魔法少女 リリカルなのはStS,EX 作:ラナ・テスタメント
では、中編1、どぞー。
「――今後の君達の行動について、話し合おうか」
『月夜』、ブリーフィング・ルーム。そこに集まるアースラの面々はトウヤの話しに頷く。それを確認して、トウヤはウィンドウを展開した。
「まずは現状の確認と行こうかね。君達の艦、アースラだが……おおざっぱな損壊状況について調べ終わった」
言うなりウィンドウが切り替わり、3Dで損壊したアースラが表示された。
「左舷及び、艦壁半壊。魔導炉もかなりのダメージ。一部、転送システムも故障。何より、竜骨外殻にクラックがある……正直な感想を言おう。よく墜ちなかったものだと感心するよ」
「……アースラはただの艦とちゃいますから」
はやてが一同を代表してトウヤへと頷く。彼はそれにふむと笑いを返した。
「そうかね。余程、信頼しているのだね。己の艦を」
「はい」
はやては即答。迷い無く頷く。二ヶ月強の短い間とは言え一緒に戦って来た仲間である。信頼していない筈が無かった。トウヤは、はやての答えに苦笑する。
「そうかね。だが」
「分かってます。……アースラ、そう簡単には直らんのやろ?」
トウヤの言葉を切るようにしてはやては問う。その場に居る一同は、視線を落とした。
今、トウヤが告げた艦体診断だけでも並の被害では無い。その修理に一日や二日で効く筈も無かった。
「……月夜の設備を使って二ヶ月、と言った所かね」
「…………」
告げられた日数に一同閉口する。二ヶ月。その間、アースラは修理に掛かり切りになるだろう。そして、その間にツァラ・トゥ・ストラの面々が黙っている筈も無い。
着々と支配領域を広げるのは目に見えていた。下手をすると、その二ヶ月で管理内世界全てを手中に収めかねない。
「艦の修理を待てる状況では無い。そうだね?」
「……はい」
はやては素直に答える。強がりを言っている場合では無いのだ。アースラの修理を待てる状況では無い。トウヤははやての返事に再度頷いた。
「艦に関してはこちらで代艦を用意しよう。そちらは後で詳しく話す。さて次だ……現状、君達は怪我人ばかりだが。その怪我が治ったらどうする積もりだね。よもや、本局に突撃とは言うまいね?」
「……それは」
トウヤの言葉に、はやては二の句を告げない。何を言おうとしているかを察したからだ。
本局決戦の時、シオンが抜けていたとは言え、自分達はほぼフル・メンバーかつ、ほぼ全快で戦いを挑んだのだ。
……その状態で、敗北した。
つまり、現状の戦力ではストラと戦っても負ける公算が高いと言う事をそれは意味する。
「分かってくれたようだね? 今現在の戦力では、はっきり言ってどうにもならない。本局に向かっても玉砕がオチだよ」
「っ……! そんなの――!」
「ノーヴェ!」
トウヤの台詞に、ノーヴェが椅子を蹴倒して立ち上がり反論しようとするが、チンクにすぐに諌められ沈黙した。この場ではトウヤの言葉が正しい。
ノーヴェが着席するのを見計らって、はやてがトウヤに向き直る。
「……トウヤさんが一緒に来てくれるんやったら、何とかなるんですけど――」
「それは無理だね」
キッパリと告げる。あまりの即答に、はやてが口ごもった程であった。トウヤは微笑しながら口を開く。
「確かに私が出ればすぐに終わる。今すぐにでもね。……だが私が此処を出た場合、タカトへのカウンターが誰も居なくなる事を意味するのだよ」
『『っ――』』
一同はその台詞に一斉に息を詰まらせた。思い出したのである。そう、タカトは敵なのだ。
そして、おそらくはトウヤ以外には戦いにすらならないレベルの。
ストラに目が行き過ぎていた事を全員が自覚する。
「……分かってくれたようだね? 何よりだ。つまり、君達は私をアテにせず、ストラに勝てる方策で行かねばならない」
「……それは」
そんな都合のいい選択肢があるのかと、はやては思う。他のメンバーもだ。
だが、トウヤはそんな一同に笑って見せた。
「もちろんあるとも。何、簡単だよ? つまり、”君達の戦力を上げる”。これだけで済む」
