僕とキリトとSAO   作:MUUK

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すいません!更新遅れました!一昨日に投稿すると言ったのに……。
しかも、今回は何のスピード感もない説明回です……。

一応、話の流れと大いに関係があるので、読んだ方がいいとは思うのですが、如何せんツマラナイ!

あまり、期待せずどうぞ。


第十二話「儚き剣のロンドーⅤ」

バンッ!ゴロゴロッ!

そんな擬音を立てながら、キリトはアスナの寝室に転がり込んで来た。

そして、ベッドに座る細剣使いの膝の上に置かれた優美なレイピアを見て、胸を撫で下ろして言った。

 

「はあ……よかった……」

「ああ、キリト君。丁度良かったわ。そこで、ライト君と一緒に正座しなさい」

 

キリトは、一瞬だけ顔が硬直したが、徐々に苦々しい表情になり、言った。

 

「…………はい」

 

 

僕ら二人は、仲良く並んで正座をしている。

僕は、体はアスナに向けているが、視線は自分の膝の上にある手の甲に一直線だ。

手の中で湿った感覚が表層化する。システムが僕の感情を読み取り、冷や汗をかかしているのか、それともただの錯覚か。どちらにせよ、僕の頭上に視線の氷柱が降り注いでいるという事態は揺らがない。

 

「……いろいろ検討してみたんだけど」

 

いきなり、仮想の空気の振動に、僕らの身体もビクリと振動する。そして、焦るように二人揃って返答した。

 

「「は、はいっ!」」

 

懐疑的な目を僕らに向けながらも、アスナは次なる言葉を紡いだ。

 

「わたしが今感じてる怒りを百Gだとすると、今感じてる喜びも百Gなのよ」

「てことは、プラマイゼロ?」

 

キリトの素早い返答。伏せられていた目に光が宿った。

そんなキリトにアスナは優しく微笑みかけ、言葉を発した。

 

「いえ、やっぱり感謝の気持ちも伝えたいから、一Gぶんライト君に感謝して、一Gぶんキリト君をぶん殴るわ」

「チョット!ソレオカシイヨ!」

 

エセ中国人みたいな発音で紛糾するキリトの横で、僕はそっと胸を撫で下ろした。

 

ドンガラガッシャーン!

 

閑話休題

 

キリトは、窓の外に吹っ飛ばされたついでに買ってきたワインとナッツをゴトリと宿屋の床に置いた。

ちなみに、この世界の酒類は、味は再現されているものの、実際に酔ったりはしない。まあ、酔った気分になって暴れる奴は時々いるが。

アイテムストレージを操作し、キリトが三人分のワイングラスをオブジェクト化した。

透き通った、滑らかな曲線を描くソレに、赤褐色の液体が、指ぬきの黒いゴム製グローブをした剣士の手からトクトクと注がれる。

グラスを手に取り、ゆっくりと回すとフルーティな香りが鼻腔をつつく。口に含む。香りの通り、爽やかで飲みやすい。酒というより、ジュースに近い味わいだ。例えるなら、ボージョレヌーボーだろうか。

おそらくこの選択は、アルコールを飲んだことがないであろうアスナに気を使ったのだろう。

そんなキリトの気遣いなど気にも留めず、アスナはワインを煽った。そもそも、これまで酒を飲んだことがないなら、そんな気遣いに気付けないんだろうけど。

今の一瞬で、僕、気って何回言った?

そんなどうでもいい思考を中断し、僕はさっきから持っていた疑問を口にした。

 

「そういや、さっきのって、何で単位がGだったの?」

 

それ、蒸し返すなよ、というアイコンタクトがキリトから送られてきたが、無視してみた。というか、いつの間に僕はキリトとアイコンタクトで会話出来るようになったんだろうか。

 

「ああ、分かってなかったのね。衝撃加速度よ」

 

僕は再度首を傾げた。あれ?何故か二人からの視線が妙に優しいような……、この空気に耐え切れず、僕は話題を変えるべく、まだ微かにワインの余韻が残る口を開いた。

 

「あっ、そうだ、キリト!さっきのタネを教えてよ!なんで砕けたはずのウインドフルーレがアスナのアイテムストレージに入ってたのさ!」

「え?ライト君も知らなかったの?」

「うん。僕はただ、キリトの言うとおり行動すれば、ウインドフルーレが戻ってくるって言われただけだからね」

「分かった。説明する。でも、長くなるよ、かなり。俺も仕掛けの全体像を把握してるわけじゃないし」

「構わないわ。まだまだ夜はこれからでしょ」

 

