魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、第七話の後編です♪
実はいろいろ伏線仕込んでたんだなとつくづく思う今日この頃。
その伏線が明かされるのも、お楽しみにです♪


第七話「二回目の始まり」(後編)

 

 光が走る、縦横無尽に。その光は桜色。

 桜色の花火が、訓練室上の仮想の空へ色鮮やかに咲く。

 その光を少年、神庭シオンは横断していた。

 光の正体は魔法だ。高町なのはによる、手加減一切なしの魔法の乱舞であった。

 

「レイジングハート!」

【アクセルシューター!】

 

 インテリジェンス・デバイス、レイジングハートの先端に光が灯る――その光をシオンは見ながら、さらに増えるのか。と、半ば血の気が引いた顔で悟った。

 しかし、その顔には笑みが浮かぶ。目標は高ければ高い程いい。

 今、目の前にいる高町なのははまさしく目標とすべき人だった。

 

「シュート!」

 

    −煌−

 

 叫びと共に、光弾が一斉に放たれる。その数、四十。今、回避に努めているシューターと合わせると計六十発もの光弾だ。

 もちろん全てを制御してる訳ではない。半分は、レイジングハートの自動制御である。

 だが、それが尚更厄介だった。甘い一撃を躱したと思ったら、狙い澄ませた一撃を直撃させられる。

 シオンは未だに自分が墜ちていないのが奇跡とさえ思っていた。

 

 だが――なのはもまた、追い詰められていた。ここまでやってもシオンは墜ちていないのだ。

 それどころか、最初に放った光弾四十発の内、半分も迎撃されて消されている。

 シオンが追い詰められる度に、上手くビル内に逃げこんでシューターの軌道を限定し、一つ一つ確実に無効化しているのである。

 

《……これを凌がれたら》

【はい。最悪、エクシードモードを使用しなければなりません】

 

 レイジングハートの返答に、なのはも頷く。

 既にバスター等の砲撃系は発射、チャージタイムを見極められつつある。

 範囲は言わずもがな、だ。前に模擬戦を行った時はシオンの空間把握力に驚かされた。だが、それよりも驚異とすべき能力がシオンにはあったのである。

 それは、分析能力だった。半ば本能的に、シオンは攻撃を分析し解明している。

 この僅かな模擬戦回数。そして、この模擬戦で、なのはの戦術、間合いに対応しつつあるのだ。

 故に、今のシオンを時間をかけずに墜とそうと思うなら、シオンが知らなくて、かつ一撃で墜とせる攻撃が必要だった。

 そして、なのはにはその攻撃に心当たりがある。

 だが、まだここで使う訳には行かない。切り札の一種である為、ここでと言うタイミングでないと、まずい事になるのだ。

 もし外した場合、一撃目でどのような攻撃か、そして、その対応を必ずシオンは思いつくだろう。

 

    −閃−

 

 シューターの豪雨がシオンに降り注ぎ続ける。回避すべくシオンは動くが、そこで愕然とした。

 シューターの軌道を頭で思い浮かべるが、どう考えても何十発かは直撃を免れないからだ。

 

 ――ならば。

 

 シオンは一気に後退を開始。ビルの中に再度突っ込んだ。

 数が多ければ多い程、障害物でシューターを無効化出来る。

 ビルの中を壁を蹴り、床を蹴り、天井を蹴り、シオンは光弾を回避、迎撃していく。

 シューターはシオンが回避しながら振るわれるイクスによって消滅していった。           

 これなら、凌げる――!?

 

 と、そこでシオンは背中に走る悪寒に絶句した。

 天井を蹴って、床に着地する。そして近くの窓を見る――と、そこには桜色の光が辺りを照らしていた。

 

 ま、まさか!?

 

 シオンはその光に、ある事を思いつきぞっとする。そして、なのはの次の言葉はシオンの想像を肯定した。

 

「ディバイ――ン! バスタ――――!」

 

    −煌−

 

    −撃!−

 

 次の瞬間、極太の光砲が、シオンへと光の壁としか表現出来ないものとなって叩き込まれたのであった――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ――壁抜きの砲撃。かつてスバルを救った時、そしてJS事件の時、聖王のゆりかご内でクアットロを撃ち抜いた方法である。

 サーチャーで相手の位置を把握して、貫通性に優れた一撃により障害物や防御ごと相手を撃ち貫く攻撃方法がこれであった。

 

 目の前のビルは穴が穿たれ、完全に向こう側まで貫通している。シオンは直撃したのか、気配がしなかった。

 

 ……これで撃破かな?