『『…………ハイ?』』
この人は一体何を言っているんだろうと、全員が疑問符を浮かべる。トウヤは微笑して、ウィンドウを更に操作。別の画面を表示する。そこには――。
「『アースラメンバー、各デバイス。ロスト・ウェポン化による強化計画。及び、ロスト・ウェポン製作設計図。並びに、第二世代型専用DA、第三世代型専用ロスト・ウェポン式DA開発設計図』……?」
はやてがウィンドウに表記された文字を代表して読み上げる。ゆっくりとその意味を理解し、顔が次第に強張っていった。他の者も同様である。トウヤはそんな一同に笑いながら続ける。
「君達全員のレベルアップを短期間で行うのは、はっきり言うと無理がある。なら、武装を強化するのが妥当とは思えないかね?」
「いや、でも、これは――」
各員の前に出されたウィンドウには、それぞれのデバイスの強化案や、DAの設計図が表示される。それを見て、はやては言葉に詰まった。
何せ、ロスト・ウェポンとは文字通り”ロストロギアをデバイスに組み込む”仕様なのである。いくら何でも管理局である彼女達がそれを使うのは迷いが生まれる。
ただ一人、現状でロストウェポンを所有するクロノ・ハラオウンは苦笑していたが。
「……叶。これは、僕のデュランダルと同じ仕様だと思っていいのか?」
「大体はね。まぁ、君達が迷うのは当然と言える……使うかどうかは君達に任せるさ」
「はぁ……」
流石にこれは、はやても即答出来ない。戦力アップは確かに必須だが、使うモノがモノである。クロノやフェイト、そろそろ復帰する筈のなのはとも話し合わなければならない。この場で判断出来る事でも無かった。
「ねぇねぇ」
「あン? どした?」
横からちょいちょいと肩を叩かれて、シオンが横に視線を移す。横に居るスバルである。彼女は、自分の所に表示されたウィンドウをシオンに見せた。
「これ、何て読むの? 漢字の読みがわかんなくて……」
「ふむ、なになに」
まぁ難しい漢字がミッドに出回ってるとも思えんし、と一人ごちて、シオンはスバルの前に表示されたウィンドウを覗く。そこにはこう書かれてあった。
「『第三世代型、ロストウェポン式DA、”斉天大聖(せいてんたいせい)”――て、なぬっ!?」
「わ!?」
ウィンドウに記されたそれを読み上げたと同時にシオンが叫ぶ。いきなり間近で叫ばれて、スバルがびっくりして目を見開いた。だがシオンは構わない。トウヤを盛大に睨みつける。
「……トウヤ兄ぃ」
「ふむ? どうしたね、シオン?」
自分を半眼で睨むシオンにトウヤは微笑する。だが、シオンは睨みつけたままスバルのウィンドウを指差した。
「一応聞くな? これ、マジもん? てか、正気か?」
「当然だとも。ちなみにスバル君の物は”世界最初の第三世代型DA”になる予定だ。……ついでに言うと、ティアナ君の物は二つ目、ギンガ君の物は三つ目となる」
「……うわお……」
告げられた言葉にシオンはくらりと眩暈を覚え、頭を抱える。そんなシオンの反応に、ティアナが訝しんで眉を潜めた。
「なんか、気になる反応ねアンタ……何? この第三世代って言うの。そんなに危険物なの?」
「いや……確かに危険物は危険物だと思うんだけどな」
危険物なのかよ! と、一斉に内心ツッコミを入れるが、シオンはそれも分からないかのようにため息を吐く。トウヤに視線を向け直し、確認の為に問い掛けた。
「それ以前の問題だよ。世界初って言ったよな。トウヤ兄ぃ」
「ああ。その通りだよ、シオン」
微笑しながら答えるトウヤにシオンは狸めとジト目で睨む。それもそよ風のようにトウヤは受け流した。シオンは続ける。
「つまり、そのDAは前例が無いものなんだよ。ぶっちゃけると試作1号機、またの名を実験機」
「ええっ!?」
「……なる程ね」
「そう言う事、ね」
シオンの台詞に、当事者3名。つまりは上からスバル、ティアナ、ギンガの順で、それぞれの反応を示す。それらを見て、はやてはトウヤに視線を向けた。
