ますます、読書の皆様には頭が上がらなさすぎて、もう地面にめり込んでおります!
この小説は、まっだまだ終わりませんので、最後までこの駄文にお付き合いいただければ幸いです!
「えーと、それじゃ……第二層迷宮区到着を祝って、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
「かんぱーイ!」
「「「「……乾杯」」」」
キリトのかけ声と共に、それぞれがそれぞれのテンションでグラスを打つ。
透明なガラスになみなみ注がれた、金色の泡立て麦茶も、こちらの世界なら合法なのが嬉しい。強いて言うなら、酔えないのが難点だろうか。
これまた、金色の巻き毛を揺らしながら「ぶっはァー!」などと仰っている情報屋様は、中ジョッキを一気に飲み下して、速攻でおかわりを頼んでいた。
一面が木製の、何処か温かみのある店内には、ジャズとも、ポップスともつかない、ゆったりとしたBGMが流れている。
「本当に……ここの酒もアルコール入れりゃいいのにな……」
忌々しそうにユウが呟いた。
「……その口ぶりだと、リアルでも飲んでいたように取れるんだけど?」
どうやらアスナは、そういうグレーなことが気に入らないらしい。まあ、らしいっちゃらしいけど。
「……ごめんなさい。現実に戻ったら、よく躾けておく」
「俺はお前のペットか!?」
客観的に、彼氏かペットかと聞かれれば、僕は間違いなくペットと答えるだろう。
引きつった笑みを浮かべていたアスナは、やがて、楽しそうな表情で聞いた。
「二人は、リアルでも付き合ってるの?」
え?さっきペットだって言ってたじゃ……ああ、そうか。アスナはあれを冗談だと思ったのか。
改めて、文月学園の異常さを意識してしまった。
「……うん。ユウが十八歳になると同時に結婚するつもり」
「いや、ティア……印鑑を押してても、人間には拒否権というものがあってだな……」
「……ユウにはない」
「残念!俺は人間じゃなかったようだ!」
「だから、さっきからペットだって言ってるじゃないか」
「黙り腐れ、バカ野郎」
「黙りこくれよ、犬畜生」
アスナが呆れた視線でこちらを見ている。なんか、最近呆れられることが多い気がするな……。
そのとき、僕の横によくわからない具材によくわからない味付けをしたおかずの乗ったプレートが置かれた。
「隣いいかしら?」
落ち着いた声で、そう僕に尋ねたのは、秀吉と瓜二つの美少女、優子だった。
「うん。どうぞどうぞ」
そう言って、僕は人一人分のスペースを開ける。それを見て、優子は何故か複雑な表情をしていたが、数回目を瞬かせると、スカートを後ろから押さえながら、僕の隣に腰掛けた。
そして、向かいのムッツリーニの横には、優子と同じようにリーベが座った。
「何故、二人ともこっちに移ってきたのじゃ?」
そう言って、秀吉はキリトとアルゴの座る四人掛け用の小テーブルを見やった。
その疑問に、先に応じたのは、リーベだった。
「いやー、ちょっとあのテーブルが辛気臭くてさ〜」
「あの二人、ずっと真面目な話ばっかりしてるのよ?いくらアタシでも気が滅入るわ……」
うーん。そこまで言われると、あっちの会話も気になるな。
そう思って立ち上がろうとした時、優子は、何か言いたげにこっちを見ていた。
「ん?どうしたの、優子?」
「え?あ、いや、何でも無いわよ」
気のせいかな?そう思って、僕は席を立った。
歩くたびに軋む床板に、改めてリアルだなあ、と感じてしまう。
「お邪魔していいかな?」
「ああ」
「いいゾ」
ほぼ同時に首肯するキリトとアルゴ。それを聞いて、僕は、隣あって座る二人の向かいに腰掛ける。
「あ、そうだ。アルゴ、強化の過程で武器がこわれることってあるの?」
何と無く聞いた問いに、二人が揃って微笑する。
「それなら俺がさっき聞いたよ。可能性があるのは、試行回数を使い切った、エンド品を無理矢理強化しようとしたときぐらいらしい」
よく考えると、こんな重要案件をキリトが聞いていない方がおかしいかもしれない。
その時、エンド品という言葉が僕の記憶の奥をピリッと刺激した。しかし、その感覚を掴もうとすると、モヤがかかって見えなくなってしまった。
