僕とキリトとSAO   作:MUUK

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第十四話「儚き剣のロンドーⅦ」

二層に連なる無銘で無数な山々、その内の一つの頂上付近に腰掛けている。

何故こんな所にいるかというと……

 

「もうちょっとね」

 

そう言って、アスナは第二層迷宮区直前に広がる盆地を指差した。

そこを陣取る巨大牛の名は『ブルバス・バウ』。アインクラッド第二層最後のフロアボスだ。

つまり僕らは、迷宮区に入るための待ち時間で、フィールドボス戦の高みの見物を決め込んでいるのだ。

攻略パーティは、六人パーティが二つとリザーブ三人だった。

 

「あそこにいる、待機組三人の名前知ってるか?特に、真ん中のバシネット被った奴」

 

キリトが僕ら二人に向けて、僅かに焦りの色が混じった声でそう問いかけた。

 

「僕は知らないけど……」

そう言って、僕はアスナを横目で見やった。

するとアスナは、なんでもないような顔で言った。

 

「知ってるわよ」

「な、なんて名前?ていうか、何で知ってるの?」

 

キリトは何をそんなに焦っているんだろう?

 

「名前は確か……オ……オルランドさんだったかしら……。一緒に偵察隊をしたのよ」

「オルランド……?今度は騎士ならぬ聖騎士様か……」

 

騎士というのは、今は亡き青髪の美男子、ディアベルのことだろう。そして、オルランドはフランスの騎士だったかな?

次にアスナは、小太りの聖騎士の右に立つ小柄な男を指差した。

 

「あの人はベオウルフって名乗ってたわ。それで、反対側の痩せた槍使いがクフーリンさん」

「あー……それも伝説上の英雄だな。デンマークの叙事詩とケルトだったかな」

 

なんて言うか……痛いな……。

 

「あの人たち、もうギルド名も先に決めてるみたい。確か『レジェンド・ブレイブス』って言ってた」

「……そうか……うーん……うぅーーーん!」

 

どうやらキリトも僕と同じ感想を持ったようで、半笑いのまま唸っていた。

画面越しでプレイする普通のネトゲなら、アバターにどんな名前を付けようと問題ないだろうが、自分自身がアバターのVRMMOで、あの名前はちょっと大胆すぎやしないだろうか。

 

「……あの人たち、昨日の朝に前線攻略プレイヤーがマロメの村で偵察前の打ち合わせしてるとこに乗り込んできて、一緒にやりたいって言ったのよ。リンドさんがステータスを確認したら、レベルとスキル熟練度は攻略隊の平均より少し落ちるけど、装備がかなりしっかり強化してるみたいで……いきなり一軍は無理としても、リザーブなら充分だろうってことになったの」

「……そうか……。なるほどな……」

 

アスナの言葉に頷いたキリトの真剣な視線の先には、

 

「うおおぉぉぉぉっ!」

 

そんな雄叫びを上げながら、フィールドボスに果敢に斬りかかる片手剣使い、オルランドの姿があった。

その得物は、キリトの背中に刺さるものと全く同じ形状の武器、すなわちアニールブレードだった。

 

それから五分くらい経ち、アインクラッド第二層最後のフィールドボス、『ブルバス・バウ』がその巨体を青いガラス片に変えた。

それを見守った後、僕はキリトに些細な疑問を投げかけてみた。

 

「そういえば、なんでキリトはあの人たちが気になるの?」

「え、ええっと……」

 

キリトはどちらかと言うと、アスナの視線に怯えていて、僕に目線でヘルプを送ってきた。

いや、内容もわからないのに助けを求められても……。

数秒の逡巡の後、キリトは意を決したように小さく頷き、言った。

 

「……鍛冶屋ネズハは、『レジェンド・ブレイブス』の一員だ」

「え……!それって……じゃあ……」

 

アスナは何かを悟ったようだったが、僕は脳の情報処理能力が追いつかなすぎて困っていた。

キリトはそんな僕を待ってはくれなかった。

 

「ネズハが行っている強化詐欺は、集団の……つまりはリーダーであるオルランドの指示によるものだと、俺は思う。……ネズハのスミスショップがウルバスに現れたのって、正確にはいつ頃なのか知ってるか?」

 

キリトは完全にアスナの方へ向いて言った。僕は戦力外通告されたようだ。

 

「ええと……二層が開通した、その日だったと思うけど……」

「ってことは、まだ一週間経ってないのか。でも、ウインドフルーレやアニールブレード級の……しかも強化済みの剣を、一日に一、二本搾取するだけでも大変な儲けだろうな。普通に狩りで稼げる金額の、十……いや、二十倍はいくか……。アスナ、さっき言ってただろ。オルランドたちは、ステータスの低さを、武装の強化度で補ってるって。武器のスキル熟練度は戦闘しなきゃ上がらないけど、強化は……」

「お金があればいくらでもできる。そういうことね」

 