「……トウヤさん、どう言う事なんやろ?」
「何、こちらもただで戦力供給する訳にも行かないのだよ。相応にこちらにリターンが無いと長老部が五月蝿いのでね?」
いけしゃあしゃあと答えるトウヤに、はやて達はシオンに倣いジト目で睨み――すぐにため息を吐いて視線を戻した。
言っている事は正論である。確かにただで別の組織である自分達に装備を譲る、または作る事など。本来有り得ない事だろう。
ようは装備はやるから各種データは寄越せと言う事か。
「……シオン、長老部って何?」
「ん? ああ……そういや、お前達には説明してなかったっけ。長くなるから一言で説明すると、グノーシスの幹部みたいなもんだよ。詳しい説明は後な」
スバルがまた聞いてくるが、シオンはそちらの説明は簡潔に終わらせた。
……グノーシス自体、結構複雑な組織なのだ。この場で説明すると長くなる。はやて達には説明もしてあるので、この場で説明する必要も無い。スバルもそれを理解したのだろう。あっさりと頷いた。シオンは再びトウヤに視線を向ける。
「……で? こんな試作機がまともに動くの? ロストロギア内蔵式のDAなんて、まだタカ兄ぃが理論上だけで考えてただけのやつだろ?」
「うむ、問題はあるまい。なにせ、”その理論を出した当人が『問題無い』と言い張ったモノ”だしね」
「ふぅん。タカ兄ぃがね――て、待てぃ!」
あやうく自然に聞き流しそうだった自分に戦慄しながらシオンは大声で叫ぶ。すぐさま、ウィンドウを再び指差した。
「これ、タカ兄ぃが考えたの!? しかも全部!?」
「うむ。流石に最初に渡された時はびっくりしたよ?」
「そう言った問題じゃねぇだろォォ――!?」
あまりに脳天気な答えを返すトウヤにシオンは全力で叫ぶ。先ほど、この兄はタカトを敵だと言ったのに、その設計図を何故にあっさりと採用するのか。
シオンの叫びに、トウヤは眉を潜める。
「騒がしい男だね、お前は」
「誰のせいだよ!? いや、そんな事はどうでももういいや。なんで、これを採用したのさ?」
「――トウヤさん? ゴメンやけど私達も知りたいわ。やないと、これは本格的に使えんよ?」
シオンに続いて、はやても問い掛ける。一同も、トウヤに疑問の視線をぶつけた。肝心のトウヤはあっさりと肩を竦める。
「当然こちらでもチェックは入れたさ。なんなら、その検査結果の資料もある。後で渡そう。その上で、問題無しと判断したのだよ。これは信頼出来るモノだとね。……それに、だ」
そこまで言い切ると、トウヤはニヤリとシオン達に笑みを浮かべる。まるで、悪戯を仕掛ける子供のような笑みを。そのまま続ける。
「あの基本天然かつ生き方が不器用窮まる男が、そんな小細工をすると思うかね?」
「う……!」
シオンはトウヤの台詞に盛大に呻く。はやてを始めとした一同も顔を引き攣らせた。
天然かどうかははやて達が知る所では無いが、あの男の生き方が不器用窮まるのは間違い無い。小細工など考えつく事もしなさそうだった。そうで無ければもうちょっと上手く人生を立ち回っていた事だろう。
一同の反応を見て、トウヤは微笑する。
「それの設計図自体は、スバル君が感染者化した時に渡された物だよ。その為か、八神君、ザフィーラ君、シャマル君については何も用意して無いようだね」
「あ、ほんまや……」
言われ、はやてがウィンドウ内の各設計図をチェックする。確かに自分のものと、ザフィーラ、シャマルの分が無い。
タカトは恐らく、自らが戦った者のデータからこれを作ったのだろう――と、言ってもあの時点でタカトと戦った者はシオン以外では一度しか無いのだが。
「そんな訳で、それについてはさほど問題は無いだろう。先にも言った通り、使うかどうかの選定は君達に任せる。ただ、早めにどちらかを決めてくれると助かるね。何せ、組み上げすらしていないのだから」
「……うん。分かったわ。後で話し合って決めます」
トウヤの台詞に、はやてが頷く。それに満足そうにトウヤが頷き返した。