「ああ、そうだ。アルゴ、迷宮区一階・二階のマップデータだ」
当たり前のことをするかのように、キリトはアルゴに、オブジェクト化させた地図を差し出す。
「いつも悪いナ、キー坊。前から言ってるケド、規定の情報代ならいつでも……」
「いや……マップデータで商売する気はないよ。地図を買わなかったせいで死ぬプレイヤーがいたら寝覚めが悪いしな……。でも、今回はその代わりっていうか、一つ条件付きの依頼を受けて欲しい」
どうやらキリトは、早速本題に入ろうとしているらしい。
「ふぅン?まあ、オネーサンに言ってみナ?」
冗談めかしたそのセリフに、キリトは少しドギマギしてるようだった。
苦笑の表情を真剣なものに改め、剣士は鼠に用件を伝えた。
「アルゴももう存在は知ってるだろうけど……」
そこでさらに、キリトは語気を弱め、店内の様子を確認した。
僕ら以外の客はおらず、もし路地から聞き耳スキルを使われていても、となりのテーブルが騒がし過ぎて、このボリュームの会話なんて聞き取ることは不可能だろう。
僕と同じ結論に達したであろうキリトは、商談を続けた。
「……今朝の『ブルバス・バウ』討伐戦に参加してた、『レジェンド・ブレイブス』っていうチームの情報が欲しい。メンバー全員の名前と、結成の経緯」
「ふム。……条件、ってのは何ダ?」
「俺が彼らの情報を欲しがっていることを、誰にも知られたくない。彼ら自身には特に」
さて、これにアルゴはどう答えるのだろうか。僕の知っている情報屋アルゴのモットーは、売れる情報はなんでも売るということだ。彼女が、その信念を曲げるとは思えないのだが……。
「ん〜……ンン〜〜〜」
思いの外悩んでいるようだ。
「ま、いっカ」
「あっさりだな!」
おっと……思わずつっこんでしまった。
アルゴは僕にニヤリと笑った後、キリトに向き直り、少しの艶かしさを見せながら言った。
「でも、これは憶えといてくれよナ。オネーサンが、商売のルールよりキー坊への私情を優先させたってことを」
☆
【取り急ぎ、第一報】
宴会の終了から一時間程経った頃、キリト宛にアルゴからのメッセージが届いた。
キリトが素早い操作でウィンドウを可視化してくれたので、その場に居合わせた僕は画面を覗き込んだ。
そこに記されていたのは、やはりと言うかなんと言うか、レジェンド・ブレイブスメンバーの情報だった。
幾ら何でも早すぎるだろ、と苦笑しつつ、僕は文面に視線を走らせた。
まず目に入ったのは、リーダー、オルランドの名だった。
レベル11、盾持ち、やや重装タイプの片手直剣使い。
名前の由来まで記しており、オルランドというのは『シャルマーニュ十二勇士』の一人らしい。
そして、ベオウルフやクフーリンの情報を確認した後、最後にネズハの名前があった。
レベルは10と何故かそこそこ高い。ビルドは、当然鍛冶屋タイプ。そして名前の由来が……
「「…………え!?」」
僕らは、二人揃って声を上げた。そこに書かれていた、アルゴにとっては何気ない一文が、僕らの先入観を全て吹き飛ばしてしまったのだ。
「読み方が……全然違ったんだ!」
「で、でも、ブレイブスの連中は彼のこと『ネズオ』って呼んでたぞ……!?」
その文章に読みふける僕の傍らで、キリトは顎に手を当てて何かを考えこんでいる。
「あっ…………!」
キリトは、自らの左手を開き、もう一度握った。
「そうか……そういうことだったのか……!」
☆
「強化、頼む」
SAO初のプレイヤー鍛冶屋は、全身甲冑姿の男に、怪訝な目線を向けていたが、やがて男に差し出されたアニールブレードを受け取った。
この男はつまり、キリトの変装第二弾である。顔が見えてはいけないとは言っても、このセンスは何なのか。
ちなみに僕は、鍛冶屋の裏手にある喫茶店に待機している。
「プロパティ、拝見します」
そう言って、鍛冶屋は剣をタップ。ウィンドウを開き、ステータス窓を確認する。
「アニールの+6……試行二回残し、ですか。しかも内訳が……
ネズハは、口元を綻ばせながら呟いた。だが、その笑みは邪悪なものでなく、それがいっそう僕の、詐欺への疑問引き立てた。
しかしその笑顔は、波打ち際の砂山のように淡く溶け、代わりに悲痛な色が彼の表情に張り付いた。
