポートされ続けていた。

 

「これは……何なんだろう……」

 

一人言か、疑問か、自分でも分からず僕の口はそう動いていた。

 

「オープニングイベントじゃないのか?」

 

僕の言葉を疑問と受け取り、ユウはこの状況で最も可能性が高い答えを返した。

そう。その可能性が一番高いはずなのだが、何故かさっきから、不安感が僕の心を撫で続けているのだ。

そんな心境を察したのか、ムッツリーニがこう教えてくれた。

 

「……広場のいろんなとこから、ログアウトが出来ないという会話が聞こえる」

「うん……不安感煽られたよっ!」

 

結局何がしたかったんだ、この男。

すると、僕の横でユウはメインメニューを操り、本来ログアウトボタンがあるはずの場所に向かっていた。

僕も自分で探してみたら、やはりというか、まさかというか、ログアウトボタンは綺麗さっぱりなくなっていた。

 

「てことは、ログアウトが出来ないことの謝罪か、全部が演出か、のどっちかだよね、ユウ?」

 

今度はユウに対して、きちんと疑問を投げかけた。

 

「……………」

 

なのにユウはさっきとは、うって変わって青ざめたまま、言葉を返そうとしない。

 

「どうしたというのじゃ、ユウよ?」

 

そんなユウを心配して、秀吉が声を掛けた。すると、ユウは何かを認めたく無い、というような顔をして重い口を開いた。

 

「お前らは、仮想世界でログアウト出来ないという事態の深刻さを理解しているのか?」

「どういうこと?」

 

回答の意味が判然とせず、咄嗟に疑問を反復した。

 

「つまり、俺たちは閉じ込められてるんだよ」

 

ユウは、苦虫を噛んだような顔で言う。

そんなユウの表情を見て、僕はそれ以上何も言えなかった。

その直後、僕たちのいる始まりの街の中央広場が真紅のハニカム構造が囲んでいく。その六角形の中に何か英語が書いてあるようだけど、あいにく僕には訳せなかった。

 

「やっぱりオープニングイベントみたいだね!」

「いや、ちゃんとあの文字を読めよ」

 

うん、読めないんだよ!仕方ないだろ、バカなんだから!

 

「どうせ、お前読めないんだろ?」

「分かってるなら、読めよなんて言うなよ!」

 

こいつは僕をムカつかせて楽しいのかな?

ログアウトしたら、こいつのナーヴギアとお風呂に入ることにしよう。ナーヴギアに耐水性はなかった筈だ。

 

「あれは、『warning』と『system announcement』。つまり、『警告』と『運営からの告示』ってとこだな」

「ふーん。つまり、ログアウト出来ないのはバグだったってこと?」

「だろうな。オープニングイベントのためにわざわざログアウト出来ない様にする必要はないからな」

 

すると、僕らのほぼ真上。つまり、100層にも渡るステージが存在すると言うSAOの第二層の底から、Fクラスにおいては見ない日はないと思われる人体の粘液、つまり血、のようなものが垂れてきた。だけど、それは落下することはなく、空中で大きな人を形作っていった。そして、その巨人はフード付きのローブを羽織っており……いや、違う。ローブがあるのは確かだけど、そのローブを羽織っていなければいけないはずの『本体』がどこにも見当たらなかった。

 

「なんで顔が無いんだろ?そういう演出かな?」

 

僕は思ったことを率直に口に出した。

周りのプレイヤー達も同じような疑問を投げかけている。

僕の疑問にも、無数のプレイヤー達の疑問にも、答えを返すプレイヤーなど存在しない。

大量のプレイヤー達の喧騒の中に、上空から言葉が与えられた。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

何処かで聞いたことが有る、大人の男性の声だった。

その時、僕はただ単にGMかラスボスに扮した職員の用意されたセリフだと思っていた。この言葉の真意を全く読み取れていなかったのだ。

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

茅場晶彦。その名はさすがに僕も知っていた。ゲーム開発会社アーガスの職員にして、量子物理学者。

そして、ナーヴギアの設計者にして、SAOの開発ディレクターという、超がいくつあっても足りない程の天才だ。

そんな人だから、ここに出て来たところで何らおかしくはないんだけれど、この時、僕の中に二つの違和感が生まれていた。

すなわち、実名を出したことと、この世界をコントロールできる唯一の人間という言葉だ。

そそんな違和感について、僕は深く考えようとしなかったけれど、僕たち四人のなかでユウだけは思考を止めようとはしていなかった。

顎に手を当て、思案顔で状況を見据えるユウ。その様子は、否応なくこちらに安心感を与えてくれる。

だが、そんな物は気休めにしかならない。そう断言するかのように、次なる巨人の言葉が安寧の幻想を捻り潰す。

 