「さて、私からはこれ以上、話す事は無いね。具体的にこれからどうするかは君達に任せよう。月夜には好きなだけ滞在しても構わない」
「はい、ありがとうございます」
「いや、私もアースラには世話になった。本局にもね? お互い様と言う奴だよ」
頭を下げるはやてにトウヤは苦笑して手で制す。そして、壁に掛かっている時計に視線を向けた。
「ふむ。そろそろなのは君の治療も終わる頃合いだが……」
《トウヤ?》
タイミングぴったりにユウオから念話がブリーフィング・ルームに届く。彼はそんなタイミングの良さに苦笑しながら、口を開いた。
「ユウオ。なのは君の治療が終わったのかね?」
《うん。もうちょっとで終る所だよ。”女の子は”こっちに来る?》
「?」
なのはの事と言う事もあり、二人の会話を聞いていた一同だが、ユウオの台詞に疑問符を浮かべる。なんで女の子限定? と。そんな皆にシオンが苦笑する。
「……ナノ・リアクターは余分なモノを身につけ無いで入るからな。……ぶっちゃけると裸で入ってるんだよ」
「そうなんだ……」
シオンの言葉に、スバルが合点がいったのか感心したように頷く。他の皆も納得したのか頷いていた。
それらを見ながら、トウヤが微笑し、ユウオに返事を返す。
「ふむ、了解した。では、私が皆を案内するから――」
《あ、それはダメだよ。トウヤはそこに居て。確実に覗こうとするから》
問答無用に、ユウオはトウヤの台詞をぶった切る。それにトウヤは少しだけ硬直するが、すぐに立ち直った。
「いや、だが。お客を案内無しに――」
《そっちにカスミちゃんを向かわしたから問題無いね》
「……そこまで信用無いかね、私は……?」
まるで見透かしているかのように先手を打っていたユウオにトウヤが若干いじけたように呟くが、ユウオは一切容赦をしない。
《当たり前だよ――例えばボクがナノ・リアクターに入ってると、トウヤ、どうするの?》
「全力で覗くね! それはもう舐めるように! 網膜に焼き付けてくれよう!」
即座に拳を握って力説してのける! その姿に、アースラ一同は深くユウオに同意した。この男は女の敵だと。
「てな訳で、トウヤさんはここで残っててや?」
「――何故か、目が冷たいのだがね。八神君」
努めて優しく言うはやてだが、その視線は素晴らしく冷たい。……はやてだけで無く、女性陣全員だが。
間を置かずカスミが到着し、男達を置いてブリーフィング・ルームを出て行く。
立ち尽くすトウヤを見て、残されたシオン、エリオ、クロノは苦笑した。
「……まぁトウヤ兄ぃ、普段の行いが悪かったって事だよ。これに懲りたら――」
「ふ……。誰だね? それは?」
「――はい?」
いきなりのトウヤの言葉に、シオンは素っ頓狂な声を漏らす。だがトウヤは構わず、鉢巻きっぽい物を懐から取り出すと頭に巻き付けた。
「今の私はただ一人のエロ・コマンドー……断じて、トウヤなどと言う名前では無い!」
「て、ちょっと待て。待ったトウヤ兄ぃ、扉に近付くな!」
まさか……!
シオンを始めとして、クロノ、エリオも戦慄する。この男はまさか!
「このシチュエーション……! 覗かずば男にあらず!! 突撃ィィィィィィィィィィィ!!」
−撃!−
叫ぶなり、何とトウヤはブリーフィング・ルームの扉をピナカで破壊!
……恐らくは、外から施錠されていたのだろう――何にしても、破壊されては役に立たない訳だが――そのまま走り出す!
衝撃映像を見た三人は暫く硬直し、我に返ったと同時に頭を抱えた。
「あ、あのエロ兄貴ィィィィィィィ……!?」
「ちょっと待て……! 本気か彼は!?」
「流石に冗談じゃ無いんですか!?」
寧ろ、そうであって欲しいとクロノ、エリオの両名はシオンに叫ぶ。だが、シオンは重々しく首を振った。
「トウヤ兄ぃは、かつてグノーシス位階所有者女性陣、全員の着替えを覗いた事があります」
「「…………」」
「ちなみにそれがバレて女性陣に袋叩きにされた時の台詞は『反省も後悔もしてはいない! エロ万歳!』でした」
「追うぞ!」
シオンの言葉を聞いて、三人はトウヤを追い駆け出す!