そう言って、アスナはナッツを一つ手に取り、口に放り込んだ。

 

「ライトはさっき、『なんで砕けたはずのウインドフルーレがアスナのアイテムストレージに入ってたのさ』って言ったよな」

「うん」

「そこが、この仕掛け……っていうかトリックっていうか……ぶっちゃければ『強化詐欺』のキモなんだ」

 

アスナが怪訝な顔をする。かくいう僕も、これには穏やかにいられない。強化詐欺は他のプレイヤー鍛冶屋がいるMMOタイトルでは、見ないほうが珍しいほどのメジャーな詐欺方法の一つだ。だがそれは、画面越しに、しかも操作が全て相手の画面内で行われるからこそ成り立つものであって、強化過程まで全て丸見えのSAOでは簡単に出来るものではない。まあ、アスナはそんな事情など理解していないだろうけど。

 

「口で説明するより、見てもらった方が早いかな」

 

そう言って、キリトは自分のメインメニューを、僕らに見えるように可視化し、

 

「ここ。俺の装備フィギュアの右手セルには、『アニールブレード+6』のアイコンがあるだろ?」

 

僕らは、それに小さく頷き、先を促す。するとキリトは、アニールブレードを鞘ごと背中から取り外し、床に置いた。それに連動して、メニューの右手セルを薄く灰色が覆う。

 

「これが、『装備武器の落下(ドロップ)状態』なのは知ってるよな?」

「うん。一層にディスアームのMobもいたしね」

「ああ、あれには慣れてないと手こずるんだよな。っと、脱線したな。ええと……んで、アスナ、その剣を拾ってみてくれ」

 

眉間にシワを作りながら、アスナはウインドフルーレを腰の象牙色の鞘に戻し、アニールブレードに手を伸ばした。

 

「これでいいの?」

「うん。ほら見てみろよ」

 

そう言って、キリトが指差した場所は、さっきと同じ右手セルだった。しかし、そこには、グレーアウトしていたアニールブレードの名が綺麗さっぱりなくなっていた。

 

「これが、戦闘中なら『武器奪われ(スナッチアーム)状態』って奴だ。ディスアームと違って、スナッチ技まで使う敵はかなり上の層まで行かないと出てこないけど、ソロで喰らうと相当ヤバイぞ。そこまでに、武器スキル派生Modの『クイックチェンジ』は絶対取っておかないと……いや、そうじゃなくてええと」

 

ゴホンと咳払いして、キリトは会話の軌道修正をした。

 

「で、まあ、さっきアスナが鍛冶屋にウインドフルーレを渡したときは、この状態になるわけだ」

「…………!」

 

アスナはこの先の展開を予測できたようだ。眼光を引き絞り、アニールブレードをじっと見つめている。

ちなみに、僕はまだ、何も分かっていない。

 

「でもな、いいか、重要なのは、このようにセルが空っぽで、一見何も装備していないように見えても……そのアニールブレードの『装備者情報』はクリアされていないってことだ。この装備権って奴は、単なるアイテム所有権よりずっと強く保護されてる。たとえばいま、そのアニールブレードの所有権は、アスナに手渡してからたったの三百秒……五分でクリアされて、次に誰かのストレージに入った瞬間にそいつの物になるわけだ。でも、装備権の持続時間は遥かに長い。クリアされるのは、放置もしくは手渡し状態になってから三千六百秒が経過するか、あるいは、俺の手に次の武器が装備されたときだ」

 

アスナは目を上に向け、思考を巡らせてから、唐突に口を開いた。

 

「つまり、さっきライト君がわたしのメニューを確認した……いや、キリト君が奪い見させたのは、それを確認したかったからなのね。わたしが他の武器を装備してしまっていないことを」

「うん。キリトは僕にまず、武器が右手に装備されていないか、されていなければまだ、助かる見込みがあるって言ってたね」

「で、第二の条件は、武器を預けてから三千六百秒ーーつまり、一時間以内であること。その条件を満たすために、俺はライトに頼んだんだ」

 

すると、アスナは思案顔で呟いた。

 

「……じゃあ、あなたはさっきまで何処にいたのよ?」

 

鋭い眼光にキリトの目が泳ぐ。そして、なんとか絞り出した答えをキリトが呟く。

 

「いやあ……ちょっと調べものをしてまして……」

 

