僕とキリトとSAO   作:MUUK

1 / 101
皆さんの暇つぶしになれば最高です!


第一章「アインクラッド」
第一話「リンクスタート!」


バシィィイイィィッッ!!

 

雷鳴を想起させる炸裂音が、混濁した脳髄に伝播した。

瞬間。

めまぐるしい意識の奔流が、僕の身体を置き捨て、遥か彼方へと過ぎ去った。

 

瞼を開く。

 

辺りは目が痛いほどに真っ白だ。首を左右に回しても、シミの一つも見当たらない。

純白の世界で一抹の不安を抱えながら、僕は自らの腕に視線を落とした。

そして、我が目を疑った。

直視が憚られるほどに、しかし同時に、視姦せずにはおられないほどの、高貴な『金』が、そこにはあった。

艶やかに細工された黄金は、今生で目に入れた凡ゆるモノを、有象無象と切り捨てさせた。それほどの絶対的な美しさに満ちていた。

そんな物質が、僕の表皮を一分の隙もなく埋め尽くしている。

有り体に述べれば、フルプレートアーマーだ。だが、抽象的に想像される、中世の騎士が着込むような甲冑姿ではない。

金色の鎧には未来的な意匠が施され、むしろロボットのようにも見て取れる。

 

────ふと、背中に違和感を覚えた。

無い筈の物が在る感覚。

太古の昔に、ヒトという種族が手放した器官。

気がつけば、僕は肩甲骨周りの筋肉に思いっきり力を込めていた。

ソレが何かも解らないまま、ただ徒らに、動け、動け、と念じながら。

果たして、蠕動の念は通じた。

浮遊感。

比較対象の一つも無いこんな世界でも感応する、衝動的な飛翔だった。

自然と上空に手を延ばす。

ああ、このまま飛んで行こう。どこまでも。どこまでも────

 

 

────夢、か。

 

瞼を開く。

 

見慣れた風景。

そこでは、黄金色の鎧も突き抜けるような浮遊感も、砂上の楼閣が如く崩れ去っていた。

頭上に広がるのは木製の天井。眼下に広がるのは、白染の世界などではなく、嫌に薄汚れた白地のシーツだ。

僕は右手で、敷布団をくしゃりと掴んだ。

時を同じくして、頭に『アレ』を被りながら眠っていた事に思い至った。

自分の頭に手を掛ける。些細な機械音を立てて、僕の脳から洗練されたデザインのヘルメットが引き剥がされた。

『ナーヴギア』。

それが、僕の手に在る夢の機械に付けられた名だ。

この装置が産み落とされたと同時に、世界にはフルダイブという言葉が生まれた。

フルダイブとは、五感全てを情報世界へと置換する技術だ。僕のような凡俗からすれば、それは神の所業とも思えてしまう。

そんな大層な機械を、被ったまま寝るなんて雑な扱いをしてしまった訳だが。はて、昨夜の僕は何故、ナーヴギアの使用中に意識を途絶えさせてしまったのか。

考えるうちに、寝起きで朦朧とした意識は次第に彩度をあげていく。

そういえば、僕は出来るだけ早くフルダイブ環境に慣れようとしていたんだった。明日からの正式サービス開始に合わせて、自由に手足を動かせるようにと……。

明日?正式サービス?

ハッと時計を見る。

時針は11。分針は10を指し示している。

良かった! まだ開始まで余裕がある。オンラインゲームで出遅れるのは、本当に洒落にならないからね。

灰色のヘルメットを傍らに置き、少し勢いをつけてベッドから立ち上がる。マットレスが、ギシリと音を響かせた。

六畳の自室を歩き、システムチェアーに腰掛ける。パソコンを立ち上げ、慣れた手つきでテレビ電話のアプリケーションを起動させた。

通話先は三人の悪友だ。秀吉、ムッツリーニ、雄二の順にコールボタンをクリックした。

お決まりの発信音がボイスチャット機能搭載のヘッドホンから流れ出す。

中古だったせいか、買って三ヶ月で音割れを始めたが、買値が買値だったのであまり気にしていない。

数刻の後、画面右上の『calling now……』のノイズ表示が、色彩のある映像へと切り替わった。

現れたのは、タレ目が特徴的な、大人しそうな少年。間違いない。寡黙なる性識者(ムッツリーニ)こと土屋康太だ。

 

