僕とキリトとSAO   作:MUUK

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二日連続投稿です!
追試?知りません。宿題?知りません。

ガッツリボスのはずが、喋ってばっかりの第十八話、始まるよ!


第十八話「儚き剣のロンドーXI」

モンスターの使う攻撃には、直接攻撃以外に、もう一つの種類が存在する。

古今東西あらゆるゲームでの、通称めんどくさい奴、つまり、阻害効果(デバフ)だ。

そして、この第二層に生息する牛男達は、見た目は超近接攻撃臭いくせに、なぜかデバフを使ってくる。しかも麻痺。

 

「来るぞ!」

 

キリトの指示が飛ぶ。その時、第二層ボスの取り巻き、と言っていいかわからない程の大牛男、『ナト・ザ・カーネルトーラス』は、心中線に沿って、上へとその極大のハンマーを振りかぶった。

おう!とキリトの指示に応じ、僕らA隊は、中ボスから十歩下がった。

 

「ヴゥゥヴォオオオオオオーーーーッ!」

 

けたたましい咆哮と共に放たれた、スパークを帯びた無骨な金属塊は、空を裂き、ボス部屋の石畳を打ち鳴らした。

トーラス族なら誰でも使うソードスキル、『ナミング・インパクト』だ。

石上を稲妻がほとばしるが、デバフ効果範囲からは、もう全員が退避している。

 

「全力攻撃一本!」

 

再びキリトの指示が飛ぶと、僕らはボスと一気に距離を詰めた。

この攻撃は、効果範囲も攻撃力もデバフ効果も強力な代わりに、避けられれば、大きな反撃のチャンスになる。

僕ら、合計三部隊全員の得物がライトエフェクトに包まれる。この時点で、ナトの三段あるHPゲージの一本目が消滅した。

 

「案外、こっちは早く終わりそうだね!」

 

僕の真横で剣技を奮うキリトに声をかける。

 

「ああ、でも、三段目になると、ナミング連発してくるからな!それと、一層のことを考えると、ゲージ三本目で未知の攻撃をしてくる可能性もある!その場合はいったん引くからな!」

「おう!」

 

ディレイから立ち直った大牛男は、横腹にハンマーを構えた。横殴りのモーションなので、僕以外のA隊は防御体制をとる。

そして、僕だけは逆にナト大佐へと突っ込み、ハンマーを力強く握る手元を、体術スキル『閃打』で殴る。

キリト曰く、これだけでナトの攻撃力の二割を削げているらしい。

第二層ボス攻略が開始してから三分がたった。

僕達、レイド2の戦いは順調そのもので、未だ、一人としてHPゲージがイエローゾーンに突入するほどの大ダメージは受けておらず、ボスの攻撃を受け続けているA隊さえも、一人抜けのPOTローテで、回復は充分に間に合っている。

しかし、あくまでナト・ザ・カーネルトーラスの扱いはボスの取り巻きなのだ。

 

「回避!回避ーーッ!」

 

ヒステリックなリンドの指示がボス部屋に谺する。

そのリンドの視線の先には、充分巨大なナト大佐の二倍はあろうかという超大牛が屹立していた。

ナトの群青とは真逆の真紅の毛色が、勇猛な体躯を包み、瀟洒な黄金の布地が腰周りを周回している。ネックレスのつもりなのか、首に下がる巨大な鎖も金色、その豪勇な大槌さえもが黄金色に輝いていた。

大牛男の名は『バラン・ザ・ジェネラルトーラス』。何を隠そう、アインクラッド第二層のフロアボスである。

その威容の全長は、約五メートル。こう言ってしまえば小さく聞こえるかもしれないが、敵意を持った大男が眼前に迫る光景は、どうしても原始的な恐怖を呼び起こす。

 

「うわー、コワイですねー。私じゃ足竦んで、戦えないですよっ」

「アレックス、君はもうちょっと緊張感を持って喋ろうか」

 

この子は……慇懃なのか、唯のアホの子なのか、時々わからなくなってしまう。

しかし、メイサーとしての腕は、想像以上どころの話ではなかった。第二層迷宮区の二十階まで独力で来たのだから、有る程度の戦力になるとは予測していたものの、まさか、ここまでの手練れだとは思わなかった。

そのとき、バランはフロアいっぱいに大声を上げた。

 

「ヴゥゥヴォオォルァアアアアアアッ!」

 

ナト大佐とは比較にならないほどの咆哮を空中に走らせ、バラン将軍はゴールデンハンマーを高らかに振り上げる。そう、その構えは『ナミングインパクト』発動のモーションだ。いや、違う。あれは、バラン将軍の固有技『ナミング・デトネーション』だ。全く同じ状態から繰り出されるこの二つは、その攻撃力と麻痺の効果範囲に絶望的なまでの差異があった。