「…………強化の種類は、どうしますか?」
あまりに長い間。続けることを拒むかのように、鍛冶屋であることを拒むかのように。
「スピードで頼む。素材は料金込みで、九十パーぶん使ってくれ」
「……解りました。確率ブースト九十パーセントだと、手数料と合わせて、二千七百コルになります」
「それでいい」
金属鎧による、強いボイスエフェクトがかかった声で、キリトが肯定の言葉を返した。
そして、キリトはメニューウィンドウを操作し、鍛冶屋に二千七百コルを振り込んだ。普通ならここで窓を消すが、後々のためにわざと残しておく。幸い、ドワーフ顔の少年はこれに対して、特に変だとも思わなかったのか、通常通りの対応をした。
「……二千七百コル、確かに頂きました」
それを聞いて、僕はそっと胸を撫で下ろしたが、すぐに居住まいを正して、目と耳を澄ます。
鍛冶屋が強化素材を炉にくべ、携行炉から強いライトエフェクトが放たれる。
その瞬間、カーペットに並ぶ剣と共に置かれたアニールブレードを、空いた左手で鍛冶屋がそっと叩く。一瞬だけ刀身が瞬く。
これだけでもう、武器すり替えが完了した。本当に、よくこんなトリックを思いつくなと、呆れ半分、感心半分に頭の中で呟いた。
今アンビルの上に乗っている剣は恐らく、三日前にリュフィオールから下取りしたアニールブレードだ。
つまり、+0のエンド品。無理矢理に強化しようとすると壊れてしまうそれに、強化対象を変更したのだ。
どうしようもなく悲しげに歪む表情は、自らの手で壊してしまう剣への追悼だろうか。
十回目、最後の槌音がカァーンと鳴り響くと同時に、僕らの予想通り、アニールブレードは、硝子のような音を立てて砕け散った。
沈痛な面持ちで、俯きながら謝罪の言葉を述べようとする一歩手前で、キリトは先んじて口を開いた。
「いや、謝る必要は無いよ」
「…………え…………」
相手からこの言葉が出るということは……、今、鍛冶屋の中では、最悪の想像が駆けていることだろう。
それを肯定するかのように、剣士は、分厚い甲冑を消し去っていく。
最後に、黄色と青のバンダナも外し、第一層ボスのラストアタックボーナス、コートオブミッドナイトを装備した。
鍛冶屋の顔には、驚愕と絶望、そして少しの安堵が入り混じっていた。
「…………あ、あ…………あなたは…………あの時の…………」
もう彼も悟っている筈だ。漆黒のコートに身を包む目の前の剣士が、強化詐欺の本質を理解していることに。
そしてキリトは、詐欺の手口と同じ方法を使って、右手にアニールブレードを出現させた。
「まさかこんなに早く、しかも鍛冶屋が『クイックチェンジ』のModを習得してるなんて、誰も思わないよな……。その上、発動に必要なメニューウィンドウを、カーペットと売り物の間に隠すアイデアも見事なもんだ。この手口を考えた奴は、正直天才だと思うよ……」
Modとは、武器の熟練度が五十増えるごとに習得できる追加オプションだ。
『クイックチェンジ』は、片手武器なら、最初から、つまり、何かしらのスキルで熟練度が五十に達したときから取得できる。
その効果は、あらかじめショートカットアイコンに武器を設定することで、タップ一つで武器の変更が出来ること。
さらに、細かく設定することで、最後に装備した武器と同名の武器をストレージ内から自動で検索し、取り出すことも可能なのだ。
つまり、この詐欺の仕掛けは、客から武器を受け取った時点で装備状態となった武器を、客が炉内の素材が発する光を見ている間に、左手で武器をタップ。その、コンマ一秒もかからない動作ですり替えは完了してしまうということだ。
そしてキリトは、自分のクイックチェンジに設定していたアニールブレードのセルをタップすることで、所有権の優先効果により、手元に戻したのだ。
これが、この強化詐欺の手口、その一部始終である。
投稿に一週間かかってしまいましたね。
でも、次はもっとかかっちゃいます。なんてったって、学年末テストなんて七面倒なものがありやがるわけですから。
というわけで、二週間ほど投稿することがかないませんが、気と首を長くしてお待ち下さい!