『……もしもし』

 

ボソボソとした声が僕の耳朶を打った。

 

「やあ、ムッツリーニ。ついに正式サービス開始だね!」

『……ああ、楽しみだ。昨日も興奮して眠れなかった』

 

ムッツリーニ瞳を閉じ、回想に耽り始めた。

そして、いきなり鼻血を吹き出し始めた。

 

「君は何を思い出してるんだい?」

『……ナーヴギアの構造について』

「うん。それで鼻血が出る奴は、相当な変態だと思うんだ」

 

一体、この男は何に興奮して眠れなかったのか。また今度問いただして、その原因を剥奪せねばなるまい。彼の友人として、これ以上彼に血を流して欲しくないのだ。

ムッツリーニに呆れていると、今度は画面左下の砂嵐が、意味のある映像へと変容を開始した。

 

『よう、明久。ムッツリーニ』

 

赤髪を逆だたせた、野性的な青年が映し出される。

 

「いよいよだね、雄二」

「おう、そうだな。ゲームショップに四日間ならび続けた苦行も、やっとこさ報われるぜ」

 

そう言った坂本雄二の頬には、普段は決して浮かべない、少年のような笑みがあった。注視すると、仏頂面が常のムッツリーニも、今日ばかりは雄二と同じく、ほんのりと笑っている。

かく言う僕も、同様の笑みを見せているのだろう。と、鏡を見るでもなく想像してしまう。

しょうがないだろう。こんな状況で冷静さを保てるほど、僕は大人じゃない。なんて言ったって、初回は限定一万台の、初のフルダイブ用MMORPGソフトを四人揃って手に入れることが出来たのだから。

その時、テレビ電話の最後の一枠が、突如として彩度をあげ始めた。その現象に、僕は是非もなく高揚してしまう。

真珠色の透き通る肌に、肩口に掛かるくらいの甘く優しいチョコレート色の髪。誰をも惹きつける魅惑的な翡翠の瞳。

例え画面越しでさえも、百人に聞けば百人が頷く絶世の美少女────もとい美男子だ。

 

「おはよう、秀吉。今日もゲーム日和の天気だね!」

「人はそれを曇天と言うんじゃぞ?それに、時刻は昼時じゃ。お主は業界人では無かろうに」

 

秀吉は微笑みで言葉をかえした。その表情に見惚れ、思わず感嘆さえ漏らしてしまう。

可愛らしい笑顔に目をとどめておくのも吝かではないが、時間は待ってくれやしない。

泣く泣く秀吉から視線を外し、スクリーン下方のデジタル時計を確認する。やけに細い棒切れの集まりは、正午までの猶予が三分であることを提示した。

誰がどう見ても切迫している事は明らかだ。

自らの声に焦燥感を自覚しながら、僕は事務的な質問を口にした。

 

「ところで皆、プレイヤーネームはどうするの?」

 

この問いは、アバターになり顔が変わることへの、僕なりの配慮だった。ログインして一からお互いを探すよりも、先に名前を知っていた方が効率が良い。

それと同時に、フレンド申請も行えるのだから、まさに一石二鳥だ。

問いかけから半秒と間隙を開けずに、これから己の半身となる身の名を、まず秀吉が名乗った。

 

「わしはそのまま、秀吉にするつもりじゃぞ」

 

安物のヘッドホンから流れる可愛らしい秀吉の声には、煩雑なノイズが混ぜ込まれていた。

現実と同じ名前か。秀吉らしい判断だと思う。

秀吉は、ネットゲームはおろか、市販されているゲームすら、僕らと遊ぶときぐらいしかプレイしないのだ。そんな秀吉には、ハンドルネームという概念が存在してすらないのだろう。

 

「お前はいつも通りの『ライト』か?」

 

画面の向こうで、雄二が確信的な含みを持って言った。

一瞬、その言葉が誰に向けられた物なのか、判然としなかった。だが、そこに内包された『ライト』という固有名詞が、雄二の問いは、僕に投げられたのだと確定させた。

 