 

 なのははそう思い、踵を返すと――同時。レイジングハートから叫びが放たれた。

 

【マスター!】

「え? ――っ!?」

 

    −壁!−

 

 一瞬疑問符を浮かべるが、背を走る悪寒になのはは慌ててプロテクションを張る。

 そこに、先程と違う赤のバリアジャケットに身を包むシオンがいた。

 戦技変換。シオンのアビリティースキルの一つだ。そして両の手には、大型のナイフが握られている。刃は、プロテクションに突きつけられていた。

 

「よく、気付きましたね?」

「……勘。みたいなものだったけどね」

 

 まさか不意打ち気味の一撃が防がれると思わなかったのだろう。シオンが笑みに苦いものを混ぜていると、返すなのはも苦笑した。なのは自身、今のはまぐれに近いと思ったのだろう。そして、残りのシューターを呼びよせると、シオンに向かわせる。

 しかし、シオンはその場で急後退。背中に光で出来たかのような幾何学模様の剣の翼を伸ばした。

 そこから、魔力が粒子状に広がる。

 

「なのは先生、悪いですが延長戦。続けさせて貰いますよ?」

「いいよ。でもそんなに長くは付き合うつもりはないから」

 

 そして、シオンはなのはに向かって瞬動で、突貫し、なのはは迎撃の魔法を放つ!

 

    −轟!−

 

 再び二人の魔力が激突し、訓練室の仮想空間を盛大に揺るがしたのであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 変わってN2Rの別動隊。こちらもまた、残ったスターズ小隊の面々に手こずっていた。

 二人のフロントに素早く出す、ティアナの指示の適切さ。そしてヴィータ、スバル二人のフロントの連携。その全てが合致し、N2Rの総攻撃を防ぎ切っていたのである。

 

「見事……ね」

 

 ギンガは苦笑いで呟く。シオンが時間稼ぎしている間に、こちらの数を減らさなければならないのだが、どうにも攻め切れなかった。

 

《こいつ達――!》

《ノーヴェ、落ち着くっスよー》

 

 ノーヴェとウェンディの念話が響いた、二人ともいつものノリを保てているが、流石に焦れ始めている。

 

《しかし、まずいな。いい加減時間を掛けすぎだ。シオンも、もう持たないかもしれない》

 

 チンクの念話に、ギンガもまた頷く。シオンが念話を切っている為、向こうの状態は定かではない――が、いくらなんでも、なのは相手にそう長くは持つ筈が無かった。

 

 どうしようかしら――。……?

 

 その直後だ。訓練室にサイレンが響き渡ったのは。

 このサイレンは緊急出動の合図である。それが意味する事はただ一つであった。

 

 アポカリプス因子感染体。則ち”感染者”の出現を、それは意味していた――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「終わり――だね」

「そうですね……」

 

 シオンとなのはもまた、互いに正面で向かいあった状態でサイレンを聞いていた。なのはは、盛大にため息を吐く。

 

「仕方ないかー」

「まぁ続きはいくらでも出来ますよ」

 

 シオンとなのはは下に降りながら、互いのデバイスを解除しつつ会話する。

 ちょっとなのはとの戦いが盛り上がっていたので、シオンとしてもちょっとばっかり残念であった。結構、いい勝負が出来ていたのだが。ともあれ、お互いに気持ちを切り替える。なのはは、その場に居る全員に呼び掛けた。

 

「うん、そうだね。とりあえずは皆、集合ー!」

『『はい!』』

 

 念話も含めた呼び掛けに答え、全員集まる。アースラの初任務が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「さて、前線メンバーは皆、集まったな?」

 

 はやての言葉に一同頷く。『アースラ』のブリーフィングルーム。そこに、各前線メンバーと部隊長のはやて。そして、シャーリーが揃っていた。

 

「まずは現状確認といこうか。シャーリー?」

 

 呼びかけられたシャーリーが――非常に珍しく「はい」、と神妙に頷き、各々の前に投影したディスプレイにデータを表示する。

 

「今、アースラは時空管理局管理内世界第三十世界に向かってる。そこでアポカリプス因子感染者が出現したそうや」

「待って下さい」

 

 唐突に、シオンが声を上げる。何故いきなり待ったをかけたのか。それは、表示されたデータを見た一同も解っていた。明らかに感染者とおぼしき光点が、多数あったからだ。一同もそれを見て冷汗を浮かべる。

 

「これ見るとまさか、とは思うんですが」

「……そう、今回感染者が複数出てるって言う話しや。でな? こん中で一番因子に通じてるシオン君の意見を聞こうと思っとったんやけど――」

 