『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』

 

「嘘だろ……?」

 

驚愕を漏らしたのはユウだった。

僕はというと、茅場晶彦の言葉の意味も、ユウが狼狽する意味も全く理解出来ていなかった。

そして、直ぐに巨人から次の言葉が告げられた。

 

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』

 

今度はすんなりと理解出来た。つまり、これがオープニングイベントならば、この城というのは当然、SAOのフィールドである『浮遊城アインクラッド』だろう。

しかし、逆にユウは、『この城』の意味を理解出来ていないようだった。

うん。僕は親切だからね。ユウに教えてあげることにしよう。

 

「ユウ、もしかして『この城』の意味もわからないの?」

 

僕は最大限の嫌らしさを込めて言ってやった。

 

「じゃあ、お前は分かるってのかよ!」

 

あれ?何この温度差?

 

「た、多分アインクラッドのことじゃないかな?」

「そんなことがあっていいのか…?」

 

顔に大きく絶望と書きながら、ユウは掠れた声でそう呟いた。

本当に、こいつは何を想像してるんだろう?

 

「ねえ、秀吉、ムッツリ……」

 

二人も青ざめた顔をしていた。

あれ?状況読めてないの僕だけ?

 

『……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合──』

 

間が空く。そのわずかな間が僕の不安感と焦燥感を最大にまで高めた。

広場がしんと静まり返る。その様子はまるで、早く餌が欲しい犬のようだった。

そして、次の言葉が発せられる。

 

『──ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

その言葉を理解出来た人間がこの広場に何人いるだろう。

少なくとも、僕の横に一人、かつて神童と呼ばれた男がそうだった。そしてユウは……

 

「はっはっはっは!」

 

笑った。吐き捨てるように、まるで全て予想していたかのように、掠れた声で笑った。

 

「いや、でも、ナーヴギアにそんなこと出来るの?」

 

否定して欲しかった。

これが唯のゲームだと思いたかった。

でも、仮想の現実は余りにも残酷だった。

 

「それがな、可能なんだよ。電子レンジの要領でやれば脳焼き切ることは造作もないだろう。いきなり電源を引っこ抜いたとしてもナーヴギアの重量は三割がバッテリーだ」

 

ユウはスラスラと、ナーヴギアが頭脳を焼き切る理論を説明してくれる。

こいつは、いつからこの状況を想定していたのだろう。

ユウの獰猛な笑顔は、驚嘆を過ぎ、恐怖さえも抱かせる。

 

『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試みー以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果──』

 

続く結果は僕の予想を大きく上回った。

だからこそ、僕から現実感を奪って行った。

 

『──残念ながら、すでに二百三十名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

 

信じられなかった。 こんなゲームでもうすでに二百人以上の人が死んでいるという事態が。

 

「そんな、いや、これも全部オープニングイベントなんでしょ。ねぇ、ユウ!」

「いや、考えてみろ、こんなイベントあるわけねえだろ」

 

ユウはもう既に、いつもの冷静さを取り戻していた。

でも、僕ら三人はそんなユウを見ても全く安心出来なかった。

僕らの不安などよそに、茅場の無慈悲な声は降り注ぎ続ける。

 

『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護体制のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい』

 

安心出来るわけも、こんな状況でゲームなんか出来るわけもないだろう!そう言おうとしているのに、口も喉も動こうとはしなかった。

秀吉とムッツリーニも同じような状態で、ユウだけは冷静に茅場の話に耳を傾けていた。

 

『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に────』

 

次に続く言葉は、この広場の誰もが予想出来たことだろう。

 

『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』




筆者的には、今回でキリトを登場させるつもりでしたが、茅場先輩がくっちゃべっただけて終わってしまいました…。
俺は筆者、予定の立てられない男!
まあ、次には登場しますよ。お楽しみにー!

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