ここにエロ暴走を繰り広げる第一位を止める為の戦いが、突如として勃発してしまった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
三人は直ぐさま廊下に出て疾走を開始する。だが既にトウヤの姿はどこにも無かった。とんでも無い疾さである。追い掛ける側としてはたまったものでは無い。
更に、はやてや対トウヤ用最終兵器彼女たるユウオに念話で密告しようとしたのだが、念話は全然通じ無かった。妨害されている!
「くそ……! 念入りしてやがる! まさかこんな時にまで普通に変態で来るとは思わんかった……!」
「シオン兄さん! 普通に変態って意味分かりませんよ!?」
「気にしたら負けだ!」
ツッコミを放つエリオに容赦無く告げる。更に速度を上げて三人は爆走するが、トウヤの姿は相変わらず無い。クロノがチッと舌打ちする。
「まずいぞ……! 彼はこの施設を知り尽くしている。僕達だけでは下手すると迷ってしまうぞ! このままでは追い付け無い!」
「そんな!?」
エリオの悲鳴じみた叫びにシオンも舌打ちしながら頷く。全く持ってクロノの言う通りであった。
こちとら全員『月夜』は初めての場所である。対してトウヤはこの施設のトップだ。地の理は向こうにある。このままでは追い付け無い。
そう――このままならば! シオンがにやりと口端を吊り上げて笑った。
「いや、まだ手段はあります!」
「何……?」
思わずクロノが問い返す。だがシオンはただニヤリと笑うだけ。そして、すぅっと息を吸うと、大声で吠える!
「皆さ――――ん! トウヤ兄ぃがまた覗きを企んでますよ――――――――――――!」
『『何ぃぃぃぃ!?』』
直後、まるで最初から盗聴していたんでは無かろうかと言う程、シオンの叫びに答えてそこらから声が返って来る。次々に――。
『また奴か!?』
『銃だ銃を出せ!』
『デバイスを取れ! 今日こそ奴を殺ったるんじゃあ!』
『ターゲットは!?』
『今日此処に来た栗色の髪のあの娘だそうだぞ!』
『ちちぃ! 野郎の毒牙にあの可愛い子ちゃんをかけてたまるか!』
『お前いつの時代の人間だよ!? それ死語だろ!?』
『気にすんな! 気にしたら負けだ!』
『隊長! 核の使用許可を!』
『待て! それは最終手段だ!』
『いいか! 今日こそは奴の息の根を止めるぞ!』
『合言葉は――』
『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!』
『ガンホーガンホーガンホーガンホーガンホー!!』
『叶トウヤの首級をあげろ!』
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――!』
――このように怒号の如く響き渡る叫びと共に、ドタバタと駆けて行く音が響いた。これにシオンがよしっとガッツポーズを取る。
「これでここの皆は俺達の味方です! 全力でトウヤ兄ぃを殺りに行ってくれます!」
「「いやいやいやいや」」
そんなシオンにエリオとクロノが異口同音に首を横に振る。いくら何でもこれはマズ過ぎないか? と、言うか殺してはいかんだろうと。
「て、言うか何ですか皆さん! すごい手慣れてますけど。何でですか!?」
「こんなの日常茶飯事だからだ!」
シオンのぶっ飛んだ発言に、二人はえ〜〜〜〜と、声は出さずに唸る。こんなのが日常茶飯事の組織があるのか。いや、実際目の当たりにしている訳だが。
「取り敢えず俺達も追おう! トウヤ兄ぃ、あれ平然と突破するし!」
「……あれだけ殺気だった連中をか……?」
再び駆け出したシオンに続き、クロノ、エリオも走り出しながら疑問符を浮かべる。シオンはそれに悲し気に首を振った。
「エロが絡んだトウヤ兄ぃの戦闘能力を舐めちゃいけません……通常の三倍は強いですから。相手はプロのエロですよ!?」
「「…………」」
シオンの発言に遂にクロノとエリオはツッコミを入れる事を諦めた。
……本当に気にしては負けな気がひしひしとして来たからである。と、言うか――。
「シオン兄さん。ここ、変な組織ですね」
「頼む。言ってくれるなエリオ。薄々感づいちゃあいたんだ。薄々」
「「薄々かよ」」
結局ツッコミを入れてしまうエリオとクロノを完全に無視して、シオンは更に走る速度を上げた。
……そこらで爆発音が響いているのは、気のせいな訳が無かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「とう!」
叶トウヤは通路を疾駆しながら頭の中に地図を思い浮かべる。
ここから自分の速度を持ってして、およそ三分程に約束された桃源郷(ヴァルハラ)があった。
トウヤの頭には隠れて覗こうなどと言う選択肢は無い。真っ正面、扉をブチ抜いて――どうせ、施錠されている事だろうし――堂々と、なのはの裸を網膜に焼き付ける積もりだった。その後の事はどうでもいい。輝ける一瞬こそが全てである。
その為に。そう思った瞬間、何と通路の床が開いた。
そこからサブマシンガンに槍型のデバイスを装備した黒衣の男が現れる。デバイスの設定は当然の如く殺傷設定!