「うん。そのつもりだよ。じゃあ、雄二はユウにするの?」

「ああ、わざわざハンドルネームを変える必要も無いしな」

 

秀吉は、僕らの会話に訝しげな視線を送る。

 

「なにゆえお主らは、既に互いの名前を知っておるのじゃ?」

 

秀吉の言葉が、にわかに面白く、僕は小さく吹き出すように笑ってしまった。そんな僕を見て、秀吉はむぅと唸り、首を傾げる。

取り繕うように、ごめんごめんと言いながら秀吉に返答した。

 

「僕らは他のネットゲームでも一緒にプレイしてるからね。多分、いつもの名前を使うんだろうなってこと」

 

その答えに、秀吉は合点がいったらしく、古風にもポン、と手槌を打った。

 

「なるほどのう。ならわしも、何か名前を考えた方がいいのかの?」

「別に気にしなくて良いんじゃないかな。そういうのは、人それぞれだし」

「うむ。そうか。それなら、やはり名は秀吉にしておこうかの」

 

秀吉は華奢な腕を組み、自分に言い聞かせるようにうんうんと頷いた。

 

「ところで、明久よ。雄二がユウなのは、なんとなしに解るのじゃが、何故お主の名はライトなのじゃ?」

 

ああ、確かに説明しなければ分からないだろう。このライトという名前は、なかなかに捻りが効いてると自負している。

何て言ったって、一週間を費やして、やっとこさ考え至った名だ。簡単に看破されるのも、少々癪に触る。

 

「このライトって名前はね、明久の『明』から光を連想して付けたんだ」

「なるほど。存外に単純であったか」

 

あれ?何か、バカにされた気がする。

そんな僕の反応などお構いなしに、会話は進行していく。

 

「さて、あと聞いてないのは、ムッツリーニだけだな」

 

雄二が、つりあげた口角の奥に八重歯を潜ませながら、意味深長に言った。

それに対し、ムッツリーニは、何の気なしに答えてみせる。

 

「……俺も、秀吉と同じでそのままコウタにしようと思っている」

 

ムッツリーニの言葉でやっと、先ほど雄二が見せた含みのある笑みの正体が解った。

だからこそ、僕は雄二の考えに即した言葉を投げかける。

 

「何言ってるのさ。ムッツリーニはムッツリーニにでしょ?」

 

むしろ、ムッツリーニのことを、康太なんて呼ぶ方がむず痒い。仮想世界でも、ムッツリーニをムッツリーニと呼ぶ為に、非常に残念ながら、ムッツリーニの意見は蔑ろにしなくてはならないのだ。

 

「いや、だから俺は……」

「それもそうじゃな」

 

秀吉も僕の意図を読み取ってくれたようで、楽しげに肯定の言葉を返した。

 

「違……」

「よし、これで全員出揃ったな」

 

ムッツリーニの否定を、半ばで遮った雄二もまた、口元に意地の悪い笑みを浮かべている。

全員一致で可決された。ムッツリーニは、ゲームの中でもムッツリーニ。

 

「……もう、いい……」

 

僕らの圧力に、漸くムッツリーニは屈服した。多少、というかだいぶいじけているが、結果オーライだ。

ムッツリーニ本人の意思確認が出来たところで、眼前の液晶から、氷のように透き通った声が響いた。

 

「それより、お主ら。もう始まってしまうぞい」

 

急かす様な秀吉の声。時計に映し出される時刻は、正午を指し示していた。

 

「あっ、本当だ!じゃあ皆、また中でね!」

「おう!」

「うむ」

 

雄二と秀吉の二人は応じ、ムッツリーニは無言でサムズアップをしてみせた。

デジタルエフェクトがかかった皆の応答を確認したと同時に、僕は通話用のアプリケーションを終了させた。

 

僕の頭を銀の塊が覆う。

飛び交う電波は、僕の脳漿へと染み出していく。それは、酩酊にも似た感覚だった。

妙な満足感が心象を包む。

このゲームは、僕を是非もなく心酔させるだろう。熱中させるだろう。興奮させるだろう。

いや恐らくは、この期待すらも凌駕した『何か』を感じさせるだろう。

それがきっと、人々がゲームを手に取る意味なんだと、僕は思う。

独り言ちに笑みを漏らす。

システムデスクをベットの真横にまで動かし、ゲーミングPCと有線で繋ぐ。

すっと、鼻から空気を吸い込む。ツンとした冬の香りは、やけに鼻腔を刺激した。

僕は、この瞬間を待っていた。

呪文を紡ぐ。

万物を内包した、魔法の呪文を!