強烈な電流を放ちながら、バトルハンマーが振り下ろされる。

穿たれた床に流れる雷撃の奔流は、ナトの数倍はあろうかという範囲を飲み込んだ。

前線に立っていた二人が逃げそこない、三秒間のスタンを受ける。ボスの硬直時間も同じく三秒なので、その間に体力を削り切られる心配はないのだが、動けない自分と数メートル先のフロアボス、この構図には恐怖しか浮き上がらないだろう。

そのとき、スタンした二人の片割れの手から、片手武器の短槍が抜け落ちた。スタン中に一定確率で付随する武器落下だ。スタンが解けた直後、動物的な本能で、そのプレイヤーは足元の武器を抱えるように拾う。しかし、これは巧妙な罠だ。

再度の咆哮とデトネーション。ファンブルしなかったプレイヤーは間一髪、その範囲から逃れられたものの、武器を拾っていた戦士は、稲妻の閃光に飲み込まれた。

しかし、今回彼がかかったデバフはスタンではない。麻痺だ。

スタンはたった三秒ほどで回復するが、麻痺はその比ではない。なんと、最も弱い麻痺でさえ、自然回復するには十分間はかかるのだ。

だからこそ、スタンは完全に硬直してしまうのに対して、麻痺は腰からポーションを取り出すなど、有る程度の動きなら出来るくらいの制約力だ。

ここがトーラス族の恐ろしいところで、二回連続でナミングをくらうと、二回目は麻痺になってしまうのだ。

更に三秒の拘束時間の後、将軍は麻痺したプレイヤーに踏み付け攻撃をしようとしたが、その直前、彼のパーティメンバー達が、彼の足を掴んで後方へと引きずっていった。

それを見て、胸を撫で下ろしたが、そのままバランに向けようと移動させた目に、驚くべき光景が飛び込んできた。

部隊後方には、もう五人のプレイヤーがPOTによる麻痺の回復を待っていたのだ。

 

「レイド1はヤバそうだな。あれ以上麻痺した奴が増えると、一時撤退しにくくなるだろ」

 

一応リーダーのユウが、実質リーダーのキリトに話しかけた。一時撤退とは、開始前に決められた約束事で、もし、一層のコボルト王のように、ゲージが残り一本になってからベータ版とは異なる行動をしたら、一時撤退して、作戦を練り直そう、というものだ。

キリトは、少し考えた後、ユウと共にナト大佐のハンマーを回避しながら言った。

 

「今のうちに一度仕切りなおして、ナミング対策を徹底したほうがいいかもな」

「ああ、俺もそう思う。じゃあ、俺がリンドに話してくる。皆!一旦、ここは頼んだ!」

「おう!」

 

全員にそう言うと、ユウはリンドの方に駆け出して行った。

 

「どうしたんだい、ユウさん?」

 

僕の、聞き耳スキルによって強化された聴力を介して、リンドの滑らかな声が脳髄に伝わった。

 

「リンド、一回仕切りなおそう。これ以上麻痺る奴が出ると、撤退しにくくなるだろ」

 

三秒ほどリンドが逡巡した後、ボスのHPゲージをちらりと見た。そのゲージは、五本あるうちの三本目、その半分まで、つまり、全員の半分まで削られていた。

 

「残り半分なんだよ。ここで引く必要はあるのかな?」

 

口調は優しいが、頑なな意思が見て取れる。

しかし、確かにこのままのペースでいけば、誰も死なずに押し切れるだろう。

ユウも僕と同じことを思っているのか、少しだけ考え込んでいる。

その思考に、荒々しい声が水を差した。

 

「あと一人麻痺したら引く、それでどうや」

 

関西弁といばこの人、キバオウさんだった。

 

「ナミングの範囲とタイミングはもうみんな掴んだはずや。集中もできとる、士気も高い。麻痺治療POTや治療POTもようけ使っとるし、ここで引いたら、次は明日になってまうかもしれん」

 

キバオウからこんな言葉が出るとは、意外だった。正直、キバオウなら、もうちょっとで勝てんのに、ここで引くとかありえへんやろ!ぐらい言うと思っていたのだ。

以外と冷静に戦場を見極めてるんだなあ。ちょっとキバオウを見直してしまった。

ユウは、キバオウの言葉からコンマ三秒で戦況を整理して、答えを返した。

 

「OKだ。あと一人だな。それと、ゲージが一本になったら注意しろよ」

「わーっとる!」

「ああ、ありがとう。じゃあ、持ち場に戻ってくれ。よし、E隊、交代用意!G隊、前進用意!次のディレイで交代するぞ!」

 

そして、ユウがこっちに向かって走っている丁度そのとき、ナト・ザ・カーネルトーラスが断末魔の悲鳴を上げて砕け散った。

 

「どうなった、ユウ?」

 

答えを急かすように、キリトがユウに問いかけた。

 