二つ武器を男は躊躇無くトウヤに差し向ける。サブマシンガンのレーザーポインターがトウヤの額をロックオンして。
「甘い!」
トウヤの命を奪わんと引き金が引かれる前に、彼は動いた。床から現れた男の顔面を迷い無く踏み潰し、跳躍する!
「お、俺を踏み台にしただと!?」
「ふ……古今東西、白が黒を踏み台にするのは常識だよ? 喰らえ、必殺!」
くるりと空中で回転しながらトウヤが懐からスプレーのようなものを取り出す。同時にその噴射口を男に向けた。
「痴漢撃退用新製品! 『俺の吐息・焼肉翌朝!』」
叫びとスプレーの噴出音が重なる。スプレーから漂うエライ物は男の顔面に降り掛かり、そして悲鳴が上がった。
「ぎゃああああああああああああああ……! ニンニク臭さといろんな臭いが――――!? ガクっ」
あまりの臭いに男は数秒転げ回った後、意識を完全に手放す。男の反応が消えた後もトウヤは五秒程念入りに男にスプレーを降り掛けてから即座に駆け出した。だが!
「ってェェェェェェェェェェェェェ!」
−轟!−
向かう通路の先から叫びと共に、数百の砲撃に、大砲、ライフル弾、槍、剣、銃弾が雨霰とトウヤに降り注ぐ!
魔法は当然、全て殺傷設定であった。数十秒の間に数千と撃ち込まれていくそれが通路を問答無用に破壊して行く。新品の筈の通路が速攻で瓦礫へと変わっていった。
暫く撃ち込み続け、爆煙が視界を完全に覆った所で隊長らしき男が手を上げて、漸く各種砲撃が止まった。
「奴だって人間だ……! これだけ撃ち込めば――」
殺った!
そう一同が歓声を上げようとした、瞬間。
「うむ。全く容赦の無い攻撃だったね? 当たらねば意味無いが」
『出た――――――――――――――――!?』
いつの間にやら中央に忽然と現れたトウヤに全員叫ぶ。即座に手持ちの火器を差し向けるが、それよりトウヤの動きの方が早い!