狼狽するキリトと、射抜くアスナの視線が交わされる。

数秒後、レイピア使いはため息まじりに視線を外し、ホッと胸を撫で下ろした。

 

「ええと……話を戻すぞ。その二つの条件を満たしていれば、装備武器がどこにあろうと、問答無用で引き戻す最終手段があるわけだ。ライトは最初に『なんで砕けた剣がアイテムストレージに入ってたのか』って言ったけど……」

 

ここまで言われれば、僕にもそれなりに理解できてきた。

 

「……つまり、アスナの剣は砕けてなかったし、アイテムストレージに入ってたわけでもなかったんだね」

 

その僕の言葉に続くように、アスナが仮想の空気を震わせた。

 

「そして、剣を回収する最終にして唯一の手段がさっきの操作……『所有アイテム完全オブジェクト化』。で、一分一秒を争う事態だったから、ライト君にあんなことをさせたのは正当だと、あなたはそう言いたいわけね」

 

キリトの顔面が全体的に引きつった。

 

「ま、まあそーゆーことになる……カナ?」

 

アルゴみたいな口調でそういうと、アスナはそれが気に障ったのか、鼻を鳴らして黙ってしまった。

というわけで、僕が代わりにキリトにちょっと心につっかえていたことを尋ねた。

 

「そういえば、あの完全オブジェクト化ボタン、なんであんなに使いにくいとこに設定したのかな?それと、全アイテムが絶対に一気に出ちゃうところも使いにくいよね」

「そうよ。出せるアイテムを設定できたら、下……関係ない装備までオブジェクト化されなかったのに」

 

関係ない装備というのは、あのヒラヒラしたレース類のことだろうか。あのときは、焦ってあまり意識してなかったけど、結構すごいことしてたなあ。思い出したら、恥ずかしくなってき……

 

「ライト君?死にたい?」

「いやいや、そんな滅相もありません!」

 

くっ!思考を読まれたのか!

 

「元を話に戻すけど、答えは、ライトの言った通り、『使いにくくするため』だよ」

 

キリトが苦笑いを浮かべながら、話の筋を戻した。

でも、僕の理解力ではその言葉の真意は測れなかった。もしかすると、言葉通りの意味じゃないのかもしれないな。ちょっと聞いてみよう。

 

「その心は?」

「別に謎かけじゃないぜ。つまり、さっきのは『最終的救済手段』なんだ。アイテムを無くすのは自分のミスなんだから、本質的には失ったアイテムは諦めなきゃいけない。でも、それだと難易度が高過ぎるっていう制作側の判断だろうな。一つだけ、救済手段が与えられてる……けど、安易に使えないように制限もされてるってわけだ」

 

キリトがナッツを手に取り、指で弾いて口でキャッチした。これを現実でやると、惨事が起こる可能性があるのでやめた方がいい。ナッツ類は喉にはいると、気管の水分を吸って膨張し、完璧に喉をふさいでしまうのだ。経験者は語る、である。あの時、姉さんが背中をどついてくれていなかったらどうなっていたことか。肋骨が三本ほど折れたけど。

その時、フェンサーの凛とした声が僕のどうでもいい思考をせき止めた。

 

「とりあえず、剣が戻ってきたロジックについては了解したわ」

 

マルーンの液体を口に流し込み、キリトの真意を探るかのように目の鋭さを際立たせ、言った。

 

「でも、これでようやく半分よね?だってわたし、確かにみたもの。鍛冶屋さんに手渡した剣が、鉄床の上で粉々に砕けるのを。戻ってきたこのウインドフルーレが、元々わたしの装備していた剣だっていうなら……あの時壊れた剣は、いったいなんだったの?」

 

確かに、この問題の最大の疑問であるその仕掛けに、キリトはまだ何の言及もしていない。

するとキリトは、瞼を閉じて考え込んだ後、徐に口を開いた。

 

「正直、俺もそっちのロジックについては百パーセント解明できたわけじゃない。でも、これだけは言える……アスナのウインドフルーレは、ネズハに手渡してからアンビルの上で消滅するまでのどこかの段階で、同種の別アイテムにすり替えられたんだ。俺は最初、彼は特定プレイヤーの武器を意図的に壊しているんだと思ったけど、でもそうじゃなかった。彼は、アインクラッド初のプレイヤー鍛冶師にして、初の『強化詐欺師』だったんだ……」




跨いじゃいました!やっちまった!何してんでしょうね……。

まあでも、次はちょっと説明したら戦闘回です!


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