 はやての視線の先で、シオンはジッとディスプレイを睨んでいた。そしてゆっくりと頭を振ると、重い口を開けた。

 

「……最悪ですね。なんでここまで”時間が掛かった”んです?」

 

 シオンがじろりと睨みながら問う。はやてはそれに少しだけ目を伏せた。

 

「……管理内世界の駐留魔導師が報告を怠って、自分達で解決しようとしたらいんや」

 

 それを聞いて、シオンが小さく舌打ちした。久しぶりに乱暴な態度のシオンを見て、スバルはおずおずと聞いてみる。

 

「えっと、そんなに問題なの?」

「当たり前だ」

 

 不機嫌そうに答える。そこには明らかな怒りがあった。気を落ち着かせるように嘆息し、シオンは話す。

 

「アポカリプス因子感染者は感染後、次の固体に感染を広げようとする。お前も知ってんだろ? あの異様な再生力。生半可な攻撃じゃあ感染者はまず倒せない。まごまごしてる内に感染は広がる。……これが単なる病気ならまだ対処方があるけど、感染されたら後に待つのは死だけなんだぞ? ――いや、最悪”死ななくなった”ほうが問題だけどな」

 

 そのシオンの言葉に、はやては反応した。今、聞き逃せない事を彼は言ったか? 話しを遮り、問うてみる。

 

「待った。それ、どう言う事なん?」

「……有り体に言うと、アポカリプス因子に感染して、それでも死なない奴は次の段階に進むんです」

 

 シオンはそこで一旦言葉を区切ると、一息吐く。そして、噛んで含めるように続けた。

 

「俺もまだ見た事はありません。でもその段階に至った奴を俺達は第ニ段階と呼んでます」

「第ニ……段階」

 

 なのはが呟く。まさか、感染者にそのようなものがいるとは。シオンはそんななのはや、皆の反応に頷く。

 

「はい。この段階に至った感染者は生物だけじゃなく。無機物にも感染するんです」

『『……っ!』』

 

 そこで、はやて達はシオンが言わんとしている事を悟った。

 無機物とはつまり大地も星も、最悪気体も含まれる。

 

「もう解るでしょう? これがアポカリプス因子のとんでもない所です。文字通り”侵略”ですよ」

 

 草も大地も星も、あらゆる全てが感染する。想像するだけで嫌悪感に皆顔を歪めた。無論、人だけが感染しない訳がない。

 

「成る程な……。ちなみに、第三段階とかあるん?」

 

 これは純粋な興味本意での問いだったが――シオンは、はやての疑問に苦々しい顔で頷いた。

 

「はい。第三段階は”空間”に感染します」

 

 シオンの答えに一同絶句する。空間に感染するとは一体どう事なのか。もはや、物理的な現象すらも越えている。

 

「そして最後が第四段階。……もう言うまでもないですね? 最後は世界そのものに感染していきます。ここまでなると、もう救う救わないの問題じゃないですね。いかにその感染した世界を潰すかを考えなきゃいけないって段階です。……実質の終わりですよ」

 

 ……流石に、はやてを始めとして皆が沈黙した。

 シオンの怒りが理解出来たのだ。詰まらないプライドや情けは、最悪一つならぬ複数の次元世界の終わりを意味する。

 

「――でも、まだそんな事態やないんやな?」

「映像を見る限りでは、第一段階でしょうね。まぁ、第ニ段階なんて見た事は俺もありません。今の話しも聞きかじりです」

 

 そこまで聞いて、はやてが疑問符を浮かべて首を傾げた。今の話しは、どこか矛盾がある。見た事も無いのに、何故こんなにも詳しいのか。

 

「その割には、えらい詳しい説明やったけど?」

「簡単ですよ。証拠があるんです。地球って言ったら解ると思うんですけど」

 

 

シオンの言葉に、はやてをはじめとして皆が頷く。シオンはそれらを確認して、話しを続けた

 

「あの世界は元々多重に重なりあった世界だったんです。けど、ある日を境に一つになったらしいんですよ。……もう、解りますよね? 多重に重なった世界は全て感染して、ただ一つだけ残ったのが俺達の居た世界なんです」

 

 流石に、それを聞いた一同は――特に、地球出身や、地球を第ニの故郷としている隊長陣はショックで閉口してしまった。まさか、地球にかような秘密があったとは――空気が重くなる。シオンの放った言葉は、それ相応のインパクトがあった。

 

「……で、そんな感染してしまった世界の遺された遺産が俺の使うカラバ式です」

「成る程――な。いろいろ調べなあかん事が出てきたな」

 