 

「リンクスタート!」

 

瞬間。

流れ込んできたのは、滝の如き情報の波。

世界の総てを網羅する、抽象化された事象の渦だった。

初めに『知覚』できたのは、文字の羅列だ。

よくよく目を凝らして見てみると、そこには『What your name?』という質問が書き記されていた。

恐る恐る、長方形の空白に手を触れる。すると、虚無であった筈の空間に、半透明のキーボードが湧出した。

それに向かって、ライトという渾名を打ち込もうとして、手を止める。

あれ?ライトのラってLだっけ。Rだっけ。

うーん。まあ、悩んでいても仕方ない。ここは、二分の一の確率に賭けて『Right』にしておこう。

何か引っかかるものを感じながらもOKボタンを深めに押し込む。

次に現れたのは『Male』と『Female』という二つのボタンだった。ネカマの趣味は無いので、当然の帰結として『Male』を選択する。

するとまた、新たな画面が展開する。

ごちゃごちゃとした英単語の羅列。その横には、これといって特徴の無い、地味な男が立っている。

これも、なかなかに見覚えのある画面だ。

つまり、この状況はアバター生成のステップであり、この英語群は、身体の各部位の名前なのだ。

カチカチとボタンを押しながら、アバターを僕好みにカスタマイズしていく。

白く脱色された髪に、切れ長の目。高く尖った鼻や薄い唇。

それらは全て、刃物のような鋭利さを思わせる。

精悍という言葉が良く似合う、絵に書いたような美少年だった。

身長は百八十センチに設定した。

これは、ちょっと盛ったとかでは断じてなく、戦闘を有利に運ぶ為の配慮に過ぎない。

丹精込めたアバターを、もう一度隅々まで見回す。

その結果に満足し、手元のOKボタンを、思いっきり押し込んだ。

瞬間。

僕の視界を、純潔の光が覆い尽くした。

 

 

瞼を開く。

 

降り立ったのは、中世を連想させる石畳だった。同じく中世ヨーロッパのようなレンガ作りの家々が立ち並ぶ。

通りを支配するのは、ファンタジーな美男美女の雑踏。

その奥には、風に靡く草原が、地平線にまで連なっている。

そして、何より目を引くのは、上階へと続く巨大な塔。それが放つのは、須くを寄せ付けぬ排他的な威圧感だ。

データが織りなす絶景を一望した時、ふと、腰に負荷を感じ、視線を移した。

そこにあったモノは、見違えようもなく剣だった。

鞘から引き抜く。

シャラン、という軽快な音。

剣をじっくりと観察する。

刃にはくすみが目立ち、飾り気など微塵も感じられない。

まさに初期武器、という印象を受ける。

だがしかし、業物とは口が裂けても言えぬそんな武器に、僕はすっかり魅入られていた。

そして、剣を持っているという状況自体に、身震いを禁じえなかった。

この剣でモンスターを断ち切り、先へと進み征くのだろう。

そしてそれが、この世界の全てだ。

思いを馳せる。

手に握られた一本の剣。

それを持ち、プレイヤー達はどこまでも戦うだろう。

飽くなき欲望は加速し、原始へと至った。

それは、遺伝子に刻まれた、戦闘欲求。

故に、プレイヤー達はこの世界へとログインした。

己が身を使役し戦う、究極のゲームに。

剣の世界。

その名は─────

 

『ソードアート・オンライン』




いかがでしたか?文章がゴミのようだとか、こんな文章アウトオブ眼中だとか、語彙力貧弱貧弱!とか、言いたいことは山ほどあるかもしれませんが、感想でアドバイスをもらえれば感無量です!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。