右手には先程のスプレー、更に左手には全く別種のスプレーが握られている。トウヤはされを回転しながら辺りにぶち撒けた。
「『俺の吐息・焼肉翌朝』あ〜〜んど、『俺の靴下・三日間履きっぱな』!!」
『『ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ……っ!?』』
轟く悲鳴と怒号――。
パタパタと殺虫剤を撒かれた虫のように男共がぶっ倒れて行く。トウヤは臭いが移らぬウチに瞬動で即座に脱出。更に跳躍すると同時に天井からも男達が現れた。
だがトウヤはそんな男達に『超電磁砲お勧め♪ びりびりきちゃう♪』と表面に書かれた放置式スタンガンをアリウープで投げ入れる。
−雷!−
直後、本気で雷が落ちたんでは無かろうかと言う程の電撃が天井を走り抜けた。
暫く人がのたうつかのような音が響いた後、通路はシーンと静まり返った。重なり合う死々累々たる人の群れ。世にそれを屍山血河と言う。
トウヤはそれを見遣り、許せよと一人ごちた。
何ごとにも犠牲は付き物である。それが、今回は彼等だったと言うだけの事。ちょっとばっかしアンニュイな気持ちに浸っていると、通路からドタバタと走る音が響いた。シオン達である。
彼等は到着するなり、顔を青くした。
「も、もうやられてるし……!」
「しっかりして下さい! 大丈夫ですか!?」
「くっ……! 叶! 貴様……!」
三者三様の言葉を連ねる。そんな三人にトウヤはフッと笑う。
「何しに来たね、シオン」
「あんたを止めにだ……! 決まってんだろ! てか、覗きは犯罪だって!」
ブンブンと首を横にして叫ぶシオン。だが、トウヤは構わず笑う。
「ならここは治外法権だ! 関係無いね!?」
「「「治外法権云々以前に人としての常識だろうがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――!!」」」
シオン、クロノ、エリオ、魂の叫びである。だがトウヤには届かない。エロに支配された彼にそんな言葉は見事に馬耳東風であった。
「ふ……分かった。ならこうしようでは無いかね! 共に覗くとしよう! 光栄に思いたまえ。私が覗きに仲間を作るなど、滅多に無いよ?」
「きっぱりといらん世話だ色ボケ兄貴!」
「普通にそんな誘いに乗る訳があるかっ!?」
「絶対にお断りします!」
これまた三者三様の言葉を連ねる。しかし、トウヤはそれに心外そうな顔を見せた。
「おや? おかしいね……? 私が知った情報によれば、ハラオウン提督はメインヒロインに、義妹に、お姉ちゃんキャラ、更には獣娘にまで手を出せる、それ、どこのエロゲ? 的なキャラであり、モンディアル君は初対面からメインヒロインの胸を触り、あげくの果てには若干露出過多なゴスロリ娘ともフラグを立てるフラグマスターと聞いたのだが……?」
「「……殺す!」」
トウヤ台詞に、クロノもエリオも普段言いそうに無い単語を全力で叫び、己がデバイスを構える! シオンはあわてて二人を止めた。
「ちょっ! 待った待った!? 二人共事実を指摘されたからってトウヤ兄ぃの挑発に乗ったらマズイって!?」
「「何が事実か!?/事実ですか!?」」
「そうだよ、”エロノ・ハラオウン君”。”エロオ・モンデヤル君”。少し落ち着きたまえ」
「「うがぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁ――――!!」」
その呼び名に何かトラウマでもあるのかいよいよ二人揃って奇声を上げ始める。トウヤはそれに笑いを浮かべ、シオンを見た。
「で? お前はどうかね? 幼なじみを喘がせたり、ツンデレ娘と裸で抱き合ったとか言う”神庭エロン”よ!」
「アヴェン! ジャ――」
「「わあぁぁ!?」」
トウヤの台詞に迷う事無くアヴェンジャーになろうとするシオンを、左右からエリオとクロノが羽交い締めにして止める。だがシオンはじたばたとそれでも暴れ続けた。
「離せェェェェェェェェェェェ……! あの兄貴八つ裂きにしたるんじゃァァァァァァァァ!!」
「さっき僕達を諭していた台詞はどこ言った!?」
「さっきはさっき! 今は今!」
「挑発に乗ってはダメだと……!」
「そんなものとうに忘れた!」
そんな風にチームワークがたがたな三人に、トウヤはふふと笑う。それはもはや、勝利を確信した笑みであった。
「ふっふっふ。やはり君達では私は止められんよ」
「言ってろ色ボケ兄貴……!」
「必ず止めてみせます!」
「その傲慢……! 正してやる!」
そんなトウヤにシオン達は更に闘志を燃やす! トウヤをここで止める――最初の理由は既に因果地平の彼方だが、そんなものはもうどうでもよかった。
皆の犠牲を無駄にしない為に、己が矜持を守る為に。
何より一回この男は痛い目に合わせないと気が済まん!
三人は互いのデバイスを構えると、迷い無く一斉にトウヤへと襲い掛かった。
(中編2に続く)
はい、第四十二話中編1でした(笑)
唐突に理由も無いエロ暴走がなのはを襲う!(笑)
しかし、被害者はシオン達と言う何これな状況です。
ただし、グノーシスではこれが当たり前なんだぜ……。
では、中編2にてお会いしましょう。ではでは。