 はやては嘆息し、一人頷いた。アポカリプス因子や感染者。それらについて、自分達は殆ど何も知らないと言う事を再確認したのである。同時に、調査すべき事を頭に思い浮かべ――しかし、頭を一振りして追い出した。

 

「取り合えず今は、目の前の事件を解決しよう」

 

 まずは今出来る事を。そう決めたはやての言葉に皆が頷く。今あれこれ言っても仕方ないのだ。こちらに集中せねば。

 

「データを見て貰ったら解る通り、感染者は七体。三体と二体。んで一体ずつに別れて行動しとるな。これの元になった生物は――」

「――オーガ種ですね」

「やね。確かスバルが初めて襲われたのと同類や」

 

 最初の感染者との戦いを思い出したのか、鋭い目で言うスバルの言葉に、はやても頷く。そして、皆に視線を移した。

 

「でや、隊長陣の意見も合わせてやけど、こんな編成にしてみた」

 

 言うがいなや、それぞれのディスプレイに各自の編成が現れた。

 

 感染者三体。

 スターズ1・2及びライトニング1・2。

 

 感染者二体。

 N2R少隊。

 

 感染者一体A。

 スターズ3・4。

 

 感染者一体B。

 ライトニング3・4及びセイヴァー。

 

「これが私達が決めた編成や。今回は複数が相手やから、こちらも人数を分ける。――何か、質問ある人いるか?」

 

 見回すが、誰も質問せず、ただ頷いた。はやてはそれを確認して、最後に締めくくる。

 

「皆、シオン君の話し聞いた後で、ちょっと緊張するかもしれん。……でも皆、なんも緊張する事、あらへんよ? 皆、強いんやから」

 

 そう言ってはやては少し笑い、皆の顔を見る。皆、それに頷き返す。はやてもまた、頷き返した。後は何も言う事は無い。

 

「作戦開始や。行こう、皆!」

『『はい!』』

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 管理内第三十世界に到着後、それぞれヘリ1、ヘリ2に搭乗して現場に向かう。ヘリ1にはスターズ、ライトニング少隊と、セイヴァーことシオンが乗っていた。

 

「それじゃあ行ってくるね」

「お前達もしっかりやれよ」

「エリオ、キャロ。あんまり無茶しないようにね?」

「では、行ってくる」

 

 隊長陣は今回、三体との戦いの為、先にヘリから降りる事になった。開いたキャビンで皆に呼び掛ける――と、そこで、なのはとフェイトは気付いた。キャロが複雑そうな顔をしている事に。

 

「キャロ……」

 

 フェイトが心配そうな声を出す。キャロは召喚術士だ。故に抵抗があるのだろう。例え感染者であろうと、その命を奪わねばならない事に。

 

「ル・ルシエ、とか言ったっけ?」

 

 すると、いきなりシオンから声を掛けられてキャロはビクッと身を震わせた。よく考えると、話すのは初めてである。

 

「は、はい!」

「いや……そんな目一杯返事せんでも大丈夫だけど」

 

 シオンは若干緊張を滲ませる少女に、苦笑いを浮かべる。だが、次の瞬間にはその笑いも引っ込んだ。厳しい目付きで、キャロを見据える。

 

「お前、迷いがあんならここに残れ。……邪魔だ」

『『っ!』』

 

 シオンの容赦のない言葉に、皆非難の目を向ける。フェイトに至っては殺気まで滲ませていた。

 

「そんな言い方……!」

「フェイトさん、大丈夫です」

 

 反論しようとして、しかしフェイトを止めたのはエリオだった。その顔には、信頼の笑みがある。

 

「キャロは、大丈夫です」

 

 しっかりと断言する。キャロもまたエリオの言葉に頷き、シオンを見る。そして、花が咲くように笑った。

 

「大丈夫です。神庭さん、心配かけてごめんなさい」

「いいんだな?」

 

 シオンが再度問う。キャロは彼の目を見て、しっかりと頷いた。

 

「はい」

「……解った。アテにさせて貰う。モンディアル、お前もな」

 

 エリオもまた「はい!!」と力強く頷いた。

 

 二人の信頼、そして成長を見たフェイトはなにやら感動したのか目に涙を浮かべる――と言うか、その場の全員(シオンは除く)が、感動していた。そして、シオンは冷ややかに一言。

 

「……ところで、隊長陣はいつになったら出撃するんですか?」

『『あ!』』

 

 どうやら忘れてたらしい。慌てて彼女達は飛び降りていく。落ちていく途中でバリアジャケットを着込み、颯爽と現場に飛翔していった。

 それを見届けながらシオンはやれやれと笑う。

 