うーん……。何言ってるかわかんないな……。そう思っていると、アスナが明確な決意の炎を目に宿して、立ち上がった。

おっと……。これは、アスナさんのブチ切れ状態だな……。

アスナはそのまま、山を下ろうとしたので、僕とキリトが慌てて前に立ち塞がった。

 

「アスナ、落ち着いて!」

「ああ、気持ちはわかるけど、まだ何の証拠もないんだ」

「だからって、このまま……」

「少なくとも、強化詐欺のトリックぐらいは見抜いてからじゃないと、逆にこっちが名誉毀損扱いされちゃうよ。この世界にはGMはいないけど、だからこそ多人数に敵視されるのは危険だし、アスナまでビーター扱いされる必要は」

 

僕は、そのまで言いかけたキリトの脇腹を小突いた。

同時にアスナからも、鋭い視線が送られ、キリトはたじろいた。

 

「それこそ今更な気遣いよ、これから一緒にダンジョンに入ろうっていうのに。でも、言わんとするところは理解したわ。確かに証拠どころか仕組みも不明じゃ、ただのいいがかりね……」

 

アスナはそこで一拍置き、少し眉をひそめて、声の調子を下げた。

 

「わたしも、何か考えてみるわ。武器すり替えのトリックを暴くだけじゃなく、明白な証拠を押さえられるような手を」

 

アスナの瞳に宿る色は、さっきが激憤の赤だとするなら、今度は高熱を秘めた青だった。

そして僕らは、二人揃って、アスナの瞳に青ざめていた。

 

 

「嫌っ……来ないで……!近づかないで……!」

 

薄暗闇の中、怯えながらも明確な拒絶の意思を表す美少女。それに、のそりのそりと近づく筋骨隆々の大男。

サスペンス?ホラー?いえいえ、スプラッタです。

 

「来ないでって……言ってるでしょ!」

 

美少女の持つ細剣が光を放ち、大男の身体の随所を穿つ。

ね?スプラッタでしょ?

 

「ブ……モオオオオオッ!」

 

そんな断末魔の悲鳴を残して、牛頭の大男は青白く光るポリゴンを撒き散らしながら消滅した。

 

「牛じゃないでしょ、こんなの!」

 

確かに、頭以外はただのマッチョ男である。それが、腰に薄手の布一枚だけ巻いた状態で迫ってくるのだ。確かに、ちょっとキツイ。

僕らは、フィールドボスが倒されると同時に、迷宮区に誰よりも早く到達し、キリトの指示ルートの通りに進んで、宝箱を根こそぎ取るという、もうビーターと言われてもしかたのないようなことをしながら、迷宮区の二階に到達していた。

その時だった。誰もいないと確信していたはずの背後から確かに僕らに向けて声がかけられたのだ。

 

「あ!よう、お前ら!」

 

振り返った僕の目の前にあったものは、赤みがかった髪を逆立たせた、醜悪な顔のMobだった。

 

「うわ!また気持ち悪いモンスターが!アスナが嫌がるから、早めに倒さなきゃ!」

「よう!キリト、アスナ」

 

ほう、無視ときたか。

 

「おいおい、誰か忘れてやしないかい?」

「なんだ。まだ生きてたのか。悪運の強い野郎だな」

そんな言葉は悪役しか吐かない。

「お前は僕の敵だったのか?」

「逆に敵以外のなんなんだ?」

 

邪悪な笑みと共に、互いの刀身が光り出す。

 

「はぁ……あなたたち、そこまでにしときなさい」

 

ため息まじりに、優子がそう注意した。

 

「やあ優子。久しぶり」

「なんであなたはそこまで、テンションを使い分けられるのかしら……、まあ、久しぶり……」

 

あれ?ひょっとして僕、呆れられてる?

 

「いや、ひょっとしてではなく、完全に呆れられてると思うのじゃが……」

 

あ!久しぶりだね、秀吉。

 

「だから、心で会話しようとするでない!」

「へえー、すごいね。ライト君と秀吉君って心で会話できるんだ〜」

 

リーベが冗談めかして、そう言った。

 

「うん!僕と秀吉は心で通じ合ってるからね!」

 

何故か優子の顔が紅潮していた。どうしたんだろ?

 

「……ライト、ちょっと話がある」

「うわあ!びっくりした!ムッツリーニか……、驚かせないでよ」

「……そんなことより、俺と割り勘で、映像記録結晶を買って欲しい。もしかすると、この世界でムッツリ商会を開業できるかもしれない」

「詳しく聞こうか」

 

密会をする僕らから離れた場所に、ユウとティアが腕を組んで……

 

「待て、ティア!ここは圏外だぞ?関節技をきめられると、俺のHPゲージがジリジリと減少するんだが」

「……絶対に離さない」

「お前は人造人間十九号か!?」

 

腕を組んでいた。

その時、呆気に取られたようなキリトの呟きが耳に入った。

 

「……なんか、いきなりカオスなことになったな……」

 




今回、意識して地の文を少なくしてみたのですが、いかがてしたでしょうか?

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