「あと一人麻痺ったら撤退するみたいだ。でもまあ、このペースなら押し切れるだろ」

「よし、青いのも倒したことじゃし、わしらもあっちに参戦するかの!」

 

秀吉が意気揚々と言った。うん、可愛い。

 

「おーい、リンド!ナトは終わったから、俺らもバランのローテに入れるぞ!」

「解った!なら、前線のF・G隊とスイッチしてくれ!」

 

リンドの指示通り、僕らは前線部隊と交代し、壁とダメージテイラーを引き受けた。

 

五分ほど戦い、ついにそのときがきた。

 

「せえぇやあぁぁっ!」

 

気合いと共に、優子がホリゾンタルを繰り出す。そして、バラン将軍のHPゲージがついに最後の一本に差し掛かった。

全員の鬨の声がフロアを支配する。しかし油断はできない。もしかすると、また何かが起こるかもしれない。

だが、十秒ほど経っても、結局何も起こらなかった。

 

「良かった、今回はベータからの変更はなかったみたいね」

 

アスナが安堵の声を漏らす。そう、それなのに、何故かユウの顔からは、不安の表情が消えていないのだ。

 

「どうしたの、ユウ?」

「いや……多分俺の考え過ぎだ。ただ、一層はコボルト『王』だったのに、二層はバラン『将軍』なんだな、と思っただけで……」

 

そのとき、急にフロア中央の牛の紋様が輝き始め、その真上にポリゴンのオブジェクトが生成されていく。

そして、その更に上。天井すれすれのところに、名前が浮かび上がった。

 

『アステリオス・ザ・トーラスキング』

 

くそっ!ユウがフラグを立てるからっ!

一層とは比較にならないほどの、ベータ版との凶悪な変化に全員の思考が停止した。

その瞬間、この中で唯一頭を動かし続けたユウが、レイド1、レイド2の全員に向かって指示を出した。

 

「全員でバランを速攻でで倒して撤退するぞ!次のディレイでフルアタックだ!」

 

その言葉で我に返ったプレイヤー達は、一気にバランへの距離を詰め始めた。

まだ、王がオブジェクト化していない今しか逃げるチャンスは残されていない。

生き残るために、全員て必死にバラン将軍へと攻撃する。

 

「う……おおおッ!」

 

キリトがそんな雄叫びと共に、バランのHPゲージを削りきった。

 

「全員撤退!」

 

そして、ユウのその言葉で、全員が一目散に扉へと駆けて行く。バランへの無理な攻撃で、体力がイエローになっているプレイヤーもいたが、今更そんなことは関係ない。

そして、この中で最も速い僕が扉に後十メートルで到達するというところで、

 

「ウルアアァァァグオォォォーーーッッ!」

 

それ自体に攻撃判定があるのではないかと思えるほどの咆哮を上げ、トーラス族の王がついに、その姿を顕現させた。

しかし、その得物はやはりハンマー一つ。あのリーチならば、追いつかれる前に全員が逃げ切れるだろう。

そう思い、アステリオス王の挙動を確認した瞬間、僕の背骨が凍りついた。

アステリオス王が上体を逸らし、胸いっぱいに空気を吸い込んでいる。

確実に、ブレスだ。

僕らに、雷が落ちた。

視界右上のデバフアイコンは、麻痺を示している。つまり、この攻撃は、他のトーラス族のように、二回当たれば麻痺などではなく、一発目から麻痺なのだ。

この時点では、HPゲージがレッドゾーンに突入したものこそいるものの、死亡したものはいなかったが、そんなことは気休めにもならない。

三十秒という、少し長めの硬直状態から脱したアステリオス王の片頬がニヤリとつり上がった気がした。

そりゃそうだろう。たった一発のブレスで半分以上のプレイヤーが麻痺状態になったのだから。

僕は痺れた四肢を必死に動かし、POTを飲んだ。その時、アステリオス王は、最も逃げ足が遅かったプレイヤー、つまり、ユウの前に立ち、ハンマーを振り上げていた。

くそっ!くそっ!動け!動けよ!僕の身体だろ!なあ!

だが無常にも、システム的に規定された、解毒ポーションを飲んでから麻痺回復までの三十秒という数字は揺るがない。

大槌がユウの身体を押しつぶし、ポリゴンの破片へと変容させるその直前、ボスフロアの上空を一つの流星が貫いた。

その光と、アステリオスの王冠が甲高い金属音を立ててぶつかり合い、光は、ボス部屋の入り口方向へと戻っていく。

王冠が弱点なのか、アステリオス王は大きくノックバックし、当然、振り下ろされようとしていたハンマーも、王の手中に収まったままだ。

それを確認した後、僕は入り口を見る。

そこに、ブーメランのように舞い戻った金属を手に取り、屹立する彼は、剣士として生きることを諦めたはずの少年。

伝説の英雄、ナタクだった。




ヒューヒュー!ネズハかっくいー!

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