「あの……神庭さん?」

 

 するとエリオに再び呼ばれた。シオンが振り向くと、エリオはキャロの隣に移動し、頷き合うと。

 

「僕達の事はファーストネームでいいですよ。エリオとキャロで」

 

 そう言ってきた。シオンは少しだけ目を見開くと、しかしすぐに了解と軽く笑った。そして、二人にむかい自分も下の名前で呼ぶように言う。しかも「さん」なしでとの指示だった。流石に二人とも「いえ、それは!」と慌てる。

 

「……まぁうまい呼び方見つけとけよ。とりあえずはさんは禁止。鳥肌がたつ」

「「はぁ……」」

 

 二人して生返事をする。それを見て。スバルは真面目な二人には酷だなぁと他人事で笑った。ただ隣のティアナはぶつぶつと「私、名前――と言うか普通に呼んで貰った事ないなぁ」とか呟いてる。

 

「……?」

 

 そんなティアナに声を掛けようとしたら、シオンから先に声が掛かった。

 

「おーい、お前達の降下場所じゃねぇの?」

 

 その言葉に二人してハッとすると、すぐにシートベルトを外して、ハッチの前に出る。そんな二人をエリオとキャロが見送ってくれた。

 

「行ってらっしゃい、スバルさん。ティアさん」

「頑張って下さいね」

 

 それぞれエリオとキャロが応援してくれる。二人ともにこやかに応え、シオンは? と見遣ると、何故かシオンは窓から外を見ていた。声掛けてくれないのかな? ――と、ちょっと残念な気分でいると、ハッチが開く。

 よしっと二人で頷き合い、飛び降りようとした――その直前、シオンからぼそりと声がかかった。

 

「スバル、ランスター。二人共頑張って来いよ。必ず戻って来い」

 

 思わずスバルとティアナは振り向いた。その先のシオンは、やはりこちらを見ない。しかし、スバルは満面の笑みで応えた。だがティアナは少しだけ顔を曇らせる。

 

「私だけ、上の名前……?」

 

 それはとてもとても小さな声であった。ヘリのローター音に紛れて、隣のスバルでさえ聞き間違えと思った程の。――だが。

 

「帰ったら名前で呼んでやんよ」

 

 どうも聞こえたらしい。シオンがぽそりと、やはり呟く。ティアナはそれには応えず、プィと横を向いた――ただ顔は少しだけ赤くなっていた。

 

「それじゃあスターズ3!」

「スターズ4!」

「「行きます!」」

 

 そして、二人は叫び声を上げ、降下した。途中でデバイスをセットアップし、バリアジャケットを展開して地面へと下りていく。

 

「次は俺達だな」

「はい。それと、シオンさん?」

「……さん付けはやめろって。で? 何だよ?」

 

 ぼやくように振り向くシオンに二人共にっこり笑う。そんな少年少女に、シオンは疑問符を浮かべると、キャロが続けて言った。

 

「さっき言ってたじゃあないですか? うまい呼び方見つけとけよって」

「ああ、言ったな」

 

 シオンは頷く。そんな彼に、エリオとキャロは顔を見合わせて頷いた。

 

「それで、ですね。シオンさんの事、シオン兄さんって呼んでいいですか?」

「私はシオンお兄さんで♪」

 

 瞬間、呆然としてしまった。思いがけない提案であり、それ以上にちょっとした意味を持つ事だったからなのだが――そんな反応に、怪訝そうな顔となるエリオとキャロへ、シオンは微笑んだ。それは、ある意味での夢であったから――。

 

「えっと……」

「――ああ、いいぜ。そう呼びな」

 

 笑いながら、そう言ってやる。シオンの返事を聞いて、二人もにこやかに頷いた。直後、ハッチが開く。

 それを見て、シオン達もシートベルトを外した。

 

「そんじゃあ行くぜ? エリオ、キャロ!」

「「はい!」」

 

 頷き合う。そして、三人共、一斉に空へ身を踊らせたのであった。

 

 それはシオンにとって、元六課メンバーにとって、元ナンバーズ達にとって。

 

 それぞれ、二回目の始まりとなる出撃となったのであった。

 

(第八話に続く)

 

 




次回予告
「複数の感染者同時発生を対処するアースラメンバー」
「シオン、エリオ、キャロの三人も一体の感染者と対峙する」
「しかし、その最中に恐れていた事が現実となった」
「顕現したそれに、シオンは切り札を切る覚悟を決める」
「その名は――」
「次回、第八話『精霊融合』」
「守ると誓った。弟分と妹分を。その為ならば、ヒトを超える事も厭わない」

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